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5. 2.商工省編『商取引調査』

ドキュメント内 小売商は事業資金をいかに調達したのか? ― (ページ 115-119)

次に商工省商務局による『商取引調査』の情報に移ろう。この調査は,商工省商務局が木炭,

麻織物,棉花及綿糸,人造絹糸,石油等の主要27商品に関して,1926年6月から数年間で実施 した,商取引組織,同系統に関する個別調査の報告書(総冊数は20冊)である。商品別の調査 実施時期や公表時期は表4

25を参照してほしい。ここで注意してほしいのは,この表のうち最 初に掲げられた「内地重要商品取引事情(其ノ一)」は『商取引調査』とは異なる調査であるこ

とだ。しかし同じ商工省商務局員によってほぼ同時期に調査され,記述形式も類似した調査であ るため,一緒に取り上げることとした(以下では,「内地重要商品取引事情(其ノ一)」も『商取 引調査(商品名)』として表記していく)。

当調査の解説文を記した伊牟田敏充によると,この調査を「物価抑制策と関連した流通改善政 策樹立のための準備調査」としたうえで,具体的には1927年5月に設置された商工審議会にお いて,極小の販売組織を改善する方策を検討することになったため,その情報を提供するために 実施されたと推測する(196)。このほかに日銀の調査から10年以上経過して,その間に第1次大 戦,関東大震災,金融恐慌が含まれているため,中小商工業者の金融難・経営難のもとで問屋と 小売商との関係も大きく変質したことが推測され,新たな情報が必要であったことも実施目的と 思われる。各調査とも,調査項目として生産状況,取引系統,取引方法,代金決済,運送方法,

運送費用,価格変動,商人の利益,倉庫,金融機関,商業組合,取引の欠陥と改善策などが取り 上げられており,日銀『問屋取引調査』よりも格段に詳細になった。先の伊弁田が,「この調査

表 4―25 商工省編『商取引調査』の調査概要

品 目 調査時期 刊行時期

① 内地重要商品取引事情(其ノ一) 1926年6〜7月 1926年9月

―1.伊予絣 ― ―

―2.秩父銘仙 ― ―

―3.モスリン ― ―

―4.着尺「セル」 ― ―

―5.莫大小 ― ―

―6.琺瑯鉄器 ― ―

1―7.畳 表 ― ―

1―8.醤 油 ― ―

木 炭 不 明 1927年12月

③ 麻織物 不 明 同 上

棉花及綿糸 不 明 1928年8月

⑤ 人造絹糸 不 明 同 上

⑥ 石 油 不 明 同 上

⑦ 生 糸 不 明 1928年9月

⑧ 毛 糸 不 明 1928年12月

⑨ 石 炭 不 明 1929年6月

漆 器 不 明 1930年3月

⑪ 蔬菜及果実 1927年9月 同 上

⑫ 輸入肉及豚肉(第1篇 輸入肉) 1927年7月 同 上

(第2編 豚 肉) 1928年7月

砂 糖 1928年12月 同 上

内地向綿織物 1928年9月 同 上

⑮ 木 材 1929年3月 同 上

⑯ 陶磁器 1928年3月 同 上

内地向絹,人絹及交織物 1928年7月〜

1929年6月

同 上

清 酒 1929年9月 1931年1月

⑲ 化粧品 1929年7月 1931年3月

⑳ 米 1929年6〜10月 1932年2月

(注) 1.ゴシック体の品目は本稿で取り上げたものである。

2.調査時期の空欄は,未記載を示す。

3.内地重要商品取引事情(其ノ一)の続編は見当たらない。

(資料)商工省編『商取引組織及系統ニ関スル調査』(本稿では商品流通 史研究会編『近代日本商品流通史資料』第13巻を利用)より谷 沢が作成。

表 4―26 商工省編『商取引調査』等における問屋の代金取立方法の概要(1920 年代後半)

品 目 代金取立方法 実 態 その他

1―7.畳 表 ・毎月25日締めとし,同月末を 決済期日とする。

・決済無い場合は,翌月5日まで に最長15日間の約束手形を発 行する。

・代金決済は50〜60日を要する。 ・配達運賃は小売商側が負担す る。

・小売商は,商品を畳屋に押しつ け,相互信用に頼っている。代 金回収の困難な場合がある。

1―8.醤 油 ・問屋は卸価格の8分の口銭を取 る約束を製造業者とおこなって いる。

・代金は月末払いで,遅くとも翌 月5日までに支払う。

・問屋間の競争が激しいため,口 銭は3〜4分である。

・亀甲万,山サ,ヒゲ田等の最上 級製品は,問屋によって相場が 支えられている。

・物品は問屋の蔵渡しで,小売商 までの運賃は小売商の負担とす る。

木 炭 ・問屋は1俵当たり15〜20銭の 口銭をとって小売商に卸す。

・信用取引がなされ,代金は月末 払いと定められる。

・月末払いは小売商の3分の1に 過ぎず,他は翌月末に延期して いる。

・支払い延期分は金利を付けてい ない。

・百貨店,公設市場では現金払い である。

・銀行と取引ある店は絶無で,も し資金が必要なら無尽・問屋か ら借入たり,個人貸借としてい る。

③ 麻織物(麻着尺 地)

・取引は現物又は見本取引で,問 屋の建値を標準とする。

・商品到着の都度30日又は60日 の手形で支払う。

・60日以上の手形に対しては,

相応の日歩を支払っている。

・販売期間が6・7月に限定され るため,他織物との兼営が大半 である。

綿 糸 ・綿糸商と機業家は相対売買で,

買方の店頭へ出張員を派遣して 銘柄取引をする。

・代金の決済は仕向地別に期日を 制定した為替手形・荷為替手形 による。

・染糸問屋と機業家との取引は信 用貸であり,1ヶ月後に回収す る。

・染糸問屋と糸錦小売商との取引 も信用貸であり,毎月14日と 30日に支払う。

・代金遅延の場合には,綿糸商は 組合に不払申告書を提出し,そ れが続くようなら,警告のうえ 取引停止とする。

・実際には2〜3ヶ月後にようや く回収できる。

・30日支払が多かった。

・取引価格は取引所の当限相場が 基準となる。

⑥ 石 油 ・月の15日と月末の2度締切る 場合と月末に1度締切る場合の 2種ある。

・店員を派して現金で取立る。

・貸倒の危険率は,地方よりも東 京市内が高い。

・特約店と小売商との取引は,ほ とんど「鞘取」である。

⑧ 毛 糸 ・取引は問屋が作成した見本によ る相対売買で小口の取引が多 い。

・代金の決済は現金が中心だが,

関係が深い場合には信用貸もあ る。

・毛 糸 の 小 売 は,糸 物 商,雑 貨 商,化粧品商等の兼営である。

⑨ 石 炭 ・様々な取引(現金,掛買等)が あるが,前金取引が多い。

・代金決済に手形を使うことはな く,もし使っても銀行は割引に 応じない。

・たまたま割引をしても,日歩2 銭7・8厘の割引料を取る。

・小売商のみの専業は少なく,問 屋と小売の兼業や薪炭との兼業 が多い。

漆 器(会津 漆器)

・掛売をして,おおむね月2回勘 定(代金決済)と定めている。

・ほとんど不定期の決済である。 ・消費地問屋の経営力が弱いた め,生産地問屋→消費地小売商 または消費者に短縮されつつあ る。

⑪ 蔬菜及果実

(蔬菜)

・代 金 の 決 済 は,月 末 清 算(締 め)で現金取引と掛取引の2種 ある。市場出入りの多い信用あ る者は掛売りで年2回の清算で ある。

・一部には,繰越々を重ねて年末 に貸倒となるものが,1問屋平 均で2000円内外ある。

・店舗を持つ小売商は上中等品質 で現金売りが多いが,露天商等 は中下等品で掛売りが多い。

は,日本に特有な複雑かつ重層的な流通機構を本格的に調査しようとしたものとして注目され

る」(197)と指摘しているのは,まんざら誇張とはいえない。しかし現在までのところ,当資料を

使用した本格的な取引・流通史研究はおこなわれていないようである。

そこで表4

26では,『商取引調査』で調査対象となった主要17品目について,その代金支払 い方法をまとめている。以下では,この表のうち日銀『問屋取引調査』でも掲載されていた9品 目(ゴシック体)について,現在までの研究成果や他の資料の情報も加味しつつ,昭和初期にお ける小売商の取引方法,決済方法等の特徴を概観してみたい。これらの品目は,かならずしも商 品特性にしたがって適切に選定されたわけではないが,情報量が比較的多いという意味では当時

⑫ 輸入肉及豚肉

(豚肉)

・代 金 決 済 は,毎 月2回(14日 と30日)である。

・この決済方法は極めて不揃であ る。

・問屋への注文は,予め電話注文 をするか出前による注文取りに よる。

砂 糖 ・二三流問屋―小売商,同―菓子 商は随時,問屋の店頭で受渡,

いずれも現金取引である。

・1928年3月に「砂糖供給組合」

が設立され,精糖市価が維持さ れたが,いまだ他業兼営でどう にか維持できる状況である。

内地向綿織物 ・取引はすべて相対取引であり,

代金の決済は主として掛売で月 1・2回取立をする。

・回収はなかなか困難で,平均 40〜50日の延払いである。

・問屋は驚くべき乱売振りで,市 価は人為的に乱されている。

⑮ 木 材 ・問屋と仲買(小売商のこと)は 相対取引であり,代金の決済は 20日締切で月末に現金払いを

原則とする。

・遅延がちであり,翌月月初の支 払いも相当ある。

・仲買は大工等に相対取引で販売 するが,決済は現金引換と25 日締切月末現金支払いがある。

その割合は,3:7である。

⑯ 陶磁器 ・小売店が問屋の店頭で注文した り,問屋が派遣した番頭が注文 をとったりする。

・代金の支払いは,すべ信用取引 であり,60日の後払 い。現 金 取引は異例である。

・物品は荷渡のため,運賃は小売

店の負担となる。

内地向絹織物

(西陣織)

・京都に行き,仲買と相対取引で 仕入商品を決める。

・代金決済方法は,手形による場 合と信用貸の場合がある。いず れでも支払期日は商品到着後 60日が最多である。

・期日までに全額支払いが終わら ず,70〜100日 か か る の も 多 い。

・支払延滞に対して,仲買は2銭

〜2銭5厘の延滞日歩を徴収す る。

・丹後縮緬でも,手形・掛売にか かわらず支払期日は60〜90日 である。

内地向絹織物

(両毛地域)

・買継商から集散地問屋へは,28

〜30日サイトの自己宛為替手 形で決済する。

・集散地問屋から小売商へは,か ならずしも確定していない。

・問屋への信用は,原則30日だ が,なかには40〜50日の場合 もある。

・機業家と問屋との間には,一部 で歩引または反引の慣習がある

清 酒 ・代金決済の方法は,原則として 毎月20日締切月末の現金払い である。手形は使われない。

・これが厳守されることは稀であ る。

・問屋に対する買掛金の支払いが 遅延しがちで,問屋に苦痛を与 えている。

・従来は問屋が小売商に営業資金 を援助していたが,当時はその 傾向が減少してきた。

(注) 1.品目の左端の数字は,表425の番号を示す。

2.ゴシック文字の品目は,日銀『問屋取引調査』に掲載された品目を示す。

3.上記の品目は『商取引調査』のうち主要品目を選択したにすぎない。

4.『商取引調査』は漢字カタカナ混じり文であるが,他の資料の情報も追加したため内容を変更しないように現代文に 書き換えた。

(資料)商工省編『商取引組織及系統ニ関スル調査』,その他資料より谷沢が作成した。

ドキュメント内 小売商は事業資金をいかに調達したのか? ― (ページ 115-119)