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老夫婦のみの世帯の追跡研究

第7章 大都市における老夫婦のみの世帯の追跡研究

3 老夫婦のみの世帯の追跡研究

以上のような欧米の研究から、一転して目本の研究に目をむけると、これまでは先にあ げた追跡研究以外の研究はほとんどみあたらないのが実状である。特に、家族変化の激し い大都市のなかでの老夫婦のみの世帯の動向については、センサス(census)類を利用した 把握にとどまっているのが現状である。その意味から、この追跡研究の意義はきわめて大 きいと考えられる。

また、調査対象地として東京都足立区を選定したのは、東京都のなかでも老夫婦のみの 世帯が著しく増加している地域であること、また経済的にみると1世帯当りの生活水準が

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東京都23区では最も低いこと、したがって持ち家率も低く、住宅状況の視点からも分析 が可能であることなどが考えられたからである。

以下、調査の方法と結果をみていくことにする。

1)調査の対象と調査方法

第1回の調査(Wave Ⅰ)は,1986(昭和61)年に、東京都足立区において住民基本台帳から ランダムサンプリングした660の「老夫婦のみの世帯」(65~75歳の妻がいる老夫婦のみ の世帯)の妻を対象にして、彼らの生活状況を明らかにすることを目的として、面接調査を 実施した。調査の項目は、健康状態,居住状況、生活時間(労働時間、生活必需時間、余暇 時間)とその内容、夫婦関係、家庭内役割、職業、子ども・友人・近隣との関係、社会福祉 サービスとのかかわりなどについてである。

第2回の調査(Wave Ⅱ)は、1990年に、4年前に調査した660の老夫婦のみの世帯を対 象にして、彼らの生活のどのような側面に変化がみられたのかを追跡調査(訪問面接調査) した(4年間という期間を設定したのは、特別な理由があったわけではなく便宜的なもので ある)。

表7-1 標本数と回収不能の内訳

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対象夫婦世帯のなかで、転居(居住地の移動)や、夫婦のうちどちらかが病気したり死亡 したりしているケースも考えられたので、調査の手順はつぎのような方法をとった。

まず、660ケースの対象者に郵送で事前に住所の確認をとった。住所不明で手紙がもど ってきたものに対しては、区役所に住民票の除票申請を提出して住所の確認をとった。

その結果、660ケースのうち5ケースが住所不明で居住地がつかめず、最終的に655ケ ースが標本数となった。

こうして、老夫婦のみの世帯のうち少なくともどちらか一方でも得られた回収数は、655 ケ一ス中539ケース(82.3%)である。標本数と回収不能の内訳は、表7-1の通りである。

2)分析方法

分析は、目的変数として、子どもとの同別居、子どもとの同居の経緯、現在居住してい る住宅の種類、1か月の生活費、子どもとのつきあい関係(子どもへの訪問回数と子どもか らの訪問回数) 、近所づきあいの程度、親しい友人の有無、独立変数としては、老夫婦の 生存状況と転居の有無,移動先,住宅状況などが考えられた。

(1)目的変数

① 子どもとの同別居に関しては、対象者に、「4年前と同じように,現在もあなたがご夫 婦だけで住んでいますか。それともお子さんと一緒にお住まいですか」という質問をし、

(ア)夫婦ふたりだけで住んでいる、(イ)ひとりで住んでいる、(ウ)子どもとは同一屋敷内で 同棟内に住んでいる、(エ)子どもとは同じ家屋で1階と2階に住んでいる、(オ)子どもとは 同一屋敷内で別棟になっている(庭続き) 、(カ)子どもとは同じマンションやアパートに 別々に住んでいる、(キ)子どもとは続き棟または離れで続いている、の 7 つのバリエーシ ョンを考慮した。(ア)と(イ)を別居、(ウ)から(キ)を同居とした。

② 子どもとの同居の経緯(子と同居した対象者に)については、(ア)子どもが自分(達)の 家に同居、(イ)自分(達)が子どもの家に同居、(ウ)自分(達)と子どもが共に新居に移動、の 3つで把握した。

③ c 現在居住している住宅の種類については、「持ち家(一戸建)」、「持ち家(分譲マンシ ョン、公社・公団の分譲)」、「民間借家(一戸建)」、「民間木造賃貸アパート」、「民間鉄筋賃 貸アパート・マンション」、「間借り」、「都営一種」、「都営二種」、「公社・公団の賃貸住宅」、

「社宅・寮・官舎などの給与住宅」、「その他」とし、大きくは、「持ち家」と「借家」に大 別した。

④ 1か月の生活費については、合計でどのくらいかかっているかを直接回答してもら い、その金額を平均して算出した。

⑤ 子どもとのつきあい関係については、「子どもへの訪問回数」と「子どもの訪問回数」

の2つを作成し、選択肢は、「ほとんど毎日」、「週に 1~2回」、「月に1~2回」、「年に数 回」、「ほとんど行かない」の5段階で把握した。

⑥ 近所づきあいの程度については、「気軽に行き来したり、親しく話をするくらいのつ

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きあい」、「ときどき世間話をするようなつきあい」、「会えばあいさつする程度のつきあい」、

「ほとんどつきあいはない」の4段階で測定した。

⑦ 親しい友人の有無については、親しい友人の有無を聞き、「いる」、「いない」で区分 した。

(2)説明変数

説明変数については、夫婦の生存状況と転居の有無・移動先、および住宅状況(目的変数 の項と同じ)の3つを取り上げた。また、「夫婦の生存状況」については、「夫婦とも生存」

「妻生存・夫死亡」「妻死亡・夫生存」の3つの選択肢を採用し、転居については、「前の 調査時と同じ」と「住所移動あり」に2区分し、さらに、その移動先を、「同じ町内」「足 立区内」「東京都区内」「埼玉・千葉・神奈川」「その他の県」に分けたが、説明変数として は、「移動なし(転居なし)」と「移動あり(転居あり)」に2区分し、さらに、「移動あり」を

「都区内」、「埼玉・千葉(神奈川への移動は 1 世帯もなかった)」、「その他の県」で分析す ることにした。

分析対象者は、子どもとの関係に焦点をおいたため、同別居の形態にかかわらず子ども のいる世帯(N=492)を主な対象とした。

3)調査結果

(1) 夫婦の生存状況と子どもとの同別居移行について

第2回の回収数 539 ケースのうち夫婦の生存状況についてみると、「夫婦とも生存」

81.8%(441) 、「妻生存・夫死亡」14.8%(80) 、「妻死亡・夫生存」3.3%(18)であった。そ

のうち、子どものいる世帯は492世帯であった。

表7-2は、老夫婦の生存状況と子どもとの同別居移行について検討したものである。

表7-2 老夫婦の生存状況と子どもとの居住形態

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夫婦の生存状況にかかわらず、全体では、4年前と同様、現在も子どもとは別にくらし ている対象者が「夫婦二人」と「ひとりぐらし」の総計で8割を超えていることが明らか になった。一方、別居から同居へ移行したケースは、490ケース中87ケース(17.8%)にの ぼっているが、子どもとの同居の具体的な住み方のパターンは、「同一敷地・同棟内」

(5.8%) 、「同じ家屋で1階と2階」(7.6%)、「同一敷地内・別棟」(0.9%)など多様な形態を

とっていた(表略)。しかし老夫婦(4年前の状況)の子どもとの同居移行の割合は、χ2検定 した結果,夫婦の生存状況によって大きく異なっていることが示唆された。つまり,「夫婦 とも生存」している場合には13.3%が予どもとの同居へ移行しているにすぎないのに対し、

「妻生存・夫死亡」の場合は36.1%,

「妻死亡・夫生存」の場合は53.8%が同居へ移行しているのである。それは、夫婦が共に 生存しているより夫婦のどちらかが欠けた場合に、より子どもとの同居への移行が高まる こと(<.001) 、しかもそれは妻だけが残される(widow)より夫だけが残される(widower) 場合の方が、子どもとの同居への移行が高まること(<.001)が示唆されたのである。

別ないい方をすれば、夫婦のうちどちらかが欠けた場合でも、寡婦のときの方が寡夫の ときより子どもとは同居せず一人暮らしとしてとどまっている割合が高いことを示してい るといえる。ただし、この傾向はケースが少なく(特に,妻死亡のケースが13ケースと少な いため) 、一般化するには注意が必要であり、今後の課題であるともいえよう。

(2)転居の有無・移動先別にみた現在の住宅状況

子どものいる「老夫婦のみの世帯」492ケース中、第1回の調査時と同じ住宅に居住し ている世帯の割合は9割弱(432世帯)で圧倒的に多く、「移動している」世帯は1割強にす ぎない(表7-3)。

表7-3 転居の有無、移動先別現在の住宅状況

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また、移動している老夫婦世帯の全体的な傾向を4年前と同じ住宅に居住している老夫 婦世帯(「移動なしの世帯」)と比較してχ2 検定を行った結果「移動なしの世帯」よりも、

移動している老夫婦世帯の持ち家率が低く、しかもその約半数は借家への移動であること が理解できる(<.001)。また、その移動先は「都区内」と近郊の「埼玉・千葉」がほと んどであった。米国のように社会経済的に高い階層の老夫婦が、まだ夫婦とも元気でいる ときに冬の寒い期間は暖かい地方へ、また夏の暑い期間は北へ帰るというような、いわゆ る“わたり鳥”(snowbirds)のような習慣(Krout.J、1983)は全くなく、夫婦の片方が亡 くなったり、病気になったりした場合に子どもの家の近くに移住するケースが若干みられ る程度である。

ただし、老夫婦のみの世帯の移動先との関連で現在の住宅状況を「持ち家」と「借家」

に二区分し、それらについて、χ2検定した結果をみると、以下のような傾向がみられる。

つまり、「都区内」への移動は、「持ち家」への移動というよりは,むしろ「都営・公団」や

「民間借家(アパート・マンションを含む)」などの借家へ、また「埼玉・千葉」への移動 は逆に「持ち家」への移動が圧倒的に多いということである(<.001)。したがって、「都 区内」と近郊の「埼玉・千葉」への移動では基本的にはその移動理由が異なるように考え られる。つまり、ケースにさかのぼってより具体的に検討してみると、老夫婦の「都区内」

への移動は、都営住宅の建て替えや民間アパートの立ち退きのために、これまで居住して いた住宅に住むことができず、やむをえず移動しなげればならない世帯である。これに対 して「埼玉・千葉」や「その他の県」への移動は、住宅の名義が本人(あるいは本人夫婦) であるか子どもであるかは別にして、持ち家への移動がほとんどである。しかも後にみる ように、これらの移動は子どもとの同居に関連した移動(別居世帯であっても、子どもの居 住地の近くに居住している者が多い)が圧倒的に多いのである。

したがって、より端的にいえば、都区内への移動は子ども世帯とはどちらかというと別 居というパターンを続けながら「都営・公団」住宅への移動であるのに対し、「埼玉・千葉」

への移動は子どもと同居への移行を目的とした「持ち家」への移動が多いということにな る。ただ、これらの傾向はケースが少なく、断定した結論をだすのは早計であるといわざ るをえない。

(3)住宅状況(第1回調査)・夫婦の生存状況と子どもとの同別居移行

それでは、第1回の調査時点において、「老夫婦のみの世帯」の住宅状況(4年前)が、持 ち家であったのか、それとも借家であったかによって子どもとの同居移行が異なるのであ ろうか(表7-4)。というのは、大都市では近年の著しい地価の高騰により、それは老親 の経済的指標のひとつであると考えられなくもないからであり、したがってその状態はそ の後の子どもとの同別居移行に何らかの関連がみられると考えられるからである。

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表7-4 住宅状況(第1回調査)・夫婦の生存状況別子どもの居住形態

比率の差の検定やχ2検定を行った結果は以下の通りである。

1に、全体的な傾向としては,1 回目の調査時点において、「持ち家」に居住していた 老夫婦のみの世帯は、「借家」に居住していた世帯よりも「子どもと同居」する傾向がやや 高いということである(比率の差の検定;z=1.83、<0.1)。

第2に、1回目の調査時点において、住宅状況が「持ち家」であったか「借家」であっ たかにかかわらず、夫婦のうちのどちらかが欠けた場合には、夫婦とも生存している場合 よりも、「子どもと同居」する傾向がみられるということである。別ないい方をすれば、夫 婦とも依然、健在である場合には、4年前の住宅状況が「持ち家」であったか「借家」で あったかにかかわらず、現在(2回目の調査時点)でも「子どもと同居」をしないで「夫婦 二人」で生活している者が圧倒的に多いということである(χ2検定;<.001)。

第3に、1回目の調査時点において老夫婦の住宅状況が「持ち家」であったか「借家」

であったかによって、子どもとの同別居移行に若干の差異がみられるのは、現在でも「夫 婦とも生存」している世帯の場合であり、以下のような特色がみられる。

つまり 、「夫婦とも生存」している場合には、4年前に「借家」世帯であった夫婦より も、「持ち家」世帯であった夫婦に子どもとの同居へ移行する傾向がより高くみられるとい うことである(<.01)。

もし、「持ち家」、「借家」という住宅状況がその世帯の階層を決定する経済的指標のひ とつであると考えることができるなら、相対的には階層の低い「借家」世帯より階層の高 い「持ち家」世帯に、老夫婦の「どちらかが欠ける」以前に、同居できる条件が整ってい ると考えられなくもない。また、子ども側からみた場合、老夫婦とも生存しているときの 同居を、相対的な意味での「選択的同居」、老夫婦のどちらかが欠けたときの同居を「扶養

型同居」(必ずしも子ども側が自家に引き取る場合だけでなく、老親のところへ移動して同

居する場合をも含む)と名づけるなら、持ち家世帯に、より「選択的同居」が多いというこ