高等学校数学科における幾何学習ソフトの開発と利用に関する研究 : 平面上の変換を題材として
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(2) 【目次】. 1. はじめに. 第1章新しい数学教育の方向 1.1 学習指導要領にみられる数学教育の変遷. 1.2. Ll.1. 昭和22年の学習指導要領・・…・・……・…・4. 1.1.2. 昭和26年の学習指導要領… ………・…・・6. 1.1.3. 昭和30年の学習指導要領・…・・……・…・・7. 1.1.4. 昭和35年の学習指導要領……・……・…・8. 1.1.5. 昭和45年の学習指導要領・・…・…・…・…10. 1.1.6. 昭和53年の学習指導要領………・……・13. 1.1.7. 戦後の数学教育の問題点・…・………・・…16. 新しい時代の数学教育 1.2.1. 新学習指導要領へ至る審議会答申 ………・19. 1.2.2. 平成元年の学習指導要領■一……… …・・…23. 1.2.3. 数学科における問題解決学習…・…・…・…25. 1.3 高等学校における新しい幾何教育 1.3.1. 1,3.2. 学習指導要領における幾何の扱い・……・…28 「平面幾何」における新教材「平面上の変換」 ・・・…. 一・一・…. 一・・ 29.
(3) 第2章数学教育へのコンピュータ利用と先行研究 2.1 高等学校数学科でのコンピュータ利用 2.1.1 探究的活動とコンピュータ利用との関連・…・31 2.1.2 操作的活動とコンピュータ利用との関連・・…32. 2.1.3 コンピュータ利用の分類と本研究との関連…35. 2.2 幾何教育におけるコンピュータ利用 2.2.1. 幾何教育へのコンピュータの利用の意義・…・38. 2.2.2. 幾何教育用ソフトウェアの分類. と本研究との関連・………・…39. 2.3 本研究に関わる先行研究 2.3.1. 2.3.2. 「作図ツール」の開発に関する先行研究・・…42 変換を扱った幾何ソフトウェア. に関する先行研究………・45 2.3.3. 幾何証明を扱ったソフトウェア. に関する先行研究……・…46. 2.4. 「作図ツール」を用いた幾何指導の利点と問題点. 2.4.1. 「作図ツール」を用いた授業の特徴………47. 2.4.2. 「作図ツール」を用いた授業の利点・…・…・49. 2.4.3. 「作図ツール」を用いた授業の問題点…・…50. 2.4.4. 「作図ツール」とファン・ヒーレ. の学習理論との関係……・51.
(4) 第3章 ソフトウェアの開発 3.1 ソフトウェアの開発理念. 3.1.1 開発の目的…・・…・…・…・…・………・54 3.1.2 変換を利用した証明の具体例・…・……・・…56. 3,1.3 証明過程での活動の具体例…………・・…58. 3.2 ソフトウェアの特徴とシステム構成 3.2.1. ソフトウェアの特徴………………・・… 60. 3.2.2. ソフトウェアの開発環境と動作環境………61. 3.2.3. システム構成…・……・・……… …・…・63. 3.2.4. ソフト開発にあたっての留意点………・…66. 3.3. 各機能の内容とその機構. 3.3.1. 作図機能・……・……… …… ………・69. 3.3,2. 取消機能・……・……・…・… …・…・…77. 3.3.3. 計測機能……・……・・…・… ……・…・82. 3.3,4. 移動機能・…………… …… ……・・…84. 3.3.5. 証明表示機能…・……・・……… …・…・88. 3.3.6. ファイル機能…・・……………・…・…・91. 3,3.7. 再現機能…・…・…・……・・… ……・…95. 3.3,8. 学習履歴採取機能・・…・・……・……・・…96. 3.3.9. 簡易アンケート機能…… …………■一… 99.
(5) 第4章 ソフトウェアを利用した授業実践. 4.1 授業実践の目的…・……… ・……・………100. 4.2 指導計画の作成 4.2.1 生徒の実態調査……・……・…・・・・・…. 101. 4.2.2 授業計画・… ………・……・…・…… 108. 4.3 授業の経過と生徒の反応 4.3.1 授業の経過……・…・…・…・・… …・…120. 4.3.2 事後調査・…………・……・・…・……125 4.3.3 学習活動の分析………・………・… …137. 4.4 授業実践についての考察…・・……………・…145. おわりに……・………・…・・…・・…・…・……・一■……152. 引用文献 … …・・……・・…・・…・・…・…・……・・……156. 参考文献…・……………・・・…………・……… ……160. 謝辞 ……・……・… …・・………・・…・…・・…・…・…163. 資料. ・……・…………・・一t・・…・・…・…… ・・・ … 164.
(6) はじめに. はじめに. 昭和62年12月に出された教育課程審議会答申では、各教科・科目 の改善の方針1> の中で、次の2点が指摘されている。1つは、体験的 な学習や問題解決的な学習を充実することであり、もう1つは、コンピ ュータ等の情報手段を活用する能力と態度を育成するということである。 この答申を受けて平成元年に告示された高等学校学習指導要領2) では、. 数学科の内容の取扱いにおいて、「各科目を通して、コンピュータ等の 教育機器を活用して指導の効果を高めるようにすること」と明記されて いる。このことからもわかるように、新しい時代の数学教育では、積極 的にコンピュータを活用していくことが求められている。. 高等学校で学ぶ数学の内容は、多くの先人が苦労の末に考案・発見・ 改良してきたものである。しかし、実際の授業ではそれらの過程につい て触れることはほとんどなく、数学は完成された体系として教えられて いる。先人がたどった思考のプロセスを省略し、授業ではいきなり数学 的な定義から入るために、生徒は数学が難しいと感じるのではないだろ. うか。近年、生徒の数学離れの傾向が著しいが、その原因の1つは、問 題が生み出された過程を省略した教育、すなわち問題演習中心の数学教 育にあるといえよう。「数学が生まれてきた過程」や「問題が発見され た過程」を生徒に体験させることができれば、「問題を解く過程」にお いてもその問題の意味や内容が生徒により深く理解されることになるで あろう。そのような教育ができれば、数学という学問の真の姿が生徒に 伝わり、数学離れを少しでも食い止めることにもつながっていく。 しかし、 「問題が発見された過程」を授業の中で体験させることは、. いろいろな制約から容易なことではない。制約には様々なものがあるが、. 1一.
(7) はじめに. 「計算が大変である」、 「作図能力に個人差がある」といった制約なら. ば、コンピュータの能力を利用すれば取り除くことができる。人間は歩 く能力を持っているが、人間が自動車を利用すれば、移動距離は伸び、. 移動に要する時間は短縮される。それと同じように、人間は計算する能 力や図を描く能力をもっているが、コンピュータを利用すれば、それら の能力を増強・伸長することができ、今まで以上の学習活動が可能とな る。その意味で、コンピュータの道具的利用は非常に価値のあるもので ある。. 数学教育におけるコンピュータの道具的利用は、多方面にわたる。本 研究では、幾何学習に焦点をあてるが、この分野では「図形の性質を発 見する過程」にコンピュータを活用した先行研究が多い。それらの研究 を踏まえて、本研究では、 「図形の性質を証明する過程」にまで活用で. きるソフトウェアを開発する。「生徒自らが、問題を発見し、問題を解 決し、次にまた新たな問題の発見と解決にあたる」ような授業の創造が、. 本研究の目的の1つである。. 今回の学習指導要領の改訂で、『数学A』の「平面幾何」に「平面上 の変換」という新内容が導入された。変換とは図形の移動のことであり、. 黒板では表現できない動きを伴うものである。このような内容を生徒に 正確に理解させるための道具としても、コンピュータは有効である。変 換を視覚化するだけの先行研究は存在するが、変換を利用した証明問題 を扱えるものはない。変換を利用した証明問題にも活用できるソフトウ ェアを開発することが、本研究のもう1つの目的である。 そこで、本研究では、次の研究手順を踏むことにする。. ①新しい時代に向けての数学教育の像を明らかにする。 ②数学教育におけるコンピュータ利用の現状を考察する。. 2一.
(8) はじめに. ③平面上の変換を取扱うことのできる幾何学習ソフトを開発する。 ④教材テキストを作成し、教育実践を通して教育効果を検証する。 ①では、学習指導要領の改訂とともに幾何教育やコンピュータ利用が どのように変化してきたかについて概観し、次に、新学習指導要領が目 指している新しい数学教育の在り方について述べる。. ②では、数学教育におけるコンピュータ利用、その中でも幾何教育に おけるコンピュータ利用について概観し、幾何ソフトウェア開発におけ る先行研究について考察する。. ③では、生徒が自ら操作することによって、図形の性質を発見するこ とができ、その結果を変換の性質を用いて証明できるような、幾何学習 用のソフトウェアを開発する。. ④では、実際に授業を行い、ソフトウェアの教育的効果を検証すると ともに、ソフトウェアを用いてはじめて可能となる、新しい学習方法に ついて提案・検証を行う。. 一3一.
(9) 1.1 学習指導要領にみられる数学教育の変遷. 第1章新しい数学教育の方向. 1.1 学習指導要領にみられる数学教育の変遷. 本節では、昭和22年の学習指導要領から昭和53年告示の高等学校 学習指導要領までについて概観する。平成元年告示の学習指導要領につ. いては、次節で述べることにする。具体的には、次の3点を中心に戦後 の数学教育の変遷についてまとめる。. (ア) この時期の特徴 (イ) 幾何教育の流れ. (ウ) コンピュータとの関連(昭和35年の改訂以降). 1.1.1 昭和22年の学習指導要領 昭和22年の新制中学校、昭和23年の新制高等学校の発足にともな. い、昭和22年3月20日に小・中学校の学習指導要領(試案)の一般 編が発行された。その補遺として昭和22年4月7日に「新制高等学校 の教育課程に関する件」の通達が出され、昭和23年度より実施された。. このときの、高等学校数学科の科目構成と単位数は図1.1のとおりで ある。 [魎]. 囲麺. 5. 5魎]. 5 図1.1 数学科の科目構i成と単位数(昭和22年). 昭和23年10月11日には、「新制高等学校教科課程の改正につい て」の通達が出され、昭和24年度から実施された。このときの、高等. 一4一.
(10) 1.1 学習指導要領にみられる数学教育の変遷. 学校数学科の科目構成と単位数は図1.2のとおりである。. [霧. 國 5. 5 図1.2. 高等学校数学科の科目構成と単位数(昭和23年). (ア)この時期の特徴. 学習指導要領算数科数学科編(試案)では、義務教育の9年間を1つ にまとめて記述している。数学科の指導目的として挙げられた20項目 の中では、数学と社会との関わりについて積極的に論じられている。い. わゆる生活単元学習の考えに基づいて、教育課程は編成されており、 「算数数学科指導内容一覧表」では、生活経験をもとに指導内容を構成. している。この考え方は、高等学校の『一般数学』にも採用されている が、高等学校の他の科目は、総じて旧制中学校の内容に準じたものであ った。. (イ)幾何教育の流れ. 図形に関する内容は小学校でほぼ終了させることになっており、中学 校では図形の学習は少なく、図形の論証は全く扱われなかった。. 高等学校における『幾何』の第1巻は平面幾何・立体幾何で構成され、 第2巻は解析幾何で構成されており、程度はかなり高いものであった。. 5一.
(11) 1。1 学習指導要領にみられる数学教育の変遷. 1.1.2 昭和26年の学習指導要領 昭和26年7月10日に小・中・高の学習指導要領一般編(試案)が、. つづいて昭和26年11月25日に中学校高等学校学習指導要領数学科 編(試案)が発行され、昭和27年度から実施された。このときの、高 等学校数学科の科目構成と単位数は図1.3のとおりである。. [置. 魎 5. 図1.3 高等学校数学科の科目構成と単位数(昭和26年). (ア)この時期の特徴. 中学校・高等学校学習指導要領数学科編(試案)では、中学校と高等. 学校を1つにまとめて記述しており、数学科の目標として「数学科の一. 般目標」10箇条をあげている。この中では、数学と日常生活・社会と の関係について積極的に論じており、昭和22年の学習指導要領の延長 線上にある。この指導要領は、戦後の混乱からようやく抜け出せた時期 に出されたもので、生活単元学習実施の経験と調査研究に基づいて、前 回の指導要領を改善・充実させたものといえる。. (イ)幾何教育の流れ. 義務教育段階では、内容の程度は現在とくらべてかなり低いものであ った。図形の論証は、中学校では全く扱われていない。その一方で、三 角比(鋭角)を取り扱うことになっていた。. 6一.
(12) 1,1 学習指導要領にみられる数学教育の変遷. 高等学校の『幾何』の内容は、昭和23年のものとあまり変化はなく、 平面幾何が中心であり、空間幾何・解析幾何なども扱われていた。しか し、大学入試との関係で『幾何』を選択する者が少なく、高等学校にお ける数学の学習は、代数・解析に偏る傾向があった。. 1.1.3 昭和30年の学習指導要領. 昭和30年12月5日、学習指導要領一般編のうち高等学校に関する 部分が改訂され、高等学校学習指導要領一般編として、昭和31年度の 第1学年から、学年進行をもって実施されることとなった。この改訂に ともなって、中学校・高等学校学習指導要領数学科編のうち高等学校に. 関する部分も改訂され、高等学校学習指導要領数学科編として、昭和3. 0年12月26日に、文部省から発行された。このときの、高等学校数 学科の科目構成と単位数は図1.4のとおりである。. 響「璽[羅 図1.4 高等学校数学科の科目構成と単位数(昭和30年). (ア)この時期の特徴. 昭和22年から実施されてきた生活単元学習に対しては、学力低下の 問題をはじめ様々な批判が各方面から出されていた。また、数学教育界 においても、数学的な体系に基づいた指導内容・方法の重要性が強調さ れるようになっていた。そのため、この学習指導要領は、それ以前の学. 7一.
(13) 1.1 学習指導要領にみられる数学教育の変遷. 習指導要領の方針から大きく転換し、数学における基本的な内容及びそ の系統的な学習を重視したものとなった。. 高等学校においては、数学的な内容ごとに編成された『解析1』・ 『幾何』などの科目に代って、 『数学1』・『数学■』などの総合的な 科目に編成し直され、系統的な指導体系が採用された。. (イ)幾何教育の流れ. 『数学1』の内容は、代数的内容と幾何的内容に区分されて提示され ている。幾何的内容の中身は平面幾何・空間幾何・解析幾何であり、従. 前と大きくは変っていない。学習指導要領での幾何の関連項目は図1, 5のとおりである。. 数学1. 数学H. 幾何的内容 a 直線図形の性質. d 図形とその方程式. b 円の性質. 。 軌跡および作図. d 空間図形 e 三角函数 図1.5 高等学校数学科における幾何的内容(昭和30年). 1.1.4 昭和35年の学習指導要領. 昭和35年10月15日に高等学校学習指導要領が告示され、昭和3 8年度より実施された。このときの、高等学校数学科の科目構成と単位 数は図1.6のとおりである。. 8一.
(14) 1,1 学習指導要領にみられる数学教育の変遷. mp dee’li:. 魎 5. 図1.6 高等学校数学科の科目構成と単位数(昭和35年). (ア)この時期の特徴. 日本が高度経済成長に向う時期にあたり、基礎学力の向上と科学技術 教育の充実が改訂の基本方針であった。その方針に従って、義務教育段 階を含めて、全体的に内容が系統化され、程度を上げることがはかられ た。特に、高等学校においては、理科系の大学へ進む者にとっての素養 として必要な新内容(ベクトルなど)が導入された。. (イ)幾何教育の流れ. 中学校においては、図形の論証が導入された。また、作図・軌跡・三 角比なども扱われており、かなり水準の高いものであった。. 一方、高等学校においては、旧制中学校以来、長年にわたって高等学 校の幾何教育の中心であった平面幾何(ユークリッド幾何)が、教育課 程から削除された。平面幾何の学習内容は、それだけで完結しており、. 大学で学ぶ数学の内容への直接的な発展性がないことが、削除された主 な理由である。この時期以降、高等学校における幾何教育は、座標を用 いる解析幾何とベクトル・複素数を用いる幾何が中心となった。学習指 導要領での幾何の関連項目は図1.7のとおりである。. 一9一.
(15) 1.1 学習指導要領にみられる数学教育の変遷 『数学ll B』. 『数学1』. (3)三角関数とベクトル (4)図形と座標. (4)平面図形と式 (5)空間図形 (6)数学と論証. 図1.7 高等学校数学科における幾何的内容(昭和35年). (ウ)コンピュータとの関連. この学習指導要領において初めて「電子計算機」という用語が登場し た。『応用数学』の「(2)計算法 オ 計算機器」についての説明では、. 「計算尺、手動・電動の計算機などについての知識や扱い方とする。な お、電子計算機の知識にふれることも考えられる。」と示されている。. この時代は、日本が科学技術立国を目指していた時期にあたる。当時 の電子計算機は、最先端の機器であり、非常に高価なものでもあったに も拘らず、『応用数学』の中で取り上げられたことは、産業界などの電 子計算機に対する期待感を物語るものであろう。しかし、現実には電子 計算機の紹介にとどめる程度で、実際の授業で電子計算機が利用される ことはほとんどなかった。. 1』.5 昭和45年の学習指導要領 昭和45年10月15日に高等学校学習指導要領が告示され、昭和4 8年より学年進行で実施された。このときの、高等学校数学科の科目構 成と単位数は図1.8のとおりである。. 10 一.
(16) 1.1 学習指導要領にみられる数学教育の変遷. [k:iixe.. ap. 麺. 撃垂高盾吹C5,.ii. 5. 図1.8 高等学校数学科の科目構成と単位数(昭和45年). (ア)この時期の特徴. 1960年代以降、主として数学者から、現代数学の思想や成果を数 学教育にも反映させるべきであるという主張がなされていた。また、産 業界からは、科学技術の進展に対応するために数学教育を改革していく べきだという主張もなされ、これらの主張が合わさって、数学教育の現 代化運動が生まれた。その影響で、高等学校の数学科には、集合・論理、 写像、行列、一次変換などの新内容が導入された。. (イ)幾何教育の流れ. 数学教育の現代化運動の影響で、中学校の幾何教育においては、第2 学年で「変換の考え」、第3学年で「図形の位相的な見方」などが導入 された。また、図形の論証を第1学年から扱っている。. 高等学校における幾何教育は、基本的には昭和35年の学習指導要領 の流れを受け継いでいる。内容的には、座標を用いる解析幾何とベクト. ル幾何が中心であり、2次曲線と複素平面は削除された。また、数学教. 育の現代化運動の影響で、『数学IB』において「平面幾何の公理的構 成」が新しく導入された。しかし、これは平面幾何の内容を直接扱うも. 11 一.
(17) 1.1 学習指導要領にみられる数学教育の変遷. のではなく、数学の公理的構成の見本として平面幾何を題材として取り. 上げたものである。従って、昭和30年の学習指導要領まで高等学校で 扱われていた平面幾何の内容とは全く異なるものである。学習指導要領. での幾何の関連項目は図1.9のとおりである。. 『数学一般』. 『数学1』. 『数学ll B』. (3)ベクトル (1)平面幾何の公理的構成 (4)平面図形と式 (2)空間における座標と. ベクトル. 図1.9高等学校数学科における幾何的内容(昭和45年). (ウ)コンピュータとの関連 電子計算機という用語は、 『数学一般』 『数学HA』 『応用数学』の. 3科目に登場している。その内容は、図1.10のようになる。. 『数学一般』. 『数学HA』. (8)電子計算機と流れ図 D 計算機 (1)電子計算機と流れ図 『応用数学』. (8)計算機と数値計算. 図1.10数学科におけるコンピュータ関連内容(昭和45年). 『数学一般』と『数学ll A』では、電子計算機の機能の概略を取り上 げ、計算や作業の手順を分析して、流れ図に表わすことができるように することが、主な指導内容であった。そして、電子計算機が利用できる. 12 一.
(18) 1.1 学習指導要領にみられる数学教育の変遷. 場合には、プログラムを作成し、結果が求められるようにするとしてい る。当時、電子計算機が導入されていたのは、工業高校などのごく一部 であり、大半の高等学校では利用することができなかった。しかし、社 会にコンピュータが普及していくことは十分に予想ができ、電子計算機 についての基礎的な知識を持つことは社会的な要請でもあった。そこで、 「電子計算機が利用できる場合には」という但し書きつきではあっても、. 教育課程に電子計算機に関する項目を取り入れたものと思われる。ここ での教育内容は、狭い意味での「コンピュータ・リテラシー」的なもの を目指していたといえる。 一方、 『応用数学』では、職業に関する専門教育と密接な関連をとり. ながら、数値計算に関する内容などを扱うこととしている。これは、 『応用数学』が主として工業高校などで履修されることを想定している ためであり、具体的な内容として、連立一次方程式の解や逆行列の計算、. ニュートン法による方程式の実数解の近似計算、定積分の近似値の計算 (台形公式、シンプソンの公式)などがあげられている。ここでの教育. 内容は、主として技術者養成の観点から考えられたものであり、計算の 道具としての電子計算機を教えるという立場がとられていたといえる。. しかし、これらの3科目はいずれも、普通科の大半の生徒は履修しな いものであり、高等学校の数学科の中で、コンピュータが大きく取り上 げられたとはいえない状況であった。. 1.1.6 昭和53年忌学習指導要領. 昭和53年8月30日に高等学校学習指導要領が告示され、昭和57 年より学年進行で実施された。このときの、高等学校数学科の科目構成. と標準単位数は図1.11のとおりである。. 13 一.
(19) 1.1 学習指導要領にみられる数学教育の変遷. 翠. 幽 Σ・、L言. 輿 図1.11 高等学校数学科の科目構i成と単位数(昭和53年). (ア)この時期の特徴. 基礎・基本の重視、ゆとりと充実が学習指導要領改訂の基本方針であ った。現代化の見直しと、内容の精選の意味から、前回の改訂で導入さ れた内容が大幅に精選・削除された。この時期にはすでに、高等学校進. 学率が90%を越えており、教育内容の多様化が叫ばれていた。そのた め、理科系の大学等へ進学する者以外を主たる対象とする科目として、 『数学H』が設置された。また、旧『数学ll B』に相当する内容は、ほ. ぼ『基礎解析』と『代数・幾何』に編成し直され、数学的な内容ごとに 編成された科目構成となった。. (イ)幾何教育の流れ. 中学校においては、第1学年では操作的な活動や直観的な内容が中心. となり、第2学年以降で論証を扱うことになった。「変換の考え」、 「図形の位相的な見方」は削除されることになった。. 高等学校の幾何教育の中心は、前回の指導要領と同様に、解析幾何と ベクトル幾何であった。前回の改訂で削除された「二次曲線」が復活し たが、 「平面幾何の公理的構成」は削除された。高等学校における幾何. 14 一.
(20) 1,1 学習指導要領にみられる数学教育の変遷. 的内容は図1.12のとおりである。. r数学1』. 『数学H』. 『代数・幾何』. (1)二次曲線. (2)ベクトル. (2)平面上のベクトル (4)空間図形. 図1.12高等学校数学科における幾何的内容(昭和53年). (ウ)コンピュータとの関連. 電子計算機については、『数学H』の「(6)電子計算機と流れ図」で 取り扱うことになっている。学習指導要領の内容の取り扱いにおいては、 「使用する計算機の機能に応じてプログラムを作成し、実際に計算機に. かけて結果がもとめられるようにする。」と示されているが、計算機を. 実際に使用することを前提としていることが、昭和45年の学習指導要 領と大きく異なる点である。. また、『数学H』という普通科の生徒も履修する科目にコンピュータ 関連の内容が設置されたことは、高等学校の教育課程の中で、コンピュ ータが正式に認知されたことを示すものである。. ただ、内容的には、コンピュータの機能についての学習とBASlC 言語で簡単なプログラムを作成することなどが主であり、数学教育の中 で重要な役割を果たすといったものではなかった。. 15 一.
(21) 1。1 学習指導要領にみられる数学教育の変遷. 1.1.7 戦後の数学教育の問題点 (ア)高等学校数学科全体の問題点. 昭和30年以降の高等学校の指導要領では、系統学習の考え方が採用. されている。昭和30年から昭和53年までの4つの学習指導要領にお ける数学科の目標は、改訂の度に少しずつ変化しているが、基本的な考 え方が変化しているわけではない。しかし、その間に高等学校への進学. 率は急上昇し、昭和53年の改訂時には94%にも達している。学習指 導要領おいても、改訂の度ごとに多様化に対応する措置がとられてきた が、なかなかうまく機能してこなかった。また、普通科の高等学校では 大学受験を意識した問題演習中心の数学教育が行われたため、大量の落. ちこぼれや数学嫌いを生み出すことになった。その原因の1つは、高等 学校で学ぶ内容がもともと高度なためであるが、もう1つは授業のやり 方に問題があったと考えられる。すなわち、問題演習中心の授業を生徒 に強いてきたことにより、数学という学問があまりに現実から遊離して いるような印象を生徒に与えてしまったからである。. ここで改めて昭和26年の学習指導要領の「数学科の一般目標」に目 を向けてみると、 「数学の有用性と美しさを知る」、 「数学がどのよう. にして生まれてきたかを理解する」などと示されている。昭和30年の 改訂以降、このような視点が徐々に失われてしまったが、今後の高等学 校の数学教育には、再度このような視点も取り入れて、生徒にとって数 学をより身近なものにしていく必要がある。. (イ)幾何教育の問題点. 昭和35年忌学習指導要領以来、高等学校で平面幾何を扱うことはな くなってしまった。それに代って、解析幾何やベクトル幾何が中心とな. 16 一.
(22) 1.1 学習指導要領にみられる数学教育の変遷. ってきたわけである。それらの幾何は、どちらかといえば、図を描いて 考えるよりも、式の上で考える幾何であり、平面幾何と比べると直観的 ではない。また、それらの幾何は、大学での学習に直接つながっていく という利点がある反面、中学校の幾何との関連が薄いことが欠点として 挙げられる。それらの幾何学習を否定するわけではないが、少なくとも 理科系に進学しない者にとっては、より直観的で中学校の学習内容とも 直接関連する平面幾何を、高等学校で学ぶ意義は十分にあると考えられ る。平面幾何が高等学校の幾何教育から全く消えてしまったことは、非 常に残念なことである。. (ウ)コンピュータの利用について. 高等学校の数学科で、工業科などの生徒だけでなく普通科の生徒をも. 対象として、コンピュータに関連する項目を扱ったのは、昭和53年の 指導要領の『数学H』の「電子計算機と流れ図」が実質的に最初である といえる。しかし、その内容は、流れ図の学習と数学を題材として簡単 なプログラムを作成することであった。これは、 「コンピュータで数学 を学ぶ」というよりも、 「コンピュータについて学ぶ」という内容に近 いものであったといえる。また、『数学r【』は、当初の目論見に反して. 普通科ではあまり採択されなかった。また、採択されたとしても『数学. n』は内容を選択して学習する科目であったために、必ずしも「電子計 算機と流れ図」の単元が履修されたわけではなかった。その上、この学. 習指導要領が実施された昭和57年当時には、十分な台数のコンピュー タが各高等学校に設置されていなかったこともあり、実習をともなった 形で「電子計算機と流れ図」が多くの高等学校で履修されるようになっ. たのは昭和60年代以降である。したがって、平均的な普通科高校にお. 17 一.
(23) 1,1 学習指導要領にみられる数学教育の変遷. けるコンピュータ利用の歴史はまだまだ日が浅いといえる。. この時期の指導要領までは、コンピュータをあくまで「計算機」とし て捉らえている。コンピュータを「教具」あるいは「数学を学ぶための 道具」として活用するといった視点はほとんどなかったといえる。もち ろん、数学の教授や学習にコンピュータを利用することは、各地でいろ いろな試みが始まっていたが、学習指導要領で積極的に取り上げられて いたわけではなかった。当時はコンピュータの技術的な発達が不十分で あり、コンピュータも高価な時代であった。そのため、コンピュータを 教育に活用するという視点がなかったのはやむをえないが、技術的・経 済的な困難がほぼ克服された今日においては、数学教育にコンピュータ を積極的に活用していくための障害はなくなったといえる。. 18 一.
(24) 1.2 新しい時代の数学教育. 1.2 新しい時代の数学教育 1.2.1 新学習指導要領へ至る審議会答申 (ア) 中央教育審議会教育内容等小委員会審議経過報告. 昭和58年11月15日に中央教育審議会教育内容等小委員会は審議 経過報告を発表した。この中で、今後特に重視されなければならない視 点3) として、次の4点を挙げている。 (1) 「自己教育力」の育成. (2)基礎・基本の徹底. (3)個性と創造性の伸長 (4)文化と伝統の尊重 この報告では、 「自己教育力」について次のように述べている。. 「自己教育力とは、まずもって、学習への意欲である。児童生 徒に学習への動機を与え、学ぶことの楽しさや達成の喜びを体得 させることが大切である。いわゆる実物ないし本物教育あるいは 体験的学習などの学習の手段や方法が重視される。また、児童生 徒の能力・適性あるいは興味・関心に配慮することも重要である。. 自己教育力は、さらに学習の仕方の習得である。今後の社会の 変化を考えると、何をどのように学ぶかという学習の仕方につい ての能力を身につけることが大切である。このためには、学校教 育において、基礎的・基本的な知識・技能を着実に学習させると ともに、問題解決的あるいは問題探究的な学習方法を重視する必 要がある。」. この報告では、変化の激しい社会の中にあって、生徒が将来にわたっ て主体的に変化に対応していけるような能力・態度の育成が学校教育の 中心課題であると説いている。ここで、従来からの高等学校の数学教育. 19 一.
(25) 1.2 新しい時代の数学教育. について考えてみると、数学的な知識や技能の習得に重点がおかれ、計 算中心の問題演習に偏りがちであった。生徒が数学の公式などをいくら 覚えたところで、時間が経過すれば忘れてしまい、将来ほとんど役に立 たないことが多い。このような数学教育の状況では、社会の変化に対応 できる能力を育成しているとは言い難い。社会の変化に対応できる能力 育成の観点から考えると、数学の学習で大切なことは、数学の考え方を 知ることと、数学という学問のやり方を知ることであるといえる。今ま での数学教育では、数学という学問のやり方を学ぶような授業はあまり 行われてこなかった。数学という学問のやり方を学ぶためには、数学の 授業の中で、生徒自らが問題を発見し、その問題を解決していく過程を 体験することが必要となってくる。したがって、数学教育においてもや はり「体験的学習」、 「問題解決的あるいは問題探究的な学習」を今後 積極的に取り入れていく必要がある。. (イ)教育課程審議会答申. 昭和62年12月24日に教育課程審議会は、 「幼稚園、小学校、中 学校及び高等学校の教育課程の改善について」答申した。この答申では、 教育課程の基準の改善のねらい4) として、次の4点を挙げている。 (1)豊かな心をもち、たくましく生きる人間の育成. (2)自ら学ぶ意欲と社会の変化に主体的に対応できる能力の育成 (3)基礎的・基本的な内容を重視し、個性を生かす教育の充実 (4)国際理解を深め、我が国の文化と伝統を尊重する態度の育成. これを踏まえて、各教科・科目の内容の改善については、4つの留意 点5) を挙げているが、数学科と特に関連が深いのは、次の2点である。 (イ)これからの社会の変化に主体的に対応できるよう、思考力、. 20 一.
(26) 1,2 新しい時代の数学教育. 判断力、表現力などの能力の育成を重視するとともに、自ら学ぶ 意欲を高め主体的な学習の仕方を身に付けさせる観点から、体験 的な学習や問題解決的な学習などが充実するよう配慮する。 (エ)社会の情報化に主体的に対応できる基礎的な資質を養う観点. から、情報の理解、選択、処理、創造などに必要な能力およびコ ンピュー二等の情報手段を活用する能力と態度の育成が図られる よう配慮する。なお、その際、情報化のもたらす様々な影響につ いても配慮する。. (イ)においては、中央教育審議会の教育内容等小委員会審議経過報告. と同様に、社会の変化に主体的に対応できる人間の育成が強調され、 「体験的な学習」・「問題解決的な学習」がここでも取り上げられてい る。. また、(エ)においては情報活用能力が大きく取り上げられており、各. 教科の学習などに、道具としてコンピュータを活用する能力と態度の育 成が求められている。社会の情報化が進み、一般社会にもコンピュータ が広く普及するようになった今日、コンピュータを積極的に活用できる 生徒の育成を学校教育に求めているといえる。ここでは、単にコンピュ ータについて「学ぶ」という表現ではなく、「活用する」という、より 踏込んだ表現をしており、学校教育においてコンピュータをすでに「活 用する」時代に入ったことを明確に宣言している。. 次に、算数・数学の改善の基本方針6) の中では、改善に当って配慮 すべき点として、次の3点を挙げている。 ①思考の過程を一層重視するために児童生徒の発達段階に応じた 具体的な操作や思考実験などの活動ができるようにする。. ②数理的な考察処理の簡潔さ、明瞭さ、的確さなどのよさがわか. 21 一.
(27) 1.2 新しい時代の数学教育. るようにし、算数、数学を意欲的に学習しようとする態度を育 てるよう配慮する。. ③児童生徒の発達段階に応じ、コンピュータ等にかかわる指導が 適切に行われるよう配慮する。. 各教科・科目の改善において示された「体験的な学習」・「問題解決 的な学習」が、①ではより具体化されて「具体的な操作や思考実験」と して位置付けられている。高等学校における通常の授業では、数学は完 成された体系として教えられ、生徒もそのように受け止める傾向が強い が、それは数学という学問の一面でしかない。実際には、試行錯誤的な 取り組み・研究の中から、数学の成果は生み出され、発展してきたので あり、これも数学という学問のもつ一面である。しかし、このようなこ とについては、あまり授業の中で触れられることはない。操作活動や思 考実験をすることによって、どのようにして数学が生み出され、発展し てきたかという過程を生徒に体験させることができる。そのような体験 を通して、生徒は数学をより身近なものに感じ、数学という学問のやり 方を、より深くより本質的に学ぶことができる。. 一 22 一.
(28) 1.2 新しい時代の数学教育. 1.2.2 平成元年の学習指導要領. 教育課程審議会の答申を受けて、平成元年3月15日に高等学校学習 指導要領は改訂され、平成6年度から学年進行で実施されている。高等 学校数学科の科目構成と単位数は図1,13のとおりである。. 騨 [m到2魎2 図1.13. 数学科の科目構成と単位数(平成元年). (ア)この学習指導要領の特徴 数学科の目標7) は、次のように示されている。. 数学における基本的な概念や原理・法則の理解を深め、事象を数 学的に考察し処理する能力を高めるとともに数学的な見方や考え 方のよさを認識し、それらを積極的に活用する態度を育てる。. この目標を前回までの学習指導要領における数学科の目標と比較して みると、 「数学的な見方や考え方のよさ」といった情意面への配慮が示. されたことが目新しい。昭和26年の学習指導要領までは、情意面や生 活との関連を示した目標が並んでいたが、今回再び情意面に配慮した目 標が登場したことは注目に値することである。これは、教育課程審議会 答申で示された「数理的な考察処理の簡潔さ、明瞭さ、的確さなどのよ さがわかるようにし、算数、数学を意欲的に学習しようとする態度を育 てるよう配慮する」を具体化したものといえる。. 23 一.
(29) 1。2 新しい時代の数学教育. (イ)体験的な学習・問題解決的な学習. 数学科の目標で示された数学的な「よさ」は、問題演習中心の授業で はなかなか感じることは難しく、体験的な学習や問題解決的な学習を経 験してはじめて、体感できるものである。学習指導要領の趣旨をより具 体的な例で示した「高等学校数学指導資料」では、指導計画を作成する に当っての基本的な考え方8) として、次の5点を挙げている。. ①基礎・基本の重視 ②数学的な見方や考え方のよさの認識. ③数学を活用する態度の育成 ④個性を生かす教育の充実 ⑤論理的な思考力や直観力の育成 このうち、 「基礎・基本」に関しては、次に示すような3つの側面が あるとしている。. ア 知識・技能という側面からみた基礎・基本 イ 数学的な見方や考え方という側面からみた基礎・基本 ウ 学び方という側面からみた基礎・基本 基礎・基本といえば、通常はアの知識・技能面のことを思い浮べるが、 今回の改訂では、イやウの視点が加わり、その重要性が強調されている。. 「イ 数学的な見方や考え方という側面からみた基礎・基本」として 重要なものは、「問題解決などにおいて、予想を立てたり確かめたりし ていく過程での見方や考え方」であると示されている。. また、「ウ 学び方という側面から見た基礎・基本」は、「自ら学ぼ うとする意欲や主体的な学習の仕方」であるとし、体験的な学習や問題 解決的な学習を特に充実させていく必要があるとしている。. イ、ウどちらの基礎・基本においても、問題解決が強調されているこ. 24 一.
(30) 1.2 新しい時代の数学教育. とは、特筆に値する。このことから、これからの数学教育においては、. 数学的な知識や技能の習得だけではなく、問題解決的な学習も積極的に 取り入れていく必要があるといえる。. 1.2.3 数学科における問題解決学習 文部省が示した「問題解決的な学習」は、数学教育界における「問題 解決学習」と必ずしも一致するわけではないが、少なくともその影響は 受けていると考えられる。数学教育界で、問題解決が今日のように脚光. を浴びるようにようになったのは1980年にNCTM(全米数学教師協議 会)が、アジェンダ9) を発表して以来のことである。この勧告の第1 項には、 「問題解決が1980年代の学校数学の焦点でなければならない」. としるされている。アメリカ数学教育界では、問題解決を重視する風潮 はその後も続き、1989年に発表されたスタンダード10)においても、問 題解決が数学のカリキュラムの中心的な焦点になるべきであると強調さ れている。このようなアメリカ数学教育界の動きが、日本の数学教育界 に影響を及ぼしたと考えられる。. 「問題解決学習」の定義づけについては諸説があるが、ここでは数学 教育界での研究を概観するすることにする。古くは、G.ポリア11)が、 問題解決の過程として次の4段階を挙げている。 (1)問題を理解すること (2)計画を立てること (3)計画を実行すること (4)ふり返ってみること. これは、 「理解・計画・実行・検討」の4つ段階にまとめられ、数学 教育界では広く知られている。しかし、ポリアのいう問題解決は、数学. 一 25 一.
(31) 1.2 新しい時代の数学教育. の問題を解く際の手順・方策を示したものであり、今日では狭い意味で の問題解決と呼ばれている。. 今日では、問題解決はより広く捉らえられており、単に「問題を解く こと」ではない。数学の授業では、教師が例題の解答を示し、生徒はそ の例題の解法をモデルとして、類題演習に取組むという学習形態をとる ことが多い。しかし、これは「問題解決」ではなく、既にわかっている 手順に従って、問題を解く練習をしているだけである。このような練習 は、公式に数字を代入する単純な練習と本質的には変りがない。数学の 類題演習のように、解法のモデルが存在する状況というのは非常に特殊 な状況である。日常生活において起こる問題で、解法のモデルがすでに 分かっており、それを適用すれば解決されてしまうような問題はほとん どないといってよい。解法のモデルが存在しない状況の中で、解法をど のようにして発見し、問題を解決していくかを学習していくことが、広 義の問題解決である。. S.KrulikとJ.A.Rudnick12)は、問題解決を「発見的方法」と呼び、 次のように述べている。. 「発見的方法」とは、私たちが問題を解決するのを助けるために 用いられる創造的な指針のことである。それは示唆の集まりであ って、成功を保証するとは限らない。さらには、アルゴリズムよ. りもはるかに一般的である. つまり、それらは1種類または. 1つの型の問題にのみ適用されるものではない。 本質において、発見的方法は一般的な方策であり、特殊な論題 とは無関係であって、個々人が問題にアプローチしたり、問題を 理解したり、その問題の解決に達したりするのを助けるために、. 従う示唆のことである。特殊な問題を解決するための技法は発見. 一26一.
(32) 1.2 新しい時代の数学教育. 的方法とみなすべきではない。. 数学科における問題解決は、単に数学の問題を解くための方策を学ぶ ことを目指しているのではなく、その方策を一般化して、社会生活にお いて必要になるような一般的な方策を習得することを目指しているとい える。. 次に、問題解決と関連した教育思想として、「オープンエンドアプロ ーチ」の考え方について概観してみる。普通、数学の授業で扱う問題は、. 正解は1つだけということが多い。これに対して、島田13)は正答がい く通りにも可能になるように条件付けた未完結な問題をオープンエンド の問題と定義し、 「そこにある正答の多様性を積極的に利用することで. 授業を展開し、その過程で、既習の知識・技能・考え方をいろいろ組み 合わせてあたらしいことを発見していく経験を与えようとするやり方」. を提案している。このようなやり方も、これも学習の過程を重視してい る点は問題解決と同じであり、問題解決をより広く捉らえたものといえ る。島田のいう「正答の多様性を積極的に利用する」という考えは、今 までの数学教育になかったもので、注目に値する。本研究における授業 実践も、この考え方を参考にして学習指導案を作成した。 日本の数学教育においては、問題を解いた結果(解答)のみを重視し、. 問題を発見したり、問題を解決していく過程はほとんど重視されてこな かった。学習過程を重視する教育としての、問題解決学習やオープンエ ンドアプローチの考え方は、今後の日本の教育にとってぜひとも取り入 れていかなければならないものである。. 一27一.
(33) 1,3 高等学校における新しい幾何教育. 1.3 高等学校における新しい幾何教育 1.3.1 学習指導要領における幾何の扱い 教育課程審議会の答申では、高等学校数学科の改善事項14)として、 「幾何については、中学校の数学の内容との関連に配慮し、論理的な思. 考力や直観力を養う観点から、論証幾何や複素数平面を取り扱うことが できるようにする」と述べている。答申の中で、直観力が強調されてい ることは特筆すべきことであり、幾何教育に対する期待感が感じ取れる。. この答申を受けて作成された新学習指導要領における幾何領域は、図1.. 14のとおりである。. 『数学A』. (2)平面幾何 『数学B』. (1)ベクトル (2)複素数と複素数平面. 『数学H』. (2)図形と方程式. r数学C』 (2)いろいろな曲線. 図1.14 高等学校数学科の幾何的内容(平成元年). 『数学A』の「平面幾何」、 『数学B』の「複素数と複素数平面」は、. どちらもかつて高等学校で扱われていた内容であるが、解析幾何やベク トル幾何では得られにくい「直観」を働かせることができる教材である。. この2教材が加わったにも拘らず、解析幾何やベクトル幾何が削減され ることがなかったことは、新学習指導要領において幾何教育が重視され ていることを示している、,. 一28一.
(34) 1,3 高等学校における新しい幾何教育. 1.3.2 「平面幾何」における新内容「平面上の変換」. 『数学A』の平面幾何の内容は、大きく分けて2つの内容で構成され ている。 「ア 平面図形の性質」では、中学校で学んだ図形の基本性質. をまとめた上で、より発展させ、軌跡や作図問題まで扱う。これは昭和. 30年の学習指導要領まで高等学校で扱っていた内容に近いものである。 それに対して、「イ 平面上の変換」は全くの新内容であり、変換の考 えとその応用を扱う。平面幾何を昔と同じように教えるのではなく、新 しい息吹きを吹き込むためにこの内容は導入されたと言えるであろう。. 幾何学を変換によって分類する考えは、1872年にF.クラインが発表 した有名な研究目録(Erlangen Program)15)に始まる。幾何学とは、. 変換群のもとで変らない図形の性質を研究することであるとクラインは 定義した。この定義によれば、ユークリッド幾何学は合同変換によって 変らない図形の性質を研究する幾何学ということになる。. 今世紀の中期以降、上記のような現代数学の影響を受けて、数学教育 界でも、中学校・高等学校段階の幾何教育を変換の考えで見直していく べきだという運動が起こった。ユークリッド流の合同を用いた図形の静 的な見方ではなく、変換を用いた図形の動的な見方で幾何を構成してい こうという運動である。実際に、変換を用いた幾何教育コースがいくつ か考案されており、フランスでは一時期、ユークリッド流の幾何の代り に変換を用いた幾何が全面的に採用されていた。日本においても、数学 教育の現代化の時期に、中学校において「変換の考え」という単元が導 入されたが、中学校段階ということもあり、やや中途半端なものであっ た。今回高等学校に導入された内容は、それよりも高度なもので、変換 の考えを用いて図形の性質を証明することなども取り扱われている。 図形の変換とは、図形の移動のことであり、小学校では「ずらす」、. 一29一.
(35) 1,3 高等学校における新しい幾何教育. 「まわす」、「裏返す」といった操作を通して学んでいる。中学校の1 年生で、平行移動、対称移動及び回転移動として学んでいるが、単にそ の紹介にとどまっており、それがどのように役立つのかまでは学んでい ない。図形を動かすという操作的な活動が、高等学校において数学とし て定式化され、数学の問題解決に役立つことを学ぶことになる。. 変換を用いた幾何は、実はユークリッド幾何よりも直観的である。ユ. ークリッド幾何における「合同」という概念は、変換の幾何では2つの 図形が重なるように回転移動したり、平行移動したり、裏返したりする ことに相当する。また、「相似」という概念は、変換の幾何では、一方 の図形を他方の図形と同じ大きさになるまで拡大・縮小するということ になる。このような図形の動的な見方は、生徒が中学校で学んできた静 的な図形観とは大きく異なるものであるから、変換の幾何を学ぶことは、 生徒の図形観を広げる上でとても有効である。. また、これまでの高等学校の数学の題材には、操作活動が取入れられ るものが少なかったが、この内容は図形という具体物を動かすことを考 えるので、操作活動を取り入れるのに適しているといえる。. 一30一.
(36) 2.1 高等学校数学科でのコンピュータ利用. 第2章数学教育へのコンピュータ利用と先行研究. 2.1 高等学校数学科でのコンピュータ利用 2.1.1 探究的活動とコンピュータ利用との関連 学習指導要領解説では、 「第2節 数学科の目標 1 高等学校にお ける数学教育の意義」において、次のように述べられている16)。. さて、情報化社会に必要な数学的な資質を養うには、コンビュー タを有効に活用することが必要となる。コンピュータを活用した 学習は、探究的思考や発見的考察を通して、生徒の数学的な経験 を豊かにすることができる。ところで、コンピュータを活用した 数学の学習は、情報処理の手ほどきを目的とするものではなく、. コンピュータを知的活動の教具として活用することを目指すもの である。そのため、コンピュータの活用は、生徒が数学を楽しく 学習することができるよう、新たな指導方法や教材の開発につな がるものでなくてはならない。. ここでは、 「探究的思考」・「発見的考察」のための道具としてコン. ピュータを活用することが明確に位置付けられている。それ以前の学習 指導要領では、コンピュータは「電子計算機」と呼ばれ、計算の道具と して位置付けられており、教育内容はアルゴリズムの学習が中心であっ た。平成元年度の学習指導要領においても、アルゴリズムの学習的な単 元も存在するが、それだけではなく、コンピュータを全ての科目・単元 で活用することを求めている。コンピュータは、もはや単なる「計算機」 にとどまらず、 「知的活動の教具」として位置付けられている点が従来. の学習指導要領と全く異なる点である。コンピュータを「知的活動の道 具」として活用していく研究はまだ始まったばかりであるが、この道具. 一31一.
(37) 2.1 高等学校数学科でのコンピュータ利用. をうまく利用すれば、今までとは異なる全く新しい数学のカリキュラム を構築できる可能性がある。本研究は、その一環として、幾何教育にお ける知的活動の道具となるソフトウェアを開発し、新しい授業の方法を 提案するものである。. 次に「問題解決的な学習」とコンピュータの活用との関連について考 えてみることにする。正田實17)は、「問題解決あるいは問題探究的な 学習方法は、多くの場合、個別的なもの」であるから、 「問題解決的あ. るいは問題探究的な学習方法が重視されるためには、従来の一斉指導型 だけで対応できるものではなく、学習を個別化しそれを総合するための 手段が考案されねばならない。」と指摘している。学習を個別化するた めの手段の一つとしては、コンピュータは確かに有効である。また、コ ンピュータのもつ高度な計算機能・グラフィックス機能を利用すれば、 従来の方法ではできなかったような問題解決的な学習も可能となる。. 2.1.2 操作的活動とコンピュータ利用との関連 高等学校の数学の授業では、伝統的に論理と計算力が重視されてきた。 しかし、高等学校の進学率の上昇、生徒の学力・意識の多様化によって、. 従来のような授業には適応できない生徒が増加してきている。このよう な生徒に対応していくためには、論理と計算に頼る従来通りの指導だけ ではなく、操作や実験的な活動を取り入れて、生徒に一つ一つ納得をさ せながら指導していく必要がある。. また、現代の子供たちは、幼児期・学童期において屋外で遊んだり、. 家事の手伝いをしたりすることが、昔の子供に比べて少なくなってきて いる。そのような生活経験の少なさのために、昔の生徒であればほぼ全 員が共有できていたような知識や技能が、現在の生徒では共有できてい. 一32一.
(38) 2.1 高等学校数学科でのコンピュータ利用. ないことが多い。そのため、教育においてもいろいろな支障が生じてい る。例えば、立体のイメージを頭の中で描くことができない生徒が近年 増えてきているが、これはおそらく手作業でいろいろな物を作ったり、. 壊したりした経験が不足しているためと思われる。そのような実体験の 不足を補う意味でも、数学教育に操作活動を取り入れていく意義は大き い。. 「高等学校数学科指導資料」の中では、操作活動とコンピュータの活 用と関連させて次のように述べられている18)。. コンピュータを活用した学習は、探究的思考や発見的考察を通 して、生徒の知的活動を豊かにするのに役立つばかりでなく、と かく形式的になりがちな数学的概念を操作的・実験的な方法で具 体化して生徒に提示することができる。さらには、コンピュータ のグラフィックス機能を利用することにより、これまでとは違っ たより効果的な方法で、生徒の数学的イメージを膨らませるのに 役立てることもできる。特に、授業展開の導入部分で有効に用い れば、生徒の学習への動機付け、数学への興味付けにも威力を発 揮しよう。また、コンピュータを活用した数学教育は、それが適 切に行われれば、多様化した高校生に対応するための一つの方策 を生み出すことも期待できる。. 小学校の算数で操作的活動を行う際には、具体物がすぐに用意可能で あり、また、具体物を扱うことが適しているといえる。しかし、高等学 校の数学で操作的活動を行おうとしても、具体物を用意することが難し いことが多い。そこで、コンピュータのグラフィックス能力を利用して 「具体物」を作ることができれば、高等学校においても、操作的な活動 は可能となる。. 一33一.
(39) 2.1 高等学校数学科でのコンピュータ利用. 柿木衛護19)は、数学学習における操作活動の有用性について、次の 5点を示している。 (1)操作的活動はおもしろい (2)操作的活動は、わかりやすい (3)i操作的活動は、能動的な学習活動ができる. (4)操作的活動は、数学を創り出す過程を体験できる (5)操作的活動は、能力差に応じた学習活動ができる. コンピュータを用いた操作活動は画面を通した体験であるため、普通 の教具を用いた操作活動に比べれば、間接的であるといえる。その意味 で、コンピュータを用いた操作活動と教具を用いた操作活動を区別する 考え方もある。しかし、道具として利用する立場からすれば、どちらも 同じであり、その道具が適するような場面で使うことが大切である。コ ンピュータが適する場面とは、計算の複雑さや作図の困難さなどの理由 で、従来は操作的・実験的な方法を採用することができなかった場面で ある。実験的な方法によって法則などを帰納してゆき、それを演繹的な 方法で証明する授業ができれば、これはまさに柿木の指摘する「数学を 創り出す過程を体験」させることになる。従って、コンピュータを活用 することによって、柿木の示した操作活動の有用性を満たした授業を、 高等学校においても創造することができる。. 一 34 一.
(40) 2.1 高等学校数学科でのコンピュータ利用. 2.1.3 コンピュータ利用の分類と本研究との関連 高等学校の数学科でのコンピュータ利用は、大きく2つに大別される。. 1つは、プログラム作成を行う単元での利用であり、もう1つは、数学 の教授活動や学習活動にコンピュータを利用するものである。. (ア)プログラム作成を行う単元での利用. 『数学A』の「計算とコンピュータ」及び『数学B』の「算法とコン ピュータ」の単元では、中学校や高等学校で学んだ内容を題材として取 り上げ、実際にプログラムを作成する。これらの単元での教育目標は、. 題材自体の理解を深めることと、プログラムを作成することの2つであ るといえる。すなわち、「プログラミングを通して数学を学ぶ」ことと、 「プログラミングを学ぶ」ことの両方をねらっているわけである。当然. のこととして、これらの単元の授業では、講義よりも演習の比率が高く. なり、効果的な演習を行うためには、生徒1人に1台のコンピュータを 与えることが必要になる。また、応用数理が中心の『数学C』において も、同じような利用方法がとられる可能性がある。 本研究では、 「平面幾何」の単元を扱うため、このような利用方法と は関係がない。. (イ)教授活動・学習活動での利用. 「計算とコンピュータ」及び「算法とコンピュータ」以外の単元では、. 数学の教授・学習活動にコンピュータを利用していくことになる。どの ように利用していくかによって、次の3つの型に分類することができる。 (1)個別学習用の機械としての利用. 狭義のCAlをいわれるもので、コンピュータに教師の代行をさ. 一35一.
(41) 2.1 高等学校数学科でのコンピュータ利用. せようとするものである。これには、ドリル演習中心のものや、チ ュートリアル中心のものなどがある。. 高等学校の数学を対象として考えると、単純な計算練習などの分 野ではドリル的な利用も可能であるが、思考力・判断力を要するよ うな問題に対しては、ドリル的な活用をすることは不可能である。. また、チュートリアル的な利用の場合には、どうしても教科書の内 容を画面上に表示しただけになってしまいがちであり、紙芝居やス ライドを見せるのとあまり変らないことが多い。 どちらのタイプにしても、教師(オーサー)が、オー一・一サリングツ. ールなどを用いて教材(コースウェア)を作成することになる。し かし、生徒のあらゆる反応を予想してコースウェアを作成しなけれ ばならないため、その作業には大変な労力が必要となる。また、苦 労してコースウェアを作り上げても、生徒の学習は教師(オーサー) が予想したような筋道を必ずしも辿るわけではない。したがって、 そのような場合には、生徒の学習は不十分なものとなる。. 現在の技術では、コンピュータが生徒の考えや意図を読み取るこ とは不可能であるので、個別学習用の機器としてコンピュータを利 用する場合には、人間の教師と同じような効果を期待することはで きない。. 本研究では、教師の代りをするような個別学習機器の開発を目指 しているわけではないので、このような利用方法とは、直接的には 関係がない。. (2)教師の教材提示機器としての利用. コンピュータのグラフィックス機能を活かして、OHPやビデオ. 一36一.
(42) 2.1 高等学校数学科でのコンピュータ利用. 等ではできなかった教材提示やシミュレーションの演示などに利用 するものである。このような利用方法では、コンピュータは、教師 のための道具、すなわち教具として位置付けられている。. 本研究の授業実践においても、開発したソフトウェアを教材提示 に用いる場面もあるが、ソフトウェア自体はこの目的のために開発 したものではない。. (3)生徒の学習用のツールとしての利用. 生徒が数学の学習に取り組む場合に、コンピュータを道具として 利用するものである、,人間の手作業での計算能力には限界があるが、. 算盤や電卓などの道具を用いれば、複雑な計算や大量の計算もこな すことができる。同じように、コンピュータを用いれば、計算だけ でなく、グラフを描いたり、図形を描いたりする能力を高めること ができる。したがって、数学の学習を進めていく場合に、生徒がコ ンピュータを道具としてうまく利用すれば、今までできなかったよ うな学習活動が可能になる。例えば、高等学校における統計の授業 では、今までは計算が複雑なため、多くの資料を扱った実験をする ことができなかったが、コンピュータを利用すれば、生徒が統計的 な実験を行うことができるようになる。. 生徒が自分の目標をはっきり自覚して学習に取組む場合には、こ のような利用方法は、生徒の数学的な活動の幅を広げることができ、 非常に有効である。. 本研究では、生徒が幾何学習を行う際に、道具として活用できる ソフトウェアの開発を目指している。. 一 37 一.
(43) 2.2 幾何教育におけるコンピュータ利用. 2.2 幾何教育におけるコンピュータ利用 2.2.1 幾何教育へのコンピュータの利用の意義 (ア) 正確な作図. 小学校の段階では、児童に手作業で作図させること自体に教育的な意 義がある。しかし、ある程度の作図能力が備っている高校生の段階にお いては、作図することよりも、作図した図から何を引き出すかが教育的 には重要となる。作図にコンピュータを用いると、複雑な図でも誰でも 簡単に短時間で描くことができ、たとえ途中で間違っても簡単に修正す ることができる。そのため、作図にコンピュータを利用すると、図を描 くことが苦手であったり、時間がかかる生徒であっても、思考に集中す ることができるという利点がある。また、幾何教育においては、正確な 図を書くことは何より大切なことである。正確な図を眺めることによっ て、直観を働かせることも可能となる。 (イ) 動画表示. コンピュータが、作図に関して黒板やノートに対して勝る機能は、正 確な作図だけではない。正確な作図機能以上に、動画を表示する機能は. 重要である。単に図形が動く様子を見せるだけならば、ビデオやOHP でも可能ではあるが、授業の中でリアルタイムにかつ正確に動かすこと ができるのはコンピュータだけである。また、等積変形や拡大・縮小な どの表示はコンピュータを用いて初めて可能となる。. 授業で変換について教える場合に、最大の障害となることは、図形の 動きを黒板上でうまく表現できないことである。黒板での静的な表示で は、変換のイメージを得ることができない生徒が多い。しかし、そのよ うな生徒に対してもコンピュータを用いれば変換の幾何を分かりやすい 形で教えることができる。具体的には、教材の導入時、問題の解説時に. 一38一.
(44) 2.2 幾何教育におけるコンピュータ利用. コンピュータを利用して動く様子を見せれば、生徒は変換に対して正確 なイメージを抱くことができ、イメージを描くことが苦手な生徒にとっ ては福音となる。したがって、「平面上の変換」を教える際には、コン ピュータの利用は非常に有効な手段となると考えられる。. 2.2.2 幾何教育用ソフトウェアの分類と本研究との関連 ここでは、幾何教育向けに実際に開発されたソフトウェアを4種類に 分類し、その特徴についてまとめる。. (ア)特定の教材に限定されたソフトウェア. ある特定の幾何学の定理を説明するようなソフトウェア20>は、数多 く開発されている。それらは、個別の定理を説明するチュートリアル型 であるものが多い。また、教師の教材提示用として開発されたものもあ る。これらのソフトウェアは、機能的にどんなに優秀であっても、特定 の教材に限定されたものであり、汎用的なものではない。また、ほとん どのソフトウェアでは、単に見せるだけに終わっており、生徒が自由に 操作することは想定していない。したがって、これらのソフトウェアを 生徒が学習の道具として利用することはできないので、本研究で開発す るソフトウェアとは基本的な思想が異なる。. (イ)定理の自動証明・証明の支援をするソフトウェア. 幾何学の定理を自動的に証明したり、定理証明の支援をするようなソ フトウェア21>は、人工知能研究の一環として古くから研究されている。. しかし、現在開発されているソフトウェアは、ある限定された問題に対 してのみ、自動証明や証明支援ができるものであって、汎用的なもので. 一 39 一.
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