砂糖は,もともと種類の多さ,用途の多様性(家庭用・菓子用等の直消糖,砂糖用原料糖な ど),流通経路の複雑さ,投機的性格などにより,さまざまな糖商(大は三井物産,安部幸など の代理店や,高津,福谷,和田木などの特約店),製糖会社(大日本製糖,明治製糖,台湾製糖,
塩水港製糖など)などが複雑に絡み合って市場を形成していた。とくに少数の糖商が市場を動か していたことは,すでに図4
―
5で砂糖の1店当り販売額に関して,卸売商(=糖商等)に対する 小売商の比率が極端に高かったことでも示すことができよう。そして砂糖は,第1次大戦を経る と国内消費量を大きく増加させ,その種類も赤糖(赤褐色の塊を含む粗粉糖)が減った代わり に,精白糖(または精製糖,精糖とも呼ばれる)・分密糖が増えてきた(219)。ちなみに1920年代 半ばでは,精白糖550万ピコル(=33万トン),分密糖350万ピコル(=21万トン)で,ほぼ拮 抗した数量が出回っていた(220)。そこで以下では,精白糖と分密糖に分けて説明していこう。七製糖
會社 供給
組合
卸賣小賣
消費者
府設市場
市 設
又ハ
私設市場 委託
販賣人
二三 流
問屋
菓子製 造業者
配給組合︵東京市場︶
問屋
東京市場 以
外
︵
︶
即チまず精白糖についてみると,世界的な生産過剰のなかで製糖会社間の協調体制が整ってい き,1928年12月には図4
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14のように共同販売制度としての砂糖供給組合が設立された。これ は一種のトラストであり,この組合を通じて従来の代理店4店(三井物産,明治商店,大日本製 糖商務部,安部幸)を委託販売人とし,その下に特約店としての二三流問屋117店が指定販売人 として販売を委託され,そこから小売商が商品を仕入れていた(221)。特に東京市場では,委託販 売人4店による市価の維持が図られたが,製糖会社間競争が激しくなったため同組合が弱体化 し,代わりに特約店側の活動力が強まった。このため当調査の後には,1934年3月に供給組合 は実質的に解散することとなり,代理店組織である東京火曜会が価格支配力を強めたことで,1930年代は糖価の引き上げが達成されていった。
一方,分密糖は,直接に消費される場合(直消糖)と精白糖の原料として使用される場合(原 料糖)の2つの使われ方がある。その流通経路は,図4
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15のように一方で製糖会社→代理店→図 4―14 精白糖の取引系統図
(注) 上記の7製糖会社とは,大日本,明治,台湾,
塩水港,新高,北海道,中央の7社である。
(資料) 商工省編『商取引調査(砂糖)』の47頁。
ただし,谷沢が一部を修正した。
製 糖 會 社
府設市場
地方問屋 自轉車代
市 設
又ハ
私設市場
消費地
問屋
消費地
問屋
小賣商
取引所 代理店
代理店 兼問屋
消費地
二三流問屋
︵卸ヲモ含ム︶ 一般消費者菓子業者
大問屋(消費地)→二三流問屋→小売商と進む場合と,他方では製糖会社→砂糖取引所→大問屋
(消費地)→二三流問屋→小売商と進む場合などがある(222)。このうち代理店とは,製糖会社ご とに販売特約店契約を結んでいる問屋のことであり,台湾製糖に対する三井物産といった形で あった。また砂糖取引所は,1925年に大阪で,1929年に東京で開場しているが,ここでの取引 は会員に限っていた。その取引は主に投機で利用することが多かったため,糖業連合会(1920 年設立の製糖業のカルテル)による価格調整等によって不振となり,当調査後の30・31年には 両取引所の業績が低迷して廃止論まで現れた。
なお問屋間の取引(仲間取引)では,いわゆる「ブローカー」が介在し,各問屋に備え付けの
「ブローカー手帳」に数量,売手,買手,商号,商品種類,単価,限月等を記入して取引を確定 するという。このブローカーは,『問屋取引調査』でも「砂糖仲買人」と呼ばれていたが,当時 は「ブローカー手帳」があったかどうかは判然としない。ただし『問屋取引調査』では「契約成 立マデハ双方ノ名義ヲ明示セズ」(223)としていたため,おそらくその機能は,当調査と若干異
図 4―15 分密糖(中双糖)の取引系統図
(資料) 商工省編『商取引調査(砂糖)』の23頁。
ただし,谷沢が一部修正をした。
消費地卸商
集散地問屋 機業家 仲買小賣商
百貨店 消費
者 買
継商
なったものであった可能性があろう。
取引条件は,精白糖では二三流問屋→小売商,小売商→消費者とも,表4
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26のようにおおむ ね現金取引であり,『問屋取引調査』と大きな変化はない模様である。ただし大問屋→二三流問 屋の取引では,現物引渡と同時か翌日に現金決済をするが,まれには手形取引の場合もあるとい う。その場合には,支払い期日までの日歩を事前に徴収しておくことが多い。なお二三流問屋→小売商との受渡にあたっては,問屋の店頭でおこなうか,小売商まで問屋が送荷している。