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世界初アナログ式 GPS ソーラーウオッチ

8 | クオーツ腕時計の更なる高精度化 1)

8.2.5  世界初アナログ式 GPS ソーラーウオッチ

「セイコーアストロン」24)25)

セイコーエプソンは 1969 年世界初クオーツ腕時計

「アストロン」を開発し、機械式の 100 倍の精度を得 た。腕時計の高精度化は、世界の限られたエリアでは あるが、電波修正時計の出現により更に進んだ。2012 年に世界初アナログ式 GPS ソーラーウオッチがセイ コーより発売され、限られたエリアではなく、世界で 初めて地球上のあらゆる場所で、いつでもすばやく ユーザーの位置情報を特定して、その位置の正確な現 在時刻を得ることが可能となった。(図 8.30 参照)

図 8.30 GPS ソーラーウオッチ<セイコーアストロン>

(出典:セイコーウオッチ)

GPS を使った測位システムとの融合で、世界全 39 のタイムゾーンのどこに居るのかを判断して、その場 所の正確な時刻を表示する方式である。独自開発の GPS モジュールが、4 基以上の GPS 衛星からの電波 によって緯度 ・ 経度 ・ 高度情報を特定し、ユーザーの 現在地を特定する。この方式は約 2 万 km 上空からの 微弱な衛星信号を受信する必要があり、標準電波を受 信する電波修正時計の約 1000 倍の電力を必要とする。

GPS モジュールはいずれのメーカーも時計用の低消 費電力化の要望にはとても対応できなかったため、結 果的には、セイコーエプソンの開発部門において開発 されることになった。

また、一般的な GPS 機器に使用されるパッチアン テナは、ウオッチの金属外装と干渉して十分な感度を 得られないという大きな課題であった。本項では、そ の大きな課題に対する解決技術について述べる。

(1)低消費電力について

低消費電力化については、効率的な受信システムの 構築、デバイスの低消費電力化の 2 点より進めた。

①効率的な受信システム

本ウオッチでは、ユーザーがタイムゾーンの修正を 必要とする場合と、時刻だけの修正でよい場合に分け て受信モードを選択するシステムを採用している。

・ユーザーがタイムゾーンを跨ぐ移動をした場合、

ユーザーのボタン操作で通常の GPS 機器と同様に、

4 基以上の衛星の軌道情報を取得し測位演算する。

ユーザーのいる位置と正確な時刻を算出し、それに 応じたタイムゾーンを内部メモリから読み出し、そ の場所に適したローカルタイムに修正する。(受信 環境の良い場所で、最短 30 秒程度の時間が必要で ある。)

・タイムゾーンを跨ぐ移動がない日常生活では、ユー ザーが特定な操作をしなくても、ウオッチが受信可 能な環境か判断して、受信可能であれば自動で時刻 だけを受信する。(時刻情報だけの取得なので、最 短で 6 秒程度の短時間である。)

このように、ユーザーの生活にあった受信モードを 選択することにより、受信時間を大幅に短縮しエネル ギー収支に貢献している。

②デバイスの低消費電力化

デ バ イ ス の 消 費 電 力 に お い て は、 特 に GPS モ ジュールと電源制御 IC の消費電力が大きい。

・GPS モジュールは、デジタル処理を徹底的に見直 し、時刻取得に特化した専用の制御方式を取り入 れ、大幅な低消費電力化を実現した。当時の低消費 電力の GPS モジュールに対して約 1/5 の消費電力 となっている。

・電源制御 IC は、GPS ソーラーウオッチ用に開発し た小型リチウム二次電池に合わせた充放電制御方 法、電圧制御方法を開発し、ニ次電池の安全性の確 保とともに制御の効率化を図り、従来の電源制御 IC の 1/10 の低消費電力化を実現した。

(2)受信感度向上と高品位外装の実現

GPS ソーラーウオッチのアンテナ部の構造は、図 8.31 に示すように、文字板の上に文字板を囲むような リング形状でアンテナを配置している。アンテナは誘

電率の高いリング状の基材に無電解めっきでアンテナ パターンを形成し、外周のフックでムーブメントに固 定する構造である。

図 8.31 リングアンテナ部25)

この構造による利点は以下の通りである。

・通常 GPS 機器に用いられるパッチアンテナの場合、

金属外装の干渉を抑えるため外装から離し外装が大 きくなる。また、パッチアンテナを文字板上に配置 できないため、ムーブメント内部に入れ込む必要が あり、ステップモーターや電子部品からの発生ノイ ズによって受信感度が劣化する課題がある。このリ ングアンテナ構造により、課題が解決できムーブメ ントのレイアウトも自由にできるようになる。

・ソーラーパネルも受信に影響を与えるため、アンテ ナを文字板より下に配置する場合は、アンテナの上 に位置するソーラーパネルにアンテナ部の切り欠き が必要になるが、リングアンテナによってソーラー パネルを文字板全体に配置でき、発電量の確保に貢 献する。

GPS ソーラーウオッチ<セイコーアストロン>の受 信性能であるが、図 8.32 に示すように空が十分見え る場所(Open Sky)でのフィールド試験結果は、時 刻取得は最短で 6 秒、平均 10 秒程度の受信時間でほ

図 8.32 Open Sky の例25)

ぼ 100%の取得結果であった。タイムゾーン取得は最 短で 30 秒でほぼ 100%の結果となった。

一 方、 図 8.33 に 示 す よ う な ビ ル 街(Urban  Canyon)における受信でも、時刻取得は平均 9 秒程 度の受信時間でほぼ 100%、タイムゾーン取得は約 80%と高い受信性能を確保している。

図 8.33 Urban Canyon の例25)

参考・引用文献

1)  政木広幸:「年差時計の技術動向と展望」マイク ロメカトロニクス Vol.53No.200 pp.74-83 2009 年 6 月

2)  山田邦晴:「水晶時計の温度補正について」日本 時計学会誌 No.78 pp.64-71 1976 年 9 月

3)  野中啓:「並列接続 2 本水晶による腕時計の開発」

日本時計学会誌 No.91 pp.2-13 1979 年 12 月 4)  赤羽好和,小河徳門:「ツインクオーツによる高

精度腕時計の開発」日本時計学会誌 No.89 pp.1-19 1979 年 6 月

5)   シチズン時計株式会社:技術解説書「シチズン 

〈クオーツ〉クリストロン ・ メガ 8650」p.3 6)  シチズン時計株式会社:「シチズン技術研究所 40

年史 腕時計用水晶振動子の開発」pp.54-55 7)   シチズン時計株式会社:社内報「クリストロン-

MEGA」pp.20-21

8)  国際時計通信社:「クリストロン- MEGA Cal. 

8650A - f4.2MHz のシチズン〈クオーツ〉-」

p.413

9)  シチズン時計株式会社:技術解説書「Cal.193」

10)  関根光雄:「高精度周波数温度補償システム」日 本時計学会誌 No.106 pp.1-10 1983 年 9 月 11) シチズン時計株式会社 時計資料室:社史台帳

053-08

12) 「SEIKO 時計の戦後史」編集委員会:「SEIKO 時 計の戦後史」pp.188-189 1996 年 3 月 28 日発行 13) 精工舎 社内報:「せいこう 新製品紹介」p.37 

1963 年 7 月

14) 精工舎:クロック技術解説書「セイコー電波時計」

pp.TTR1-20

15) シチズン時計株式会社:Cal.7400 電波修正時計開 発物語メモ(長谷川忠史) 2002 年 6 月 25 日 16) シチズン時計株式会社:「シチズンライフ 電波

時計・新発売」pp.10-11 1993 年 4 月

17) シチズン時計株式会社:シチズンライフ 時間精 度のあくなき追求」p.8 1993 年 9 月

18) 梅本隼雄,昼田俊雄,八宗岡正,五十嵐清貴,青 木昭雄:「長波電波ウオッチの開発」日本時計学 会誌 No.146 pp.51-63 1993 年 9 月

19) 八宗岡正,藤田憲二,中村文雄:「長波電波ウ オッチの受信システム」日本時計学会誌 No.146  pp.64-72 1993 年 9 月

20) 八宗岡正:「シチズン電波時計の歩み」マイクロ メ カ ト ロ ニ ク ス Vol.59 No.212 pp.46-49 2015 年 6 月

21) カシオ計算機株式会社:NEWS RELEASE「世 界初 GPS 機能を内蔵したアウトドアウオッチ」

1999 年 1 月

22) シチズン時計株式会社:社内報 Hours「サテラ イト」Vol.20 2012 年 1 月 6 日

23)  シ チ ズ ン 時 計 株 式 会 社 HP.(http://citizen.jp/

news/2011/20110615.html):製品と技術

24) セイコーウオッチ株式会社:広報資料 2012 年 3 月

25) 本田克行,柳澤利昭:「GPS ソーラーウオッチ の開発」マイクロメカトロニクス Vol.58,No.210  pp.1-6 2014 年 6 月