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ステップモーターの駆動方式の改良

6 | アナログクオーツ腕時計の進化を支えた技術

6.1.2  ステップモーターの駆動方式の改良

なったためである。

最小幅部分が飽和するまでの時間 Ts に流れるコイ ル電流は、ローターの回転に何ら寄与しないので、こ の時間はできる限り短い方がモーター性能上有利で あるが、開発したモーターでは Ts=500µsec 以下と短 く、消費されるエネルギーは極めて小さい。

図 6.7  2 体ステーター、1 体ステーターのコイルに 流れる電流の変化1)

二体ステーター

時間 一体ステーター

コイル電流 I

0.24msec 短くなる。この動作により、ステップモー ターに対する機械負荷が大きくなると自動的に通常駆 動パルス P1 は長くなり、機械負荷が小さくなると自 動的に通常駆動パルス P1は短くなる。

この方式では、60 回回転が繰り返された場合、通 常駆動パルス P1をΔP1 段ずつ短くする適応制御であ るが、回転している場合、設定された 1 番短い駆動パ ルス P0に即減ずる制御もある。

(2)ローターの回転検出の原理

図 6.10 は、ローターとステーターの位置関係を示 す。図(A)はローターが静止している状態であり、

ローターの磁極は、ステーターのノッチに対し約 90°

の位置に静止する。通常駆動パルス P1で駆動すると ステーターは、図(B)に示すように磁化し、ローター の各磁極と反発し合いローターは反時計方向に回転す る。通常駆動パルス P1の印加後は、ローターの運動 によりコイルに起電力が発生する。

このとき、検出回路がコイルの両端を短絡し、ロー ターに制動力が働くよう構成される。ローターに制動 力が働く場合は次の通りである。

・回転のとき: 図(C)に示す点 X1から X1' まで磁極 が通過する区間

・非回転のとき :図(D)に示す X2から X2' まで磁極 が通過する区間

回転のときローターの磁極は X1から X1' の間に最 も大きな誘起電圧を発生する場所であるステーターの 両極間(可飽和部)を通過しないので、コイルの両端 を短絡してもあまり制動が掛からない。そのため X1' 後のローター振動の振幅は大きく誘起電圧も大きい。

非回転でのローター磁極は、X2から X2' の間に最も 誘起電圧の大きくなるステーターの可飽和部を通過す るので誘起電圧が大きく、ローターに大きな制動力が 加わる。そのため X 後のローター振動の振幅は小さ く、すぐ安定点に静止する。このようにローターが回 転した場合と、非回転の場合では検出時間(DT)での 誘起電圧が異なることを利用して、ローターの回転検 出が可能となる。尚、非回転での大きな誘起電圧を検 出しないようアイドリングタイム(IT)を設けている。

図 6.10 ローターとステーターの位置関係2)

(3)適応制御システムによる低消費電力化の効果 表 6.1 に、3 針 Day/Date 仕 様 の 時 計 を 1 日 分、

86,400 ステップ駆動したときの通常駆動パルス P1の パルス幅発生状況を示す。

この時計の平均消費電流は、それぞれの P1パルス幅 での消費電流にそのパルスの発生確率(P)を掛けて、

総和をとった値 0.781µA に、補正駆動パルス P2の消費 電流にその発生確率を掛けた値を加えた 0.813µA とな る。この時計の最大出力トルクは、補正駆動パルス P2 の出力トルク 4.2g・cm であり、従来の固定パルス方式 で分針トルク T2#=4.2g・cm を得るには、常に通常パル ス幅 6.8msec、平均消費電流 1.9µA を必要とした。し たがって、適応制御システムの駆動方式を用いること により、消費電流を半分以下に減少した。

図 6.9 制御フローチャート2)

表 6.1 3 針 Day/Date 仕様の 1 日分のパルス幅発生2)

このシステムを初めて搭載した Cal.59 のムーブメン ト仕様は以下の通りである。

ムーブメントサイズ:

        直径 22.5mm(3 時 -9 時 20.0mm)

        厚み 1.98mm(電池部 2.22mm)

時間精度     :月差± 15 秒以内

使用電池サイズ  :直径 7.9mm 厚み 2.0mm 電池寿命     :約 2 年

更に低消費電力化を図るためには、ローターの静止 トルク(コギングトルク)を小さくし、ローター駆動 時の反発力を小さくしなければならない。ローターの コギングトルクをさらに小さくすると、量産時の部品 の加工精度、材料特性によるコギングトルクのばらつ きにより、モーター性能が影響を受け易くなる。この ようにコギングトルクを小さくしたモーターをできる だけ安定させる駆動パルスの開発を進める3)。その効 果について、従来の固定パルス駆動で説明する。

図 6.11 は、従来の固定パルス(パルス幅 7.3msec)

で駆動した、実線(コギングトルクが大きい); 磁気 ポテンシャルエネルギー差ΔE=3.5 × 10-7(Joul)、破 線(コギングトルクが小さい); ΔE=2.3 × 10-7(Joul)

のローターの挙動をシミュレートした図である。図

(a)の実線では、t=35msec でローターは 180°回転 した位置に落ち着く。しかし、破線では t=6msec で ローターは 180°以上回転しているにもかかわらず、

t=35msec ではパルス入力前の位置に戻ろうとしてい る。図の(b)は、モーターの駆動電流波形である。

同じ駆動パルス幅でも磁気ポテンシャルエネルギー差 が変わると、駆動後のローターの安定位置が異なる。

図 6.12 に示すのは、新しい駆動パルスで Pw の後 に間欠的(チョッパ式)パルスを付加した例であり、

Pw=7.3msec、Prf=0.49msec、Pro=0.49msec の 仕 様 で ある。

図 6.13 は、図 6.11 の破線と同じ磁気ポテンシャ ルエネルギー差のステップモーターを、新駆動パル スで駆動した場合のローターの挙動を示す。図 6.11

(a)破線の場合、モーター駆動パルス Pwが切れた後、

モーター駆動電流が急激に小さくなり、ローター慣性 による回転力(逆回転方向)が磁気ポテンシャルエネ ルギー差に勝り、ローターは初期位置に戻る。図 6.13 の場合は、パルス Pwが切れた後にチョッパ式パルス が印加され、かつコイルのインダクタンスによって モーター駆動電流は平滑化されている。このときの磁 気ポテンシャルエネルギー差は大きく、ローターの慣 性による回転力では磁気ポテンシャルエネルギーの最 大点を越えられない。また、この間にローターの回転 角速度が急激に小さくなり、ローターの慣性による回 転力も小さくなるので、その後の後戻り現象も起こら ない。

図 6.12 新駆動パルス3)

図 6.11  磁気ポテンシャルエネルギーの違いによるロー ターの挙動3)

図 6.13 新駆動パルスによるローターの挙動3)

ローターの回転安定性に影響を与える要因として、

ローター磁気ポテンシャルエネルギー差(コギングト ルク)、ローターの慣性モーメント、ダンピング抵抗

(油の粘性等)、負荷トルク、駆動電圧等がある。新駆 動パルスでは、これらの要因の変化に対して従来の駆 動パルスより優れた動作安定性が得られる。

前述した適応制御システムのモーターは、通常時の 駆動パルスを小さくして消費電流を下げるため、コギ ングトルクを固定パルスより小さく設定する必要があ り、新駆動パルスの効果は非常に大きい。

図 6.14 に示すのは、前述の適応制御システムに新 駆動パルスを搭載した P1と P2パルスのタイミング 図である。図に示すように、適応制御システムのス テップモーターの最大出力トルクを発生させる駆動 パルス P2の後に、チョッパ式のパルスを付加したも のである。

図 6.14 適応制御システムへの新駆動パルス搭載3)

低消費電力化に向けた、ステップモーターの駆動方 式の考え方である “ 通常時最小限の駆動力で動かし、

大きな駆動力が必要な時(カレンダー送り、外乱によ る衝撃時等)大きな駆動エネルギーを与える ” 技術の 導入は、時計メーカー各社が採用している。

6.2

生産技術による小型化、高機能化技術 クオーツ腕時計の中で、最も消費電力が大きいス テップモーターの低消費電力化について述べたが、小 型薄型化を可能にするためには、電池、水晶振動子の 小型化、生産技術面での加工精度、品質向上等も大き く影響する。

(1)小型酸化銀電池の高エネルギー密度化

電池の性能向上は、電池メーカーとの共同開発であ り、クオーツ腕時計の小型、薄型化は、電池メーカー の協力があってこそ可能であった。電池の小型薄型化 は、要求サイズの中にいかに電極剤を詰め込み、必要 な電気容量の確保、耐漏液特性、放電特性等を犠牲に せず作ることができるかどうかである。また、同じ電 池サイズにおいても、より多くの容量を確保できるよ う、電極剤の選択、電極剤の増量化等と同時に、設計 上の電池構造の見直し、電池の封口部の構造開発等を 進めた。試作サンプルによる品質評価を十分行った上 で、新機種に搭載する。電池に関する大きな問題は、

時計への組込み後に電解液の漏液が発生し、時計部品 が破損し時計機能を失うことである。したがって、試 作サンプルでの品質評価は、電池メーカーの品質評価 に加え、時計メーカー各社においても必要な評価を行 ない、充分な品質を確保したうえで採用した。

(2)水晶振動子の小型化

「クオーツアストロン 35SQ」の項で述べたように、

クオーツ腕時計の小型、薄型化にともなって、フォト リソグラフィーによる加工方法の確立により、水晶振 動子の音叉サイズもより小型化され、大量に製造でき るようになった。クオーツ腕時計の水晶振動子は、音 叉型形状で振動数は腕時計に適した 32,768Hz が世界 的標準となった。

(3)生産技術の革新

アナログクオーツ腕時計の小型、薄型化が進み、い ろいろな付加機能を搭載できるようになった背景に は、時計部品の加工技術が関わっている。ステーター のプレス加工技術におけるシェービング抜き、ロー