高齢者家族の福祉社会学的研究
著者
奥山 正司
学位授与大学
東洋大学
取得学位
博士
学位の分野
社会福祉学
報告番号
32663乙第210号
学位授与年月日
2013-12-23
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00006743/
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja東洋大学審査学位論文
高齢者家族の福祉社会学的研究
i 論 文 目 次 図表目次 ---ⅴ はしがき --- 1 第 1 章 三世代女性家族の比較研究 ― 日米比較研究に基づく日本側調査結果の分析 ― ---8 1 三世代女性研究の目的と方法 --- 1)調査の目的 ---8 2)調査方法 ---9 2 私的扶養・公的扶養に対する選好度 ---13 1)質問文及び選択肢 ---13 3 分析結果 ---16 1)各世代の 4 つの局面ごとの回答分布 ---16 2)世代ごとの 4 つの局面の組合せ(「レスポンス・パターン」)の分析 ---19 3)三世代の回答の組合わせ(「レスポンス・セット」)の分析 ---20 4 結果の要約と今後の課題 ---23 第2章 家族の介護負担感及び介護規範意識に関する日韓比較研究 ― 東京都とソウル市 ― --- 25 1 はじめに --- 25 2 調査研究の対象と方法 --- 26 1)分析対象 ---26 2)調査対象者のプロフィール --- 27 3 介護負担感及び介護規範意識に関する枠組み --- 32 4 分析結果 --- 35 1)介護負担感に影響を与える要因 ---36 2)家族介護者の介護規範意識 ---40 5 要約と課題 ---43 第3章 高齢者の家族・親族からのサポート意識 ― 国際比較研究の意義と課題 ― ---44 1 はじめに ---44 2 国際比較研究の目的と意義 --- ---44 3 高齢者および加齢に関する調査方法と国際比較研究 ---45 4 国際比較研究の問題点 ---46 1)概念の標準化、分類ないしはカテゴリーの標準化---46
ii 2)概念の操作化(質問項目、ないしは質問文の標準化---47 3)調査票の翻訳の問題 ---47 4)標本抽出と研究費の問題--- ---47 5 高齢者の家族・親族からのサポート意識 (5か国比較調査から )---48 1)調査の概要 ---48 2)調査結果 ---49 6 おわりに ---54 第4章 介護保険制度下における農村の高齢者介護 ― 主に東北農村の事例を通して ―---55 1 はじめに ---55 2 研究の目的 ---56 3 調査対象地域と調査 ---57 1)調査対象地域 ---57 2)調査方法 ---59 3)最上町における地域包括的ケアシステム---61 4 事例調査の結果 ---61 1)農家の高齢者介護と介護ニーズ ---61 2) 要介護高齢者と家族農業経営 ---67 5 考察と課題 ---71 1)要介護高齢者の家族介護と介護サービス ---71 2)介護発生による農業経営への影響 ---74 6 おわりに --- 75 第5章 大都市における家族の保健・福祉的支援機能と社会的要因 ― 一般高齢者への横断研究と高齢脳血管疾患患者への縦断研究から ―---77 1 はじめに ---77 2 現代家族の機能と高齢者扶養 ---78 1)人口学的な世代間扶養の過去・現在・未来 ---78 2)高齢者の身体的・社会的環境からみた家族機能の変化---80 3 家族の保健・福祉的支援機能の地域的差異と高齢者扶養 ---83 4 高齢者の脳血管疾患患者とその介護者からみた家族機能の変化 ---87 5 要約と課題 ---93 第6章 大都市転入高齢者の生活と同居子との社会関係 ― 東京都下の場合 ― ---94 1 居住地の移動に関する既存の研究とその背景 ---94 1)問題の所在 ---94 2)移動研究の目的 ---94 3)近年の大都市における人口移動の特徴と高齢者の位置 ---95 2 転入高齢者の生活とその実態 ---100
iii 1)調査対象地、調査方法、調査対象の状況 ---100 2)高齢転入者の属性(性、年齢、配属関係、ADL) ---102 3)出生地、最も長く居住した場所 ---101 4)転入前と転入後の世帯状況 ---103 5)高齢者と配偶者の最長職業 ---104 6)高齢者の主な収入源 ---104 7)転入してきた理由 ---105 8)子どもとの同居および近居の理由 ---105 9)転居しようと決意した理由 ---106 10)現在の生活状態――前居住地との比較 ---107 3 同居、燐居している子供の生活 ---107 1)調査対象地、調査方法、調査対象の状況 ---107 2)子どもの性、年齢、老親からみた続柄 ---107 3)子どもからみた転入高齢者の年齢、健康状態 --- --108 4)転入前、転入後の高齢者の家族形態 --- --108 5)高齢者の転入理由と同居および隣居の理由 --- --- 109 6)同居を言い始めた人の続柄 --- ----109 7)同居および隣居に際しての高齢者への役割期待と生活費の負担--- ----110 8)同居をはじめてからの家族生活の変化 --- ---110 4 転入高齢者への対応と今後の課題 --- ---110 第7章 大都市における老夫婦のみの世帯の追跡研究 --- ---113 1 はじめに ---113 2 これまでの調査方法とその検討 ---114 3 老夫婦のみの世帯の追跡研究 ---116 1)調査の対象と調査方法---117 2)分析方法 ---118 3)調査結果 ---119 4 課題と展望---125 1)縦断研究のサンプルについて---125 2)老夫婦のみの世帯の生活の変化とサンプルの地域性・大きさについて---126 第8章 高齢者の子どもとのソーシャルネットワーク ― 一人暮らしおよび夫婦のみ高齢者の追跡研究 ―----127 1 はじめに---127 2 大量調査からみた老親と子どもとのネットワーク ---127 1)分析方法と対象 ---127 2)調査結果 ---128 3 事例調査からみた老親と子どもとのネットワーク ---135 1)対象者の抽出 ---136 2)対象者と事例調査 ---136
iv 3)分析方法 ---137 4)事例調査の考察 ---139 4 要約と課題 ---140 付録 ― 4 事例の具体的内容 ― ---142 第9章 単身高齢者の社会経済的生活と子ども家族の支援 ---147 1 はじめに ---147 2 高齢者のいる世帯の家族形態とその推移 ---148 3 単身高齢者の増加と出現率の様相 ---151 4 単身高齢者の社会経済的生活とその特徴 ---154 5 単身高齢者への家族的支援 ---160 2事例の紹介 --- ---163 6 おわりに ---166
付論 Farmers' Successors and the Immigration of Female Asian Spouses in Rural Japan --167
あとがき ― 要約と課題 ― ---180
参考文献一覧(英文・和文) ---188
v 図表目次 図1 家族と社会システムとの関係 ---2 図2 研究対象の位置づけと関連性 ---6 表1-1 日本側サンプル抽出条件 ---12 表1-2 日本側のサンプルの内訳 ---13 図1-1 レスポンス・パターンとレスポンスセットの分析枠組の相違 ---16 表1-3 経済的援助について ---17 表1-4 家事援助について ---17 表1-5 身体的ケアについて ---18 表1-6 相談について ---19 表1-7 世代別レスポンス・パターン ---20 表1-8 経済的援助について ---20 表1-9 家事援助について---21 表1-10 身体的ケアについて ---22 表1-11 相談や話相手について ---23 図2―1 65 歳以上人口:1960~2020 年(日本・韓国・スウェ―デン)---25 表2-1 要介護高齢者のプロフィール(東京・ソウル)---28 表2-2 主介護者のプロフィール(東京・ソウル)---30 表2-3 身体的負担感の項目 ---32 表2-4 精神的負担感の項目 ---33 表2-5 社会的負担感の項目 ---34 表2-6 介護負担感の各次元と諸変数間の相関関係 ---40 図2-2 介護規範意識:ヒストグラム(東京都) ---41 図2-3 介護規範意識:ヒストグラム(ソウル) ---41 表2-7 介護規範意識 (東京・ソウル) ---42 表2-8 性別にみた介護規範意識(東京・ソウル) ---42 表2-9 副介護者の有無別にみた介護規範意識(東京・ソウル) ---42 表3-1 比較国の数と調査時点数の関係 ---46 表3-2 身体的・精神的・経済的なサポート意識(享受)---49 図4-1 高齢人口1人当たり在宅・施設サービス費用全国(H15 年 10 月)---56 図4-2 最上町における地域包括ケアシステム ---60 表4-1 最上町における介護者家族の特徴(農家のみ)---69 図4-3 在宅サービスの種類別利用状況(2001 年 5 月利用実績)---72 表5-1 人口学的視点からみた世代間扶養 ---79 図5-1 高齢者の健康状態 ---81
vi 図5-2 要介護老人の介護の程度---81 図5-3 高齢者(70 歳以上)の死亡場所別死亡割合の年次推移 ---82 表5-2 保健・福祉的支援ネットワークの測定方法(質問項目と選択肢)---83 表5―3 保健福祉的支援機構としての教授とその提供源(地域別) ---84 図5-4 介護者の変化の有無と続柄 ---88 表5-4 病気などでの世話の代替人や施設のめあて ---90 図6-1 年齢別移動率―全国、1970 年・80 年(市町村内移動を含む) ---95 図6-2 年齢別市区町村移動率(全国、1985-90 年の 5 年間)---96 図6―3 都道府県別転出者の最も多い移動先の居住地(移動先) ---97 表6-1 都道府県別転出者の主な移動後の住所地(平成5年) ---97 図6-4 他府県間転入世帯主の年齢階級別転入理由構成 ---98 表6-2 本人の出生地 ---99 図6-5 都内間移動世帯主の年齢階級別移動理由構成 ---99 表6-3 現在所に来る前の居住地 ---102 表6-4 同居又は近居の理由 ---106 図7-1 時間の長さと加齢(調査設計のために---114 図7-2 調査の目的(縦断研究の理論的枠組み---115 表7-1 標本数と回収不能の内訳 ---117 表7-2 老夫婦の生存状況と子どもとの居住形態---119 表7-3 転居の有無、移動先別現在の住宅状況---120 表7-4 住宅状況(第1回調査)・夫婦の生存状況別子どもの居住形態---122 表7-5 転居の有無・移動先別子どもとの居住形態 ---123 表7-6 居住状況(第1回調査)・夫婦の生存状況別同居の経過 ---124 表8-1 居住形態の変化(2004 年→2007 年)---129 表8-2 子どもが家に訪問したり子から誘われての外出(2004→2006) ---130 表8-3 子どもが家に訪問したり子から誘われての外出(一つでも低下、要介護以上、 過去1 年間の入院)、活動維持のクロス表 ---131 表8-4 子どもの家を訪問したり、子どもを誘って一緒に出かけること(2004→2007: 第一子について)---132 表8-5 子どもの家を訪問したり、子どもを誘って一緒に出かけること 07 年活動低 下・活動維持(2004→2007:第一子について) ---132 表8-6「子どもが家を訪問したり、子から誘われて一緒に出かけること」と「子どもの 家を訪問したり、子どもを誘って一緒に出かけること」---134 表8-7 子どもとの電話やメールでのやりとり(2004→2007):第一子について---135 図8-1 分析の枠組み ---137 表8-8 4ケースの高齢者の生活状況 ---138
vii 表8-9 社会階層からみた高齢者(老親)と子どもの生活状況 ---139 図9-1 65 歳以上の者のいる世帯数の家族形態(年次推移)---148 図9-2 市郡別にみた 65 歳以上の者の家族形態---149 表9-3 高齢者のいる世帯数の中で単独世帯数の割合(都道府県別) ---150 図9-3 高齢者の年齢階級別 単独世帯数の出現率(全国・東京)---149 表 9 - 2 性 ・ 年 齢 別 一 人 暮 ら し 高 齢 者 数 及 び そ の 出 現 率 ( 全 国 ・ 東 京,1975 と 2005 年)---152 図9-4 高齢者のいる世帯の世帯類型別にみた所得金額別世帯数の相対累積度数 分布(平成 19 年調査)---155 表9-3 高齢者世帯における所得の種類別に見た返金所得金額(年次推移) ---156 表9-4 被保護世帯の世帯類型別状況の推移 ---158 図9-5 年間所得金額の世帯分布のローレンツ曲線(全世帯・高齢者世帯)---159 図9-6 世帯類型別別居子との接触頻度(日本)---161 図9-7 世帯類型別別居子との接触頻度(韓国)---161 図9-8 心配事や悩み事の話し相手や相談相手 ---162 表9-5 家族支援としての安否確認サービス ---163 表 高齢者人口比率及び高齢者の居住形態、高齢者施策等の年次推移 ---187
1 はしがき 1 研究の目的 本研究の目的は、高齢者の生活に関わる諸概念を活用し、高齢者福祉の観点から、 家族形態、家族機能及び家族意識の面から高齢者の家族生活の変化について考察する ことである。この場合、高齢者福祉の概念については、福祉サービスを対象とした狭 義の意味だけではなく、高齢者の安定した生活(well being)に関わる家族の福祉的 機能をも含めた広義の内容でとらえることにした。 ところで、家族という集団は、社会の維持存続に欠かせない人間の再生産を行うと ともに、家族員の生存にとって必要な福祉を確保してきた。こうした家族機能と社会 と の 関 わ り に 最 も 早 く 注 目 し た の は 、 家 族 機 能 縮 小 論 で 知 ら れ る ア メ リ カ の Ogburn,W.F.,(1886~1959)である。近代化・産業化との関わりで家族機能純化説を唱 えたのは、同じアメリカのBurgess,E.W.,(1886~1966)であり、さらには人間の再 生産をもって社会に対する家族の基底機能(対外機能)とみ、福祉(well-being)の追求 をもって個人に対する家族の基底機能(対内機能)とみた森岡清美(1923 年~)の説 などがその代表例としてみることができる。 いずれにしても、これらの説は、産業化や近代化にともなう外部社会の変化によっ て、家族形態が変化し、それが家族機能の縮小をはじめ、さまざまな変化をもたらし たという点では異論がない。 2 研究の枠組 では、社会システムの変化に伴う高齢者家族の生活変化について、どのような研究 枠組でとらえていくことが可能であるのか。最初に、その枠組について検討すること にする。 まず家族は、家族員が安定した生活をしていくためには、外部の社会との交換関係 に入る必要がある。産業化した社会では、農業を生業とする家族でさえも外部の資源 を継続的に確保しなければならず、雇用者に至ってはほとんどすべての資源を外部の 社会に依存しなければならない。こうした社会システムとの交換関係をとおして、外 部に生じた変化が家族にも多かれ少なかれ変化が生じることになる。 しかし、家族は 社会との境界維持作用が強い集団であることから、社会に生じた変化がそのまま家族 内の生活に変化が生起するとは限らない。すなわち、家族は、社会との関わりでいえ ば 、 必 要 に 応 じ て 社 会 の 資 源 を 選 択 的 に 導 入 す る こ と か ら 、 半 閉 鎖 シ ス テ ム
2 (semi-closed system)の特徴をもっている集団であるといえる。 他方、日本の家族には、直系制家族から夫婦制家族へという理念としてのモデル転 換が認められる。特に、大都市地域における直系制家族から夫婦制家族への転換の経 路には以下の二つの形成パターンがあげられる。①農山村に育って第二次大戦後及び 高度経済成長期に、若年労働力として大都市に流入し、そこで家族を形成した人々。 ②最初から、大都市地域で育って、家族を形成した人々、である。①は、特に、高度 経済成長期を通して、中卒者の集団就職や高卒後の若年層が大都市に流入し、多くの 新しい家族が実現したと考えられる。 ここでは、こうした直系制家族から夫婦制家族へのモデル転換を考慮しつつ、高齢 者家族の変化に影響すると考えられる外部社会の要因を以下の3つのシステムに分け て検討する。すなわち、1.日本経済の発展という経済システムの変化に関わる要因、 2.民法改正の効果や社会保障の発展など法及び政治システムに関わる要因、3.学校 教育や社会教育などの文化システムの変化に関わる要因である。こうした家族と3つ の社会システムの関係を図1に示すと以下の通りである。
• 法及び政治システム
法及 び 政 治 シ ス テ ム 法 及 び 政 治 シ ス テ ム 家 族 経 済 シ ス テ ム 文 化 シ ス テ ム 図1 家族と社会システムとの関係 (1)経済システムの変化 第一の要因は、戦後、特に高度経済成長期(1955 年以降)を通して実現した産業化 や都市化である。大都市地域での労働力需要の不足が農村から大都市部へ若年層を中 心とした広範な労働力の地理的移動を促した。その結果、若い人々が地方の親元を離3 れて大都市地域に居住することになり、新しい家族形成を促した。 第二の要因は、所得水準の上昇が若年層の核家族の経済的自立を促進し、住宅金融 公庫を利用したマイホームの建設や住宅公団(現在の都市UR 機構)の入居を可能に し、家族の形成を促進した。当時の核家族は、夫は外で働き、妻は主婦業に専念して 家庭をまもるという性別役割分業が軸であった。高度成長期からは、子どもの教育費 や家計費の増大等により有配偶女性の就業率の上昇が現れた。 こうした日本経済の発展と所得の増大は家族に以下のような変化をもたらした。一 つは、家族の小家族化であり、二つ目は家族内での夫婦平等化である。その後、寿命 の伸びや高齢化の進行と共に、夫婦制家族の理念を強く意識した高齢者家族が増加し ていった。 (2)法及び政治システムの変化 明治時代から第 2 次大戦後の民法改正に至る 1947 年までは、家制度として、事実 上、家産は家長である個人(主に長男)の所有であること、家いえは国家と天皇に従属す る末端機構であるとしていた。戦後、民法改正により、直系制家族を支えていた家制 度が廃止され、夫婦平等の理念が認められるようになった。その結果、高齢者の扶養 義務や相続の権利は子ども全員が平等となり、社会福祉や社会保障の適用も権利とし て徐々に拡大していった。特に年金制度については、家族はもとより親族間扶養の規 範意識を後退させるとともに、家族内での世代間関係を弱める結果となった。さらに 新たに導入された介護保険制度についても、家族意識や家族関係に同様の影響がみら れるようになった。その一方では、住宅金融公庫や銀行の融資等により住宅ローンを 組むことによって、中年の核家族世帯はもとより若い夫婦の世帯でも住宅を取得する ことが可能となった。こうした制度は、いずれにしても老親と成人した子どもとの結 合を徐々に弱体化させるとともに、世代的に継承される家族の理念よりも夫婦として 一代限りの家族ももつという理念をより大事にするようになった。他方、高齢者世帯 においても夫婦二人で生活するという形態を促進し、その理念を実現していくことに つながった事例も少なからず生まれた。 (3)文化システムの変化 明治時代の教育勅語や修身では、天皇への忠誠心の涵養を軸に、孝行・柔順・勤勉 などの徳目を教育して、あるべき家族像がうえつけられた。戦後、新しい憲法の下に、 学校教育や社会教育では、その教育理念による男女平等の観念の浸透、夫婦制家族理 念の普及等が拡大していった。また、大衆文化やテレビを筆頭にした各種メディアの 普及により、新しい家庭像やそれにまつわる考えや思想が国民一般に一層浸透してい
4 った。 3 高齢者の家族生活についての分析枠組 では、3 つの社会システムがもたらす要因は高齢者の家族生活にどのような変化を もたらしたのであろうか。それは、以下の通り、(1)家族形態、(2)家族機能、(3) 家族意識、という三つの次元で分析検討する。 (1)家族形態 家族形態は、家族が何人の成員からなっているかという家族規模の面とどのよう な続柄の成員から成り立っているのかという家族構成の面の2つの面から考察するこ とができる。例えば、家族成員4人といっても直系家族である「夫婦と子ども1人と 夫の母」の場合と「夫婦と子ども2人」の夫婦家族である場合があるからである。前 者は量的な側面であり、後者は質的な側面である。したがって、家族規模と家族構成 の両面からみなければ、家族の形態を的確にとらえることはできない。高齢者家族に 限定していえば、高度経済成長期以降は、家族規模は小規模化し、家族構成は伝統的 な三世代家族が減少し、高齢者の夫婦のみ世帯及び一人暮らし世帯がきわだって増加 している。 (2)家族機能 一般に、近代化と産業化が高度になることに伴って、外部社会の変化が家族形態の 変化を促し、それが家族機能の変化をもたらしたといわれる。家族が小規模化し、家 族機能が縮小すれば、家族集団内におこる病気や怪我などの危機に対する力が弱まる ことから、家族の危機対処能力は弱体化する。特に、高齢者のいる世帯が小規模化し、 夫婦のみの世帯や一人暮らし世帯が増加すれば、経済的自立の能力はともあれ介護負 担能力は著しく低下する。こうした家族の介護機能低下は、2000 年 4 月からの介護 保険制度を導入する社会的背景となっている。 本文の冒頭において幾つかの家族機能縮小説をあげたが、現代社会の家族では、従 来もっていた経済・地位付与・教育・保護・宗教・娯楽・愛情という 七つの機能のう ち、愛情以外の六つの家族機能は企業・学校・政府などの専門的な制度体に収斂され て、家族からはほとんど消失したか弱体化してしまったといわれる(Ogburn,W.F., 1933)。 他方、家族機能が縮小しても、二つの根本的な家族機能が残っているとされる。そ のひとつは、子どもを真の社会の成員とするための第一次社会化、もうひとつは、成 人のパーソナリティの安定化である。高齢者を対象にすれば、後者には、夫婦の間で、
5 情報を交換し合い、同伴して外出する等の夫婦の伴侶性という家族機能と子どもと会 って心配ごとや悩み事を相談したりして、パーソナリティを安定化させる機能である。 その内実として、急増している夫婦のみ世帯の高齢者や一人暮らし高齢者には、別居 している子どもとどのようなつきあいを行っているのかというソーシャルサポートや ネットワークが重要となる。具体的には、子どもとの接触頻度の多寡が高齢者の安定 した生活(well being)にかかわってくるといえる。 (3)家族意識 家族意識とは、家族の制度・家族関係・家族生活について人々がもつ価値づけと規 範意識、及び家族行動の選択に現れる態度をいう。それは、自らの経験に根ざす要素 と社会的な観念に培われた要素との相互規定的に影響し合って成立している。 家族意識を調査する際は、a 個人の生活体験に根ざしている側面から接近するかそ れとも、b 一般的な社会通念に由来する側面からアプローチするかは、調査する意識 項目によって決まるところが大きい。家族意識や家族規範は、その時代の社会通念と 相互規定的な関係にある。また、家族意識は、家族制度や家族理念といわれる社会通 念と相互規定関係にある。本論文では、個人の生活のなかでの家族意識・家族規範(例 えば、調査対象者が心配事や悩み事ができたとき、相談に乗ってくれる人はどのよう な人か)と世間一般として「親が寝たきりになった場合、親の日常生活の世話につい て、どのように考えているのか」という介護規範意識の両面から分析し、考察してい る。その意味では、調査結果は先にあげた法及び政治システムと文化システムに影響 を受けながら、個人の内部で定型化し、具現化したものといえる。 4 研究対象と研究方法 本論文の各章でとりあげる研究対象と研究方法をまとめて示すと、図2の通りとな る。各章論文の全体を通じて、高齢者の家族生活とその変化を規定する諸要因を、家 族の形態、家族機能、家族意識の概念からなる分析枠組の下で総合的かつ統一的に分 析し、検討する。あわせてそれぞれの時代的変化とその規定要因や世代差をも考察す る。さらに、高齢者家族と子ども家族との関係を視野に入れつつ、家族介護のみなら ず、介護の社会化及び介護の外部化ともいわれる家族介護からはみ出す保健福祉サー ビスや介護保険サービスとの関わりをも考察する。 研究対象は、主に大都市の高齢者家族に焦点を当てるが、これと併せて、農村の高 齢者家族をも比較対象としてとりあげる。国際比較の観点からは、家族形態、家族意 識・家族規範等に関わって、欧米諸国やアジアとりわけ韓国の高齢者家族を比較対象
6 として横断的に考察し、どのような点で共通性や相違点がみられるのかを考察する。 家族形態に関しては、かつて日本の伝統的・典型的な家族であった三世代家族をと りあげ、その家族規範意識や態度について、姑・嫁・孫娘の世代間関係や世代差を分 析する。さらに、夫婦制家族をモデルとする高齢者夫婦のみの世帯や一人暮らし世帯 の動向を分析するとともに、それぞれの世帯と子ども家族との関係を考察する。
図2 研究対象の位置づけと関連性 5 論文の構成 全体の論文構成は、9つの章と農村の高齢者介護(4章)に関連する付論から成り 立っており、目次は以下の通りである。 順序として、最初の第1 章に、三世代同居家族の比較研究を掲載した。それは、三 世代同居家族が日本の典型的な家族形態であったからである。ところが、この調査を 行った 1980 年代初頭の頃から、家族理念は伝統的な家族制である直系家族制から夫 婦家族制へと大きく動揺し始めていた。したがって、姑・嫁・孫娘が家族意識などに ついて世代ごとにどのような差異がみられるのかを検討するためである。かつては、 嫁の立場であった息子(主に長男)の妻として姑に仕え、そして介護をするのは当然 であった時代から世代が下がるにつれて変化してきていると考えられる。 都市 農村 老 親 子 孫
外 国
日 本
凡例 : ←→ は比較を意味するる7 <目 次> はしがき 第 1 章 三世代同居家族の比較研究 -姑・嫁・孫娘を対象として- 第 2 章 家族の介護負担及び介護規範意識に関する日韓比較研究 -東京とソウル- 第 3 章 高齢者の家族・親族からのサポート意識 -国際比較研究の意義と課題- 第 4 章 介護保険制度下における農村の高齢者介護-主に東北農村の事例を通して‐ 第 5 章 家族の保健・福祉的支援機能と社会的要因 -一般高齢者への横断研究と脳血管患者への縦断研究から- 第 6 章 大都市転入高齢者の生活と同居子との関係 -東京都下の場合- 第 7 章 大都市における老夫婦のみの世帯の追跡研究 第 8 章 高齢者の子どもとのソーシャルネットワーク -一人暮らしおよび夫婦のみ高齢者の追跡研究- 第9 章 単身高齢者の社会経済的生活と家族支援
付論Farmers' Successors and the Immigration of Female Asian Spouses in Rural Japan
(4 章関連) あとがき -要約と課題- 第2 章及び第 3 章は、日本の高齢者家族が他の国々の家族とどのような点で異なっ ているのかを論述することにした。欧米諸国との比較研究は、日本の高齢者家族の特 徴をよりマクロ的な視点から抽出することによって、またアジアのなかでの韓国との 比較研究は、高齢者介護などより具体的な場面についての差異を考察することによっ て明らかにできると考えた。 第4 章から第 9 章では、日本における高齢者の家族生活に限定して考察することに したが、第4 章では、家族理念が大きく揺らいでいる今日でも、高齢者家族の介護等 に関しては、比較的直系的な家制度がみられる東北農村の事例を分析することにした。 第5 章以下第 9 章までは、そうした揺れ動く家族変動を分析の軸にして、大都市社 会、特に東京及びその近郊における老夫婦のみの世帯や一人暮らし世帯に焦点をあて、 家族形態、家族機能、家族意識等や高齢者と子どもとの関係等について分析すること にした。
8 第1 章 三世代女性家族の比較研究 ― 日米比較研究に基づく日本側調査結果の分析 ― 1 三世代女性研究の目的と方法 1)調査の目的 この研究は、東京都老人総合研究所社会学部(現東京都健康長寿医療センター研究所) が日米の国際比較を念頭において、三世代女性の比較調査を家族社会学的視点から行った ものである。それは、かなり広範なねらいをもって実施されたもので、下記の5 つのサブ・ テーマを含んでいる。即ち、①老後、援助を受けたいと思うようになった時に、頼りたい と思う人、あるいは頼りたいと思う社会資源について、②老年世代と中年世代との間の相 互援助、相互交流の実態について、③同居世帯における、老年世代と中年世代の家庭内の 役割関係について、④老後における居住形態の意向について、⑤老化・老後生活、自立志 向、老親扶養、性役割などについての態度に関して、の 5 つである。また、この調査研究
は、アメリカ・Philadelphia Geriatric Center の E.M・Brody を中心とし、P.T・Johnsen、
M.C・Fulcomer らによって行われた研究をモデルとしており、その調査結果は、次の 2 つ の報告書にまとめられている。
Brody, Elaine M., Johnsen ,P.T., Fulcomer, M. C. and Lang, A.M.: The Dependent Elderly and Women’s Changing Roles-Final Report submitted to the Administration on Aging (Grant #90-A-1277,9/30/77-9/29/79).
Brody, Elaine M., Johnsen, P.T. and Fulcomer, M.R.: Women in the Middle and Care of the Dependent Elderly-Final Report submitted to the Administration on Aging (Grant#90-AR-2174,10/1/79-12/31/80). もちろん、我々がこのような調査を企画した日本側の背景には、つぎのような状況があ ることに留意する必要がある。それは、老親に対する子どもの扶養を「世代間扶養」とよ ぶなら、日本においては、戦後、出生率が大幅に低下し平均寿命が著しく伸びたことによ って、世代間扶養率がきわめて高くなってきているという事実である。ここでいう「世代 間扶養率」とは、扶養される老親世代と扶養する子ども世代の世代間関係を単純に老親の 数と子どもの数でみた場合の数学的なことを意味する。ところで、世代間扶養率が高くな ってきているという場合、それには、二つの側面が含蓄されている。ひとつは、戦前、戦 後を通して、1960(昭和 35)年頃まで粗再生産率(合計特殊出生率:1 人の女性が一生の間 に生むと推計される平均子ども数)が 2 人以上を維持していたのが、1961 年(昭和 36)年には 1.96 を記録し、子ども側の老親負担が徐々に高くなってきているということである。本来、 世代間の給付と負担の関係をみる場合には、①私的な扶養から、都市化・核家族化・子ど も数の減少によって、公的な年金制度を通じた社会的な扶養へと移行していること、②少 子化、長寿化の進行により、現役世代にかかる扶養負担が高まっていること。③生活水準 の向上と実質的な保険料負担能力が上昇していることなどの背景についても考慮する必要
9 があるが、森岡清美の試算によれば、1975 年頃までの 65~69 歳層は老後を託しうる夫婦 が1 夫婦当り 3 組近くあったが、1995 年以降の 65~69 歳層は 1 夫婦当りせいぜい 1 組の 子夫婦しかもたないことになる。もちろん、この場合老親を扶養する夫婦が 3 組あった時 代でも、扶養の負担を子どもの間で分担していたわけではなく、同居子に扶養負担が集中 していたことはいうまでもない。したがって子夫婦が 3 組あったといっても、事実上同居 している子夫婦の負担は 1 組しかいない子夫婦の負担とほとんどかわらなかったといって いい。しかし、このような状況は、多産型の場合によくみられたような老親のタライマワ シが、近い将来には老親が扶養を引き受けてくれる子を選択する余地さえ残されていない ことを意味している。そして将来はむしろ粗再生産率(合計特殊出生率)が 2 人を切る(2012 年は 1.41)ことから、子どもによる扶養からはみだす老親が著しく増加することが予想さ れるのである。(「厚生行政基礎調査」によれば、ここ十数年、「老夫婦のみの世帯」と「一 人暮らし老人」の世帯が著しく増加していることが指摘できる。) ふたつめは、老親扶養が生じた場合には、平均寿命の延びという人口学的な要因によっ て、その扶養負担の期間が徐々に長期化してきているという事実である。戦前のライフサ イクルは、平均すれば、老親が自分の子どもを育て終える頃、すでに死亡していたので子 ども側からすれば、それほど扶養する期間は長くなかったといえる。しかし、現在では、三・ 世代・ ・の・夫婦・ ・がそろっているケースも出現し、なかには、老年前期の嫁(または息子や
娘)(young old)が、老年後期の老親(old old)を介護しているというケースもそれほどめずら しくなくなってきている。また、三世代家族のライフサイクルと扶養関係をモデルとした 資料によれば、中年世代は36 歳から 51 歳まで(夫の年齢)、高学歴化した子どもの扶養に加 え、老親の扶養をかかえる状況にあることを指摘している。このように、老親扶養を世代 間扶養として、しかも家族や親族の範囲で考えるとすれば、近い将来いろいろな矛盾がで てくるのは明らかである。また、現実的に老親扶養を考えてみると、同居する、しないに かかわらず、世界の多くの国々では、介護する者ばかりでなく、介護される者もその多く は女性であることがうかがえる。したがって、老親扶養に関する態度や意識、あるいは、 老親子の相互援助や交渉などについては、女性を対象として、そのなかでの法則性をとら えることがより有意義となるであろう(もちろん、男性についての調査研究が無意味である というものではない)。このような折、先にあげた「三世代女性」を家族内や血縁で連なる リニエイジ(lineage)に限定し、彼女らの扶養に関する態度や意識、あるいは、世代間の相 互交流や役割関係について調査することは、現在から将来にわたって、世代間扶養や公的 サービスの動向を知る手がかりとして、きわめて重要であると考える。 2)調査方法 cross cultural な、しかも社会学的な研究を行うにあたっては、その国々によって文化や 家族のあり方などに微妙なくいちがいがあり、十分留意する必要がある。しかも、どのよ うな分野をどのような質問文を用いて調査するかが、きわめて重要な課題となる。東京都
10
老人総合研究所・社会学部が今回の日米比較調査を行うにあたっては、アメリカ・Turner Geriatric Clinic, University Hospital, The University of Michigan の Mrs. Ruth Campbell が三世代女性の比較研究に深い関心をよせられていたため、日本側の共同研究者 として参加していただき、実査が完了するまで滞在してもらった。したがって、日本側の 調査項目の選択の選定と質問文の作成にあたっては、日米間で比較が可能であると思われ る項目をわれわれが適宜、選びだし、語訳やワーディングなどについては、彼女の意見を 多いに参考にした。また、調査項目としては重要であるが、日本の文化や状況にあわない ものは、むしろ米国の質問文を日本版になおして利用しているものもいくつか含んでいる。 また、さらには米国側の調査票にはないが、明らかに日本の三世代女性を調査するために は、対象をコントロールし、新たに質問文をつけ加えたものもいくつか含まれている。こ のような経過のなかで、日本側の調査の枠組は、被説明変数を大別すると次のような構成 をとっている。すなわち、前述したように、一つは、それぞれの世代が老人になって経済 的、身体的、精神的な援助を受けたいと思うようになったとき、そのようなサービスを誰(家 族や公的サービスなど)に期待しているかを明らかにすることである。二つめは、老年世代 と中年世代の世帯間における相互作用の問題であり、訪問、滞在、手伝い、日用品や金銭 的援助などに関して実際どのようなつきあいが行われているかを探ることである。三つめ は、各世代が日常生活をしていくうえで、どのようなものを共有(または共同)し、また分離 して生活しているかを、物理的なもの(例えば台所、風呂など)から家計、家庭内の役割まで を含めて考えていく。四つめは、老後のくらし方をどのように望んでいるか、即ち、同・ 別居に関わる居住形態の意向や老後における子どもへの期待などが世代や居住形態、職業 などの側面でどのように異なっているかを考える。五つめは、老化、老人扶養や自立・依 存、あるいは性役割に関する態度・意識が世代や世帯の構造によってどのように異なって いるかを明らかにすることである。 さて、以上のような被説明変数を明らかにしたいとすれば、一方では日本の状況にあわせ た説明変数を設定する必要がある。先にのべたように被説明変数を広義にとらえれば、そ れは世代間の扶養や相互作用の問題であった。したがって、それらの規定する変数は、さ まざまであり、それは世代によっても当然異なってくる。例えば、老親側については、配 偶者の有無、住宅、職業、収入、階層、パーソナリティ、子どもの数など、一方、通常な ら扶養する立場にある中年世代については、職業、性別、続柄、収入、住宅、階層、ライ フスタイルなどが考えられる。 われわれは、そのなかで、扶養や同・別居意向についての態度や意識、あるいは老親子 の相互作用に対して変数として最も強い規定力をもっているのは、老親子が同居している か、別居しているかの居住形態であると考えた。したがって、前もって対象を同・別居に わけてサンプリングしようとしたのである。しかし、「現代の重要な家族の変動相は、伝統 的な直系家族性が弛緩して、その 間はざまに夫婦家族制が浸透してきたことに見出されるが、直 系家族制が駆逐されて夫婦家族制に代替されるといった簡単なものではなく、同一の地域
11 ばかりでなく、同一の家族のなかにも両者が共存し、複雑な干渉関係にある」(森岡清美、 1976)といわれる。しかも、居住形態としては、同居・別居の形態ばかりでなく、「準居」、 「同・別居」、「隣居」などといわれるようにその中間形態が、とくに都市部において増加 していることはわれわれがつとに耳にする話である。したがって、対象世帯を簡単に同・ 別居に二分することは、調査をする以前から非常に困難をともなうものであると考えてい た。しかし、また、その一方で、われわれは、二世代の女性を「同居」、「別居」、「中間形 態」に三区分して、その世帯をサンプリングすることは、時間と費用などの点からみてほ とんど不可能に近いと考えていたのである。そこで、われわれは便宜的に居住形態の構造 面に着目してそれらの中間形態は、前もってサンプリングする前に、同居・別居のどちら かの居住形態にふりわけることにし、大きくは同別居で分析し、細部にわたっては、さら にサブグループで分析できるように同居・別居をつぎのように操作的に定義したのである。 つまり、「同居」については、(1)同一敷地内で同棟内のばあい、(2)同じ家屋で 1 階と 2 階 に分かれているばあい、(3)続棟、またははなれで続いているばあい、の三つを、また「別 居」については、(1)別々に住んでいるばあい、(2)同じマンションやアパートに別々に住ん でいるばあい、(3)同一敷地内で別棟になっているばあい、の三つを、それぞれ「同居」、「別 居」と定義したのである。 さて、以上のように、三世代女性のサンプルを「同居」世帯、「別居」世帯に分けたとし ても、つぎに問題となるのは、同・別居それぞれの居住形態のなかで、三世代女性の関係 (triad)をどのような続柄的地位で選ぶかである。 なぜなら、同居世帯といっても、(母-娘-孫娘)あるいは、(姑-嫁-孫娘)、また別居世 帯についても(母)-(娘-孫娘)、あるいは(姑)-(嫁-孫娘)の二種類の関係がそれぞれ存在し ているからである。 そこで、われわれは、三世代同居家族(同居サンプル)については、日本の典型的なパター ンである姑(老年世代=Generation 1、G1)、嫁(中年世代=Generation 2、G2)、孫娘(若年 世代=Generation 3、G3)の三世代女性を選定した。一方、別居サンプルについては、娘が おりながら老人夫婦か、ひとりで暮している母(老年世代=G1)、本人の親と義理の親(夫の 親)の双方と別居している娘(中年世代=G2)、母(G2)といっしょに生活している孫娘(若 年世代=G3)の、いわゆる血縁でつながる三世代の女性を選定することにしたのである。し たがって、別居サンプルは、老親の世帯(G1)と娘の世帯(G2、G3)の二つの世帯から成り立 っている。また、同・別居ともサンプルの年齢は、老年世代が65 歳から 84 歳まで、若年 世代は、高校生以上(15 歳以上)から 29 歳までとし、しかも未婚者に限定した。なおこれら のサンプルの条件を、一覧表にして示すと、表1-1のとおりである。 つぎに、これらのサンプルを抽出するために以下の方法をとった。まず、1980(昭和 55) 年7 月に東京都福祉局が行った「東京都民生行政基礎調査」(以下「親調査」と略す)の調査 標本の中から嫁と同居の「同居サンプル」、娘と別居の「別居サンプル」をそれぞれ抽出し た。同居サンプルにあたっては、直接この標本の中から先の条件にみあった三世代の女性
12 で連なる世帯を、抽出できるので、それをもとにして面接調査を開始した。一方、別居サ ンプルについては、この標本(「親調査」)からは、他出している娘(G2)がいる一人暮らし世 帯の母や老人夫婦のみの世帯の母(老年世代=G1)を抽出できるにすぎない。したがって、 孫娘・ ・(若年世代=G3)を・もって・ ・ ・いる・ ・娘・が・いる・ ・かどうかまでは確認できなかったのである。 表1-1 日本側サンプル抽出条件 同 居 三 世 代 世 帯 老 人 夫 婦 又 は 老 人 単 身 核 家 族 世 帯 別 居 東 京 在 住 東 京 在 住 東 京 及 び 東 京 近 郊 在 住 老年世代(G1) 65~84歳の姑 中年世代(G2) 嫁 若年世代(G3) 15才から29歳の未婚の孫娘(高校生以上) 中年世代(G2) 娘(娘が複数いる場合はG1からみて距離的に近い方を選 択) 若年世代(G3) 15才から29歳の未婚の孫娘(高校生以上) 老年世代(G1) 65~84歳の母 そのため、サンプルとしては、母(老年世代=G1)が生存しており、しかも高校生以上の 未婚の孫娘(若年世代=G3)がいてかつ夫の親とも同居していない娘(中年世代=G2)が東京 周辺にいるかどうか、という情報が必要になる。そこで、われわれは、上記の条件にみあ った別居サンプルをスクリーングするために母(G1)に対して郵送調査を行った。そして、 最終的にえられたサンプルを「別居サンプル」として、面接調査を開始したのである。ま た「別居サンプル」については、東大の大型計算機センターを利用して老年世代(母)と別居 している娘との距離を、①1 時間未満、②1 時間~半日、③半日以上、に大別し、アメリカ 側調査とほぼ同様に 1 日で親子の往き来が出来、相互作用が可能な①と②のサンプルを条 件とした。なお、訪問面接調査は、次のような点に注意を払った。同居サンプルについて は、嫁・姑が同席し、それぞれの解答にバイアスの危険性があると思われたものには、調 査員が二人で訪問し、それぞれ同時に別々の部屋や場所で調査をしたりして、できるだけ その危険性をとりのぞくことにしたのである。また、三世代女性がそろって生存していて も実査の過程で、老年世代が、老人ホームへ入所している場合には、三世代の関係がきわ めて片寄っていると判断し、中年世代、若年世代の調査が可能であっても、その三世代関 係(family triads)は全部、調査不能のケースとして取り扱い調査対象からはずした。この他、 老年世代、若年世代が調査可能であっても、中年世代が留守や長期不在で調査不可能なば あいには、中年世代が相互作用のキーパーソンであると判断していたため、これらの三世 代ケースも分析対象から除外した。したがって、有効対象となった三世代女性は、少なく とも中年世代が調査可能であって、その上に老年世代か、若年世代のどちらかが調査可能
13 な三対一組(family triads)を分析の対象としたのである。こうして、最終的に得られたサン プルは、同居サンプル 394 人(表1-2の(1)+(2)+(3))、別居サンプル 190 人(表1-2の(4) +(5))の 合 計 584 人 であ る 。 そ の う ち 、 完全な 三 世 代 関 係 を な してい る サ ン プ ル (three-generation triads)は、同居サンプルが 122 家族、別居サンプルが 54 家族である。 各世代の内訳は表1-2 に示すとおりである。なお、調査は、1982 年(昭和 57 年)7 月から 8 月にかけて、東京都内(一部、別居サンプルの中年世代、若年世代の世帯は東京近郊の都市 も含む)において行われたものである。 表1-2 日本側サンプルの内訳 老年世代 (G1) 中年世代 (G2) 若年世代 (G3) 計 家族数 実 査 し た サ ン プ ル 同 居 姑―嫁ー孫娘(G1-G2-G3) 122 122 122 366(1) 122 姑―嫁 (G1-G2-G3) 6 6 - 12(2) 6 嫁ー孫娘 (G1-G2-G3) - 8 8 16(3) 8 別 居 母―娘ー孫娘(G1-G2-G3) 54 54 54 162(4) 54 母―娘 (G1-G2-G3) 14 14 - 28(5) 14 計 196 204 184 584 204 2 私的扶養・公的扶養に対する選好度 1)質問文及び選択肢 人間は、加齢(Aging)にともない、老年期になると、自立した生活から多かれ少なかれ他 者に依存を高めていく。もちろん、その依存度は、彼の歩んできた生活史によって随分異 なったパターンを示すであろう。 ところで、依存する態度や意識は、親子(義理関係も含む)の世代間で継承されているのか、 あるいは居住形態(同居・別居)などの要因によって態度や意識にちがいがみられるのであろ うか。 ここでは、老年期に想定される依存の局面を、(1)経済的依存、(2)買物・食事などの 家事的依存、(3)入浴や着がえなどの身体的依存、(4)個人的な相談や話し相手を求める欲求 依存の 4 つ、に分けて考え、以下のことを明らかにしたい。すなわち、もし、老年期にな って、(1)経済的援助、(2)買物・食事などの家事的援助、(3)入浴や着がえなどの身体的ケア、 (4)個人的な相談や話し相手、がそれぞれ必要になったばあい、老年・中年・若年の各世代 が家族や公的サービスに対してどの程度期待しているか、である。 質問紙とそれぞれの選択肢は次のとおりである。 (1)経済的援助について あなたが経済的な援助が必要になったばあい、最も頼りにしたい人はだれですか。
14 (イ) 子ども (ロ) 子どもの配偶者(嫁・むこ) (ハ) 孫 (ニ) 他の親類 (ホ) 友人 (ヘ) 近所の人 (ト) 宗教団体やその他の団体 (チ) 生活保護 (リ) DK、NA (2)家事援助について あなたが、買物、食事の支度などの家事を定期的に手伝ってもらうことが必要になった とき、最も頼りにしたい人はだれですか。 (イ) 子ども (ロ) 子どもの配偶者(嫁・むこ) (ハ) 孫 (ニ) 他の親類 (ホ) 友人 (ヘ) 近所の人 (ト) ボランティア(社会奉仕の人) (チ) 家政婦など自分のお金でやとう人 (リ) 市や区から派遣されるホーム・ヘルパー (ヌ) DK、NA (3) 身体的ケアについて あなたが、入浴や着がえを定期的に手伝ってもらうことが必要になったとき、最も手伝 ってほしい人はだれですか。 (イ) 子ども (ロ) 子どもの配偶者(嫁・むこ) (ハ) 孫 (ニ) 他の親類 (ホ) 友人 (ヘ) 近所の人 (ト) ボランティア(社会奉仕の人) (チ) 自分のお金でやとう看護師か家政婦 (リ) 市や区から派遣される看護師かホームヘルパー (ヌ) DK、NA
15 (4) 相談について あなたが、大切なことをきめるときに相談したり、個人的なことを話しあう人が必要に なったとき、最も頼りにしたい人はだれですか。 (イ) 子ども (ロ) 子どもの配偶者(嫁・むこ) (ハ) 孫 (ニ) 他の親類 (ホ) 友人 (ヘ) 近所の人 (ト) ボランティア(社会奉仕の人)のカウンセラー (チ) 自分のお金を払ってたのむカウンセラー (リ) 市や区の民生委員や相談員 (ヌ) DK、NA 分析方法としては、以下の三つを考える。 ①老年・中年・若年の各世代が 4 つの局面について、それぞれどのような回答の分布を 示しているか、一般に行われているクロス集計による分析 ②老年・中年・若年の各世代が 4 つの局面にわたってどのようなかたちで回答している か、世代ごとの4 つの局面の組合せ(「レスポンス・パターン」と呼ぶ)の分析 ③それぞれの局面ごとに、老年・中年・若年の三世代がどのように関連しながら回答し ているか、いわゆる三世代の回答の組合せ(「レスポンス・セット」と呼ぶ)の分析、である。 図1-1は、②の「レスポンス・パターン」と③の「レスポンス・セット」の分析枠組の 相違を示したものである。横の実線で囲まれている部分が「レスポンス・パターン」の分 析であり、一方、縦に連なった破線で囲まれている部分が、「レスポンス・セット」の分析 である。いうなれば、②の「レスポンス・パターン」の分析は、世代ごとに、多面的な局 面の関連をみていこうとする視点である。これに対して③の「レスポンス・セット」の分 析は、ひとつの局面ごとに、世代的な関連(系譜)をみていこうとする視点に重点をおいてい る。もちろん、「世代」や「居住形態」の変数以外にも、独立変数としては、職業や学歴、 住宅事情、などいろいろ考えられるが、ここではとりあえず省略することにする。また、「世 代」を独立変数とし、意識や態度を分析することについては、とくに若年世代の回答に、 留意しておく必要がある。それは、若年世代が、老年世代や中年世代に比較して、「老後意 識」などに関しては、よりあいまいな回答を示す可能性・ ・ ・が・大きい・ ・ ・からである。なぜなら、 老年世代や中年世代は、直接・間接であれ、あるいは扶養・被扶養の関係であれ、老後の 問題を身近に考えられる世代であるのに対し、若年世代はいまだ自分の家族(生殖家族、 family of procreation)すら形成しておらず、到底そのような問題に関しては、具体的にイメ
16 ージできない層だからである。したがって、より厳密にいうならば、老年や中年世代に対 してのそれらの調査は、「態度調査」(一定の状況に関して個人のなかに形づけられている行 動の準備状態として位置づけられる調査)と呼ぶことができるが、若年世代に対しての調査 は、「態度」の上位概念としてより広義に位置づけられる「意識調査」と呼ぶことができよ う。しかし、いずれにしても、後述するように分析結果には老年・中年・若年の三世代を 通して、一定の法則性が認められることは確かである。 図1-1 レスポンス・パターンとレスポンスセットの分析枠組の相違 3 分析結果 1)各世代の4 つの局面ごとの回答分布 まず、経済的な援助についてみてみよう(表1-3)。質問は、各世代に対して「あなたが 経済的な援助が必要になったばあい、最も頼りにしたい人は誰ですか」というものである。 表1-3によれば、老年・中年・若年の三世代とも圧倒的に「子ども」と「子どもの配偶 者」を合計した「家族」に頼るという傾向が高くなっている。しかし、その比率は老年96%、 中年87.5%、若年 78.4%と世代が下がるにしたがって低くなっている。その一方で、比率 はそれほど高くないが、「生活保護」は逆に世代が下がるにしたがって高くなっている。す なわち、老年1.1%(2)、中年 5.1%(9)、若年 14.2%(25)である。全体的な傾向としては、各 世代とも「家族」に頼るという傾向がきわめて強いが、世代が低くなるにしたがって、公 的な扶養に頼りたいという傾向もまた強くなっている。また、世代間での態度、意識のギ ャップは、老年と中年、中年と若年、老年と若年の間でそれぞれ有意であるが、とりわけ その差が大きいのは、老年と若年の間でのギャップである。
17 表1-3 経済的援助について
( 数 字 は す べ て 実 数 、 ( ) 内 は % )
老年
146 (83.0)
23 (13.1)
169 (96.0)
2 (1.1)
5 (2.8)
176 (100.0) 老年と中年P<0.05
中年
152 (86.4)
2 (1.1)
154 (87.5)
9 (5.1)
13 (7.4)
176 (100.0) 中年と若年P<0.05
若年
137 (77.8)
1 (0.6)
138 (78.4)
25 (14.2)
13 (7.4)
176 (100.0) 老年と若年P<0.01
注:実数は、すべてリニエイジで連がるもののみ(176ケース)を対象としている。
その他
計
子供
子供の配偶者
小計
家族
生活保護
表1-4 家事援助について( 数 字 は す べ て 実 数 、 ( ) 内 は % )
老年
58 (33.0)
107 (60.8)
165 (93.8)
4 (2.3)
7 (4.0)
176 (100.0) 老年と中年P<0.05
中年
147 (83.5)
9 (5.1)
156 (88.6)
16 (9.1)
4 (2.3)
176 (100.0) 中年と若年P<0.05
若年
127 (72.2)
10 (5.7)
137 (77.8)
25 (14.2)
14 (8.0)
176 (100.0) 老年と若年P<0.01
注:実数は、すべてリニエイジで連がるもののみ(176ケース)を対象としている。
家族
ボランティア
ホームヘルパー
その他
計
子供
子供の配偶者
小計
表1-4は、買物・食事などの家事的援助についてみたものである。質問は、「あなたが、 買物、食事の支度などの家事を定期的に手伝ってもらうことが必要になったとき、最も頼 りにしたい人は誰ですか」というものである。これも、経済的援助のところと同様に、老 年・中年・若年の三世代とも、「子ども」と「子どもの配偶者」を合計した「家族」に頼り たいという割合が圧倒的に高くなっている。すなわち、老年93.8%(165)、中年 88.6%(156)、 若年77.8%(137)である。さらに、その内訳を検討してみると、中年世代、若年世代は、と もに本人の「子ども」を頼りたいという傾向が高くなっているのに対し、老年世代は、現 実を反映してか、「子どもの配偶者」をあげる者が176 人中 107 人と、きわめて高くなって いる。 また、「ボランティア・ホームヘルパー」などの公的サービスに頼りたいという者は、老 年2.3%(4)、中年 9.1%(16)、若年 14.2%(25)、となっており、世代が若くなるにつれて高18 くなっている。したがって、「家事的援助」についての世代間でのギャップは、「経済的援 助」のところと同様、老年と中年、中年と若年、老年と若年のそれぞれの世代間で有意差 が認められるが、とりわけ、その差は老年と若年の間で大きいことがうかがえる。 表1-5 身体的ケアについて
( 数 字 は す べ て 実 数 、 ( ) 内 は % )
老年
53 (30.1)
107 (60.8)
160 (90.9)
4 (2.3)
12 (6.8)
176 (100.0) 老年と中年P<0.01
中年
140 (79.5)
9 (5.1)
149 (84.7)
24 (13.6)
3 (1.7)
176 (100.0) 中年と若年N.S
若年
122 (69.3)
9 (5.1)
131 (74.4)
38 (21.6)
7 (4.0)
176 (100.0) 老年と若年P<0.01
注:実数は、すべてリニエイジで連がるもののみ(176ケース)を対象としている。
計
子供
子供の配偶者
小計
家族
ボランティア
ホームヘルパー
その他
表1-5は、身体的ケアについてみたものである。質問は、「あなたが、入浴や着がえを 定期的に手伝ってもらうことが必要になったとき、最も手伝ってほしい人は誰ですか」と いうものである。ここでの傾向も、「経済的援助」、「家事的援助」のところと同様、世代が 下るにしたがって、「家族」に頼りたいという割合が低くなり、反対に「ボランティア・ホ ームヘルパー」などの公的サービスに頼りたいという傾向が高くなっている。すなわち、「家 族」に頼りたいという割合は、老年90.9%(160)、中年 84.7%(149)、若年 74.4%(131)、「ボ ランティア・ホームヘルパー」に頼りたいという割合は、老年2.3%(4)、中年 13.6%(24)、 若年21.6%(38)である。また、その内訳は、「家事的援助」のところと同様、中年世代・若 年世代の双方とも「家族」のなかでも「子ども」に頼りたいという傾向が高いのに対し、 老年世代は「子ども」よりもむしろ「子どもの配偶者」をあげる人がきわめて多い。これ も前述したように、現実的な状況を反映した結果であろう。ただし、いずれにしても老年 と中年との間に、危険率1%水準で有意差が認められるが、中年と若年の間には有意差が認 められない。したがって、三世代の中でも、老年世代と中年以下の世代との間で、身体的 ケアについてのニードに大きなちがいがみられるようである。 表1-6は、個人的な相談や話し相手についてみたものである。質問は、「あなたが、大 切なことをきめるときに相談したり、個人的なことを話し合う人が必要になったとき、最 も頼りにしたい人はだれですか」というものである。「家族」を頼りたいという合計は、老 年97.7%(172)、中年 86.9%(153)、若年 63.1%(111)である。老年世代は、「家族」以外に頼 りたいという者は、176 人中、4 ケースのみ(内訳は、「その他」3 ケース、「カウンセラー・ 民生委員・相談員」1 ケース)である。また、「友人」に頼りたいという傾向は、「家族」に 頼りたいという傾向が、世代が下るにしたがって低くなるのに反比例して、逆に高くなっ19 ている。すなわち、「友人」に対する比率は、老年0.0%、中年 5.7%(10)、若年 33.5%(59) である。とくに、若年世代に「友人」の比率が高くなっているのは、現実的にはリソース として、「家族」以外には「友人」しか考えられない状況があるからであろうか。しかし、 いずれにしても、個人的な話しや相談については、三世代とも、カウンセラーや民生委員、 相談員などに対するニードはきわめて低くなっているのが実情である。したがって、各世 代とも、「相談」については、「経済的援助」、「家事的援助」、「身体的ケア」に対するニー ドとはやや異なった側面をもっており、「カウンセラー・民生委員・相談員」のような公的 サービスに対しては、ほとんど期待しておらず、なじみが薄いようである。ただ、世代的 なギャップについては、各世代間に危険率1%水準で有意差がみられ、それだけ世代間で「相 談」についての態度・意識に差の大きいことがうかがえる。 表1-6 相談について
( 数 字 は す べ て 実 数 、 ( ) 内 は % )
老年
147 (83.5)
25 (14.2)
172 (97.7)
1 (0.6)
3 (1.7)
176 (100.0) 老年と中年P<0.01
中年
151 (85.8)
2 (1.1)
153 (86.9)
10 (5.7)
2 (1.1)
11 (6.3)
176 (100.0) 中年と若年P<0.01
若年
110 (62.5)
1 (0.6)
111 (63.1)
59 (33.5)
2 (1.1)
4 (2.3)
176 (100.0) 老年と若年P<0.01
注:実数は、すべてリニエイジで連がるもののみ(176ケース)を対象としている。
―
家族
友人
カウンセラー
民生委員
相談員
その他
計
子供
子供の配偶者
小計
2)世代ごとの4 つの局面の組合せ(「レスポンス・パターン」)の分析 老年・中年・若年の各世代が、経済的援助、家事的援助、身体的ケア、個人的な相談や 話し相手など、4 つの局面にわたってどのような形で回答しているか、世代ごとに各局面の 関連をみていこう。表1-7は、世代別レスポンス・パターンを示したものである。これ は、前述したクロス集計の結果について、さらに 4 つの局面を結びつけて集計したもので ある。「すべて子どもに頼る」、「経済・相談は子ども・家事・身体的ケアは子の配偶者」、「す べて子どもの配偶者」、「(1)、(2)、(3)以外の組合わせで、すべての家族・親族に頼る」を合 計した、何らかのかたちで家族・親族に頼りたいという割合は、老年88.0%(155)、中年 79.5% (140)、若年 51.1%(90)となっている。つまり、それぞれの世代間で有意差があり、世代が 下ることによって、明らかに家族・親族に頼りたいという割合は低くなっている。また、「家 族・親族」の内訳をみると、中年世代と若年世代は「すべて子どもに頼る」という割合が、 それぞれ 64.2%(113)、43.8%(77)を占め、圧倒的に多くなっている。これに対し、老年世 代は「経済・相談は子ども、家事・身体的ケアは子どもの配偶者」に頼りたいとする者が 37.5%(66)を占め、老年期の特徴ある姿を示している。つまり、老年期は、実生活の面にお20 いても経済的な依存や情緒的な依存は子どもへ、また家事や身体的ケアについては子ども の配偶者へ頼る者が圧倒的に多く、態度・意識に関してもそれが如実に反映している傾向 がうかがわれる。 表1-7 世代別レスポンス・パターン ( 数 字 は す べ て 実 数 、 ( ) 内 は % ) 老年 38 (21.6) 66 (37.5) 12 (6.8) 39 (22.2) 1 (0.6) 1 (0.6) 19 (10.8) 176 (100.0) 老年と中年P<0.01 中年 113 (64.2) 5 (2.8) 22 (12.5) 4 (2.3) 7 (4.0) 4 (2.3) 6 (3.4) 15 (8.5) 176 (100.0) 中年と若年P<0.01 若年 77 (43.8) 3 (1.7) 10 (5.7) 23 (13.1) 6 (3.4) 12 (6.8) 11 (6.3) 34 (19.3) 176 (100.0) 老年と若年P<0.01 注:実数は、すべてリニエイジで連がるもののみ(176ケース)を対象としている。 ( 1 ) す べ て 子 供に頼る ( 2 ) 経 済 ・ 相 談は子供、 家事・身体 的ケアは子 の配偶者 ( 3 ) す べ て 子供の配 偶者 (1)(2)(3)以 外組合せで すべて家族 経済・家 事・身体的 ケアは子 供、相談は 友人 ― ― 経済・生 保、家事・ 身体的ケア は公的サー ビス、相談 は家族・友 経済・家事は 子供、身体的 ケアは公的 サービス、相 談は家族・友 人 その他 計 経済・相談 は家族、親 族、友人家 事・身体的 ケアは公的 サービス ― ― 3)三世代の回答の組合わせ(「レスポンス・セット」)の分析 「経済的援助」、「家事的援助」、「身体的ケア」、「個人的な相談や話し相手」のそれぞれ4 つの局面について、老年・中年・若年の三世代がどのように関連しながら回答しているか、 世代的な関連(系譜)について、同・別居別にみてみよう(表1-7)。ただしここで、留意し ておきたいことは、同居サンプルと別居サンプルの「リニエイジ」が異なるという点であ る。したがって、それらを念頭におきながら比較することにしたい。まず、同・別居別経 済的援助について検討してみよう(表1-8)。 表1-8 経済的援助について ( 数 字 は す べ て 実 数 、 ( ) 内 は % ) 同居 69 (56.6) 14 (11.5) 9 (7.4) 2 (1.6) 15 (12.3) 2 (1.6) 2 (1.6) 9 (7.4) 122 (100.0) 老年と中年P<0.01 別居 32 (59.3) 4 (7.4) 2 (3.7) 5 (9.3) 3 (5.6) 1 (1.9) 7 (13.0) 54 (100.0) 中年と若年P<0.01 計 101 (57.4) 18 (10.2) 9 (5.1) 4 (2.3) 20 (11.4) 5 (2.8) 3 (1.7) 16 (9.1) 176 (100.0) 老年と若年P<0.01 注:実数は、すべてリニエイジで連がるもののみ(176ケース)を対象としている。 ― 老年は子、 中年・若年 は生保 その他 計 ( 1 ) 各 世 代 と も子供 ( 2 ) 老 年 は 子 の配、中 年・若年は 子 ( 3 ) 老 年 は 子、中年 は親類、 若年は家 族か親族 (1)(2)(3)以 外の組合せ で各世代と も、家族か 親族 老年・中年 は子か子の 配、若年は 生保 老年は子、 中年は生 保、若年は 家族か友人 同・別居とも、最も頼りにしたい対象は「各世代とも子ども」が最も多く、それぞれ56.6% (69)、59.3%(32)となっている。つまり、世代にかかわらず、同別居とも「子ども」に頼り たいとする者が約6 割近く存在しているのである。また、これについで多いのが、「老年・ 中年は子どもか、子どもの配偶者、若年は生活保護」や「老年は子どもの配偶者、中年・ 若年は子ども」のカテゴリーであり、同居で約1 割強、別居で約 1 割弱となっている。し