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第3章  事例研究:前川製作所

第 6 節  組織間における場の創造(2)‐パン工場改善プロジェクトの事例

6.6  工事

 つまり、生産量によって 100 個以下のアイテム、数千単位のアイテム、1 万 個以上のアイテム、という三つのパターンがあることがシミュレーションでは っきりしたのである。冷凍生地をホールセール事業に使うことによる日保ちや 味の問題も、新しい技術の開発してなんとかクリアできる目処もたった。計画 実行の要である千代田工場の工場長もこの複合化工場構想に共感し、全面的に 協力することを約束した。

「タカキ全体がよくなるために千代田と広島を結合することになったんだか ら、成功させるためにどうするかを考えるしかないと腹をくくりました。」84  タカキの将来を展望する構想とプロジェクトの熱意が、創業当初から冷凍生 地の技術を育ててきた職人工場長を動かした。また、広島工場にはプロジェク トの中心メンバーである岡田が工場長として着任することになった。計画の核 心である工場の機能結合に欠かせない両工場の協力体制が整ったのである。両 工場の機能を合体させることによって、単なる工場の老朽化対策にとどまらな い投資回収可能な生産システムの素案が出来あがった。

敗はできないと思った。」85

マエカワとしても最初から計画に携わった以上、何としてもやりきらなければ ならない。失敗は許されない工事であった。そこで、今回のプロジェクトのマ エカワ側のマネージャーである河野が、工事の責任者として現場に入ることに なった。もともと河野は、広島営業所時代からタカキの工場のことはよく知っ ており、主だった工事の仕事にもほとんど携わってきた。特に冷凍パンのライ ンのことはタカキの工場で学んだようなものであった。河野が自ら現場責任者 となり、マエカワ側から食品関係の若手の技術者 2 名が専任として広島工場に 送り込まれた。そのほか計装関係で守谷工場から常時数人が広島工場に詰める ことになった。

 現場の運営体制は、タカキの設備担当の責任者が工事と生産の調整を行い、

マエカワが工程管理と業者の取りまとめを行うことになった。今回の工事で最 も困難だったのは、通常の製造を止めないで工事を進める点にあった。そのた め工事は事前に綿密なスケジュールが立てられた。最初に老朽化したり必要な くなった機械を撤去する。撤去した段階で、現在稼動しているラインの一部分 を空いたスペースに移動させ、もとのラインでは別の工事を行う。普段は社員 食堂に使われているスペースも、他のラインを移動させたり、機械の仮置きに 使われた。いわば、限られた枠の中でコマを上手に動かしていくパズルのよう なものであった。食品工場であるから製品への異物混入は大問題となるから、

それに対しても万全の体制が取られることになった。

 しかし、実際に工事をスタートしてみると、なかなかスケジュールどおりに は進まなかった。古い工場であるから、天井を空けてみると図面にはない配管 があって、それを移動させないと次の工事ができないといったようなトラブル が続出した。その都度、関係者が集まって工事の段取りをその場で変える。設 計変更は日常茶飯事に行われた。納得できなければ、専門家を呼んでその時点 でベストだと思われる対策を立てていった。

「本当にみんなが真剣になったのは 10 月くらいじゃないかと思う。私はそれ を待ってた。そうしないとみんな自分のことを優先して全体のことを考えら れない。でも、本当に先がないんだってことを実感すれば、全体を進める上 で何がイエスで何がノーかみんながわかるようになる。」86

85 河野,第7

86 河野,第7

 いろいろな業者が集まって工事を進める上で、どこかが自分たちの仕事だけ を優先したら先に進めない。ましてや、非常に複雑な工程を日々こなしていか なければいけない厳しい現場である。当然、それについてこられない者はこぼ れていくしかなかった。

 この工事のもう一つの難問は予算であった。最低に見積もった金額より30%

低い金額で実行しなければ予算内におさまらない。利益を出すためには更にコ ストダウンが必要である。それは並大抵の努力では達成できない数字であった。

原材料や機械の調達に際してシビアな交渉が展開された。また、システムの考 え方を変えることによってコストダウンが図られた。全てをコンピュータの自 動制御で管理しようとせずに、少し人手を加えることによってシステムにかか る費用がかなり下がる。例えば、10 人の人手がかかっていたのをゼロにするの ではなく 2 人にすることによってコストを20%削減できる、といったように システムの調整を行うことで細かい数字を積み重ねた。これには、ただ単にコ ストを削減するためではなく、人が管理できるシステムにするという狙いもあ った。人手の全くかからない理想のシステムは、裏を返せば人が管理できない システムになる可能性がある。そのためにも重要なところは人手で行うことで 合意ができた。

「一般的に顧客にはなるべく自動化したいという希望がある。人手がかかる ほどコストもかかるし、食品衛生上の菌の問題もある。でも、人がある程度 関与しないと人に好かれる製品はできないと思う。全自動で作られた製品は 無味乾燥な製品になってしまう。それに、ある程度人が関与できる余地を残 しておかないと、後で何らかの変更を加えようと思っても制御のきかないシ ステムになってしまう恐れもある。」87

明日の工程すらはっきりとは見えない中で、関係者は必死になって工事を進 めていった。生産ラインの都合で深夜にしか工事のできないところもたくさん あった。10月に入ると、マエカワの食品関係のメンバーが新たに2人加わった。

それで中心になるメンバーが二つのチームに分かれて、36時間のローテーショ ンを組んで昼夜を問わず工事が進められた。今日の予定はどんなことがあって も今日中に終わらせる。今日の遅れが取り返しのつかないことになるかもしれ ない。問題が発生したらその場で解決する。その繰り返しであった。そんな過 酷な現場でも誰も文句をいう人間はいなかった。納期に間に合わせるためにタ

87 河野,第7回

カキもマエカワも他の業者のメンバーたちも、関与者全員が必死だった。

 全員の総力によって工事は無事に12月初旬に完成した。無事故かつクレーム ゼロであった。そして12月14日に竣工式が行われた。