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4.4 授業実践についての考察

(ウ)新しい学習方法に対する評価

 本授業実践で試みた新しい学習の方法とは、次の2つである。

 ・「生徒が自ら図形の性質を発見し、その性質を証明していく」学習  ・「生徒が自ら新しい問題を作り出していく」学習

 4.2.1の(オ)からわかるように、どちらのクラスにおいても、数 学や図形が非常に嫌いで、かつ苦手な生徒が多い。しかし、現実にはど ちらのクラスにおいても大学受験を強く意識した授業が行われている。

しかも、数学の授業時間数は特に多く、週8時間もの授業(義務性の補 習も含む)を行っている。そのため、生徒の多くは、「数学とは、例題 の解答を書き写し、問題演習をするもの」と思っている。生徒のこのよ うな数学に対する見方を一新し、数学の学習には、もっと別の形態もあ ることを体験させるのが、今回の授業実践の目的である。4.3.2の

(エ)で示したように、この目的は達成された。しかし、このような授 業を今後も実践していくためには、次のような課題がある。

  ①生徒が学習の目的や学習内容の面白さを理解するのに時間がか     かる。生徒によっては、学習の目的を全く理解できないまま終     わってしまう可能性がある。

  ②通常の授業方法に比べて、倍以上の授業時間が必要となるので、

    よほど授業時間に余裕があるときでないと実践できない。

  ③このような学習を多くの単元において可能にするためには、今     後、新たな教材開発・ソフトウェア開発が必要となる。

  ④実践の結果がすぐに現れるものではないので、このような学習     が定着したかどうか、生徒がどのように変容したかなどを調べ     るには、長い時間が必要となる。

  ⑤ 生徒は、このような学習を「コンピュータを使う時間だけの特

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    別なもの」と受け止める可能性がある。

 これらの課題のうち、一番問題であるのは①であり、これは授業実践 の根幹に関わる問題である。以下では、この点を中心に述べる。

 通常の数学の授業では、まず教師が例題の解説を行い、その後に生徒 が練習問題に取り組むことが多い。そのため、授業の各段階における活 動が授業の中でどのような位置を占めているかを、生徒はよく理解して いる。したがって、単元が変ったり、教える教師が変っても、生徒は教 師の意図をすぐに理解できるので、あまり当惑することはない。ところ が、「図形の性質を発見する」とか「新しい問題を自分で作る」といっ た活動は、生徒にとって今まで全く経験したことがないものである。あ まりに授業のスタイルが違いすぎるために、生徒は教師の意図をすぐに は理解することができず、当惑してしまうことになる。

 通常の授業における生徒の活動は、板書事項を写すことと、問題を解 くことが中心になっているといってよい。どちらも指示に従って行動す ればよいものであり、行動のやり方を自分で考える必要はほとんどない。

練習問題を解く場合には、公式の意味などがよく分からなくとも、指示 通りに行動すれば、 「正解」に到達できる。従って、生徒はその単元の 内容や学習目標をあまり理解していなくても、「正解」に到達したこと によって評価され、一定の成就感が得られる。それに対して、本授業実 践では、自由に調べなさい、自由に問題を作りなさいとしか指示されな い。「図形の性質を見つけること」や「新しい問題を作ること」の意義 や面白さを理解した上で、学習に取り組めば、その結果得られる成果や 成就感は大きいが、ただ漠然と学習に取り組んだ場合には、何も得られ ない。これが、本授業実践での学習と従来からの学習との最大の違いで ある。したがって、自由にやれということは、一見楽そうに思えるが、

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実はかなりレベルが高いことを生徒に求めているといえる。

 もちろん、 「図形の性質を見つけること」や「新しい問題を作ること」

の意義や面白さを最初から理解できている生徒は少ない。最初は何も分 からずに作業を進めていくが、そのうちに何となくその意義や面白さに 気付いていくという方が普通であろう。生徒がいかに早くそれに気付く ことができるか、言い換えれば、生徒の気付きを教師がどうのように援 助できるかが授業の成功の鍵を握っている。

 本授業実践では、2つのクラスに対して、ほとんど同じように授業を 行った。どちらのクラスも、コンピュータを利用した数学の授業を受け た経験はなく、「図形の性質を見つけること」や「新しい問題を作るこ と」も全く初めての経験であった。授業実践の最初の段階では、2つの クラス間にはあまり差は見られなかったものの、後半においてはかなり の差が見られた。具体的には、B組の6名の生徒は、自由にやれと言わ れても何をして良いか分らず、時間をもてあまして、最後には遊んでし

まうことになった。これらの生徒は、「図形の性質を見つけること」や

「新しい問題を作ること」に一応は取り組んでみたが、それらの活動の 意義や面白さに気付くことができず、次第に授業が面白くなくなってし まったのである。わずかな人数とはいえ、このような生徒を出してしま ったという点では、今回の授業実践には問題があったといえる。したが って、本授業実践のような学習方法を成功させるためには、教師は常に 生徒に目を配り、生徒が遊び始める前にその兆候を察知して、適切な助 言や指導を行う必要がある。

 ②に挙げた時間的な問題に関しては、比較的明るい見通しがもてる。

今回の学習指導要領の改訂により、『数学1』の内容が、従来よりもか なり量的に軽減された。ほとんどの高等学校では、『数学1』と『数学

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A』を1年生に設定しているので、2つの科目の授業時間をうまく調整 すれば、時間的な問題は解決できる。また、 『数学A』は3年生の文系 生徒の選択科目としても設定される可能性があり、その場合にはかなり

自由な時間設定が可能である。

 ③で挙げた問題に関しては、高等学校の数学の単元の中には、本授業 実践のような学習をそのまま実施することは難しいものもある。例えば、

本授業実践のような学習方法は、『数学A』の「数と式」などのような 計算主体の単元にはあまり適していないが、『数学B』の「複素数平面」

や『数学C』の「いろいろな曲線」などの図形を扱うような単元には、

適しているといえる。「複素数平面」や「いろいろな曲線」は、今回新 しく導入された単元であり、今後これらの単元に向けた教材開発やソフ

トウェア開発を積極的に進めていかなければならない。

 ④及び⑤で挙げた問題に関しては、長期的な視点が必要である。本授 業実践のような学習の定着具合は、ペーパーテストですぐに測定できる

ものではない。また、本授業実践のような授業を1度だけ受けたところ で、生徒の数学に対する見方や数学の学習に対する態度が急に変容する

ものでもない。生徒がこのような授業を一過性の「特別なもの」と感じ ているうちは、なかなか態度の変容は見られないであろう。平常から、

数学が発見された過程についても言及し、数学の見方や考え方を十分に 生徒に伝えるような授業を行っていてはじめて、本授業実践のような学 習が活きてくるといえる。したがって、効果の測定は数時間の授業に対 して行うのではなく、1年間の授業に対して行うべきものである。1年 間の学習の前後で、数学という学問や数学学習に対する生徒の見方を調 査すれば、問題演習中心の学習を行っているクラスよりも大きな変容が 見られると考えられる。

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おわりに

おわりに

 本研究は、高等学校数学科の新単元である「平面上の変換」に対応し た幾何学習ソフトウェアを開発し、「平面上の変換」に対するより深い 理解を得ることを目的の一つとした。また、そのソフトウェアを利用し て新しい学習の方法を提案し、その効果について検証することをもう1 つの目的とした。ここでは、研究の結果得られた成果と今後の課題につ いて述べる。

(ア) 本研究の成果

①ソフトウェア開発に関連して

 ソフトウェア開発の第1の目的は、平面上の変換を視覚化することに よって、生徒の変換に対する理解(イメージ形成)を進めることであり、

授業実践によって、その目的が達成されていることを示した。ソフトウ ェアを、教師の教材提示用として開発したのではなく、生徒が平面上の 変換を実際に操作して学習する、いわゆる参加型の学習環境として開発 したことが、生徒の理解に大きく寄与した。教材提示として使う場合に は、生徒の理解とは関係なく、ただ画像を見せていくだけになりがちな のに対し、本ソフトウェアでは、生徒が自分で図形を動かして納得がい

くまで試みることができるからである。

 ソフトウェア開発のもう1つの目的は、図形の性質を探究する活動と その性質を証明する活動を、コンピュータ上で切れ目なく実現すること であった。回転移動の性質を利用する特別な問題群に対してという制限 付きではあったが、この目的も達成された。

 生徒は、今までは合同による静的な図形観しかもっていなかったが、

このソフトウェアを使用したことによって、変換による動的な図形観も

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