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1.3.体裁

ドキュメント内 Microsoft Word - 論文 (ページ 104-110)

『韻鏡』における張隣之の「韻鏡序作」の割注には

旧ハ翼祖ノ諱敬ナルヲ以テノ故ニ韻鑑ト為ル。今祧廟ニ遷ス、覆本名ニ従フ(筆 者注:『寛永五年板韻鏡』の訓点による)

とある。『韻鏡』は「鏡」が宋太祖の祖父の諱「敬」と同音であることから、憚って一時期

『韻鑑』と呼ばれたことがある。

『日清字音鑑』は「字音鑑」を名乗っている。そして、1.1 節「『日清字音鑑』の概要」

で述べたように、『日清字音鑑』は中国語音韻学の伝統的注音法の反切によって字音を「音 首」と「音尾」に分けている。そこで、体裁の面から『日清字音鑑』と『韻鏡』の関連性 を検討してみる。

本節で使用した『韻鏡』のテキストは『寛永五年板韻鏡』(勉誠社 1977 年影印本、鈴木 真喜男解説)による。

(1)図示

『韻鏡』は次の〔図10〕のように、諸音間の関係を図示する字音一覧表である。

〔図10〕『韻鏡』の体裁

『日清字音鑑』は次の〔図11〕に示すように、同じく図で字音を示す一覧表である。

〔図11〕『日清字音鑑』の体裁

(2)声調

『韻鏡』は〔図 10〕に示すように、1 枚の転図で上下の方向は韻母の欄である。韻母の 欄は声調の平・上・去・入によって4段に分かれており、それぞれ、「平声」・「上声」・「去 声」・「入声」である。

『日清字音鑑』は〔図11〕に示すように、1枚の表で上下の方向を声調によって4段に分 けている。それぞれ「上平」・「下平」・「上声」・「去声」である。

(3)配列

『日清字音鑑』の「緒言」には

索引ニ用ヒタル字音ハ、大抵漢音ニ從ヒタレドモ、マヽ呉音ニ由レルモノアリ。

故ニ索引ノ際、先ヅ記臆ノマヽ、漢音又ハ呉音ノ一方ニテ索メ、若シ得ザルトキ ハ、他ノ一方ニテ索ムベシ。(再掲)

とあり、索引のため日本漢字音を付けている。〔図11〕に示したように、日本漢字音は表の 上の欄に記されている。

「阿・鴉・啞・瘂・窪・亞」の日本漢字音は「ア」である。

「家・傢・嫁・嘉・加・枷・佳・葭・茄・蝦・何・河・假・可・嫁・價・架・駕・賀・

夏・鰕・蝦・哥・歌・坷・荷・瑕・暇・霞・下・箇・個」の日本漢字音は「カ」である。

「呀・俄・娥・蛾・鵞・鵝・牙・芽・我・雅・ ・訝・衙」の日本漢字音は「ガ」であ る。

「渣・喳・釵・差・叉・喳・炸・茶・查・咱・瑣・鎖・左・詐・乍・扠・廈・ ・嗟・

挲・挱・唆・梭・佐・沙・砂・紗・搓」の日本漢字音は「サ」である。

「矬・坐・座・做・挫」の日本漢字音は「ザ」である。

以下、『日清字音鑑』がどのような順で日本漢字音を配列しているか、そして、配列は『韻 鏡』とどのように関連しているかについて検討していきたい。

①韻尾

『韻鏡』は韻尾が共通である近い韻を一括して、「切韻」系韻書の「二百六韻」を「十六 摂」に分けている。

転図の1・2枚目は「通摂」、3枚目は「江摂」、4枚目から10枚目までは「止摂」、11・12 枚目は「遇摂」、13枚目から16枚目までは「蟹摂」、17枚目から20枚目までは「臻摂」、

21枚目から24枚目までは「山摂」、25・26枚目は「効摂」、27・28枚目は「果摂」、29・30 枚目は「仮摂」、31・32枚目は「宕摂」、33から36枚目は「梗摂」、37枚目は「流摂」、38 枚目は「深摂」、39・40・41枚目は「咸摂」、42・43枚目は「曽摂」である。

『日清字音鑑』は日本漢字音の韻尾が共通なものを統括し、1つの表に纏めている。

1頁から14頁までは1枚目である。1枚目は「ア」・「カ」・「ガ」・「サ」・「ザ」・「タ」・「ダ」・

「ナ」・「ハ」・「バ」・「マ」・「ヤ」・「ラ」・「イ」・「キ」・「ギ」・「シ」・「ジ」・「チ」・「ヂ」・「ヒ」・

「ビ」・「ミ」・「リ」・「ヰ」・「ウ」・「ク」・「グ」・「フ」・「ブ」・「ム」・「ユ」・「ル」・「オ」・「ヲ」・

「コ」・「ゴ」・「ソ」・「ト」・「ド」・「ホ」・「ボ」・「モ」・「ヨ」・「ロ」の直音単音節を収録し ている。直音のゼロ韻尾であろう。

15頁目から17頁までは2枚目である。2枚目は「シヤ」・「ジヤ」・「シユ」・「ジユ」・「チ ユ」・「ヂユ」・「キヨ」・「ギヨ」・「シヨ」・「ジヨ」・「チヨ」・「ヂヨ」・「リヨ」・「クワ」・「グ ワ」の拗音単音節を収録している。拗音のゼロ韻尾であろう。

18頁から26頁までは3枚目である。3枚目は「アイ」・「カイ」・「ガイ」・「クワイ」・「グ ワイ」・「サイ」・「ザイ」・「タイ」・「ダイ」・「ハイ」・「バイ」・「マイ」・「ライ」・「ワイ」・「エ イ」・「ケイ」・「ゲイ」・「セイ」・「ゼイ」・「テイ」・「デイ」・「ネイ」・「ヘイ」・「ベイ」・「メ イ」・「レイ」・「スヰ」・「ズヰ」・「ツヰ」・「ルヰ」の複音節を収録している。韻尾「イ」・「ヰ」

が共通している。

27頁から41頁までは4枚目である。4枚目は「アン」・「カン」・「ガン」・「クワン」・「グ ワン」・「サン」・「ザン」・「タン」・「ダン」・「ナン」・「ハン」・「バン」・「マン」・「ラン」・「ワ ン」・「イン」・「ヰン」・「キン」・「ギン」・「シン」・「ジン」・「シユン」・「ジユン」・「チン」・

「ヒン」・「ビン」・「ミン」・「リン」・「エン」・「ケン」・「ゲン」・「セン」・「ゼン」・「テン」・

「デン」・「ネン」・「ヘン」・「ベン」・「メン」・「レン」・「ウン」・「クン」・「グン」・「スン」・

「スン」・「フン」・「ブン」・「オン」・「ヲン」・「コン」・「ゴン」・「ソン」・「トン」・「ドン」・

「ホン」・「ボン」・「モン」・「ロン」の撥音複音節を収録している。韻尾「ン」が共通して いる。

42頁から63頁までは5枚目である。5枚目は「アウ」・「アフ」・「ワウ」・「オウ」・「カウ」・

「カフ」・「コウ」・「クワウ」・「ガウ」・「サウ」・「サフ」・「ザフ」・「ソウ」・「タウ」・「ダウ」・

「タフ」・「トウ」・「ドウ」・「ノウ」・「ナウ」・「ナフ」・「ハウ」・「バウ」・「ホウ」・「ボウ」・

「マウ」・「モウ」・「ヨウ」・「ヤウ」・「エウ」・「エフ」・「ラウ」・「ラフ」・「ロウ」・「クウ」・

「グウ」・「スウ」・「ツウ」・「フウ」・「ユウ」・「イウ」・「イフ」・「キヤウ」・「キヨウ」・「ギ ヨウ」・「ケウ」・「ゲウ」・「ケフ」・「シヤウ」・「ジヤウ」・「シヨウ」・「ジヨウ」・「セウ」・「セ フ」・「チヤウ」・「ヂヤウ」・「テウ」・「テフ」・「ネフ」・「ヒヤウ」・「ビヤウ」・「ヒヨウ」・「ビ ヨウ」・「ヘウ」・「メウ」・「リヤウ」・「リヨウ」・「レウ」・「レフ」・「キウ」・「ギウ」・「キフ」・

「シウ」・「ジウ」・「シフ」・「ジフ」・「チウ」・「ヂウ」・「ニウ」・「ニフ」・「リウ」・「リフ」

の長音音節を収録している。韻尾「ウ」・「フ」が共通している。

65頁から75頁までは6枚目である。6枚目は「アク」・「カク」・「ガク」・「クワク」・「サ ク」・「タク」・「ダク」・「ハク」・「バク」・「マク」・「ヤク」・「ラク」・「ワク」・「イク」・「キ ク」・「シユク」・「ジユク」・「ジク」・「チク」・「ヂク」・「ニク」・「リク」・「フク」・「オク」・

「コク」・「ゴク」・「ソク」・「ゾク」・「ホク」・「ボク」・「モク」・「ヨク」・「トク」・「ドク」・

「ロク」・「キヨク」・「ギヨク」・「シヨク」・「ジヨク」・「チヨク」・「ヒヨク」・「リヨク」・「キ ヤク」・「ギヤク」・「シヤク」・「ジヤク」・「チヤク」・「ミヤク」・「リヤク」を収録している。

韻尾「ク」が共通している。

77頁から79頁までは7枚目である。7枚目は「シキ」・「ヒキ」・「エキ」・「ゲキ」・「セキ」・

「テキ」・「デキ」・「ヘキ」・「ベキ」・「レキ」を収録している。韻尾「キ」が共通している。

81頁から89頁までは8枚目である。8枚目は「アツ」・「カツ」・「クワツ」・「グワツ」・「サ ツ」・「ザツ」・「タツ」・「ダツ」・「ナツ」・「ハツ」・「バツ」・「マツ」・「ラツ」・「イツ」・「キ ツ」・「シツ」・「ジツ」・「シユツ」・「ジユツ」・「チツ」・「ヒツ」・「ミツ」・「リツ」・「ウツ」・

「クツ」・「フツ」・「ブツ」・「エツ」・「ケツ」・「ゲツ」・「セツ」・「ゼツ」・「テツ」・「デツ」・

「ヘツ」・「ベツ」・「メツ」・「レツ」・「オツ」・「コツ」・「ソツ」・「トツ」・「ボツ」を収録し ている。韻尾「ツ」が共通している。

②三十六声母と五十音行

『韻鏡』は 1 枚の転図で、左右の方向は声母の欄であり、声母はいわゆる子音である。

声母の欄で右から左へと、ぞれぞれ「三十六字母」の「幇母」・「滂母」・「並母」・「明母」・

「非母」・「敷母」・「奉母」・「微母」・「端母」・「透母」・「定母」・「泥母」・「知母」・「徹母」・

「澄母」・「嬢母」・「見母」・「溪母」・「群母」・「疑母」・「精母」・「清母」・「従母」・「心母」・

「邪母」・「照母」・「穿母」・「牀母」・「審母」・「禅母」・「影母」・「暁母」・「匣母」・「喩母」・

「来母」・「日母」を配列している。

『日清字音鑑』は 1 枚の表で、五十音行いわゆる子音の順で左右に配列している。例え ば、以下のとおりである。

1枚目は右から左へとそれぞれ「ア」・「カ」・「ガ」・「サ」・「ザ」・「タ」・「ダ」・「ナ」・「ハ」・

「バ」・「マ」・「ヤ」・「ラ」などである。

2枚目は右から左へとそれぞれ「シヤ」・「ジヤ」・「シユ」・「ジユ」・「チユ」・「ヂユ」など である。

3枚目は右から左へとそれぞれ「アイ」・「カイ」・「ガイ」・「クワイ」・「グワイ」・「サイ」・

「ザイ」・「タイ」・「ダイ」・「ハイ」・「バイ」・「マイ」・「ライ」・「ワイ」などである。

4枚目は右から左へとそれぞれ「アン」・「カン」・「ガン」・「クワン」・「グワン」・「サン」・

「ザン」・「タン」・「ダン」・「ナン」・「ハン」・「バン」・「マン」・「ラン」・「ワン」などであ る。

③等位と五十音列

『韻鏡』では 1 枚の転図で上下の方向は韻母の欄である。韻母の欄は主母音の舌の最後 部の高低によって「一等」・「二等」・「三等」・「四等」に分けている。例えば、上の〔図10〕

に示したように、「東」は1等字、「中」は3等字である。3等字「中」の主母音の舌の最後 部は1等字「東」より高い。

『日清字音鑑』は 1 枚の表で、五十音列いわゆる母音の順で前後に配列している。例え ば、次のとおりである。

1頁から14頁までは表の1枚目である。1頁から5頁までは「ア」・「カ」・「ガ」・「サ」・

「ザ」・「タ」・「ダ」・「ナ」・「ハ」・「バ」・「マ」・「ヤ」・「ラ」のア列音を配列している。5頁 から9頁までは「イ」・「キ」・「ギ」・「シ」・「ジ」・「チ」・「ヂ」・「ヒ」・「ビ」・「ミ」・「リ」・

「ヰ」のイ列音を配列している。10頁から11頁までは「ウ」・「ク」・「グ」・「フ」・「ブ」・「ム」・

「ユ」・「ル」のウ列音を配列している。11頁から14頁までは「オ」・「ヲ」・「コ」・「ゴ」・「ソ」・

「ト」・「ド」・「ホ」・「ボ」・「モ」・「ヨ」・「ロ」のオ列音を配列している。

このように、『日清字音鑑』は1枚の表でア列・イ列・ウ列・エ列・オ列の順で前後に配 列している。

以上、図示・声調・配列からみると、体裁において『日清字音鑑』は『韻鏡』に似てい るのではないかと思われる。

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