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第 8 章 遷音速流 77

8.2 高速翼

高速の翼では、主流が主翼にまともに当ると衝撃波が強くなり、その結果抵抗が増大するため、ほ とんどが後退角(Sweptback angle)を持っている。後退角とは、翼前縁とy軸(スパン方向)とのな す角であり、遷音速機はΛ35の値を持つ。A310ではΛ = 28、ノースロップ・グラマンの爆撃 機B2(Bomber;最大速度M=0.8)はΛ = 33、B747(B747-400の巡航速度はM=0.85)でΛ = 37.5

である。一方、超音速では、M = 1.4で後退角はΛ = 45程度、M = 2でΛ = 60程度である。コ ンコルド(巡航速度(cruise speed)はM=2.02)はΛ = 75の後退角を持っている。

後退翼は翼前縁に垂直方向のマッハ数成分Mn=Mcos Λを小さくするために採用されている。

この成分が1より大きいか小さいかで流れのパターンが異なる。

Mn<1であれば、亜音速前縁 (Λが大きい場合)

Mn>1であれば、超音速前縁 (Λが小さい場合) 通常は、亜音速前縁が望ましい。

ちなみに、後退角と同じ効果を持つものに、前進角がある。実験機X-29(1984年)がその例である。

前進翼(forward-sweep wing)は構造的にはダイバージェンス特性が厳しい。つまり、動圧が増加す

ると回転角が無限大となる悪い特性が発生する。一方、後退角の場合には、翼端剥離(翼端失速)が 発生する。これを防ぐために、通常は翼を翼端に行くほどねじり下げ(washout)をつけ、翼端に行く ほど、迎角を小さくする。

遷音速空気力学(transonic aerodynamics)は、1970年代に入ると急速に発展した。例えば、ピー キー翼(peaky翼)が提案され、ピーキー翼は前縁付近で曲率半径を大きくし(bluntにする)、そ こで発生する膨張波で翼面上に発生する衝撃波を弱めている。また、PearceyとWhitcombによる 衝撃波のない超臨界翼(shock-free supercritical wing)が提案され、遷音速領域の低速側での性能を 向上させることに成功した。

(参考) Richard T. Whitcomb(1923-2009; NASA)は歴史に残る下記のものを開発し、航空科学技 術に莫大な貢献をした。

遷音速エーリアルール(transonic area rule)

超臨界翼(supercritical wing)

翼端小翼(winglet)

8.2.1 ピーキー翼 (peaky airfoil)

ピーキー翼(Peaky airfoil)は、1962年に英国のNPL(Natiobal Physical Laboratory)でPearcey により開発された。実際には、DC8, DC9, A300B、また英国の航空機で使用された。翼の前縁部に 部分的な超音速流による圧力分布のピークを作り、そこで発生する膨張波を利用して、その後に発生 する衝撃波を弱め、造波抗力を減少させている。このように上面の前縁近くで圧力のピークがあるた めに、ピーキー翼と呼ばれる。低燃費のみならず、主翼後退角を小さくできるので、操縦性や安定性 が向上する。例えば、ピーキー翼が、厚み比τ = 0.08の場合、一様流マッハ数がM = 0.73のと

き、CL= 0.77となる。この場合の上面での圧力分布は、前縁でCpが-1.6程度まで下がり(ピーク

となる)、その後、後縁に向かって、直線的に圧力が増大し、後縁ではCpが正の値をとる。

(参考)H.H.Pearcey, ” The Aerodynamic Design of Section Shapes for Swept Wings,” Advances in Aeronautical Sciences, Pergamon Press, Oxford, Vol. 3, 1962.

8.2.2 超臨界翼

通常の翼では、マッハ数が増加すると、局所的に超音速領域(supercritical region)が生じる。ここ を通った流れが亜音速に戻るときに衝撃波が発生する。亜音速になり、圧力回復が起こり、理想的に は後縁で澱み圧に達する(実際には境界層があるために境界層の外側の流れは後縁点付近で澱むこ となくそのまま下流方向に流れ過ぎてします。その結果、圧力は澱み圧まで上昇しない、別の言い方 として、澱み圧まで回復しない)。翼表面上で超音速になった流れを等エントロピー的に速度を0に すると、後縁での澱み圧に到達することが出来ない。そこで、途中で衝撃波が発生し、圧力を上げる ことになる。これが、翼面上で衝撃波が発生する理由である。

翼面上で衝撃波が発生すると、衝撃波直後に急激に圧力が上昇する。その結果、境界層が剥離し、

揚力が低下し、抵抗が増大する。ちなみに、翼表面での境界層の剥離には2種類あり、一つは、ここ で述べたような衝撃波と境界層の干渉であり、もう一つは、翼の後縁で起こる剥離である。

マッハ数を亜音速状態で上昇させたときに、この衝撃波が急速に強くなるときの、一様流のマッハ 数を抵抗発散マッハ数(MDD; Drag Divergence Mach number)と呼ぶ。あるいは、衝撃失速(shock

stall)が起こるマッハ数を抵抗発散マッハ数と呼ぶ。飛行機の翼としては、この抵抗発散マッハ数を

大きくすることが課題である。これにより少しでも大きいマッハ数で飛ぶことが出来る。飛行機の効 率は、M×L/Dに比例すると言われている。マッハ数を上げることは大事なことである。ちなみ に、衝撃波が生じると抵抗が大きくなるとともに、揚力も急減し(lift divergence)、モーメントも大 きく変化する。

このようなことに対処するため、超臨界翼(supercritical wing)が、NASA Langley研究所のRichard

Whitcombにより1964年開発された。これにより、抵抗発散マッハ数を通常の翼型の1214%増

加させることが可能となった。例えば、通常の翼型であるN ACA641212(6シリーズの翼型は翼 面上に現れる超音速流を弱めるための翼型で、最後の12は12%の厚み比を表す)では、MDD0.7 であるのに、超臨界翼ではMDD0.81である。

超臨界翼(スーパークリティカル翼)の特徴は

大きな前縁半径(blunt nose;構造的な面や、燃料タンクとしてメリットがある)

上面あるいは下面の真ん中辺りは大きな曲率(つまりフラット)

厚みのある後縁と小さな後縁角

下面後半部の凹み

例えば、超臨界翼は厚み比はτ= 0.11で、巡航速度M= 0.8での揚力係数は、CL = 0.61である。

ピーキー翼をさらに進歩させて、衝撃波の位置を翼の後縁部に来るようにした。翼表面上での超音 速領域を広げ、飛行速度を音速に近づけた。巡航速度M= 0.8、揚力係数CL= 0.61のとき、上面 の圧力係数は、Cpが約-0.8のほぼ一定の領域が、翼弦長の7割ぐらいまで存在する。つまり、圧力 分布はフラットになる。

1965年にNASAで考案され、1969年NASAが、Whitcombの考えた超臨界翼を、Vought F-8

Crusaderで実験機として飛ばすことを表明した。19711972年に各国で特許が出願された。

同じ翼厚比でも、巡航マッハ数を15%増加できる。同じ巡航マッハ数であれば、抗力を増さない で、構造重量を減少できる。例えば、DC10, L1011, C5Aで採用されている。