橡04_ケース扉絵

【ケース】

  ケ ー ス は 、 全 ４ 種 類 （ 下 記 １ ∼ ４ ま で ） で 、 以 下 の よ う に 各 ケ ー ス と も 複 数

の 役 割 に 分 か れ て い る 。

  プ ロ グ ラ ム 実 施 の 際 は 、 以 下 の 表 を 参 照 し て 、 役 割 毎 に 該 当 の 資 料 の み を 配

布 す る 。

注 ） 自 分 の 役 割 以 外 の ケ ー ス を 読 む と 学 習 効 果 が 得 ら れ な い た め 、 同 じ 職 場 な

ど で 事 前 課 題 と し て 配 布 す る 場 合 は 、 他 の 役 割 の 人 と ケ ー ス を 見 せ 合 わ な い よ

う 注 意 す る こ と 。

  ま た 、 ケ ー ス ２ と ４ に は “ 情 報 資 料 ” が 付 属 さ れ て い る が 、 こ れ は 役 割 に 関

係 な く 全 員 に 配 布 す る 。

  ※ ケ ー ス 本 文 は 、 次 頁 以 降 に 添 付

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ビジネス交渉人材育成プログラム

ケーススタディー Ⅰ

「モスキート」

参加者用ケース情報

営業会社『日本創芸株式会社』

営業課長：「山岸（やまぎし）」用

《秘密資料》

1 あなたは、アウトドア用品の製造・販売（キャンプ用品等の製造販売および輸入販売）を事業と する『日本創芸株式会社』の営業課長（山岸）です。 あなたは大学を卒業してこの会社へ入社して以来、営業職ひと筋で歩んできて、今年の４月には 勤続満 10 年を迎えました。素晴らしい上司や先輩に恵まれたおかげもあって、高い営業成績を上 げ続けてきたことが評価され、2 年前、同期の中で一番先に課長へ昇進しました。 日本創芸の場合は、課長といってもメンバーの育成・指導をするかたわら、自分自身も目標を持 って営業活動を行っています。あなた以外の多くの課長たちは“できれば、営業第一線からは退い て部下の育成・指導に専念したい”という意見ですが、あなた自身は全く意見が異なり、“たくさ んのお客様に接することで刺激を受けられるし、自社製品を単に売りつけるのではなく相手の立場 になって考えて提案し、相手にも感謝されつつ自社の利益を上げる努力の過程こそが営業の醍醐味。 直接お客様と会って話ができる営業第一線が一番面白い”と考えています。あなたは、根っから営 業が好きで積極的にお客様のところへ足を運び、充実した日々を過ごしています。 この４月、あなたは久々に異動の人事発令を受け、慣れ親しんだメンバーと別れて新設された部 署へ異動してきました。あなたは４月に発売が開始される新製品｢モスキート・キャッチャー｣の営 業責任者として抜擢されたのです。｢モスキート・キャッチャー｣は、今後、飛躍的に売上拡大が見 込めそうで全社の期待がかかっている有望な商品です。あなたは、会社の成長に大きく影響する重 要な製品の営業責任者に選ばれたことを誇りに思い“よし、自分の力を見せてやろう！”と、やる 気満々で異動してきました。 ｢モスキート・キャッチャー｣とは、蚊を撲滅するための機械で、メス蚊が好む特殊な臭いを発生 させておびき寄せ、機械に吸い込んで殺すという仕組みです。メスの蚊を捕獲してどんどん数を減 少させていくことで新たな蚊の発生を抑え、早ければ２∼３ヶ月経過時点で蚊がほとんど根こそぎ 退治されるという画期的な商品で、シーズン中稼動し続けることによって、蚊の被害に遭うことは ほとんど無くなるというものです。特殊な臭いは人体には全く害はなく、臭いも感じないという優 れた商品です。 もともとこの商品は、一昨年、商品開発部の部長が米国で開催されたアウトドア製品の大規模な フェアへ参加した際に見つけてきました。『このような製品は日本でいまだ発売されていないが、 絶対にニーズはあるはずだ。日本で発売するとしたら、アウトドア用品を扱っているうちの会社し か有り得ない』と思ったそうです。さっそく、その米国企業と業務提携を結んで、日本向けに多少 仕様を変えて開発し直し、製品化されました。 米国の製品は、数年前に死者も出した西ナイル熱（インフルエンザに似た症状の病気）の原因と される蚊を退治するために多くの場所で使用されています。リゾートホテルや公園、病院、広い庭 を持つ一般の家庭などでも多く利用されており、各方面から高い評価を得ています。日本創芸の経 営陣は、モスキート・キャッチャーは年々アウトドア志向が高まっている日本においても大きな市 場が見込める、と判断しています。

2 あなたは４月に着任した際、営業本部長から販売戦略について指示を受けました。｢日本で売る のは初めての製品だけに、売り方を間違ってしまうとあとで困る。例えば最初から値引きばかりし ていては値引き価格が当たり前になってしまい、自滅してしまうぞ。何処へどうやって販売してい くのが良いか、充分戦略を練って動いて欲しい。ここ３ヶ月間は売上目標をあくまでも目安として 考えてくれて良い。売れると分かれば、今後営業マンを増員していく予定だから、どんな営業方法 で売っていくのが一番効率良く販売できるか試してみる、という視点をもって色々とやってみても らいたい。具体的な戦略は、優秀な君の判断に委ねるが、忘れてならないのは短期利益も大事だけ れど、それ以上に中長期の利益を考えることだぞ｣と、言われました。そうは言われても、１０年 も営業を担当してきた意地もあって、数字目標も外せないと思うあなたでした。 新任部署での営業は、前部署への引継ぎもあって４月第２週からやっとスタートしました。約一 ヶ月が経過しましたが、これまで受注できたのは、たったの１０台。５月末日までに何とか目標の １５台は達成したいところですが、あと５台がなかなか上手く決まりません。１０台の受注は、以 前から取引のあるキャンプ場等のお得意様や関東圏のゴルフ場、屋外プール、広い墓地を持つお寺、 沖縄のリゾートホテルといった施設からのものでした。 営業状況はなかなか厳しいですが、あなたとしては直接会って話をじっくり聞いてもらえさえす れば、パンフレット等を利用して製品の実績を説明でき、受注につながる確率が高まると考えてい ます。部下には、『とにかくニーズがありそうなところに当たりをつけ、電話して打合せのアポイ ントを取るよう、まずは数をあたっていこう。本当にこの製品が欲しいと思ってくれる人の耳には、 まだまだ情報が届いていないはずだから・・・』と指示しながらも、この延長線上で本当に受注件 数を伸ばせるのか、あなたはだんだん不安になってきました。 何か効率良い営業の方法はないだろうかと考えていたところに、庶務係から｢山岸課長、カフェ の店長から、モスキート・キャッチャーの問合せが入っています｣と呼ばれ、電話を替わりました。 電話の相手は、関東圏の有名なリゾート地にこの４月オープンしたカフェ＆レストラン『樹庵（じ ゅあん）』の店長笠川さんと名乗る方で、カフェの敷地に蚊が多くて困っているので製品に関して 色々と教えて欲しいということでした。話によると、｢樹庵｣は森林に面して建つ広いウッドデッキ テラスが自慢のようで、５月に入ってから蚊が相当目立つようになってきたとのこと。笠川さん自 身も刺され、これまでにないほど赤く腫れあがったと蚊の威力に驚いているようでした。よく聞い てみると、どうやらカフェのすぐ近くに沼があるらしいので、そこが蚊の発生源になっているのだ ろうと思います。 笠川さんから、モスキート・キャッチャーの効果について聞かれたので、購入してくれたお客様 のところでは、１ヶ月程度の期間でも効果が出ていて蚊がたくさんキャッチされていることと、製 品開発段階における大分県での実験結果の話をしました。蚊の発生源である沼が近くにある広い牧 草地に設置した実験では、１０万匹近い大量の蚊が捕獲され、３ヶ月経過時点で半径３００ｍの牧 草地一帯に蚊がいなくなった話をすると、笠川さんは驚いたようでした。しかし値段を聞かれたの で本体価格が７０万円、蚊の好きな特殊な臭いを出すための消耗品やメンテナンス費用として毎年 3 月から 9 月までの間だけ月に約２万円程度かかると話すと、笠川さんは電話の向こうで一瞬沈黙

3 してしまいました。笠川さんは『社長に相談したいので、また電話します』とだけ言い、そのまま 電話を切ってしまわれました。 あなたは、笠川さんから電話番号と名前を聞けたので、数日後にこちらから電話してみようと手 帳にメモしました。その後、もしかすると情報が取れるかもしれないという程度であまり期待せず に、インターネットで｢カフェ 樹庵｣と検索してみました。すると、なかなかお洒落なホームペー ジが画面に現れました。先ほど電話してきた店長の笠川さんという方も写真入りで載っていました。 笠川さんのコメントによれば、前職は広告代理店にいたらしく、樹庵のホームページは笠川さん自 身が作ったと書いてありました。 『樹庵』のあるリゾート地といえば、別荘やペンションも多く、最 近ではログハウスがブームに なっており、週末はかなり賑わう一帯になっているようです。周りには美術館や雑貨店も多くあっ て、女性グループが集まる場所なので、『樹庵』のような癒し系のカフェ＆レストランは人気が出 るのだろうと思います。きっと、お客様の顔ぶれは、別荘族や貸別荘を利用して遊びに来るファミ リー、それにペンションを訪れる若いグループなども少なくないだろうな、と考えを巡らせてみま した。 ホームページの情報によれば、『樹庵』には、森林に面したテラスがあり５０席置ける広さを誇 っているそうです。近くに沼がある自然いっぱいのロケーションだったことが、その場所に店を構 える決め手になったとコメントされていますが『あー、これが蚊の発生源になっているのに・・・』 と、ため息交じりで呟くあなたでした。 メニューには、季節の食材を活かした食事、手作りデザートなど、どれも美味しそうな写真が掲 載されています。アルコール類も豊富にあり、テラスでゆっくりくつろいでもらって、飲んだり食 べたりしてもらう癒しの場をコンセプトにしているようでした。 『こんなお洒落なところに、蚊は似合わない。ゆっくり食べていられないし』あなたは考えまし た。もし、蚊を嫌がるお客様が多くて売上ダウンを招いてしまうならば、取り返しがつかないこと になるはずです。笠川さんはどうしても『モスキート・キャッチャー』を欲しいと思っているので はないか、これは期待できるかもしれない、と思ってあなたは明るい気持ちになりました。 モスキート・キャッチャーは、定価７０万円ですが、今後会社の看板商品の一つとしていきたい ため、極端に値崩れを起こさないよう、あまり値引き販売は好ましくないと言われています。あな たとしては、せいぜい２割(１４万円)程度の値引きで抑えておきたいところです。この製品は、継 続して設置稼動してもらうことで効果が出るため、期間を区切ったレンタル制は行っていません。 一方、この商品は一度購入してもらえると、月々の消耗品やメンテナンス費が２万円ずつ半年間 とはいえ定期的に収入として入ることが、会社としては大きな魅力になっています。１台売れば、 一時的な売上とは別に、確実に毎年１２万円の売上が上がることになります。開発にコストはかか っていますが、他の売り切り型の商品と比べると中長期的な利益も見込める、非常に利益率の高い

4 商品です。 笠川さんは、蚊に相当困っていると言っていたので、きっと本気で購入を考えているに違いなく、 受注の可能性はかなり高い気がしていますが、あまり予算が取れないとも話していたので、いくら 値引きできるかと必ず言ってくるでしょう。あなたとしては、あまり値引きには応じたくはありま せんが、なんとかして是非導入してもらいたいと考えています。 他の営業アポイントが入らず、目標達成に向けて焦っているあなたは、『樹庵』へ直接営業に行 こうと思い、2 日後、笠川さんに電話しました。「本格的な蚊の発生シーズンの夏を迎える前に、蚊 を撲滅するためには、すぐにでも機械を置かなければ効果は期待できないだろうと思います。そち らのすぐ近くまで出向く予定がありますので、是非一度、直接話しをさせてもらえませんか？」。 笠川さんは、「分かりました、ではお待ちしています」とのことで打合せのアポイントを頂くこと ができました。 いよいよ今日の午後、『樹庵』の笠川店長を訪ねます。あなたは、モスキート・キャッチャーを 巡る交渉が上手く運ぶよう、どのように話を持っていくか、再度考えることにしました。 当ケースは、「ビジネス交渉人材」の育成を目的として独自に開発されたものです。ケース中に登場するいかなる固有名詞（企業・団体・組 織・個人名等）も架空であり、現実に存在する企業・団体・組織・個人名と一切関連はありません。ケース中に登場する状況、名称等と現実 とのいかなる類似も、意図的なものではありません。またケース中に登場するいかなる状況設定も、特定の企業・団体・組織・個人の活動 を支援・推薦・助長あるいは非難・批判・攻撃する意図を持っていません。あくまでも架空の設定に基づき、受講者が交渉のスキルを学ぶこ とを目的として設計されたケースです。

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ビジネス交渉人材育成プログラム

ケーススタディー Ⅰ

「モスキート」

参加者用ケース情報

カフェ＆レストラン『樹庵（じゅあん）』

店長：「笠川（かさがわ）」用

《秘密資料》

1 あなたは、関東圏の人気リゾート地に今春オープンしたカフェ＆レストラン『樹庵（じゅあん）』 の店長(笠川)です。あなたは大学を卒業後、広告代理店に 3 年半勤務後、今の会社へ転職しました。 もともと大学時代に老舗のフレンチレストランで 3 年間、ホールスタッフのアルバイトをしていた あなたは、この道 30 年といった接客のプロ達から様々なことを学ぶうちに、この業界に興味を持 ちました。そして、“いつか自分で小さな店を持ちたい”という漠然とした夢を温めてきました。 そんなあなたは、広告制作の仕事にマンネリ感を覚えていた 4 年前の夏、たまたま手に取った転 職雑誌で、今の社長が『関東圏で多店舗展開していくにあたり、未経験でも本気で頑張れる人を積 極的に採用して育てていきたい』と熱く語っているのを目にし、“これは願ってもないチャンス！ 自分の夢を切り拓けるかもしれない”となかば強引におしかけ入社し、今に至っています。 入社から丸 2 年は、都内のレストランに配属され、毎日ヘトヘトになる程、フロア業務に明け暮 れました。その下積み期間に学んだことは多く、“料理の味と良質のサービス”が揃っていないと お客様はすぐに離れてしまうという最も大切な基本を叩き込まれました。その後は、店舗オペレー ションやマネジメント、業績管理等、実践を通じて店舗責任者に必要なノウハウを学びました。 そして昨年、街にクリスマスソングが流れ始めた頃、ついに夢が叶うことになりました。社長か ら｢来年４月にリゾート地に新しい店をオープンする。そこを笠川君に任せたい｣と内示を受けまし た。“夢がこんなに早く現実のものになるなんて･･･”と、あなたは正直心の準備ができていなかっ たためビックリしましたが、これまでの地道な努力が実ったと思うと嬉しくて、何としても店を成 功させてやる！という意欲が湧いてきました。メインシェフには、気心の知れた腕の良いシェフを 投入してくれることが決まり、あなたは｢美味しい料理やデザートを提供できるのは間違いない。 あとはサービスを徹底すれば人気の店を作れるだろう！｣と確信しました。こうして、少しの不安 と大きな希望を胸に、この４月に夢の第一歩がスタートしました。 『樹庵』は、森林に面した土地に建てられ、すぐそばの木立ギリギリまで張り出しているウッド デッキのテラスが自慢です。大きなパラソル８台と５０席の椅子を並べても余裕のある広さで、森 林浴をしながらゆったりくつろげる癒し系のカフェ＆レストランというコンセプトを打ち出して います。 季節の食材を使った美味しい食事や手作りデザート、それにアルコール類を含むドリンクメニュ ーも豊富に揃えてあり、ランチ・カフェ・ディナーそれぞれ充実したメニューが楽しめます。 デッキの隅にはレンガで造ったバーベキューコンロがあり、予約すればバーベキューメニューも楽 しめることで子供連れにも好評です。また夜には、星を見ながらお酒が飲める開放的なバーとして、 この辺りで一番お洒落なスポットと評判になりつつあります。 ４月のオープンから早くもひと月半が経過しましたが、スタッフ全員で力を合わせた甲斐があっ て、予想以上に良いスタートを切り、順調に客数・売上が右肩上がりで推移しています。幸運なこ とにゴールデンウィークがお天気に恵まれたこともあり、あなた自作の『樹庵』ホームページを見 て来たと言って、わざわざ東京から足を延ばし伸ばしてくれたお客様もいました。

2 そもそも、社長がこの土地に店を出すことに決めたのは、雄大な山の麓に別荘やペンションが点 在する国内有数のリゾート地であることや、近くに美術館やオルゴール館、小さな雑貨店がここ数 年で数多く出店され人気が出始めていることに目をつけたからです。社長の予想どおり、お客様は 別荘族のほか、貸別荘やペンションを訪れるファミリーや若いグループも少なくありません。 平日には、地元の雑貨店オーナーや家族連れもたびたび足を運んでくれるようになってきました。 特に最近は、広大な土地が区画整備され、安く分譲に出されたことによって、東京の共働き夫婦 やシニア世代が土地を安く買ってログハウスを建てるといったケースが増え、休日をゆっくり高原 で過ごすライフスタイルがひそかにブームになっています。週末には、そういう人たちが散歩がて ら来店し、愛犬とともにデッキテラスでくつろぎながら食事を楽しむ光景も増えてきました。 これから夏を迎えるにあたって、あなたは店の PR 活動にもっと力を入れていきたいと思い、前 職のツテを辿り、何社かに OL 向け雑誌の記事に取りあげてもらえないかと打診しました。すると、 数社から前向きな反応があり、まず７月初旬発行の雑誌の特集『日帰りドライブで行ける癒し系の カフェ』に掲載する方向で話が進むことになり、今月末、編集者と打合せを持つことにしました。 しかし、何もかも順調に進んでいた矢先に、あなたを悩ませる大きな問題が発生しました。それ は、小さな大敵・モスキート（やぶ蚊）でした。オープン直後に地元のお客様何人かに言われた｢こ の辺りは、夏になると蚊が多くて大変なのよね｣という言葉が気になってはいたのですが、その時 は“蚊なんて、アウトドアカフェには当たり前”と思い、大して気にも留めなかったのです。 ところが、この問題はあなたにとって最大の頭痛の種となってしまったのです。 ５月半ばの朝礼で、スタッフの一人から｢テラスに蚊がいるので屋外用の強力な蚊取り線香と防 虫スプレーを買って欲しい｣と話がありました。別のスタッフからも｢じつは私もあちこち刺されて、 こんなに腫れ上がっちゃいました。中途半端な痒さじゃないですよ｣と、困った表情で真っ赤に腫 れた腕や足を見せられました。聞くと、どうやらそのスタッフは、蚊に刺されると異常に反応する “重症蚊刺過敏症”というアレルギー体質で、刺された翌日は風邪のように高熱を出し、刺された 痕が一年以上残ってしまうというのです。病名を初めて耳にしたあなたですが、最近そのようなア レルギーを持つ子供や女性も少なくないと聞き、早速ネットで調べてみると、意外にも同じ悩みを 抱える人が数多くいることがわかりました。小さな蚊がこんな事態を巻き起こすなどと、思っても みなかったあなたでした。 その週末、昨日までの雨は何処かへ行き、すっきりとした青空が広がりました。｢今日は、都内 からのお客様も増えて忙しくなるはず。頑張ろう！｣と、スタッフ全員に声をかけ、あなたはテラ スで開店準備に取り掛かりました。すると、耳元にブーンという嫌な音が聞こえ、慌てて手で振り 払って見ると、大きな蚊が血を吸って重くなった身体でフラフラと飛んでいるのが目に入りました。 “やられた”と思った時はもう遅く、首の後ろを刺され堪えきれない強烈な痒さがあなたを襲いま した。みるみる刺された箇所は、赤く腫れ上がってしまいました。 あなたは、実際に自分が蚊に刺されてみて初めて事の重大さに気づきました。地元の人たちが言

3 っていた｢この辺の蚊は強力だから・・・｣という言葉が痛いほど身にしみた出来事でした。 『これは早急に何とか対処しないと、店の集客に大きく影響してしまう。特に若い女性や子連れ のファミリーは嫌がってお店に長居してくれないだろうし、この蚊に刺されたら絶体絶命のピンチ、 そのお客様は二度と来てくれない。それに、この辺の別荘族の情報網といったらびっくりするほど で、インターネットなんかよりよっぽど早く口コミで情報が伝わるんだった・・・・。もし、誰か が｢あの店に行ったら、蚊に刺されてこんなにひどい目にあったわ｣なんて言おうものなら・・・。 憎きモスキートを撲滅しなければ・・・』 あなたは、さっそく屋外用の蚊取り線香、虫除けスプレー、かゆみ止めの塗り薬を準備しました。 しかし、この辺りの強力な蚊に対してそんな物は気休めに過ぎず、おかまいなしにどんどん蚊がカ フェにやってきます。しかも、やってくる蚊の数がどんどん増えているような気がします。つい先 日、素足にサンダルを履いたお洒落な若い女性客が、足を蚊に刺されたとひどく痒がって、｢もう 嫌だわ、この店。蚊が沢山いるから二度と来たくないわ｣と、ボーイフレンドに小声で言っている のが聞こえました。その直後には、2 匹の大きな犬を連れたグループの一人が足を刺されたようで、 蚊取り線香を足元に置いて欲しいとスタッフに要求してきました。見ると、体温が高い犬の周りに は蚊が沢山集まっていました。ペットを連れて来店できることが店のポイントの一つである以上、 “犬は離れた場所へ繋いでください”などと言える訳がありませんし、このままでは犬連れのお客 様が来なくなってしまうかもしれません。考えれば考えるほど、蚊が原因で致命的な売上ダウンを 招くかもしれないとあなたは不安になりました。 蚊ごときに時間を使うのは勿体ないと思いつつ、あなたは強敵を退治するための方法をインター ネットで検索してみました。すると、ある会社で開発されたという｢モスキート・キャッチャー｣と いう商品の情報がヒットしました。既にアメリカに似たような機械があり、死者を多く出した西ナ イル熱（インフルエンザに似た症状の病気）の原因とされる蚊を退治するためにも使用されている 高い実績がある製品らしく、米国企業と提携した日本の会社が開発し、販売し始めたようです。 さっそく、その会社『日本創芸㈱』に電話してみると、山岸さんという方から色々と聞くことが できました。｢モスキート・キャッチャー｣は、この４月に営業を開始したばかりだそうで、いまだ 導入実績は少ないけれど、確実に効果が出ていることを教えてくれました。山岸さんによれば、ど うやら樹庵の近くにある沼が発生源になっているかもしれないということでした。その製品の開発 段階では、九州の牧草地で、うちと同じく近くに沼がある場所で実験を行ったところ大量の蚊を捕 獲し、見事３ヶ月経過した時点で半径３００ｍの土地に蚊がいなくなったそうで、とにかく物凄い 威力の商品のようです。その不思議な機械の仕組みとは、メス蚊が好む独特の臭いを放出して蚊を おびき寄せては吸い込んで殺すらしく、メスの蚊をどんどん減らしていくことで蚊の発生を抑え、 早ければ２∼３ヶ月経過時点で発生源から根こそぎ退治が可能だというのです。この機械を継続し て使用すれば蚊の被害は殆どなくなること、人体への害は全くなく臭いも感じないという話を聞き ました。 あなたは、“それは素晴らしい。すぐにでも欲しい”と思ったものの、値段が 70 万円と聞いてち

4 ょっと驚いてしまいました。これは社長と相談しなければと思い、｢検討してから、またご連絡し ます｣と言って電話を切りました。日本創芸のホームページをもう一度読むと、やはり定価が７０ 万円。レンタルやリース制は無いようです。定価から若干の値下げに応じてくれるかもしれません が、売り出したばかりの商品ですし、あまり値下げができないものと思われます。本体価格以外に は、消耗品や機械のメンテナンスに毎月２万円程度かかる（3 月から 9 月の間）と書いてあります。 月々のメンテナンス費用の負担はまあ仕方ないとしても、効果が本当にあるかどうか分からない商 品を大枚はたいて買ってしまって大丈夫だろうか、とあなたは少し不安になりました。 あなたは、さっそく社長に連絡し、蚊のトラブル状況とモスキート・キャッチャーの話を伝える と、｢随分と面白い物を見つけたね。採算が取れて、店舗の資金繰りで工面できるのなら購入して もいいよ。購入するかどうかの最終決裁は、君の判断に任せるよ。本当に蚊を撲滅できれば、今後 同じような環境で店を出すときに導入を検討しても良いし、まぁ笠川君の店で買ってみるなら実験 材料として効果の記録を残しておいて欲しい｣と言われました。あなたの会社では、店ごとの独立 採算制を取っており、初期投資も本部からお金を借りて徐々に返済する、という形式を取っていま す。つまり店のスタート後は、基本的には店の売上だけで設備投資などを行う必要があり、それが できない店長は失格の烙印を押されてしまいかねません。 あなたは再度、蚊の対策を色々と調べてみましたが、やはり｢モスキート・キャッチャー｣に勝る ものは何一つありません。70 万円という金額は無理すれば払えない額ではありませんが、他の初期 投資の支払いがまだたくさん残っており、現在の売上状況からすると相当痛い出費です。会社の支 払いルールは請求月の翌月末払いとなっていますので、今月つまり 5 月中に導入しても、支払いは 6 月末ということになります。その間に売上を好転させることができれば、と少しは希望が見える 気もしますが本当に効果があるかどうかは、導入してみないと分かりません。何とかして蚊を退治 しないと売上の減少を招くのはおそらく間違いなく、下手をするとそもそも店の運営が困難な事態 に陥りかねません。しかし導入して効果がなく、支払いだけが残ると本当に経営の危機を迎える可 能性すらあります。 そんな折、タイミング良く日本創芸の山岸さんから電話があり、｢今年の夏に間に合わせるため には、すぐに設置して頂くのが良いと思います。あさって近くまで行きますので、もう少し詳しい お話しをさせて頂けませんでしょうか｣というので、来てもらって直接話すことにしました。 あなたは何とか大幅に値引きしてもらってモスキート・キャッチャーを早く設置したいと考えて いますが、先方があまり値引きしてくれない場合、導入するかどうかは非常に悩ましいところです。 今や蚊の問題は、あなたを悩ませる最大の問題になってしまいました。資金繰りも踏まえて、あな たは購入するかどうかの判断を下さなければなりません。あなたは山岸さんが今日の午後来店する 前に、もう一度自分なりに考えをまとめ、準備をしてみることにしました。 当ケースは、「ビジネス交渉人材」の育成を目的として独自に開発されたものです。ケース中に登場するいかなる固有名詞（企業・団体・組 織・個人名等）も架空であり、現実に存在する企業・団体・組織・個人名と一切関連はありません。ケース中に登場する状況、名称等と現実 とのいかなる類似も、意図的なものではありません。またケース中に登場するいかなる状況設定も、特定の企業・団体・組織・個人の活動 を支援・推薦・助長あるいは非難・批判・攻撃する意図を持っていません。あくまでも架空の設定に基づき、受講者が交渉のスキルを学ぶこ とを目的として設計されたケースです。

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ビジネス交渉人材育成プログラム

ケーススタディー Ⅱ

モール出店交渉

「トライベッカ」

参加者用ケース情報

ショッピングモール｢トライベッカ｣

テナント開発チームメンバー用

《秘密資料》

1 あなたは、東京郊外の私鉄沿線上にある新興住宅地・桜山ニュータウンに建つショッピングモー ル“トライベッカ”のテナント開発チームのメンバーです。あなたの主な仕事は、チームメンバー と協力し、“トライベッカ”全体の売上および集客への貢献を見込めるテナントを開拓し、スペー スが空いた時にすぐ代わりのテナントを補充し、モールの業績向上と集客力アップを行うことです。 “トライベッカ”は、大手不動産会社と桜山市が共同出資で作った第三セクター｢㈱桜山ニュー タウン開発センター｣が保有・運営するショッピングモールです。あなたは、出資元の不動産会社 から㈱桜山ニュータウン開発センターへの出向者で、他のメンバーも同じく不動産会社から、もし くは桜山市役所から出向で赴任してきた人たちでチームが構成されています。 桜山ニュータウンは、緑を多く残して区画整備され、春には山桜があちこちで美しく咲きます。 そして、車道や散歩道も広く整備されているのが特徴で、とても住みやすい環境です。また、首都 圏への通勤の便が良いことや、評判の良い小・中学校が比較的近くに点在していることでベッドタ ウンとして急激に拡大し、今もなお競うようにマンションや戸建住宅が建築されています。駅前に は、ハイセンスな大規模マンションが幾つか建ち、駅から少し歩く丘の上には閑静な戸建住宅街が 広がり、比較的洗練された庭付きの洋風戸建住宅が建ち並んでいます。二世帯で住める大きな住宅 も多く、カーポートに車を２台駐車している家も多く見られます。 もともと、この辺一帯のエリアは、丘陵地の森林を切り拓いて造ったため、周囲には古くからの 商店街や商業施設は殆どありません。そこで桜山市としては、｢地域経済の活性化｣を目的に商業施 設の誘致に積極的に力を入れてきており、その一環として二年前に大手不動産会社と共同で駅から 7 分の広い土地にショッピングモールの開発を行い、“トライベッカ”をオープンしました。 敷地内は、ニューヨークのトライベッカ地区をイメージし、19 世紀に建てられた古い倉庫のよう な趣のある建物群が建っています。倉庫をイメージした高い天井の建物、街路をイメージした広い 通路、半屋外型の造りは開放感にあふれています。これは、ハイセンスな街づくりを意識して、本 場ニューヨークの“トライベッカ”を散歩しているような錯覚でモール内を歩けるよう、異国情緒 のあふれる街路を演出したものです。敷地の中央には芝生と花畑の公園スペースがあります。天気 が良い日には、フードコートからテイクアウトして外でも食事を楽しむことができるのが魅力です。 桜山市が“トライベッカ”を作った背景には、｢地域経済の活性化｣と｢ハイセンスなイメージの 街づくり｣、そしてもう一つには｢地域コミュニティへの貢献｣という大きな目的があります。その ため、“トライベッカ”は、顧客層をなるべく特定せずに、老若男女を問わず住民に広く楽しんで もらえる場所にしたいと考えています。そのためショッピング自体を楽しんでもらえる店づくりを 大前提にしながらも、各店舗ごとに工夫を凝らした催し物やイベント等も積極的に行ってもらい、 住民が散歩気分で気軽に遊びに来て楽しめる場所にしてもらうよう、各店舗にお願いしています。 店舗数は 30 強あり、ショッピングモールとしては中規模なもので、国内外のブランドの洋服、 カバン、靴、化粧品、スポーツメーカー等、ハイセンスな店が入っています。若い女性に人気のあ るファッションブランドを多数そろえている他、アウトドア用品や最近流行の生活雑貨・インテリ

2 アショップなどの誘致にも成功し、オープン当初は沿線一帯で話題を呼びました。都心からも足を 運びやすい立地であることも手伝って、地元住民だけでなく、わざわざこのモールを目当てに近郊 からも車で訪れるお客様も多数いて、一昨年秋のオープンから三ヶ月間の集客は 100 万人を突破す るなど、順調なすべりだしを見せました。 しかしながら開業丸 2 年を迎え、沿 線に新たなショッピングモールが続々とオープンし、その影 響からか来客が徐々に減ってきています。同じ沿線の 2 駅都心寄りの場所に大型のショッピングモ ール“多摩ガーデンモール”が出来たことは、相当なインパクトがあったようです。また折からの 消費不況も重なって今年度の集客は前年を相当下回ることが明らかになりつつあり、当初見込んだ 売上計画の達成はもはや難しくなっています。 少しずつテナントの入れ替わりも出始め、1 年目はゼロだったテナント撤退が、今年は既に 4 件 発生しています。あなたの属するテナント開発チームは、こうした低落傾向に歯止めをかけ、魅力 的なテナントを開拓してモール全体の集客力を高めるため、この 10 月に発足したばかりの新しい チームです。メンバーは全員テナント開発の経験もなく、それぞれ他の部署から異動してきた人た ちばかりですが、重要な使命を帯び、やる気に燃えています。 そんなある日のこと、またもやテナント撤退の話が飛び込んで来ました。アメリカの女性向けフ ァッションブランド“リチャード・アンダーソン・ニューヨーク”が、日本から全面撤退すること になったとのことで、“トライベッカ”からも撤退すると通告してきました。リチャード・アンダ ーソンは、超人気ブランドというほどではありませんが、そこそこの認知度と集客力がありました。 “トライベッカ”のほぼ中央にある店舗スペース（約 180 ㎡）に位置しているので、店を空きスペ ースのままにしておくのはイメージ上よくありません。退去のあとはすぐに次のテナントに入居し てもらう必要があります。本来、テナントは退去の 6 ヶ月前までに退去通告をしないといけない契 約なのですが、今回は日本撤退という特殊事情のため、違約金を払って 1 ヶ月後に撤退する、とい う非常に急なスケジュールとなってしまいました。 あなた方テナント開発チームは大急ぎで、不動産会社等を通じてテナントの募集活動を行い始め るとともに、テナント選びの基準を全員で話し合うことにしました。 話し合いの結果、これまで、テナントを選ぶ際には、店舗の知名度やブランド力を第一に置いて いましたが、今後ブランド力だけに頼っていては、沿線に数多く出始めている他のショッピングモ ールとの差別化がどんどん難しくなるのが明らかなので、今はいまだ無名でも将来性のあるブラン ド、他のモールにはいまだ余り入っていない店、そして地域コミュニティにも積極的に貢献してく れる店舗を開拓していこう、という方向性が決まりました。経営側から、賃料など金銭面に関して は従来よりも思い切った条件を提示してもよいとの許可も得ました。 テナントチームで決めた、テナント選択の基準は以下のとおりです。 ・ 当初想定の条件より相当下げて賃料・共益費・保証金等を設定する。ただしこれ以上値引き、 譲歩は一切しない（これ以上下げると他テナントに対し悪影響が出る）。

3 ・ 現在ブランド力が無くても構わないが、集客への貢献など何らかのメリットをモール全体に対 して及ぼしてくれるテナントを優先する。 ・ 現在、他のテナントが持っていないユニークな特徴を持ったテナントを優先する。 ・ 1 ヵ月後にせまったリチャード・アンダーソンの退去後、速やかに内装工事に入り遅くとも 2 ヶ月以内に開店出来るテナントを優先する。 テナント募集の結果は、なんと 20 社以上もの申し込みがありました。近くに競合となる大きな ショッピングモールが出来て“トライベッカ”の全体売上が減っていることで、応募数は少ないの ではと想定していましたが、市からテナント料の補助があって安く出店できることと、住民急増エ リアで今後も街の人口が増えるという予測から、想定を上回る出店希望が殺到しました。 あなた方は、各応募店の会社案内や応募書類をじっくり見た上で、“トライベッカ”のコンセプ トに合っているかどうか、また現在入居している店舗構成も視野に入れて検討を重ね、一次のプレ ゼンテーションを行ってもらった結果、最終選考に残ったのは以下の 3 社です。 ① アメリカのキッズファッション専門店“サウスバウンド” 日本に上陸したばかりの新興キッズファッション専門企業。本家アメリカでは 200 以上の店 舗網を誇る、キッズファッションの人気ブランド。4 歳から 10 歳くらいまでの層を主なターゲ ットとし、お洒落なデザインと、リーズナブルな価格でアメリカでは相当な人気を博している。 日本ではインターネットオークションや個人輸入で一部販売されていたが、知名度はまだ低い。 渋谷の第一号店、自由が丘の第二号店ともにすべりだしは好調な様子である。トライベッカへ の出店が実現すれば、日本での第三号店となる。 ② ペットフード＆ペット用品専門店“ユニバーサル・フェイバリッツ” 創業 30 年の自然ペットフード・ペット用品の専門店。もともとは自然素材を利用したドッグ フードの販売から始まって有名になり、ここ数年のペットブームに乗り、店舗を増やしている。 利用者同士の情報交換も盛んで、店が地域のペット愛好家の交流場所になるなど、何かと話題 のペット店。近隣の獣医と提携し、会員サービスの一環としてペットの飼育・健康相談にも応 じるなど、きめこまやかな顧客対応には定評がある。 ③ ガーデニング用品の専門店“ランカスター・ゲイト” 世田谷区在住の富豪の趣味が高じて発展したガーデン用品の専門店。ガーデニングの本場イ ギリスからの輸入品も多く扱い、他のガーデニング用品店では珍しい庭石やレンガ、パラソル、 椅子・テーブル、ランプ、置物等ユニークな品揃えと、珍しい花やハーブの種も豊富に揃えて いる。世田谷区にある唯一の店舗は、広い庭付き一戸建てを改造して店に仕立て上げたもので、 ガーデニング雑誌に掲載されたことから、『素敵なお庭を見本にしたい』と東京周辺のガーデニ ング愛好者が訪ねてくる店になっている。ガーデニング業界では、知る人ぞ知るかなりの有名 店。店はまだ一つしかないが、週末になると駐車場が満杯になるほどの人気。 どの企業も、それぞれの個性があり面白そうなテナントです。あなた方テナント開発チームでは、

4 この三社に最終プレゼンテーションを行ってもらうことにしました。会社概要や扱う商品の概要だ けではどれも甲乙付けがたく、テナントチーム内でも議論が分かれています。とりあえず空いてい る場所は一店舗だけなので、モールに対する付加価値として何を提供してくれるのか、ということ を重視してテナントを選ぼうとチームでは考えています。 残された時間が多くはないので、同じ日にまとめてプレゼンテーションを受け、その日のうちに 結論を出すことにし、3 社に通知を出しました。あなた方は議論をスムーズに進めるために、事前 にテナント選択の基準をもう少し具体的に話し合って、プレゼンテーションを採点する基準を作成 しておくことにしました。トライベッカ全体の経営状況の資料も踏まえ、最適なテナントを選択し なければなりません。トライベッカの顧客アンケート結果などの経営データを再度見直し、チーム として「どんな課題に応えてくれるテナントを選ぶのか」という基準を議論することにしました。 【課題】：テナント候補 3 社のプレゼンテーションを受け、それぞれの提案を比較検討して最適な テナント候補を 1 社選ぶために、テナント選択の基準を考えておくこと。 当ケースは、「ビジネス交渉人材」の育成を目的として独自に開発されたものです。ケース中に登場するいかなる固有名詞（企業・ 団体・組織・個人名等）も架空であり（ただし地名を除く）、現実に存在する企業・団体・組織・個人名と一切関連はありません。 ケース中に登場する状況、名称等と現実とのいかなる類似も、意図的なものではありません。またケース中に登場するいかなる 状況設定も、特定の企業・団体・組織・個人の活動を支援・推薦・助長あるいは非難・批判・攻撃する意図を持っていません。 あくまでも架空の設定に基づき、受講者が交渉のスキルを学ぶことを目的として設計されたケースです。

２-K

ビジネス交渉人材育成プログラム

ケーススタディー Ⅱ

モール出店交渉

「トライベッカ」

参加者用ケース情報

キッズファッション専門店

“サウスバウンド”

店舗開発メンバー用

《秘密資料》

1 あなたは、アメリカに本社のあるキッズファッション専門店“サウスバウンド”社日本法人の店 舗開発部メンバーです。サウスバウンドは、本家アメリカでは 200 以上の店舗網を誇る、キッズフ ァッションの人気ブランドです。主に年齢 4 歳∼10 歳位までのキッズを主なターゲットとし、お洒 落なデザインとリーズナブルな価格で、アメリカでは相当な人気を博しています。男女の性別を問 わず、キュートなデザインやカラフルな色使いの洋服は、日本製の子供服とは一味違ってとてもセ ンスが良く、キッズファッションの台風の目として業界でも注目されています。 取り扱いアイテムとしては、トップス、ボトムス、アウター、アンダーウエア、帽子やサングラ ス等の小物類と幅広く、季節ごとのアイテムも含めると軽く数万点を超える品数を誇っています。 また、カジュアルからフォーマルまで、あらゆる場面をカバーできる洋服の豊富な品揃えも魅力に 挙げられています。今年の５月に米国で大ヒットしたハリウッド映画で、主人公として活躍した 8 歳の少女マリアンが着た衣装は、サウスバウンド社が全面的に協力したもので、可愛らしいコーデ ィネートと彼女の愛くるしい表情が相まって話題騒然となり、ブランド人気が加速しています。 アメリカ本社では、日本をアメリカに次ぐ第二の重要市場と位置付け、サイズも日本人仕様に変 更し、日本人の好む色使いや柄を研究するなどして日本市場へ一気に浸透しようと力を入れ始めて います。日本においては、日本で発売されている海外系ファッション雑誌に、２年前位から何度か 取り上げられ、情報に敏感な一部の奥様たちの間では知られているようで、アメリカへ旅行に行っ たついでに現地のショップを訪れて買い物をする日本人も少なくないようです。また、米国のイン ターネットオークションを利用する人や個人輸入で商品を購入している人も少なからずいるよう ですが、まだまだ一般的な知名度は低く、あまり認知されていないブランドです。 サウスバウンドが日本に進出してきたのは今年の７月で、第一号店を渋谷に、ついで第二号店を 自由が丘に出店しました。2 店ともすべりだしは好調で、来客数も倍々に増えてきてはいますが、 小規模な路面店のため日本における知名度はなかなか広がりません。そこで、アメリカ本社からは、 もっと一気に知名度を上げるために集客力のある商業施設などへ出店を考えるようにという指示 がきています。 来春には、米国で大ヒットした映画が日本へ上陸することが決まったばかりで、主役のマリアン も来日することが決定したようです。あなた方は、その映画の公開と同じタイミングで、サウスバ ウンドのブームを日本で一気に巻き起こすことができればと考えています。できれば、映画が日本 で話題になる前に、あと少なくとも３店舗以上、集客力のある首都圏の商業施設への出店をしてお きたいと、アメリカ本社では考えているようです。 店舗開発部の主な仕事は、本社の意向を受け、サウスバウンドのイメージにふさわしい土地に店 舗物件を確保し、出店することです。具体的には、不動産業者から毎週のように上がってくる店舗 物件情報に基づき現地を視察し、条件が合うようであればすぐに家主との交渉に入ります。 銀座や青山といった一流の商業地帯は家賃も高く、またアメリカ本社で要求している「ショッピ ングセンターなどの商業施設であれば最低４０坪以上の営業面積」という基準をクリアできる物件

2 は、なかなか市場に出回りません。まだ知名度が低いせいか、不動産業者も良い物件は既存の有名 ブランドへ先に紹介するらしく、気が付いたら空き物件が埋まっていたというケースも少なくあり ません。アメリカ本社の計画では、今年中に日本に少なくとも３店舗はオープンするはずだったた め、あなた方店舗開発チームは次第に焦りも生じています。 渋谷店・自由が丘店に続く第三号店をどこにするかによって、サウスバウンドの日本におけるブ ランドイメージづくりが大きく左右されるものと思われます。下手な地域に出店すると逆にマイナ ス効果となってしまう恐れもあるため、慎重に吟味しなければなりません。できれば、ハイセンス かつ生活に余裕のある子連れマダムが多くいそうな洗練された街にショップを出していきたいと、 あなた方店舗開発メンバーは考えています。 そんな中、不動産業者からあなたに耳よりの情報がもたらされました。あなたたちが、ずっと狙 いをつけていた東京郊外の私鉄沿線上にある新興住宅地・桜山ニュータウンに建つショッピングモ ール“トライベッカ”に空き店舗が出るというのです。“トライベッカ”は、大手不動産会社と桜 山市が共同出資で開発した第三セクターのショッピングモールです。 桜山ニュータウンは、丘陵地の森林を切り拓いて造られた街で緑が多く、春には山桜があちこち で美しく咲きます。車道や散歩道が広く整備されているのも特徴で、首都圏への通勤の便が良いこ とや評判の良い小・中学校が比較的近くに点在していることなどからベッドタウンとして急激に拡 大し、今もなお競うようにマンションや戸建住宅が建築されています。駅前には、ハイセンスな大 規模マンションが幾つか建ち、駅から少し歩く丘の上には閑静な戸建住宅街が広がり、比較的洗練 された庭付きの洋風戸建住宅が建ち並んでいます。二世帯で住める大きな住宅も多く、カーポート に車を２台駐車している家も多く見られます。 もともと、この桜山市エリアは、古くからの商店街や商業施設は殆どなく、桜山市が｢地域経済 の活性化｣を目的に商業施設の誘致に積極的に力を入れ、2 年前、大手不動産会社と共同で駅から 7 分の広い土地にショッピングモールの開発を行って出来たのが“トライベッカ”です。 このモールは、本場ニューヨークのトライベッカ地区をイメージし、19 世紀に建てられた古い倉 庫のような趣のある建物群が広々とした敷地に建っています。倉庫をイメージした高い天井の建物 と、街路をイメージした広い通路、半屋外型の造りは開放感にあふれています。ハイセンスな街づ くりを意識して、本場ニューヨークの“トライベッカ”を散歩しているような錯覚でモール内を歩 けるよう、異国情緒のあふれる街路を演出しているそうです。 倉庫をイメージした建物は、上空から見るとロの字型に建ち並び、その中央には芝生と花畑の公 園スペースがあり、噴水を囲んでパラソルと木製ベンチが並べられています。天気が良い日には、 フードコートの各レストランからテイクアウトして、そこで食事を楽しむことが出来るのも来店者 にとって魅力の一つになっているようです。 桜山市が“トライベッカ”を作った背景には、｢地域経済の活性化｣と｢ハイセンスなイメージの

3 街づくり｣、そしてもう一つには｢地域コミュニティへの貢献｣という目的があるそうです。そのた め、“トライベッカ”側は、顧客層をなるべく特定せずに、老若男女を問わず住民に広く楽しんで もらえる場所にしたいと考えているようです。各テナントは、ショッピング自体を楽しんでもらえ る店づくりを大前提に、工夫を凝らした催し物やイベント等も積極的に行い、住民が散歩気分で気 軽に遊びに来て楽しめる場所にして欲しいと要望されています。 店舗数は約 30 ありショッピングモールとしては中規模なもので、国内外のブランドの洋服、カ バン、靴、化粧品、インテリアショップ、スポーツメーカー、アウトドア用品店等、ハイセンスな 店が多く入っています。都心から足を運びやすい立地であることも手伝って、地元住民だけでなく、 わざわざこのモールを目当てに近郊から車で訪れるお客様も多数おり、一昨年秋のオープンから 3 ヶ月間の集客は 100 万人を突破したと報道されるなど、順調なすべりだしを見せた模様です。 さすがに最近は不況の影響もあって集客人数は減っているようですが、それでもサウスバウンド 単体で集客するよりは、はるかに効率よく多くのお客様にアピールできることは間違いありません。 “トライベッカ”の出店を機に一気に日本での知名度を上げ、出店を加速させるにはまたとないチ ャンスだと、店舗開発部のメンバーは色めき立ちました。 あなた方は早速アメリカ本社に連絡し、トライベッカへの出店申し込みの許可を申請すると、驚 くほどのスピードで本社から OK の連絡が来ました。アメリカでもモールへの出店を強化している 最中で、出店コストが低く、集客がある程度見込めるハイセンスなモールへの出店は、ブランドイ メージを向上できる、と判断したようです。あなた方は早速、トライベッカとの出店交渉に入りま した。 話によるとトライベッカ側は早急に準備して入居してくれるテナントを探しているということ でした。これは、出店を急いでいるあなた方にとっては願ったり叶ったりの話です。店舗の広さと しては 180 ㎡と申し分のない広さで、しかもこれまでよりも賃料等の条件は大幅に緩和されている という話です。当然出店コストを抑制したいあなた方としては、どうしても出店の権利を確保して、 今後の出店計画の足がかりとしたいところです。募集要項に書かれた条件は、すべて何の問題もな くクリアできますし、商品も豊富に用意できます。盛大なオープニングイベントを行う販促予算も 確保できています。 しかし、当然のことながら良い物件には競争相手が多数現れます。トライベッカの空き店舗には、 聞くところによるとほとんど同時に 20 件以上もの申し込みがあったらしく、選ぶのに苦労してい るとの情報も入りました。多少家賃を高めに払っても構わない、と申し入れを行ったのですが、ト ライベッカ側としては、集客強化のためにも、これまで出店している店舗とは違う何らかの「付加 価値」を求めている、とのことでした。 数日後、トライベッカ側から嬉しいニュースが入りました。サウスバウンドが最終選考の３社の 1 つに残ったということ、それから最終選考を行うために是非「モールに対して与えられる付加価 値」のプレゼンテーションをして欲しいと要求してきました。他の入居希望店舗がどのような業態

4 なのか、全く情報はありませんが、あなた方としては、何としても付加価値をうまく伝えて契約を 勝ち取りたいところです。プレゼンテーションに際し、情報収集できた内容は以下のとおりです。 ・ トライベッカは、これまで行ってきた、知名度のある店舗に依存した集客戦略の限界を感じて おり、見直しを考えている。 ・ 徐々に下がってきた集客力を回復させるためにも、これまでの店舗では集客出来ない新しい顧 客層を持っている店舗や、新しいニーズに応えることの出来る店舗といった、斬新さを求めて いる。 ・ プレゼンテーションでは、「トライベッカ全体にとってどのようなメリットがあるのか」という 点が重要になる。内装や品揃え、ディスプレーの仕方といった個別の要素のアピールは、モー ル全体に与える影響があると考えられる場合だけにして欲しい。 ・ 基礎的な企業情報は分かっているので、プレゼンテーションする必要はない。 トライベッカ側は、同じ日にまとめて何社かのプレゼンテーションを受け、その日のうちに結論 を出すとのことです。事前にトライベッカ側より、プレゼンテーションの事前資料として、開示可 能な社内資料の一覧が送られてきました。機密保持の関係から、この資料以外は公表できないよう です。あなた方は、資料からトライベッカ側が何を望んでいるのかを推測し、我がサウスバウンド 社の出店が最適であることを説明しなければなりません。まずは資料をしっかり読み込み、プレゼ ンテーションの場で何をポイントに交渉するのか、綿密な計画を練ることとしました。 【課題】：トライベッカの店舗を獲得するため、トライベッカから入手した資料を読み、サウスバ ウンドをテナントとして入居させることにより生まれる「トライベッカ」としてのメリット、ある いはサウスバウンドが提供できる付加価値を整理しておくこと。 当ケースは、「ビジネス交渉人材」の育成を目的として独自に開発されたものです。ケース中に登場するいかなる固有名詞（企業・ 団体・組織・個人名等）も架空であり（ただし地名を除く）、現実に存在する企業・団体・組織・個人名と一切関連はありません。 ケース中に登場する状況、名称等と現実とのいかなる類似も、意図的なものではありません。またケース中に登場するいかなる 状況設定も、特定の企業・団体・組織・個人の活動を支援・推薦・助長あるいは非難・批判・攻撃する意図を持っていません。 あくまでも架空の設定に基づき、受講者が交渉のスキルを学ぶことを目的として設計されたケースです。

２-P

ビジネス交渉人材育成プログラム

ケーススタディー Ⅱ

モール出店交渉

｢トライベッカ｣

参加者用ケース情報

ペットフード＆ペット用品専門店

“ユニバーサル･フェイバリッツ”

店舗開発メンバー用

《秘密資料》

1 あなたは日本国内でペットフード＆ペット用品を扱う専門店、“ユニバーサル・フェイバリッツ” 社の店舗開発部メンバーです。ユニバーサル・フェイバリッツは、創業 30 年で、現社長のお父さ んの代に、自然素材を活かしたペットフードの製造・販売からスタートした会社です。先代の社長 が大の犬好きだったことから、自然素材にこだわったドッグフードづくりを始めたのがきっかけで、 徐々にペットの対象を広げていき、さらに研究開発を積み重ねてペットの健康に気を使った栄養サ プリメントやダイエット食品等も世に送り出してきました。 ユニバーサル･フェイバリッツのペットフードは、長年の研究成果によって、ペットの発育過程 に応じて栄養バランスをきめ細かく配慮して製造していることや、ペットが美味しく食べられるよ う味にも工夫をこらしていることで定評があります。ペ ットブームに伴い、海外からペットフード の輸入が盛んに行われるようになり今や安価で買えるフードがたくさん出回るようになりました が、ユニバーサル･フェイバリッツのペットフードは、少々高額なものの一度ペットが口にすると 気に入って他のフードには見向きもしなくなるということで、購入者のリピート率（再度利用する 率）が高いのが特徴です。 7 年前、今の二代目社長へ経営がバトンタッチされてからは、先代の社長に負けないほど愛犬家 の社長の意向によりペットに関するグッズ類等を広く開発して扱うようになりました。愛犬・愛猫 に着せるお洒落な洋服・帽子、カラー（首輪）、リード（綱）、キャリーバッグ等の外出小物や、デ ザインの可愛いケア用品他、様々なペットに関するファッション性のあるグッズ等を幅広く開発・ 販売して事業領域を拡大したことが功を奏し、会社は急成長しています。 面白いところでは、ペットの名前を彫り込んで作るドッグタグ（ペンダント）の製造や、ペット 用アイスクリーム、誕生祝いやクリスマス用のケーキ、おせち料理等を作って届けるサービス等、 幾らお金をかけてでも家族の一員のように扱ってあげたいという愛犬家にはたまらない、凝った商 品を続々と開発しています。最近は、自慢のペットの写真を店に持ち込んでもらい、その場でオリ ジナル携帯ストラップやカレンダーやポストカード、バッジ、ステッカー等を作るという新しいサ ービスが大人気で、ユニバーサル･フェイバリッツの会員専用ネットサイトを介してブームになり ました。先般、それがペット情報誌にも取り上げられたことから、全国のペット愛好家たちの間で 話題を呼んでいます。 もちろん、そういった商品の開発だけでなく、“元気なペットを育てる”というそもそもの事業 理念に基づいた取組みが、最大のポイントです。グッズに関してはネット販売も含め、直営店以外 でも百貨店等で販売していますが、ペットフードだけは先代社長以来の方針で、直営店に実際に来 店されたお客様にしか販売しないことに決めています。フード購入を希望するお客様はまず会員と なってもらい、実際に犬を店員が目で見て大きさや健康状態を確認し、年齢や性格、育った環境な どをヒアリングして基本データとして登録します。その上で、適したフードだけを勧めて購入して もらう、というスタンスを取っているのです。 さらに出店地域の獣医と提携し、定期的な健康診断も希望により受診できる体制を整えています。

2 会員サービスの一環として電話による健康相談にも応じ、万一病気にかかったときはすぐに近くの 獣医を紹介します。こういった普段の健康に関するデータも会員データに登録され、データはどん どん更新、蓄積されます。飼い主からすると、ただのペットショップというよりはかかりつけの相 談者兼医者という位置づけになります。そのおかげもあって、平日・休日を問わず多くのお客様が 車で直営店に足を運び、交流を深めつつ買い物を楽しんでくれています。 現在、店舗数は９で、埼玉県・千葉県・神奈川県に２店舗ずつ、世田谷区の二子玉川と三宿、大 田区の田園調布に各１店舗ずつ直営の路面店を出店しています。これまで首都圏の主な街を吟味し ながら、少しずつ店舗展開を行ってきました。今後、さらに多様化するであろうお客様のニーズを 敏感にキャッチし、そのニーズに即座に応えて商品開発を行っていくためにも、時代の一歩先をい く洗練された街に出店していきたいと考えています。 店舗開発部の主な仕事は、ユニバーサル･フェイバリッツの顧客となる、こだわりを持ったペッ ト愛好家が多く住む街を選び、イメージにふさわしい店舗物件を確保し出店することです。具体的 には、不動産業者から毎週のように上がってくる店舗物件情報に基づき現地を視察し、条件が合う ようであればすぐに家主（オーナー）との交渉に入ります。 これまでは路面店を中心に出店してきましたが、土地の探索から出店までの時間とコストが相当 かかるため、ペット連れ可能なショッピングモールへの出店等も視野に入れていこうと、先月の経 営会議で決まりました。最近のモールは、ペット連れ可能なところが増えており、また駐車場も広 く整備されていることが多いので、ペットを連れて来店しやすい環境です。業界専門誌の記事でも、 ペット専門店を入居させ来場者数が飛躍的に伸びたショッピングモールのケースがいくつか報告 されています。ユニバーサル･フェイバリッツとしては、顧客層が多くいそうな土地で、そこそこ の広さを確保できる店舗であれば、モールにも積極的に出店していきたいという方針です。 そんな中、不動産業者から耳よりの情報がもたらされました。あなた方が、ずっと狙いをつけて いた東京郊外の私鉄沿線上にある新興住宅地・桜山ニュータウンに建つショッピングモール“トラ イベッカ”に空き店舗が出るというのです。“トライベッカ”は、大手不動産会社と桜山市が共同 出資で開発した第三セクターのショッピングモールで、ペット連れ OK のモールです。 桜山ニュータウンは、丘陵地の森林を切り拓いて造られた街で緑が多く、春には山桜があちこち で美しく咲きます。車道や散歩道が広く整備されているのも特徴で、首都圏への通勤の便が良いこ とや評判の良い小・中学校が比較的近くに点在していることなどからベッドタウンとして急激に拡 大し、今もなお競うようにマンションや戸建住宅が建築されています。駅前には、ハイセンスな大 規模マンションが幾つか建ち、駅から少し歩く丘の上には閑静な戸建住宅街が広がり、比較的洗練 された庭付きの洋風戸建住宅が建ち並んでいます。二世帯で住める大きな住宅も多く、カーポート に車を２台駐車している家も多く見られます。 もともと、この桜山市エリアは、古くからの商店街や商業施設は殆どなく、桜山市が｢地域経済 の活性化｣を目的に商業施設の誘致に積極的に力を入れ、二年前、大手不動産会社と共同で駅から 7