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ドキュメント内 橡04_ケース扉絵 (ページ 88-92)

     

 

  ビジネス交渉人材育成プログラム 

  ケーススタディー  Ⅳ   

 

出資交渉 

「シェフズ・デリ・ジャパン」

 

 

参加者用ケース情報 

越後屋商事・事業開発室 FC 課主任「田沢(たざわ)」用 

 

《秘密資料》 

 

 

 

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①  あなた(田沢)の立場 

  あなたは日本を代表する総合商社、越後屋商事の事業開発室 FC(フランチャイズ)課主任、田沢(た ざわ)29 歳である。あなたの所属する事業開発室は、越後屋商事の幅広い事業領域を活かし、新し い事業の芽を開拓するというミッション(役割)を負っている。様々な事業部からの情報をもとに 常に新しいビジネスの芽を探し、起案していくことが主な仕事となる。新しい事業を、時には自社 の新規事業としてスタートさせ、時には自社の既存事業とのシナジー(相乗効果)を狙って他社に その事業を行ってもらい、提携するなどして越後屋商事の収益源を拡大することを求められている。 

 

国際的な物流網の発達やインターネットなど通信インフラの発展により、物資の流通網の中間に 位置して右から左にモノを流してマージンを取る、という従来からの商社のビジネスは、転換期に 来ている。こういったビジネスだけではもはや充分な収益を得ることができなくなり、自前で商品 を創り出したり、さらには企業同士の提携を仲介するなどして新しいビジネスの創造を演出したり、

総合商社のビジネスはますます「ビジネスを生み出す」方向にシフトしている。事業開発室は、ま さにビジネス創造の最前線に位置し、あらゆる領域の情報を常に収集してビジネスのヒントを探し ている、いわば越後屋商事の情報部門とも言える存在である。すべての事業部門と横断で連絡を取 り合って協力を得、商社にありがちな部門別の縦割り組織を乗り越えて、最適な体制を創り出すこ とが使命であると言える。 

 

  中でもあなたの属する FC(フランチャイズ)課は、外食や流通小売といった業界に多いフランチャ イズの仕組みを積極的に展開し、越後屋のビジネスにつなげていくというミッションを負っている。

例えば直営店をいくつか展開しているレストランがあったとすると、経営者にフランチャイズ展開 を働きかけ、オーナー募集からマニュアル作成、店舗開発、食材の一括仕入れから各店舗への配送 までを一手に引き受けてしまうのである。経営者からすると、越後屋のノウハウや物流網を最大限 活用できて店舗網を一気に拡大できるし、越後屋としても店舗が増えるごとに物流の量も増え、ビ ジネスがどんどん拡大していくということになる。いわば、お互いにとってメリットの大きいビジ ネスである。あなたは特に外食産業を得意としており、発展しそうなチェーンレストランや外食企 業を見つけると、積極的にフランチャイズ展開を提案し、全面的な提携に持ち込むことを目標に 日々動いている。 

 

  あなたはここ数日、つい最近業界誌で読んだアメリカの HMR(ホームミール・リプレースメント)

企業、シェフズ・デリ社の記事に興奮している。これから外食産業の地図を塗り替えるかもしれな い企業が、日本でのパートナーを探しているというのだ。もしシェフズ・デリ社とパートナーにな ることができれば、これまでの経験を活かして食材の仕入れから店舗への配送、在庫の管理からゴ ミ処理まで、子会社を使ってサポートできる。もちろんワインや高級食材の輸入はお手のものだし、

店舗を出すときの立地選定も、不動産部門の情報を使えば全国的にサポートできる。もし店舗のス タッフが足りなければ、やはり子会社を使って店舗運営の請負をすることもできる。これは宝の山 だと直感したあなたは、室長の秋元にこの話を持ち込み、全面的なバックアップをもらうことにな った。ちょうど秋元も記事を読んでチャンスと考えていたらしく、秋元自身がコネを使ってシェフ ズ・デリ社とのコンタクトルートを作ってくれた。あなたの熱意が実り、シェフズ・デリ日本法人 社長、黒岩氏にアポイントが取れ、今日の午後会えることになっている。 

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②  あなたのバックグラウンド(職歴) 

  あなたは学校を卒業してすぐ、越後屋商事に入社した。総合商社に入って国際的ビジネスマンと して世界を駆け回りたい、などと学生らしい夢を描いていたあなただったが、現実には配属された 食品事業部で、大手スーパーや問屋などを相手に、食材の売り込みに走り回る毎日だった。確かに ビジネスの規模としては大きいのだが、自分で新しく何かを創り出す、というよりは既存の販売ル ートを必死になって守るというイメージの仕事に追われることが多かった。 

 

そんなあなたに転機が訪れたのは、入社 3 年目の秋のことである。ひょんなことから知り合った たこ焼屋の社長が、突然あなたを訪ねて会社にやってきた。何の話かと思えば、社長はたこ焼屋の フランチャイズ展開を考えていて、越後屋商事に協力を依頼したいと言うのである。最初は冗談半 分に聞いていたあなただったが、たまたま居合わせた先輩に話をしてみたところ、面白がって関係 しそうな部署に話をつないでくれたのである。あなたにとって意外なことに、フランチャイズを立 ち上げからサポートするという話に部長クラスまでが乗り気になり、あれよあれよという間にたこ 焼屋のフランチャイズがスタートしてしまった。 

 

  幸運は重なるもので、折からの不況で外食産業全体は低調だったが、わずか数坪の店舗で出店で き、客単価は低いが裾野が広く客数の多い、たこ焼商売は大ヒットした。あなた自身を含めて越後 屋の誰もが予想もしなかったペースで出店が拡大し、越後屋は食材の仕入れから配送、必要な備品 の仕入れ・販売、出店交渉までを一手に引き受けて大きな収益を上げることができた。あなたはま さに 瓢箪から駒 という心境だったが、たこ焼屋社長にも非常に喜ばれ、本部からも特別表彰を 受けるなど、社会人になって初めて仕事の面白さ、醍醐味を感じることができたのであった。 

 

  この体験をきっかけに、あなたはフランチャイズシステムこそが、これから成長するビジネスの 最有力候補であると確信し、積極的に取引先にフランチャイズ展開を持ちかけることとなった。あ なたの動きは発足したばかりの事業開発室の目に止まり、今年の 4 月に事業開発室に異動となり、

あなたは正式にフランチャイズ関連ビジネス専門のスタッフとして働くことになったのである。 

 

③  現在の会社の状況 

  越後屋商事は、戦後長らく収益の源であった金属・機械部門が、ここ数年極度の不振に陥り、し ばらく赤字決算にあえいでいた。21 世紀の金脈と言われる通信・IT 部門も IT バブルの崩壊で思っ たほど収益が上がらず、全体としては厳しい環境下にある。2 年前に就任した社長は、商社の役割 が根本的に変わりつつあるとの認識から、部門ごとの専門性を重視した伝統的な組織を変革し、部 門横断であらゆるニーズに総合的に応えていく、という姿勢を明確に打ち出した。事業開発室は、

その旗手のような存在である。 

 

  経営側は新しい事業に関して、見込みがあるとなれば積極的に投資する姿勢である。企業ごと買 収するケースも増えており、また資本注入(出資)して子会社・グループ化することも多い。既存 の事業部門と一体化したビジネスの構造を作り上げることにより、より多くの収益源を造り、一方 でコスト削減を図って全体の効率化を実現する、というのが現在の越後屋の方針である。 

1 社あたりの出資額は案件によりまちまちだが、5 億円までの案件は、事業開発室だけの決裁で

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行えることになっている。この範囲内であれば、ほとんどすべての判断はあなたの上司である室長 に任されており、形式上本社の審査部などの決裁を取るプロセスがあるにしても、これまでのケー スでは、室長の判断がくつがえされたことはほとんどない。フランチャイズ案件に関しては、あな たは絶対の自信を持っており、室長もあなたの判断をある程度尊重してくれる状況にある。 

 

④  交渉目的 

  あなたはシェフズ・デリの事業は日本国内で極めて有望だと考えており、ぜひとも出資を実現し てフランチャイズ展開をサポートしたいと考えている。できれば 50%以上出資して子会社とし、事 業のコントロールを完全に握ることがベストだと信じている。遅くとも一年以内にフランチャイズ 制を開始し、わが FC(フランチャイズ)課で全力を挙げてサポートしていけば、数年以内に日本全 国の市場を押さえることすら夢ではないとあなたは思う。当然シェフズ・デリ社の意向が優先され るが、直営店方式では出店のスピードが限られるし、その間に競合企業が真似をして出てきてしま う可能性もある。何よりもスピード優先でシェフズ・デリの知名度を一気に上げてしまうことが重 要である。 

 

  そのためにも、まずはとにかく出資を実現し、協力関係の第一歩を踏み出すことが先決である。

越後屋の総合力を生かすことは、必ずシェフズ・デリにとってもプラスになるはずで、その点はあ なたは自信たっぷりである。できれば出資を決める段階で、近い将来のフランチャイズ展開の約束 も取り付けたいところである。その方が早くから準備できるし、仕入先業者の協力も取り付けやす い。そんなことは考えたくないが、フランチャイズ展開を拒むようなら、越後屋にとってのメリッ トはぐっと減ってしまうので、条件によっては交渉を取りやめるべきとすら考えている。また、も し他の提携候補者が居た場合、お互いに協力できるのであればもちろん協力して共同出資しても構 わないが、敵対するようであれば何としても排除し、越後屋主導で出資を進めたいところである。 

 

⑤  交渉相手 

  シェフズ・デリ・ジャパンの代表取締役、黒岩氏は必ず出てくるはずだが、他は分からない。 

 

⑥  その他 

  今日の午後のアポイントには、どうやらもう 1 社の提携会社候補が同席するらしいとの情報が入 った。ダイコクヤという高級スーパーで、越後屋とはこれまでほとんど取引の実績がないため、急 遽取り寄せた会社概要の資料しか入手できていない。どのような思惑で、交渉に臨んでくるか全く 検討もつかないため、できれば事前に彼らの考えを知りたいところである。あなたは上司である事 業開発室室長とともに、シェフズ・デリとの交渉に向けてどのような条件を提示するか、さらにダ イコクヤの情報をできる限り入手して、事前に対応策を練っておくことにした。 

 

【課題】:出資候補企業との会合に向け、交渉の戦略を作り上げること。 

  当ケースは、「ビジネス交渉人材」の育成を目的として独自に開発されたものです。ケース中に登場するいかなる固有名詞(企業・

団体・組織・個人名等)も架空であり、現実に存在する企業・団体・組織・個人名と一切関連はありません。ケース中に登場する 状況、名称等と現実とのいかなる類似も、意図的なものではありません。またケース中に登場するいかなる状況設定も、特定の企 業・団体・組織・個人の活動を支援・推薦・助長あるいは非難・批判・攻撃する意図を持っていません。あくまでも架空の設定に 基づき、受講者が交渉のスキルを学ぶことを目的として設計されたケースです。 

ドキュメント内 橡04_ケース扉絵 (ページ 88-92)