167
168
なお、それまで、半径
10km
を超える地域については、防災訓練も実施して おらず、避難区域の射程範囲外ととらえていたため、地方自治体や地域住民へ の連絡、避難手段や避難場所の確保、スクリーニング、物流等、実施面の準備 も全くなされていなかったが、このような実施上の問題点についての確認や検 討は特段なされておらず、関係省庁や地方自治体等からの意見聴取も行われな かった。③ その後、同席者の中から、海水注入について、「そもそも海水注入の準備が できているのか、いつまでに結論を出せばよいのか。」などといった質問があ り、武黒フェローにおいて、既に、本店対策本部から、
1
号機の爆発によって 海水注入のホースが損傷して再開準備に時間がかかることを聞いていたため、「直ちに結論を出す必要はない。一、二時間くらいかかるのではないか。」な どと答えた。
そこで、海水注入に関する議論を一旦中断し、同日
19
時30
分頃再度集合す ることになった。④ 議論中断後、経済産業省課長が、これまでの議論の過程で菅総理が疑問に思っ た事項について整理し、東京電力、保安院、原子力安全委員会が手分けして調 べ、議論再開後に菅総理に説明することになった。
その際、武黒フェローは、東京電力に割り当てられた事項として
ⓐ 海水注入のためのポンプはあるのか
ⓑ 注水用の配管に破断部分がないのか
ⓒ 海水を入れた後に原子炉の制御が可能なのか
などといった点を調べることになり、急を要したため、官邸
5
階から直接吉田 所長に問合せの電話をかけた。この頃既に同日19
時4
分頃を過ぎており、福 島第一原発では海水注入を開始していたものの、官邸5
階にいた武黒フェロー らは、そのことを知らなかった。吉田所長は、武黒フェローからかかってきた電話に出ると、武黒フェローか ら、海水注入に関する前記ⓐからⓒに記載した事項について問われたが、その 際、武黒フェローに対し、「もう海水の注入を開始している。」旨回答した。
そこで、武黒フェローは、吉田所長に対し、「今官邸で検討中だから、海水 注入を待ってほしい。」旨、強く要請し、既に注水していた点については、海
169
水がきちんと原子炉内に入るか否かを試すための試験注水であったと位置付 けることにした。もっとも、前記議論再開後、菅総理がすぐに海水注入を了解 したため、武黒フェローは、菅総理に対し既に海水を試験的に注水したなどと 説明する機会を失った。
⑤ 他方、吉田所長は、武黒フェローからの電話の後、いつ再開可能かも分から ないのに海水注入を中断すれば、原子炉の状態が悪化の一途をたどるだけだと 考え、本店対策本部やオフサイトセンターの武藤副社長らに対し、テレビ会議 システムを通じて相談した。本店対策本部やオフサイトセンターの武藤副社長 らは、いずれも、官邸で結論が出ていない以上、菅総理の了解も得ずに海水注 入を継続するのは困難であり、一旦中断もやむを得ないという意見であった。
しかし、吉田所長は、1 号機原子炉への海水注入を中断することの危険性を 懸念し、この上は自己の責任において海水注入を継続しようと判断し、注水作 業の担当責任者を呼んで、テレビ会議システムのマイクで集音されたり、周囲 に聞こえたりしないような小声で、「これから海水注入中断を指示するが、絶 対に注水をやめるな。」などと指示した。その後、吉田所長は、緊急時対策室 全体に響き渡る声で、海水注入中断の指示をした。
その結果、
1
号機原子炉への海水注入はそのまま継続されたものの、その事 実を認識している者は、吉田所長及び注水作業の責任者ら僅かであり、本店対 策本部やオフサイトセンターの者はもちろんのこと、発電所対策本部にいた者 の大半も、海水注入を中断したものと誤信した。⑥ さらに、
ERC
も、3
月12
日19
時27
分頃、本店対策本部から、「一旦海水 注入を開始したものの、菅総理の指示待ちで停止している。」旨報告を受け、これを官邸地下の緊急参集チームに参加していた保安院リエゾンに伝え、緊急 参集チームにおいて情報共有が図られた。しかし、この情報は、官邸
5
階にい た菅総理らには伝達されなかった。その後、武黒フェローは、海水注入に関し菅総理の了解が得られたとして、
本店対策本部に電話連絡を入れ、テレビ会議システムを通じて、発電所対策本 部にも同情報が伝えられた。
そこで、吉田所長は、本店対策本部や発電所対策本部の大半の人間が海水注 入を継続していることを知らなかったので、改めて、同日
20
時20
分頃、緊急170
時対策室において、海水注入再開の指示を出し、
ERC
や本店対策本部など必要 部署に対し、その旨報告した。また、1
号機について、本格的に海水注入が開 始されたのは同日20
時20
分頃であり、それまでの海水注入は試験注水である との整理がなされた。⑦
3
月12
日20
時45
分頃、発電所対策本部は、再臨界を抑止するため、構内 に備蓄していたホウ酸を3
号機T/B
前の逆洗弁ピット内の海水と混ぜて、1
号 機原子炉内に注水することとした。(2)
3
号機への代替注水の状況a
3
号機の当時のプラント状況と当直の対応①
3
号機については、3月12
日11
時36
分頃、何らかの原因でRCIC
が停止 した。このため、当直が3
号機T/B
地下1
階にあるRCIC
室に行き、その作動 状態を確認の上、3/4
号中央制御室においてRCIC
の再起動を試みたがうまく いかなかった。3
号機のRCIC
が停止した後である同日12
時6
分頃、当直は、D/DFP
ラインを起動し、その後、S/C
スプレイを実施した。そのうちに3
号機 の原子炉水位が低下していったため、同日12
時35
分頃、HPCI
が自動起動し た。HPCI
については、その流量が大きいため、流量を調節しなければ、原子炉 水位が急上昇してすぐに停止してしまう。そして、再起動には多くの電気を必 要とすることから、バッテリーの消耗が大きくなる。そのため、当直は、あら かじめ、HPCI
のテスト配管の電動弁を開操作して、原子炉に注入するライン と水源である復水貯蔵タンクに戻るラインを作り、HPCI
の流量を調節して作 動できるようにしていた(図Ⅳ-7
参照)。その後、
3
号機原子炉は、HPCI
の作動によって減圧が顕著となり、同日19
時以降、3 号機の原子炉圧力は、原子炉圧力計によれば、0.8MPa gage から1.0MPa gage
までの数値を示すようになった。②
3
月12
日20
時36
分頃、3/4
号中央制御室では、3
号機の原子炉水位計の電 源(24V
直流電源)が枯渇し、原子炉水位の監視ができなくなった。そこで、発電所対策本部復旧班は、同日未明に広野火力発電所から調達した
2V
バッテ リー合計50
個のうち13
個(予備用バッテリー1
個を含む。)を順次3/4
号中171
央制御室に運び込み、
3
号機の原子炉水位計の電源復旧作業を行った。その間、3/4
号中央制御室の当直は、3
号機の原子炉水位を監視できなくなったため、原 子炉内への注水量を十分確保できるようにHPCI
の流量の設定値をやや引き上 げた上、原子炉圧力やHPCI
の吐出圧力などを監視することにより、HPCI
の 運転状態を確認していた。HPCI
は、本来、原子炉圧力が1.03MPa gage
から7.75MPa gage
程度の高 圧状態にある場合55
に短時間に大量に原子炉注水をするために用いることが予 定された注水システムであった。しかし、
3
号機のHPCI
については、原子炉圧力が0.8MPa gage
から0.9MPa gage
を推移している中で、流量調整をしながら、手順で定められた運転範囲を 下回る回転数で長時間作動させ続けていた。さらに、次第に、HPCIの吐出圧 力が低下傾向を示し、原子炉圧力と拮抗するようになっていった。そのため、当直は、原子炉水位が不明な中で、
HPCI
によって原子炉注水が 十分なされているのか判然とせず、かつ、通常と異なる運転方法によってHPCI
の設備が壊れるおそれがあるとも考え、HPCI
を作動させ続けることに不安を 抱くようになった。また、この頃、
3/4
号中央制御室の制御盤上、SR
弁の状態表示灯が全閉を示 す緑色ランプを示していたため、当直は、依然として制御盤上の遠隔手動操作 によりSR
弁を開けることができると考えていた(資料Ⅳ-6参照)。そして、原子炉圧力が
0.8MPa gage
から0.9MPa gage
程度といった低い状 態であったため、当直は、制御盤上の遠隔手動操作によりSR
弁を開けて原子 炉を更に減圧すれば、作動中のD/DFP
の吐出圧力でも注水可能であり、D/DFP
の接続先をS/C
スプレイラインから原子炉注水ラインに変更すれば、D/DFP
で原子炉に注水できると考えた。そこで、当直は、HPCIによる注水から
D/DFP
による注水に切り替えた方 が安定した注水ができると考え、同月13
日2
時42
分頃、HPCI
を手動で停止 することにした。