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<内地向絹織物>

ドキュメント内 小売商は事業資金をいかに調達したのか? ― (ページ 133-136)

内地向絹織物として,ここでは代表的な絹織物である西陣織と両毛地域の絹織物の2つを取り 上げよう。まず高級織物の代名詞である西陣織は,その流通経路が図4

17のように機業家→仲 買(産地商人)→前売業者(市内・地方の百貨店や小売商)→消費者となっていた。このうち仲 買は,上京区に居る「上仲買」と下京区に居る「下仲買」があるが,前者はすべて機業家から仕 入れて百貨店や大手問屋等に卸すが,後者は機業家のほか一部は上仲買から仕入れ地方の卸小売 商に卸している。人数でみると上仲買30人,下仲買80人であるが,西陣では関東の機業地のよ うな市場制度がないため,これらの仲買が価格決定権を有していた。

図 4―17 西陣織の取引系統図

(資料) 商工省編『商取引調査(内地向絹織物,人絹及交織物)』の25頁。

取引条件は,まず機業家がその製品を仲買に持ち込む取引では,振機と伏機という2つの方法

がある(229)。振機とは,機業家が自由に原糸を仕入れて誰にでも自由に振り売りする方法であ

り,伏機とは機業家と仲買が一定期間,一定の機台数の製品に一手売買契約を結ぶ方法である。

当時は,全生産額の約2割が伏機契約を結んでいたにすぎず,大半は振機であった。製品価格の 決定方法は,以前は値入取引と言い,取引時に価格を決定しないまま一定時期になって値入・清 算をおこなう不確定方法が多かったが,1920年代末には取引ごとに商談で価格を決める確定取 引が多くなった。確定取引における代金支払方法は,種々の方法があるが,一般的には毎月20 日締切,月末に60日サイトの手形とする。この場合の金額はあくまで概算額にすぎず,毎年 6・12月に清算するという。

次に,仲買と京都市内の前売業者との取引は,前売業者が仲買の店舗に赴き相対で商談をし て,商談成立時には3日以内に仲買より前売業者に現品を発送する。その代金支払方法は,確定 していないが,百貨店や小売商で最も一般的な方法は,毎月20日締切,翌月末払いの方法であ る。ただし小売商のうちには,経営状態に応じて現金を要求する場合や手形でもらうものなど,

判断が分かれることもある。『問屋取引調査』では,20日締切,月末払いであったから,小売商 側の支払い遅延により実質的に決済期間が長期化したと推測される(230)

さらに地方の消費地の商人との取引は,季節別の需要に応じて商人が京都の仲買店舗に出向い て相対取引をする。ただし徐々に仲買側より店員を地方に派遣させて,売込みと代金回収に当た らせるようになった。代金決済は,表4

26のように手形による場合が一般的であるが,それ以 外に純然たる信用貸もあった。いずれの場合も,支払期日は商品到着後60日が最も多かった。

ただし60日間で支払いが完了する場合は少なく,完済までには少なくとも70日,長いものでは 100日を要する場合があった。このような支払い延滞に対しては,仲買は延滞利息として日歩2 銭〜2銭5厘(年利:7.3〜9.125%)を徴していた。なお『問屋取引調査』では,すでに地方の 小売商が為替手形で支払いをおこなっていたため,手形の導入は他の商品と比べて早かったとい

えよう(231)。ただし支払いの延滞が発生した際に,延滞利息を徴収していた事実は確認できない

ため,『問屋取引調査』の実施以降にこのルールが整えられていったと推測される。

一方,両毛地域の流通過程を図4

18でみると,基本的には機業家→買継商(産地商人)→集 散地問屋(東京・大阪・京都・名古屋)→小売商→消費者となっている(なお図の「来客問屋」

とは集散地問屋のことである)。そして各産地とも,買継制度にもとづく市場取引組織が存在す ることが特徴であった。買継制度とは,産地において①買継商が存在すること,②一定の取引場 所(市場)があること,③市日を定めていること,の3条件を満たす制度である。このうち①の 買継商とは,機業家と集散地問屋の間に立って,売買の仲介をおこない口銭を収受する地元商人 であり,③の市日は1週につき2回とし,1回は本市,1回を準市としている。本市とは,専門 の土地建物のなかで取引・現品の受渡に加え代金決済をおこない,準市とは買継商の店舗のなか で取引・現品の受渡のみをおこなうことを指すが,いずれの産地でも準市が中心であり,本市は

産地仲買商人

機業家來客問屋消費者

百貨店 買継商小賣商

  定 不 

不  

  定

掛又現金

三十

極めて少ないという。

市日に取引の成立した商品は,買継商の店舗に持ち込まれ荷造・仕切書等の手続をおこない,

翌日の列車で集散地に輸送される。この列車に遅延した場合には,買継商が責任を負うこととな る。このように買継制度では,実質的には機業家と問屋の取引にすぎないものを,形式的には

「買継商が機業家より商品をいったん買入れ,それを問屋に販売するもの」とみなしているため,

取引にともなう責任・決済はこれらの各取引に応じて処理される。なお機業家と問屋との間に は,一部で歩引または反引の慣習があるほか,問屋側が図案を示して機業家に発注することもあ る。これらは,おもに両者に特別の関係がある場合におこなわれることが多い。

代金決済方法は,機業家が市日に買継商の店舗に取引の成立した商品を持ち込んだ時点で買継 商が手形で支払っている。手形の期限は28日(=4市分)を原則とし,手形金額は取引価額よ り買継口銭を差し引いた金額とし,口銭は機業家の負担とする。そして買継商は,仕切書と自己 宛為替手形を同封して問屋に送付する。この為替手形の期限は,28日または30日を原則とする が,なかには40〜50日の信用を問屋に与える場合もある。最後に,問屋と小売商との取引は,

図4

18のようにかならずしも定まったものはなく,返済能力に応じて現金や掛け取引が選択さ れた。そして両者の間の決済条件は,おそらく30日を超える期間を要し,場合によっては40・

図 4―18 両毛絹織物の取引系統図

(資料) 商工省編『商取引調査(内地向絹織物、人絹及交織物)』の132頁。

私設市場

消費者 百貨店

府設市場 市設市場

灘地方

釀造家

小賣商

︵卸小賣   含ム︶ 酒問屋︵十店︶

酒屋問屋︵十店︶

更新會︵十一店︶

甲東會︵八店

釀 造 家 出 張 店

︵約十店︶

50日になったと思われる。これは,表4

19の呉服における買掛債務回転期間が1.2ヶ月(≒36 日)であることから推測できよう。また同表で,呉服の棚卸資産回転期間が7.7ヶ月にも及ぶ事 実は,商品が店内で長期間滞留していることを意味しているが,このような商品特性も上記のよ うな流通過程で長い決済条件を引き起こす理由であった。以上の結果として,図4

6のように呉 服の運転資金回転期間が6.9ヶ月にも達することとなったのである。

ドキュメント内 小売商は事業資金をいかに調達したのか? ― (ページ 133-136)