日本は「東洋のスイス」を目指し、自らの手で時計 産業を作り上げ、機械式に比べて格段に優れた時間精 度を手に入れて今日に至っている。日本の時計産業は 成熟産業といわれて久しいが、今なお新しい機能、高 精度の時計が開発され人々の生活を快適に便利にして いる。国内市場の時計売り上げ規模は、約 9000 億円
(2015 年)ともいわれている。もっとも 2015 年は円 高の影響もあり、海外旅行者特に中国人旅行者による 大量の時計購入の影響があり、今後は落ち着いてくる であろうと予測する。売り上げの内訳をみると、スイ ス高級ブランドの機械式腕時計が大半を占める。国内 市場はこのように高級品、高価格帯分野と低価格帯分 野の大きく 2 つの商品分野に分かれている。
1969 年世界初のクオーツ腕時計の実用化に伴い、
日本の時計産業は電子化へ凄まじい勢いで進んだ。ク オーツ腕時計こそ小型薄型 ・ 省電力機器(軽薄短小)
の先頭を走るウエアラブル機器であり、世界に誇れる 省電力技術の塊である。反面、機械式腕時計の地位を 確立していたスイスは、クオーツで日本に先を越され 消費者の嗜好がクオーツに向くに伴い、スイス時計産 業が壊滅的なダメージを受けたことは事実である。そ の後、スイスの有名ブランドはこの状況を打破するた め、スイス時計宝飾展であるバーゼル ・ フェアにおい て、新製品を発表することではなくスイス時計ブラン ドの歴史、付加価値を前面に出した紹介を何年も続 ける。世界において、スイス機械式腕時計の歴史、ブ ランド力は、誰もが認める存在であり価値を持ってい る。このような努力の結果、スイス高級ブランドの機 械式腕時計は往年の輝きを取り戻し、現在でも確固た る地位を築いているのである。
日本の時計産業の歴史を振り返ると、人々に品質が 良い壊れない時計をリーズナブルな価格で提供し、日 常生活の質を高めることが目的であった。結果、実用 時計として品質の良い頑丈な付加価値を持った時計と して世界に認知されて来た。したがって、スイス時計 ブランドと同じ土俵で勝負することは、得策ではない ことは明らかであった。クオーツ時計をベースに、ス イス時計産業にはできない高付加価値商品を開発し、
世界の先頭を突っ走ることを目指した。幸い日本の時 計産業は、クオーツ腕時計の進化に並行して電子部品 メーカーの開発技術も目覚ましく進歩し、素材、部品 メーカーとのコラボレーションにより、新しい機能 の開発も進み世界をリードする製品を多く上市してい
る。液晶デジタルクオーツの開発と腕時計の低消費電 力技術により、多くの家電製品にそのデジタル表示技 術が応用されている。例えば、カメラの年月日等の写 し込み機能は代表的な事例である。もちろん、スイス においてもクオーツ腕時計の開発も進んでおり、機械 式腕時計の耐久性向上、精度向上の技術も開発し製品 に盛り込んできている。
本報告書では、飽くなき精度向上をベースとした 時計技術に焦点を絞ったが、時計は機能面の他に装飾 性、ステータス性等いろいろな面を持っており、その 方面における技術の深堀も必要と考えるが、これは他 日のこととしたい。また、本報告書では完成品を中心 とした技術紹介に終わった憾みがあり、忸怩たらざる を得ない。時計技術の系統化であるからには、加工技 術、電子回路実装技術などの掘り下げも必要であり、
系統化開始当初はこの辺りについてもカバーする予定 であったが、時間の制約上果たし得なかった。とはい え、機械式時計、てんぷ式電子時計、音叉式電子時計、
クオーツ時計、電波修正時計など、直径 30mm の小さ な腕時計の中に、高精度を追い求める技術者のアイデ アと技術が凝縮された日本の時計技術の神髄について は、読者に伝え得たのではないかと、いささかの自負 をもつものである。尚、完成品の技術紹介においては、
紙面の都合上数をかなり絞った点はご容赦願いたい。
今回、本報告書を纏めるに当たり、一般社団法人日 本時計学会の「日本時計学会誌(現、マイクロメカト ロニクス)」に、基礎技術から新しい技術までしっかり 記録されており大変参考になった。今後とも、新しい 世界に誇れる時計技術を、日本の時計技術としてしっ かり記録に残していくことを切に願うものである。
これからも日本時計メーカーが、新しい商品分野へ 挑戦し続け、世界をリードする製品、技術を出し続け ることが、スイスブランドに立ち向かっていく方策で あると信じる。スイスが目指す機械式時計のブランド 指向と異なり、日本の技術開発の特徴を生かした道を 進むことが、機能品質に優れ、長く安心して使用でき る時計として、日本ブランドの伝統を築き、付加価値 を作り上げて行くことに繋がると確信する。最後に、
若い技術者にとって、本報告書が新しい製品開発、技 術への挑戦意欲を後押しできれば幸いである。
謝辞
本報告書を纏めるにあたり、下記の諸氏をはじめ多 くの方々からご指導、ご教示をいただき、またお忙し い中、インタビューや貴重な資料を提供いただいたこ とに、この場を借りて深く感謝申し上げます。
(敬称略、順不同)
一般社団法人日本時計協会 山本 尚、鈴木順一、
佐藤孝雄 オリエント時計株式会社 守屋克美
カシオ計算機株式会社 日原 久、奥山正良 樫尾俊雄発明記念館 小林毅彦
シチズン時計株式会社 中川喜之、藤井浩司、
和泉 輝
シチズンビジネスエキスパート株式会社 坂巻靖之 セイコーインスツル株式会社 重城幸一郎、
藤原佳弥子
セイコーエプソン株式会社 今井博一、小池邦夫、
長尾昭一、小池信宏、
伊藤美貴子
セイコークロック株式会社 佐々木淳、齊藤輝明 セイコーミュージアム 渡邉 淳、宮嵜美祢子 リコーエレメックスエーティー株式会社 田中 浩 リズム時計工業株式会社 喜多村 勇
元リズム時計工業株式会社 宮城 茂
標準電波/▶1940年 標準電波を正式に発射▶1970年 JG2AS、※セシウム標準器で電波発射 ▶1999年 JJY40kHz長波標準電波正式運用開始 周波数標準 ▶1975年 JJY セシウム標準器で電波発射 ▶2001年 JJY60kHz送信開始 ▶1966年 ルビジウム周波数標準器にて、長波実験局JG2AS、40kHz開局※ 1967年10月、国際度量衡総会で「秒は、セシウム133原子の基底状態の二つの超微細準位の間の遷移に対する放射の 9,192,631,770周期の継続時間である」と定義される。 時間標準源 時計技術の変遷 1956年1966年 国産機械式腕時計 電子腕時計 1963年 電波時計(NHK時報) 1958年 1969年 1993年 衛星電波修正腕時計 クオーツ時計 アナログクオーツ腕時計 電波腕時計 基本機能・小型・薄型化技術 発電技術 2000年 透明ソーラーセル クオーツの高精度化技術(スタンドアローン型) デジタルクオーツ腕時計 2006年 EPD表示
時計技術の系統図 1960年1970年1980年1990年2000年2010年年代2020年 てんぷ振動(てん輪+ひげぜんまい) 振動数:2.5Hz~5Hz時間精度:日差±数秒~数10秒
水晶振動 振動数:数1000Hz~4.2MNz時間精度:月差±数秒~年差±5秒
セシウム原子振動 振動数:9,192,631,770Hz時間精度:数10万年に1秒(非受信時:クオーツ精度) 1975年ATカット水晶振動子 1978年ツインクオ-ツ 1981年IC温度補正機能
1999年GPSデジタル式2011年太陽電池アナログ式 2012年太陽電池GPSアナログ式 <表示>1969年LED表示(ハミルトン) 1973年6桁液晶表示 1980年エレクトロクロミック表示(ECD)2006年電気泳動表示(EPD) <機能>1974年オートカレンダー付 1980年硬質樹脂外装 1983年高耐衝撃構造1994年トリプルセンサー付(温度・方位・圧力etc)
1927年 アメリカベル研究所 クオーツ時計の試作
1966年てんぷ式 1971年音叉式 1976年太陽電池式1986年手巻き発電式1998年熱発電式 1988年自動巻き発電式1999年ぜんまい駆動式 2000年透明ソーラーセル
<ソーラーセルの変遷> ガラス基盤→SUS基盤→フィルム
<高精度の工夫> てんぷ慣性大・高振動化 トルク伝達効率の向上 1993年多局受信型アナログ式 1996年太陽電池式 1969年アナログクオーツ1993年実用機能クオーツ 2002年超極小ムーブメント <低消費電力技術> 1970年CMOS‐IC搭載1978年適応制御駆動システム搭載2002年時計用潤滑剤開発
小型・薄型化技術の進化 一次電池 水銀電池→酸化銀電池
付表.1 自然エネルギー 太陽電池 (第7章 7.1,7.2) クオーツ腕時計用発電技術 1998年~ 熱発電 (第7章 7.5) 1986年~ 手巻き発電 (第7章 7.3) 人の体温、動きのエネルギー 1988年~ 自動巻き発電 (第7章 7.4) 1999年~ ぜんまい駆動発電(第7章 7.6) サーミスタ 1975年~ 外付け温度センサー 高周波振動水晶振動子(第8章 8.1.1) 子動振晶水 るす正補を数波周てし定測を度温境環 )cte型ドーモンイツ、型トッカTA( ~年1891 )定測を度温でーサンセ度温( 法方るす結完で中の計時腕 )型ンーロアドンタス( IC内温度センサー(第8章 8.1.2) 水晶振動子1本の場合 るす正補てせわ合に性特度温数波周 子動振晶水型叉音zHk23 温度補正用セラミックコンデンサ(第8章 8.1) )サンデンコムウリバ酸ンタチ( )るす正補にトッラフを性特度温数波周( クオーツ腕時計の高精度化技術 1978年~ 水晶振動子2本の場合(第8章 8.1) (水晶振動子の組合せで周波数を補正する) 1993年~ (長波帯)電波修正(第8章 8.2.1,8.2.2) セシウム原子時計の標準 時刻情報を受信する方法 1999年~ (極超短波帯)衛星電波修正(第8章 8.2.3,8.2.4,8.2.5)