第6章 大都市転入高齢者の生活と同居子との社会関係 ― 東京都下の場合 ―
1 居住地の移動に関する既存の研究とその背景
本章は、東京都下の東久留米市と国分寺市に転入した高齢者とその子どもを対象にした 調査により、高齢者の移動(転居)がどのような状況のもとで行なわれ、また移動した結果、
高齢者がどのような生活をしているのかを子どもとの関わりのなかで明らかにすることを 目的にしている。
対象は、大別すると二つから成り立っている。ひとつは、1993(平成5)年1月1日から 12月31日の1年間に東久留米市と国分寺市に転入した 60歳以上の高齢者である。もう ひとつは、高齢者が転入した東久留米市および国分寺市において、転入した高齢者と同居 しているかもしくは近隣に居住している子どもないしはその家族を対象としている。
以上のように対象を高齢者だけでなくその子どもにまで広げた理由には、近年、大都市 への高齢者の移動は高齢者自らの積極的な移動というよりも子どもの方が虚弱化した高齢 者(老親)を呼び寄せるといった指摘(町田市,1993)や動向が見られるからである。
以下では、第1節で、単に高齢者だけでなく移動者全体の問題について既存の研究をも とにして整理することにし、第2節と第3節でわれわれが実証的に調査研究した東京都下 での高齢者の移動(転居)の状況とそれに関わる子どもの生活をあつかうことにする。
2)移動研究の目的
ところで、老若男女を問わず人間の移動には、(1)居住地の移動をともなわない通勤・
通学や買物およびレジャー活動などのための移動と、(2)居住地の移動をともなう移動に 大別される。後者の居住地の移動は、よりよい条件の住宅を求めて転居するとか、就職、
転勤、出稼ぎなど職業上の理由あるいは進学のためなどが中心となる。そのうちここで問 題にするのは、(2)居住地の移動をともなう移動のことであり、基本的には安定した生活 (well-being)を求めての移動である。
ところで、伊藤達也(元人口問題研究所)によれば、住居をともなう人間の移動の研究は、
移動の形態、移動の理由と要因、移動の影響と効果、そして移動の政策と対策の四つに分 けることができるという(伊藤,1995)。
第一の移動の形態についての研究とは、どこからどこへ、何人くらい移動しているのか など、人口移動に関する統計的な事実を明らかにする研究である。そのための資料として は、国勢調査、住民基本台帳移動報告年報、住宅統計調査、就業構造基本調査など居住地 の移動を明らかにすることができる定期的なセンサス類が主に用いられる。
第二の移動の理由と要因に関する研究とは、人間は何故移動するのか、それとも移動し ないのかを明らかにする研究である。その方法としては、移動した人および移動しない人 を直接面接したり、質問紙を配布したりして、過去の移動歴やその理由を聴取することに
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よる方法がある。また、計量経済学的な分野では、移動者と転入地域および転出地域の経 済的条件や社会的条件の関係を明らかにする研究などもみられる。
第三の移動の影響と効果に関する研究とは、移動によって生活がどのように変化したの か、あるいは移動前の期待が達成されたのかどうか、などを明らかにする研究である。こ の場合、目的の対象は個人であったり、地域や経済効果であったり、問題意識によって異 なってくる。たとえば、個人では、転居者と転出しなかった者との間に職業、疾病率、死 亡率などにどのような差がみられるかの比較分析、また一方では、人口増加に対する転入 超過率の寄与率の分析、あるいは特定期間の人口移動が将来転出地と転入地の人口動向に どのような影響をもたらすかなどが分析される。
第四の移動の政策および政策に関する研究とは、定住性を高める方策や移動の促進およ び移動の抑制の方策に関する研究あるいはある期間における転入者の量や質によって将来 必要とする行政サービスの内容とその量を測定する研究などである。地方自治体の中長期 計画、老人福祉サービスに対するニーズの把握などは、この分野の研究といっていい。
3)近年の大都市における人口移動の特徴と高齢者の位置
では、わが国における国内の人口移動は近年どのような傾向がみられるのであろうか。
性・年齢を念頭に置きながら年次別、地域別にそれぞれ検討してみよう。
(1)年次別傾向
最近における国内の人口移動は、年次別でみると全般的には、移動の量、移動の率とも 減少傾向にあるといわれている。大友篤等の研究(エイジング総合研究センター,1994)によ れば、年齢5歳階級別に、1970(昭和45)年と1980(昭和55)年との間で移動率を比較して みると、そこには、各年齢階級において低下している傾向がみられるという。しかし、唯 一、65歳以上の高齢者だけが例外的であり、その移動率はむしろ上昇している傾向がみと められるという(図6-1、図6-2)。
図6-1 年齢別移動率―全国、1970年・80年(市町村内移動を含む)
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図6-2 年齢別市区町村移動率(全国、1985-90年の5年間)、出所は前図と同じ
もちろん、移動率そのものは、15歳から30歳位までの若年層がきわめて高く、その後 は加齢とともに急激に低下していく傾向がみられる。
しかし、さらに詳しく検討してみると、その移動率は、1990(平成2)年には 65 歳から 69歳を谷底として、その後は高齢になるにつれて再び上昇している傾向がみられる。こう した高齢者の移動現象は、日本ではかつてなかったことであり、先の問題意識で指摘した ように、どのような高齢者がどのような理由で、どこからどこへ移動するのかというプリ ミティブな関心は、高齢化対策を考えるうえできわめて重要な課題である。
(2)地域間転居者の主な移動先
ここでは、地域間および地域内の移動について高齢者だけでなく全人口の移動状況から 探ってみる。そこで、都道府県間(他府県間)で移動する転居者を「地域間転居者」、なかで も東京都の関連でいえば、他府県から東京都へ移動してくる者を「転入者」、逆に東京都か ら他府県へ移動していく者を「転出者」、また都内間(都下も含む)で移動する転居者を「地 域内転居者」と呼ぶことにする。以下では、われわれの調査と関連する東京および埼玉、
神奈川、千葉の南関東地域の移動の動向を中心に「地域間移転者」および「地域内転居者」
の動向について、総務庁統計局『住民基本台帳人口移動報告年報』(1993年)および東京都 総務局『東京都の人口移動の実態』(1993年)により検討する。
① 地域間転居者の移動先
いうまでもなく、東京都は世界的にも希な過密都市である。先の住民基本台帳移動報告 によれば、1993(平成5)年の1年間、東京都へ移動している「転入者」の人口が最も多い 県は46道府県中18道県に昇り(図6-3)、東京都の性格をあらためて浮き彫りにしてく れる。なかでも、東京都に隣接する埼玉県からの転入者は、転居者総数の32.7%にも達し ている(表6-1)。
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図6―3 都道府県別転出者の最も多い移動先の居住地(移動先) 出所は前図と同じ
表6-1 都道府県別転出者の主な移動後の住所地(平成5年)
また、同様に先の「東京都の人口移動の実態」によって他府県からの「転入者(世帯主)」
を、年齢別に移動理由を検討してみると、以下のような傾向がみられる(図6-4)。21歳 以下の各年齢層、とくに「18~19歳」層では、「学校関係」という理由によって転入して いる者が多く、また20歳以上64歳以下の各年齢層では、「職業的理由」によって転入し てくる者が多い。これに対し、65歳以上の高齢者の転入は、「親族と同居」が4割を超え、
他の年齢層とはまったく性格を異にしている。
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図6-4 他府県間転入世帯主の年齢階級別転入理由構成、出所は前図と同じ
また、同様に先の「東京都の人口移動の実態」によって他府県からの「転入者(世帯主)」
を、年齢別に移動理由を検討してみると、以下のような傾向がみられる(図6-4)。21歳 以下の各年齢層、とくに「18~19歳」層では、「学校関係」という理由によって転入して いる者が多く、また20歳以上64歳以下の各年齢層では、「職業的理由」によって転入し てくる者が多い。これに対し、65歳以上の高齢者の転入は、「親族と同居」が4割を超え、
他の年齢層とはまったく性格を異にしている。
一方、総務庁の住民基本台帳人口移動報告によれば、東京都から他府県へ移動している
「転出者」もかなり多い。この最も多い移動先は、東京の外延部である埼玉県、神奈川県、
千葉県に集中しており、この3県で、過半数の53.9%を占めている(表6-1)。
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表6-2 本人の出生地
② 地域内転居者の移動
区内から他区へ、区内から都下へ、または都下から区内へという区別をせず、都内間で の移動をすべて「地域内転居者」とすれば、そこには以下のような傾向がみられる(「東京 都の人口移動の実態」,図6-5)。
図6-5 都内間移動世帯主の年齢階級別移動理由構成、出所は前図と同じ
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つまり、移動理由を移動世帯主の年齢階級別にみると、「18歳未満」から「60~64歳」
までの間では、年齢が増すごとに「住宅事情」の割合が多くなり、とくに「30~39歳」以 上では4割弱から5割に達していることがうかがえる。また、65歳以上の高齢者でも「親 族と同居」や「生活環境」の理由によって移動する者が多いものの、「住宅事情」の理由に よって移動する者が最も多く、大都市である東京都内での事情を垣間見ることができる。
こうした傾向から、高齢者の移動は「地域内転居」よりも「地域間転居」の高齢者に「親 族との同居」が相対的に高く、したがって、「呼び寄せ老人」の者も数多く含まれているこ とが推測できる。ここでいう「呼び寄せ」とは、主に子どもが高齢者(老親)を引き取る(扶 養する)という理由のもとで同居や隣居を始めるために、老親を子どもの所へ転居させるこ とをいう。
こうした傾向がみられるなかで、高齢者の転入にいちはやく着目したのは、東京都町田 市である。町田市では、1993年に「短期間居住の高齢者とその家族の生活に関する調査」
を行なっている。対象者は、1988(昭和63)年6月1日から1993年6月1日までの5年間 に転入した在宅高齢者であり、有効回答数1,909票のうち312票(16.3%)が「呼び寄せ」(東 京都及び神奈川県を除く地域からの転入者)と呼ばれる高齢者であったという。今回の調査 はこれらの動向をも検討したうえで、高齢者の住宅、在宅管理、家や墓の管理などを新し く調査項目として入れながら調査した結果を明らかにしたものである。