• 検索結果がありません。

4-越(1)

ドキュメント内 橡04_ケース扉絵 (ページ 84-88)

     

 

  ビジネス交渉人材育成プログラム 

  ケーススタディー  Ⅳ   

 

出資交渉 

「シェフズ・デリ・ジャパン」

 

 

参加者用ケース情報 

越後屋商事・事業開発室室長「秋元(あきもと)」用 

 

《秘密資料》 

   

 

 

1

①  あなた(秋元)の立場 

  あなたは日本を代表する総合商社、越後屋商事の事業開発室の室長、秋元(あきもと)49 歳であ る。事業開発室は、越後屋商事の幅広い事業領域を活かし、新しい事業の芽を開拓するというミッ ション(役割)を負っている。新しい事業が成功する可能性があるとなると、時には自社の新規事 業としてスタートさせ、時には自社の既存事業とのシナジー(相乗効果)を狙って他社にその事業 を行ってもらい、提携するなどして越後屋商事の収益源を拡大することを求められている。 

 

国際的な物流網の発達やインターネットなど通信インフラの発展により、物資の流通網の中間に 位置してマージンを取る、という従来からの商社のビジネスは、転換期に来ている。こういったビ ジネスだけではもはや充分な収益を得ることができなくなり、自前で商品を創り出したり、さらに は企業同士の提携を仲介するなどして新しいビジネスの創造を演出したり、総合商社のビジネスは ますます「ビジネスを生み出す」方向にシフトしている。事業開発室は、まさにビジネス創造の最 前線に位置し、あらゆる領域の情報を常に収集してビジネスのヒントを探している、いわば越後屋 商事の情報部門とも言える存在である。すべての事業部門と横断で連絡を取り合って協力を得、商 社にありがちな部門別の縦割り組織を乗り越えて、最適な体制を創り出すことが使命であると言え る。 

 

  あなたは最近、とりわけ外食・流通といったサービス産業に注目している。この領域は、ア メリ カなどのサービス先進国からのビジネス進出が非常に頻繁に起こり、次々と新しい事業フォーマッ ト(業態)が生まれるエキサイティングな領域である。多くの場合、いわゆるサプライチェーンマ ネジメント(原料の調達、製造から販売までの物流などの工程すべてを統合して管理するやり方)

が重要となる業界であるため、総合商社の力量を活かして原料調達、在庫管理、生産管理、店舗へ の配送など多くのプロセスを子会社等を使って一貫サポートし、あらゆる場面から収益を得ること ができる。しかも IT 技術の導入が比較的遅れている分野であり、その面でも越後屋の出番は多い。

いわば越後屋としては割の良いビジネス分野であると言えるだろう。 

 

  あなたはここ数日、つい最近業界誌で読んだアメリカの HMR(ホームミール・リプレースメント)

企業、シェフズ・デリ社の記事に興奮している。これから外食産業の地図を塗り替えるかもしれな い企業が、日本でのパートナーを探しているというのだ。もしシェフズ・デリ社とパートナーにな ることができれば、これまでの経験を活かして食材の仕入れから店舗への配送、在庫の管理からゴ ミ処理まで、子会社を使ってサポートできる。もちろんワインや高級食材の輸入はお手のものだし、

店舗を出すときの立地選定も、不動産部門の情報を使えば全国的にサポートできる。もし店舗のス タッフが足りなければ、やはり子会社を使って店舗運営の請負をすることもできる。これは宝の山 だと直感したあなたは、どうしてもこの件に越後屋も関わりたいと、業界のコネを総動員してシェ フズ・デリ社にコンタクトを試みた。その甲斐あって、つい昨日、設立準備に入ったばかりのシェ フズ・デリの日本法人社長、黒岩氏にアポイントが取れたという連絡が入っている。 

 

②  あなたのバックグラウンド(職歴) 

  あなたは大学を卒業後、総合商社の人間としては珍しくさまざまな事業分野を経験してきた。最 初は鉄鋼部門に配属され、主にオーストラリアからの自動車産業向け鉄鋼原料の輸入を担当した。

2

このとき、あなたが独自に考え出した金融取引を使った為替リスク(通貨価値変動のリスク)管理 のやり方が本社で話題になり、異例中の異例のことながら財務部門に配置転換となった。ちょうど 金融ビジネスへの本格的進出を考えていた越後屋商事が、現場実務にも精通し、金融の知識もある あなたを抜擢しようと、準備段階から異動させたのである。 

 

  金融ビジネス部門がスタートするにあたり、あなたは発足メンバーとしてそのまま残った。ここ でも数年間の経験を積んだが、実物財(形のある財物、鉄鋼や食材などすべてを含む)のやり取り を含まない純粋な金融取引にはあまり興味を持つことができず、再度実物を扱う事業部門への異動 を希望した。次に移ったのは、韓国をはじめとするアジア諸国の猛烈な追い上げを受けていた、産 業機械の部門であった。ここでもあなたは独自の手腕を発揮し、機械を購入するメーカーに対して 単に機械を売り込むのでなく、原材料の仕入れから在庫管理まで一貫してサポートする、サプライ チェーンマネジメントの先駆けとなるような提案を行い、安値攻勢をかける外国企業との入札競争 に次々と打ち勝った。この発想は越後屋商事の社長の目にとまり、あなたは社長直々の命令により、

新しく設置されることになった部門横断の組織、事業開発室の初代室長として、発想を活かして新 たなビジネスを開拓する任務を帯びることになったのである。 

 

  あなたは「ビジネスはアイディアと行動力がすべて」という信念を持っている。同時に「成功し て拡大しなければビジネスとは言えない」とも信じている。すべての工程を標準化して効率化し、

規模を追求することによってさまざまな可能性が広がる外食・流通分野は、その意味でもあなたの 志向にぴったりの分野である。 

 

③  現在の会社の状況 

  越後屋商事は、戦後長らく収益の源であった金属・機械部門が、ここ数年極度の不振に陥り、し ばらく赤字決算にあえいでいた。21 世紀の金脈と言われる通信・IT 部門も IT バブルの崩壊で思っ たほど収益が上がらず、全体としては厳しい環境下にある。2 年前に就任した社長は、商社の役割 が根本的に変わりつつあるとの認識から、部門ごとの専門性を重視した伝統的な組織を変革し、部 門横断であらゆるニーズに総合的に応えていく、という姿勢を明確に打ち出した。事業開発室は、

その旗手のような存在である。 

 

  経営側は新しい事業に関して、見込みがあるとなれば積極的に投資する姿勢である。企業ごと買 収するケースも増えており、また資本注入(出資)して子会社・グループ化することも多い。既存 の事業部門と一体化したビジネスの構造を作り上げることにより、より多くの収益源を造り、一方 でコスト削減を図って全体の効率化を実現する、というのが現在の越後屋の方針である。 

 

1 社あたりの出資額は案件によりまちまちだが、5 億円までの案件は、事業開発室長であるあな たの決裁で行えることになっている。この範囲内であれば、ほとんどすべての判断はあなたに任さ れており、形式上本社の審査部などの決裁を取るプロセスがあるにしても、これまでのケースでは、

あなたの判断がくつがえされたことはほとんどない。だからこそ、あなたの責任は非常に重いと言 える。 

 

3

④  交渉目的 

  あなたはシェフズ・デリの事業は日本国内でも非常に有望だと考えており、ぜひとも出資を実現 して提携関係を構築したいと考えている。できれば 50%以上出資して子会社とし、事業のコントロ ールを握ってしまいたいところである。もし 50%以上が無理でも、20%以上出資すると越後屋本体 の関連会社として連結決算(グループ全体の決算)に組み入れる必要が生じるので、少なくとも取 締役の派遣などを行い、越後屋グループの意向をある程度反映した経営を行ってもらう必要がある。 

 

  あなたは提携のメリットを最大限生かすことを考えると、出資させてもらうだけではなく、広範 囲な事業上の提携を実現したいと考えている。食材の仕入れや物流面をサポートするのはもちろん だが、できれば 1 年以内にフランチャイズ制を開始してもらい、事業開発室の中に設けたばかりの FC 推進課で全力を挙げてサポートしたいと考えている。フランチャイズにした方が成長のスピード が速く、一気に全国的な店舗展開が可能となるからである。もちろんシェフズ・デリ社の意向が第 一であり、またフランチャイズ展開をするとなっても、直営店が日本で成功するという確信が生ま れてからであると分かってはいる。 

 

  まずとにかく出資を実現し、協力関係の第一歩を踏み出すことが先決である。越後屋の総合力を 生かすことは、必ずシェフズ・デリにとってもプラスになるはずで、その点はあなたは自信たっぷ りである。もし他の提携候補者が居た場合、お互いに協力できるのであればもちろん協力して共同 出資しても構わないが、敵対するようであれば何としても排除し、越後屋主導で出資を進めたいと ころである。 

 

⑤  交渉相手 

  シェフズ・デリ・ジャパンの代表取締役、黒岩氏である。他にアメリカ本社の役員クラスが同席 すると聞いているが、詳細は分かっていない。 

 

⑥  その他 

  今日の午後のアポイントには、どうやらもう 1 社の提携会社候補が同席するらしいとの情報が入 った。ダイコクヤという高級スーパーで、越後屋とはこれまでほとんど取引の実績がないため、急 遽取り寄せた会社概要の資料しか入手できていない。どのような思惑で、交渉に臨んでくるか全く 検討もつかないため、できれば事前に先方の考えを知りたいところである。あなたは事業開発室 FC 課主任、田沢(たざわ)とともに、シェフズ・デリとの交渉に向けてどのような条件を提示するか、

さらにダイコクヤの情報をできる限り入手して、事前に対応策を練っておくことにした。 

 

【課題】:出資候補企業との会合に向け、交渉の戦略を作り上げること。 

 

当ケースは、「ビジネス交渉人材」の育成を目的として独自に開発されたものです。ケース中に登場するいかなる固有名詞(企業・

団体・組織・個人名等)も架空であり、現実に存在する企業・団体・組織・個人名と一切関連はありません。ケース中に登場する 状況、名称等と現実とのいかなる類似も、意図的なものではありません。またケース中に登場するいかなる状況設定も、特定の企 業・団体・組織・個人の活動を支援・推薦・助長あるいは非難・批判・攻撃する意図を持っていません。あくまでも架空の設定に 基づき、受講者が交渉のスキルを学ぶことを目的として設計されたケースです。 

ドキュメント内 橡04_ケース扉絵 (ページ 84-88)