ビジネス交渉人材育成プログラム
ケーススタディー Ⅳ
出資交渉
「シェフズ・デリ・ジャパン」
参加者用ケース情報
ダイコクヤ取締役副社長「海野(うみの)」用
《秘密資料》
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① あなた(海野)の立場
あなたは首都圏を中心に高級食品スーパーを展開しているダイコクヤの取締役副社長、海野(う みの)44 歳である。あなたはダイコクヤの創業者である故海野新之助の孫にあたり、現在の社長で ある海野太郎の子供で後継者である。あなたは現在、社長をサポートしながら主に新規出店と新規 事業開発の責任者として駅ビルや大型商業施設への出店など、父親までの代では手がけたことのな かった店舗展開を進めている。あなたは早晩やってくる社長就任の日に向けて、着実に実績を上げ、
基盤をより磐石なものにしたいと寝食を忘れて仕事に打ち込む毎日である。
あなたは今よりさらにダイコクヤを成長させるために、新しいビジネスの種を常に探している。
もちろん全く異業種の分野に進出するつもりはないが、食品を基軸とし、自社のノウハウや顧客基 盤を活かせるビジネスであればどんどん積極的に投資していきたいと考えている。社長からも、本 業を危うくするような事業でさえなければ、周辺領域への進出はどんどん積極的に展開して構わな い、と全面的に任せてもらっており、予算も人材もある程度豊富に使える環境にある。
あなたは現在、事業開発の有力候補として最近業界誌で読んだアメリカの HMR(ホームミール・
リプレースメント)企業、シェフズ・デリ社に非常に興味を持っている。斬新なコンセプトで全米 を席捲したというシェフズ・デリの戦略は、ダイコクヤの戦略と似ている面がたくさんあり、会社 の理念や価値観にも共通する点が多々あるようである。あなたは早速渡米してシェフズ・デリ社に アプローチし、社長のバルドゥッチ氏にこそ会えなかったが、上級副社長のロイ・ブラッドリー氏 と面識を得ることができた。短い時間ではあったが、ロイは近い将来日本に進出する際の有力パー トナー候補としてダイコクヤを考慮してくれることを約束してくれた。
あなたは単なる惣菜店を越えたシェフズ・デリのコンセプトは、日本でも大成功する可能性を秘 めており、ぜひともダイコクヤの新事業としてパートナーシップを組みたいと考えている。いよい よシェフズ・デリ日本法人が設立されたとの記事を読み、早速あなたは出資を含んだ業務提携を申 し入れようと考えている。
② あなたのバックグラウンド(職歴)
あなたは大学を卒業後、大手食品メーカーに 3 年間勤務した後、レストランやホテルの経営学で 名高いアメリカのコーネル大学大学院に留学した。あなたはそこでアメリカ流の合理的なサービス 業のあり方を学び、家業であるスーパーマーケット・ダイコクヤにもサービス業の要素を取り入れ ることが今後重要になるとの確信をもったのである。
帰国後ダイコクヤに入社したあなたは、生鮮三品(精肉、鮮魚、青果)の各部門を一通り経験し たのち、バイヤーとしての経験を積んだ。バイヤーとしてヨーロッパやオーストラリアの農家やワ イン醸造家めぐりをするうちに、世界中の豊かな食品を日本の消費者に届けるというダイコクヤの ビジネスは、本当に素晴らしく価値のある仕事だと確信を深めた。素晴らしい商品を仕入れ、店頭 で最高のサービスを持ってお客様に接すればどのような環境でも成功できると、あなたは自信を持 っている。
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あなたは副社長となった 4 年前から新規事業開発、新店舗開発の責任者に任じられた。立地や環 境に合わせたサービスと品揃えを実行すれば必ず成功する、とのあなたの確信は、出店した 6 店舗 すべてが 1 年以内に黒字化するというめざましい成功によって裏打ちされることとなった。
③ 現在の会社の状況
全国出店が順調に進み、会社は業績好調である。大手スーパーが軒並み業績を降下させ、営業利 益率が業界平均と言われていた2%どころか1%を切るような企業が続出する中、ダイコクヤだけ は営業利益率4%台を誇っている。高付加価値型の食品に特化した結果、より高品質で安全な食品 を求める消費者は、低価格路線の他店に流れることもなく、むしろ平均来店客数は一貫して上昇し ている。
しかしながら、全国の高額所得者数には限りがあり、高級住宅街や高客単価が狙える商業施設の 数にも限りがある。ダイコクヤの成功を見て高級路線の競合スーパーも増加しつつあり、将来は決 して安泰ではない。成長を維持しようとすれば、いずれ必ず低価格路線のスーパーと競合すること は目に見えており、キャッシュフローも潤沢で、新しい事業に投資する余力が充分ある今のうちか ら事業開発を進める必要性があるとあなたは考えている。地方のスーパーなどからフランチャイズ になりたいとの申し入れがあったりするが、会社の理念や価値観を共有した人材が経営する直営店 でない限りビジネスはうまくいかないとあなたは信じており、フランチャイズによる事業拡大は選 択肢に入っていない。
新しい事業の例では、高額所得者層を狙った食品のカタログ通信販売ビジネスがある。まだ単体 では黒字化していないが、順調に会員数は増えており、いまや全国で 12 万人の会員数を誇ってい る。会員の平均所得は 1,100 万円と、今後のビジネス展開が色々と考えられる会員層だと業界でも 注目されており、更なる新ビジネスとの接続を検討しているところである。
④ 交渉目的
あなたはダイコクヤの新規事業としてデリは有望だと考えており、なんとしてもシェフズ・デリ 社とパートナーシップを組みたいと考えている。自社店舗にも惣菜部門があるが、残った食材を処 理するといった程度の意味合いが強く、売上的にもそれほど大きなウエイトを占めていない。もし シェフズ・デリ社が競合他社と組むようなことになれば、客層が重なるだけに、近い将来大きなダ メージを被る可能性がある。とにかく第一の交渉目的は、何らかの形で提携を結び、敵対関係にあ る企業と組ませないこと、である。
単に業務提携するだけでも、ブランドイメージ面や集客、仕入れコスト削減など様々な面でメリ ットは数多く考えられる。仕入れや物流を共同で行うことで更なる効率化が図れるし、規模の経済
(大量に仕入れることでコストを安くするなど、規模が大きくなることで経済効率が上昇するこ と)を働かせて仕入れ価格を低くすることもできる可能性がある。当然ダイコクヤからデリへの食 材供給を行うこともできるだろう。願わくば、ダイコクヤの店舗内への出店あるいは隣接地への出 店を実現し、相乗効果を狙いたいところである。自社の戦略と合致した形で店舗展開してもらうた めに、ぜひとも出資を実現して、影響力を行使したいと考えている。出資の上限としては 5 億円程
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度を考えており、株式発行総数にもよるができれば過半数のシェア(持分比率)を持って実質的に 経営権を握りたいと考えている。
同時に、ダイコクヤから出向という形で人材を送り込み、実際の運営面でも影響力を行使したい と考えている。高級住宅街における店舗開発のノウハウは日本一と自負しており、店舗開発スタッ フを送り込むことはシェフズ・デリ社にとってもメリットがあると思われる。また投資を行う以上、
財務・経理面の人材を派遣し、キャッシュフロー管理を行わせて適切に資金を活用するよう監督す ることも必要と考えている。出資が実現したら、シェフズ・デリの業績はグループ全体の業績に影 響を与えるので、金だけ出して口を挟まない、というわけにはいかないと考えている。
⑤ 交渉相手
新しく設立された日本法人の社長と聞いている。どのような人物かは全く情報がない。以前面識 のある上級副社長のロイも交渉の場には来るとのことなので、比較的話しやすい環境だと考えられ る。
⑥ その他
今回の交渉には、社長の番頭的な存在でときどき「目の上のたんこぶ」になる常務の山城が同席 することになっている。社長は任せてくれているはずだが、常務の意見は無視するわけにはいかな い。どちらかというと常務は保守的な人間で、これまでのあなたの新規事業に関し、必ずしも肯定 的だったわけではない。いわば煙ったい存在だが、さすがに業界で長く生き延びてきた人間だけあ って、発言には説得力も重みもあり、あなたも一目置いている。山城常務の意見も参考にしながら、
交渉をうまくまとめたいと思うあなたである。
さて、いよいよ今日の午後、シェフズ・デリ・ジャパン社との交渉が始まる。今日の午前になっ て、突然「もう 1 社パートナー企業の候補が現れたので、場合によっては 2 社と交渉することにな る」とシェフズ・デリ社から通告があった。どうやらもう 1 社は、有名総合商社の越後屋商事らし い。なるべく短期間で話をまとめ、他社に付け入る隙を与えないようにしたいとあなたは思ってい たが、やはりめざとい商社は話をかぎつけて食い込もうとしてきた。越後屋とは全く取引がないの で今のところ利害関係は無いが、先方の出方次第では競合のバックアップに回る可能性もあり、慎 重に対処する必要がある。まずは常務と相談して交渉の戦略を練っておく必要がある。
【課題】:出資候補企業との会合に向け、交渉の戦略を作り上げること。
当ケースは、「ビジネス交渉人材」の育成を目的として独自に開発されたものです。ケース中に登場するいかなる固有名詞(企業・
団体・組織・個人名等)も架空であり、現実に存在する企業・団体・組織・個人名と一切関連はありません。ケース中に登場する 状況、名称等と現実とのいかなる類似も、意図的なものではありません。またケース中に登場するいかなる状況設定も、特定の企 業・団体・組織・個人の活動を支援・推薦・助長あるいは非難・批判・攻撃する意図を持っていません。あくまでも架空の設定に 基づき、受講者が交渉のスキルを学ぶことを目的として設計されたケースです。