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第 4 章  事例の解釈

第 2 節 事例のまとめ

2.4  食品加工機械の開発事例のまとめと解釈

と「場所」の関係になっている。それぞれは、横の関係性と縦の関係性で結ば れている。このような入れ子状の構造は、生命システムにおける形態単位の階 層構造と同じである。生物学の「場」の理論では、「すべてのシステムないし有 機体は単純なものから複雑なものまで階層的に組織化されており、このような システムは様々なレベルにおける形態単位から構成されている。このような階 層構造においては、高レベルの形態単位は、構成要素である部分を調整しなけ ればならない。この調整は高レベルの形態単位の形態形成場が、低レベルの形 態形成場に作用することによって行われると考えられるため、形態単位だけで はなく形態形成場も階層をなして組織化されている」(西口,1997)と考えられて いる。つまり、マエカワの組織における情報的階層構造は、生物システムの形 態形成場の階層構造と同様の特徴を持っていることが指摘できる。

トムアップの情報とトップダウンの情報、言いかえれば市場からの内部情報

(「場」の情報)と外部情報(「場所」の情報)の一致と解釈することができる。

第 2 に、外部の人材や若手技術者の登用、新しいテクノロジーの利用を積極 的に行っている点が挙げられる。マエカワは、開発の第Ⅰ期(1980〜86年)に おいて積極的に外部の人材や技術を利用している。なぜなら、冷凍機メーカー のマエカワには工作機械の技術やノウハウがなかったからである。冷凍機は回 転機であり、NCマシンのような工作機械とは構造が全く異なる。しかし、トリ ダスの開発のためにはどうしても工作機械の技術が必要であると考えられた。

市場のニーズにあった製品開発のためには、考えうる全ての手段を導入する。

それはトリダス開発に限ったことではなく、合目的的でさえあれば、あらゆる ものを取り込んでしまうマエカワの「場」に共通する特徴である。

第3に、第Ⅱ期(1990〜92年)に形成されたネットワーク型のプロジェクト が挙げられる。これは、選抜された少数精鋭のエリートが開発の先鋒を担った というわけではなく、現場に一番近い技術者を核にして、全国に散らばってい る独法の関係者が横断的かつ暫定的につながってプロジェクトを形成していっ たという点に特徴がある。顧客に密着している独法のメンバーが結集したこと は開発の大きな推進力になった。このようなネットワークによるプロジェクト 生成も、マエカワの「場」づくりの特徴を表している。

第 4 に、開発の最初から最後まで一貫したコーディネート役の存在である。

これを「場のコーディネーター」と呼ぶことにする。場のコーディネーターは、

積極的に場を動かして行くというよりも、その場に合致した適切な人材や技術 を投入しながら、「場」の動きが大きな「場所」の方向性とあっているか常にチ ェックし、方向性がずれてきたら軌道修正を行う、いわば舵取り役である。

場のコーディネーターは、現場の直観から生まれた「仮説」を行動を通して「検 証」していくプロセスを一種のノウハウとして内面化している。これは行動原 理としての「プロセス知」である。このようなコーディネーターが生まれる背 景には、マエカワの人材育成の考え方があると思われる。マエカワでは「教育 はしない」といわれる。しかし、形式知を伝達する教育は行われていないとし ても、現場から得た情報を自分で解釈し、それを戦略や技術に置き換えて検証 する訓練は繰り返し行われている。そのときに重要なのは、現場の情報(「場」

の情報)と、マエカワ全体や日頃接している市場の情報(「場所」の情報)との 整合性を確保することである。「場」の情報だけあっても、それが「場所」の情 報と整合的でなければ仕事はうまくいかない。失敗を通してそのことを暗黙知 として体得していく。それはマニュアル化できるものでも、口頭で教えられる ものでもないので、「教育はない」という表現がされるのである。しかし、マエ カワという場に参加することによって、その「プロセス知」を獲得することが

プログラムされているとも考えられる。

第 5 に、製品を商品にするための完成度をあげる「作り込み」のプロセスを 顧客の現場で共同で行われたという点である。食品機械は高度な組合せ技術が 要求されるので、サプライヤーから提案するのが難しい商品である。いかに顧 客の暗黙知を形式化するかが問題で、そのために顧客の現場に棲み込むことが 不可欠であった。

一條は『バリュー経営』(1998)の中で、トリダス開発を組織における「超近 代の知」創造のプロセスとして位置づけている。すなわち「前川製作所が開発し たトリダスは、顧客の現場に開発者が弟子入りして鶏モモ肉脱骨のスキルを身 につけ、それを機械のスペックに落とし込んでいくことに成功したからだった。

いわば鶏肉脱骨のスキル=暗黙知が形式化されて機械の中に具現され、イノベ ーションが起った」と解釈している。このことを更に突っ込んで考えると、技 術者が顧客の現場に入り込んで、暗黙知として潜在していたニーズを具現化で きたことの前提は何だったのかという問題が浮かび上がる。このことに関して、

リードユーザーである顧客企業の社長は、次のように語っている。

「うちは既に開発された商品を買ってくださいっていって持って来られても 買えない。特徴を出すためには、やっぱり共同開発しないとぴったりしたもの にならない。背広と一緒です。ちゃんと寸法をとって、仮縫いのときに身体に あっているか確認しないと、着心地のいいものにならないでしょう。うちの連 中が守谷工場へ行くときには、うちの工場へ行ってくるっていう感覚なんです よ。社内でやっているような感覚で、作らしてくるって思っている。マエカワ の人たちもうちへ来るとき、取引先にいって機械を買ってもらうというより、

機械を作りに行ってくるっていう感覚でしょうね。だから無駄がない。企業同 士が長年一緒になってやってきた感覚っていうのが大切で、そこでコンセプト があってないとだめですね。」104

開発の決め手になったのは、ユーザーとサプライヤーという企業の枠を超越し た「場」において、製品が作り込まれていったことであった。言いかえれば、

暗黙知を表出化する、そのプロセスを見つけたことが重要だったのである。そ して、その背景には、20 年以上にわたる顧客との関係性の質的な深耕があり、

そのことが両者に共通の「場所」になっていたと考えられる。「場所」において

「場」が共創される前提が既に存在していたのである。

104 村岸氏へのインタビュー