第 8 章 遷音速流 77
8.5 遷音速相似則
通常、微小擾乱理論では、流れのマッハ数M∞は固定した状態で、翼の厚み比τをτ→0にするこ とができる。これに対して、遷音速擾乱理論では、τ→0にしたとき、一様流のマッハ数もM∞→1 にもっていくと考える。
8.5.1 遷音速相似パラメータ
相似則は、例えば、2つの流れの間の力学的相似であり、最初に、von Karmanにより導かれた。
遷音速流における微小擾乱方程式は、式(8.8)を3次元に拡張すると、
(1−M∞2)∂2ϕ
∂x2 +∂2ϕ
∂y2 +∂2ϕ
∂z2 =−M∞2(γ+ 1) V∞
∂ϕ
∂x
∂2ϕ
∂x2 (8.20)
となる。一様流のマッハ数が1に近づくと、左辺だけの線型方程式は不正確となるので、この非線型 方程式を用いる。ここで、xは主流方向、yはスパン方向、zは厚み方向である。
式(8.20)の無次元化を考える。
(1−M∞2) ˜ϕ X2
∂2ϕ
∂x2 + ϕ˜ Y2
∂2ϕ
∂y2 + ϕ˜ Z2
∂2ϕ
∂z2 =−M∞2(γ+ 1) ˜ϕ2 V∞X3
∂ϕ
∂x
∂2ϕ
∂x2 (8.21)
ここで、各量は以下の有次元量を用いて無次元化されている。
x→X, y→Y, z→Z, ϕ→ϕ˜ (8.22)
実験条件が異なっていても、同じ式で表されるためには、係数間の比が同じでなければならない。
(1−M∞2) ˜ϕ X2 :
ϕ˜ Y2 :
ϕ˜
Z2 : M∞2(γ+ 1) ˜ϕ2
V∞X3 = const (8.23)
支配方程式だけでなく、境界条件も2つの流れで同一である必要がある。
w
V∞ =τ ∂
∂(x/l)f (x
l, y b )
(8.24) ここで、τは厚み比である。左辺は、微小擾乱理論では
w V∞ =
(∂ϕ
∂z
)
z=0
V∞ (8.25)
となる。従って、式(8.24)は、
ϕ˜ V∞Z
(∂ϕ
∂z )
z=0
=τ ∂
∂(x/l)f (x
l, y b )
(8.26) となる。ここで、l→X, b→Y に相当する。式(8.26)より、2つの流れが相似であるためには、
ϕ˜ V∞Z
τ = const (8.27)
となる必要がある。
式(8.23)で、xとz方向の関係を考える。つまり、第1項と第3項の関係を考える。
(1−M∞2) ˜ϕ X2 :
ϕ˜
Z2 = const (8.28)
従って、
(1−M∞2)Z2
X2 = const =C2 → Z = CX
(1−M∞2)1/2 (8.29) となる。ここで、一定値をC2と置いている。式(8.29)を式(8.27)に代入すると
ϕ˜ V∞
1 τ
(1−M∞2)1/2
X = const (8.30)
となる。
また、式(8.23)の第1項と第4項の関係より (1−M∞2) ˜ϕ
X2 : M∞2(γ+ 1) ˜ϕ2
V∞X3 = const → ϕ˜
V∞X ·M∞2(γ+ 1)
1−M∞2 = const (8.31) となる。式(8.30)を式(8.31)で割ると
(1−M∞2)3/2
M∞2(γ+ 1)τ = const (8.32)
となる。この式を2/3乗すると
1−M∞2
[M∞2(γ+ 1)τ]2/3 = const (8.33)
となる。このconstantをχとおくと、
χ= 1−M∞2
[M∞2(γ+ 1)τ]2/3 (8.34)
となる。これが遷音速パラメータχである。
異なる厚み比τ1, τ2を持つ物体まわりの異なるマッハ数M1, M2 の流れを関係付ける。遷音速パ ラメータが等しくなれば、
1−M12
[M12(γ+ 1)τ1]2/3 = 1−M22
[M22(γ+ 1)τ2]2/3 (8.35) これら2つの流れは、相似になる。つまり、変換された空力係数は、どちらの場合も同じ値をとるこ とになる。このように、χという横軸に対して、データが1つの線の上に乗ることになる。
8.5.2 空力係数の相似則
ここでは、空力係数がこの遷音速相似パラメータχで表されることを示す。
まず、圧力係数は、式(5.17)より、
Cp=−2u
V∞ =− 2 V∞
∂ϕ
∂x = 2 ˜ϕ V∞X
∂ϕ
∂x (8.36)
となる。
2つの流れの圧力係数が相似であるためには、
Cp
ϕ˜ V∞X
= const (8.37)
である必要がある。
これに、式(8.31)の関係を代入すると
Cp(γ+ 1)M∞2
1−M∞2 = const (8.38)
となる。
この式では、M∞→1になると、無限大になってしまうので、分母の(1−M∞2)に遷音速パラメー タに関する式(8.33)を代入する。
Cp(γ+ 1)M∞2
[(γ+ 1)M∞2τ]2/3 = const (8.39)
従って
Cp· [(γ+ 1)M∞2]1/3
τ2/3 = const (8.40)
となる。これを変換された圧力係数C˜pとする。
C˜p=Cp· [(γ+ 1)M∞2]1/3
τ2/3 (8.41)
このように置けば、2つの流れは同じ圧力係数(変換された)の値を示す。つまり、1本の線の上に 乗ることになる。
以上まとめると、空力係数に関して、遷音速流3次元翼の相似則として、変換された各係数に対し て、以下の関係が得られる。
C˜p = Cp
[(γ+ 1)M∞2]1/3
τ2/3 =fp(χ, AR)˜ (8.42)
C˜L = CL
[(γ+ 1)M∞2]1/3
τ2/3 =fL(χ, AR)˜ (8.43)
C˜M = CM
[(γ+ 1)M∞2]1/3
τ2/3 =fM(χ, AR)˜ (8.44)
C˜D = CD
[(γ+ 1)M∞2]1/3
τ5/3 =fD(χ, AR)˜ (8.45)
ここで、χは遷音速パラメータで、AR˜ は換算アスペクト比である。ここで、注意することは、抵抗 係数の場合、分母に厚み比τが余計に掛かっていることである。この理由としては、楔の上半分だ
けを考えてみる。主流方向の長さをlとし、厚さをtとする。この楔の斜面に圧力pが作用している とき、抵抗Dは、
D∼pθl (8.46)
となる。従って、抵抗係数CDは、
CD= D
(1/2)bρ∞U∞2 l ∼ pθl
(1/2)bρ∞U∞2l ∼Cpθ=Cpτ (8.47) である。ここで、楔の半頂角θが小さい場合には、
tanθ=t
l =τ → θ∼τ (8.48)
となり、これが使われている。式(8.40)の分母と分子にそれぞれτを掛けると、
Cpτ·[(γ+ 1)M∞2]1/3
τ5/3 = const (8.49)
となる。式(8.47)を代入すると、
CD·[(γ+ 1)M∞2]1/3
τ5/3 = const = ˜CD (8.50)
となる。
換算アスペクト比AR˜ に関しては、
AR˜ = [(γ+ 1)M∞2]1/3AR (8.51)
として定義される。これは、式(8.23)の第1項を第2項で割ると (1−M∞2)Y2
X2 = const →
√1−M∞2Y
X = const (8.52)
となる。 Y
X = const =AR (8.53)
より √
1−M∞2AR= const (8.54)
となる。
遷音速領域では、M∞→1になったとき、有限のアスペクト比では式(8.54)は0に近づいてしま い、不適当であるので、遷音速パラメータ(8.33)(実際にはその平方根)
√1−M∞2
[(γ+ 1)M∞2τ]1/3 = const (8.55)
を使用して、式(8.54)を式(8.55)で割ると
[(γ+ 1)M∞2τ]1/3AR= const = ˜AR (8.56) となる。これが換算されたアスペクト比である。
ちなみに、翼の空力特性は、翼の断面形とアスペクト比ARによって決定される。アスペクト比が 大きいほど誘導抗力CDiは小さい。
CDi= CL2
πAR (8.57)
抵抗が小さくなると、楊抗比L/Dが増大する。つまり、航続距離が大きくなる。また、揚力傾斜
dCL/dα(単位迎角に対する揚力の増加量)も増大する。また、翼弦長が小さくなるので、風圧中心の
絶対的な移動量は小さくなる。これは、性能や安定性の向上につながる。その一方で、アスペクト比 が大きくなると、構造的には苦しくなる。また、アスペクト比が大きくなると、抵抗発散マッハ数 MDDも減少する。ちなみに、実際の航空機のアスペクト比を表8.1に示す。アスペクト比はおおよ そ、AR= 7∼9である。
航空機 アスペクト比(AR)
B727 7.20
B747 6.96
A310-200 8.80
DC-10-40 7.50
表8.1: 航空機のアスペクト比