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ステップモーターの改良

6 | アナログクオーツ腕時計の進化を支えた技術

6.1.1  ステップモーターの改良

ローターの静止位置は定まらずコイルからステーター に磁束を流しても、ローターの回転方向は定まらな い。従って、何らかの方法でローターの磁極の向き を、コイルから供給される磁束の方向とわずかにずら せてローターの回転方向を決める必要がある。

図 6.1 ステーターずらし方式1)

ステーター

偏心ピン

ローター θ

δ

ステーター調整用

ずらす方法としては、機械的または磁気的にずら す方法があるが、磁気的にずらす方法が一般的であ る。図では、右側のステーターをステーター調整用 偏心ピンで、ローター軸と同心円から少しずらせて

(図 6.1 では、角度θ分)磁気的なアンバランスを生 じさせ、ローターの回転方向を決めている。図 6.2 は、

ローターを回転させた時の磁気ポテンシャルエネル ギーE の変化を、ステーターのずらし量δ=0~6(×

1/100mm)について磁場解析で求めたグラフである。

δを大きくしていくとローターの静止位置(磁気ポテ ンシャルカーブの極小点)が少しずつ移動するととも に、磁気エネルギー差ΔE(磁気ポテンシャルカーブ の極小点と極大点の差、コギングトルクとも呼ぶ)が 大きくなる。ウオッチ用モーターとしては、このエネ ルギー差ΔE を一定の量に調整することが最も重要な ポイントである。

図 6.2 ローター回転角と磁気ポテンシャルエネルギー1)

②無調整 2 体ステーター

図 6.3 に示すのは、無調整を可能にした 2 体ステー ターの構造を示す。加工工程について説明すると、2 体ステーターはステーター体とステーター下座の 2 体 で構成されている。ステーター体は、図の極細部○部 が繋がった状態でプレス加工される。ローターが入 る中心穴は、シェービング加工され全剪断の面状態 に仕上がっている。極細部には、調整タイプステー ターで述べたように、ローターの静止位置が決まるよ うに、ローター入り部内周に段差δを設けてある。ス テーター下座は、ステンレス材で作られておりステー ターと溶接によって接合されている。溶接後、刃の幅 0.2mm のカッターで極細部を切断し、高透磁率材の ステーターを左右に分断する。この加工時に極細部に 変形等が発生しないよう、また穴の真円度を規格に入 れるよう配慮している。切断後、高透磁率材の熱処理 を行ない透磁率、飽和磁束密度等モーター性能に必要 な規格値に入れ込む。

図 6.3 無調整 2 体ステーター

作り込みが出来ればムーブメントへの組込みによっ て、調整なしで必要なモーター性能を得られることに なるが、極細部の段差δ、ステーター中心穴の偏心量 等基準寸法の決定には、サンプルによるモーター試験 が必要である。試験サンプルは、段差δの水準、偏心 量の水準を作成し、各々の組合せ試験を繰り返す。

③ノッチ式および 1 体ステーター1)

①で説明したステーターずらし式では、ステーター のわずかな形状ばらつきによって、磁気エネルギー差 ΔE に変動を来たした。図 6.4 は、ステーター形状の ばらつきによる影響を極力抑え、加工能力、公差も配 慮できるノッチ式のステーターを示す。ローター軸に

関して点対称に凹部(ノッチ)を設け、ローターの回 転方向決めを行なう方式である。図 6.5 のグラフは、

ステーターずらし式のδ量およびノッチ深さ d の変 化と磁気エネルギー差ΔE の関係を示している。

図 6.4 ノッチ式ステーター1)

ステーター

ノッチ

ノッチ ローター

図 6.5  ステーターずらし量δおよびノッチ深さ d と磁気エネ ルギーΔE1)

例えば、ウオッチ用モーターとして所定の性能を満 足するΔE(図では 13erg)から± 2erg の範囲に収め る必要がある。ステーターずらし式の場合、グラフの 点線で示すように± 2erg に対して、ずらし量δの許 容範囲はわずかに± 0.5(× 1/100mm)となる。この ような厳しい公差での加工 ・ 調整は非常に難しい。

一方、ノッチ式の場合、ノッチ深さ d の許容範囲は

± 2(× 1/100mm)と比較的広く、ステーター加工 時ノッチ深さ d をこの加工公差範囲に抑えることは 容易である。このように、プレス加工能力に合った、

モーター性能に必要な磁気ネネルギー差ΔE の安定し たステーター形状を決定した。しかし、ローター磁石 とステーターの中心穴の偏心の影響も無視できず、偏 心量が大きいと 1 ステップ毎モーター性能に変化が発 生する。無調整化の実現のためには、以下のことが要 求される。

・ステーター中心穴とローター軸の偏心を抑える。

・ステーターの中心穴の形状精度が良いこと。

・簡単に組立でき、所定の性能が得られること。

この要求を解決するため、図 6.6 に示すような、左 右繋がった 1 体ステーターを開発した。ローターの回 転は、左右のステーター間に大きな磁気抵抗部分を作 り、ステーター中心穴内に多くの漏洩磁束が流れるこ とによる。2 体ステーターは、漏洩磁束を迅速に効率 よく発生させるのが狙いである。したがって、1 体ス テーターが必要とする条件は、2 体ステーターと同様 に動作するために、ステーターの左右繋がっている部 分の断面積を極力小さくし磁気抵抗を上げ、しかもあ る程度の機械的強度を持っていることが必要である。

この 1 体ステーターでの磁束の流れを解析すると、コ イルからの磁束が微少のとき、最小幅部分(左右ス テーターの繋がっている部分)でも通常に磁束が通過 し磁気飽和は起こらない。しかし、磁束が多くなり最 小幅部分の磁束密度が、ステーター材料の飽和磁束密 度を超え、磁気飽和状態になると 2 体の場合と同様ス テーター中心穴部に多くの漏洩磁束を生じ、ローター に回転力を与える。

図 6.6 1 体ステーター

このことはコイルのインダクタンスにも現われる。

図 6.7 は、2 体ステーターおよび 1 体ステーターのコ イルに電流を流した時の電流の時間的変化を示した ものである。2 体ステーターの場合あるインダクタン ス L に対し、1 体ステーターは最初のある時間 Ts だ け電流変化が小さい。最初のインダクタンス L1は大 きく、その後ほぼ 2 体ステーターのインダクタンス L と同じぐらいのインダクタンス L2になっている。1 体ステーターでは、コイルに電流を流すとき、ステー ターへの供給磁束が増えていく過程でインダクタンス が変化する。前述のように、1 体ステーターの最小幅 部分での磁気飽和によって、透磁率が空気に近くな り磁気回路抵抗が増加し 2 体ステーターと同じ状態に

なったためである。

最小幅部分が飽和するまでの時間 Ts に流れるコイ ル電流は、ローターの回転に何ら寄与しないので、こ の時間はできる限り短い方がモーター性能上有利で あるが、開発したモーターでは Ts=500µsec 以下と短 く、消費されるエネルギーは極めて小さい。

図 6.7  2 体ステーター、1 体ステーターのコイルに 流れる電流の変化1)

二体ステーター

時間 一体ステーター

コイル電流 I