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韻母

ドキュメント内 著者 中野 尚美 (ページ 62-65)

第 4 章 霊石県城関方言の記述

4.1 霊石県城関方言の音韻体系

4.1.2 韻母

4-2

は、城関方言の韻母を「介音」の種類に基づいて整理し、各韻母についていくつか の単音節形態素の例を示したものである。

61

4-2

城関方言の韻母

介音な

介音

-i- 介音

-u- 介音

-y-

[a] 爬茶睁()() [ia] 嫁牙冷()

() [ua] 抓挂花瓦 [ya] 饺横()

[æ] ()()()

() [iɛ] ()()

[uæ] ()()()

()

[] 车磨歌桃() [ie] 左姐我夜 [uo] ()()()

() [ye] 靴锁谷()()

[yo] ()()()

()

[ae] 买妹菜开 [uae] 对罪怪外

[ei] 扇婆多()() [iɪi] 面天年烟 [uei] 软肥唾()() [yɪi] 全权园

[ɑo] 宝照高桃() [iɑo] 表料笑腰

[əu] 路走肉后 [iəu] 六酒牛油

[] 字迟师剩() [i] 皮西衣井() [u] 谱兔苦副 [y] 鱼岁()()

[ʮ] 租猪水()()

[əɻ] 儿二

[ɑ̃] 办南章糠() [iɑ̃] 浆响眼痒 [uɑ̃] 端装关王

[ŋ] 人根()()() [iŋ] 民顶()()

[uŋ] 温问

[uŋ] 龙寸中风 [iuŋ] 军云用兄()

[aʔ] 八踏摘割 [iaʔ] 麦拍白鸭 [uaʔ] 脱刷刮活 [yaʔ] ()

[əʔ] 北墨侄十 [iəʔ] 笔贴切一 [uəʔ] 毒出五谷() [yəʔ] 菊血月药

4-2

に示した通り、城関方言は

44

種類の韻母を持つ。城関方言の韻母の音声的特徴とし て、以下の

7

点が挙げられる。

(1)

舌尖前母音

[, ʮ]

を持つ。

当該方言の舌尖前母音

[, ʮ]

は、歯茎破擦・摩擦音

[ts, tsʰ, s, z]

の後にのみ生起する。非円唇 の舌尖母音

[]

は北京方言をはじめ、多くの漢語方言に観察される。朱

(2010:248)

によれば、

円唇の舌尖母音

[ʮ]

は、呉方言・鄂東官話の他は散発的にしか観察されないとされるが、王

(1999:236)

によれば、山西省においては、楡社・平遥・介休(東楊屯)等、晋方言并州片の

一部に

[ʮ]

が見られる。

(2)

円唇奥舌高母音

[u]

の「外的円め」。

当該方言の円唇高母音

[u]

の円唇動作は、北京方言の

[u]

のように上下の唇を「

O

」の字形に すぼめて突き出すような動作ではなく、下唇だけを突き出して唇を「へ」の字形にするよ うな動作である。この円唇動作は、橋本

(1999:194-196)

のいう「外的円め」であると考えら

62

れる。橋本

(1999)

は、山西省安邑県(現在の山西省運城市)方言の奥舌高母音を

[ɯ]

で表し、

この母音の円唇動作は「外的円め」であると指摘している。そして、奥舌高母音の「外的 円め」の傾向はは晋語の奥舌高母音にかなり普遍的に観察されるとしている。

(3)

韻母

[i]

の口蓋性弱化。

韻母

[i]

は、口蓋性が弱化して

[ɨ]

のように発音されることが多いが、韻母

[]

との対立ははっ きりと保たれている。

例:皮

”skin”[pʰi

44

~ pʰ

ɕ

i

44

~ pʰ

ʃ

ɨ

44

]

、体

”body”[tʰi

324

~ tʰ

ɕ

i

324

~ tʰ

ʃ

ɨ

324

]

”wash”[ɕi

324

~ ʃɨ

324

]

≠死

”die”[s

324

]

(4)

韻母

[i, u, y, , ʮ]

に後続するわたり音

[ə]

高母音を主母音とする韻母

[i, u, y, , ʮ]

は、音節末に弱い中母音と声門閉鎖音

[əʔ]

を伴って

[iˑ

əʔ

, uˑ

əʔ

, yˑ

əʔ

, ˑ

əʔ

, ʮˑ

əʔ

]

のように発音されることがある。しかし、

[iˑ

əʔ

, uˑ

əʔ

, yˑ

əʔ

]

[iəʔ, uəʔ, yəʔ]

の対立 ははっきりと保たれており、聴覚的な印象も異なる。

[iˑ

əʔ

, uˑ

əʔ

, yˑ

əʔ

]

では主母音である

[i, u, y]

の持続時間が長いのに対し、

[iəʔ, uəʔ, yəʔ]

では

[i, u, y]

の持続時間が短い。これは、朱

(2010:263)

のいう「単母音後裂化」と同じ動機による現象と考えられる。「単母音後裂化」

とは、一部の漢語方言において、高母音を主母音とする単純母音韻母、すなわち

[i, u, y, , ɯ]

等が

[iə, uə, yə, ə, ɯə]

のように複合母音化する現象である。この現象は、母音の声帯振動が

終わる前に高母音の高い舌の位置が緩み、主母音の後に主母音よりも舌の位置が低いわた り音が形成され、さらにわたり音が音素として再解釈されることにより起こったと推定さ れる。ただし、霊石方言においては、音声的にはわたり音が形成されているが、

[i, u, y, , ʮ]

[iˑ

əʔ

, uˑ

əʔ

, yˑ

əʔ

, ˑ

əʔ

, ʮˑ

əʔ

]

は自由変異の関係にあり、五

”five”[u

213

]

[uəʔ

44

]

など少数の例外を除 いて、わたり音が音素として再解釈されるには至っていない。

(5)

共鳴音に挟まれた主母音

[, ə, e, ɪ]

の弱化。

非低母音の主母音

[, ə, e, ɪ]

は、半母音

[i, u, y]

と共鳴音の末子音

[i, u, ŋ]

の間に生起するとき 弱化する。ただし、

[ɪ]

を除き、頭子音がゼロ子音の音節では主母音がはっきりと発音され る。

[ɪ]

については、頭子音がゼロ子音か否かに関わらず常に弱化または韻尾

[-i]

と融合し、

[iɪi~ i

ɪ

i~iɪ, yɪi~y

ɪ

i~yɪ]

のように発音される。

例:

”correct”[tui

52

~tuᵉi

52

]

:围

”to surround”[uei

44

~uᵉi

44

]

”nine”[tɕiu

213

~tɕiᵊu

213

]

:油

”oil”[iəu

44

~iᵊu]

”hall, office”[tʰiŋ

324

~tʰiŋ

324

]

:音

”sound”[iŋ

324

~iŋ

324

]

:温

”warm”[uŋ

324

]

”dislike”[ɕi

ɪ

i

44

~ɕiɪ

44

]

:盐

”salt”[i

ɪ

i

44

~iɪ

44

]

”authority” [tɕʰy

ɪ

i

44

~tɕʰyɪ

44

]

:远

”far”[y

ɪ

i

213

~yɪ

213

] (6)

末子音を持たない韻母における主母音の長音化。

末子音を持たない韻母の主母音は、末子音を持つ韻母の主母音よりも長く発音される。例 えば、

[i, u, y]

[iˑ, uˑ, yˑ, ia, ua, ya]

[iaˑ, uaˑ, yaˑ]

のように発音される。

(7)

二重母音

[ae, ɑo]

の単純母音化傾向。

二重母音

[ae, ɑo]

が単純母音化して

[ae~ɛe~ɛ, ɑo~ɔo~ɔ]

のように発音されることがある。三重

63

母音

[uae, iɑo]

も同様に、

[uae~uɛe~ɛ, iɑo~iɔo~iɔ]

と発音される。

これら

7

つの特徴は、霊石県方言全体に共通する特徴である。このうち、

(1)

(2)

(3)

(7)

は晋方言并州片の一部の方言にも観察される。

(5)

(6)

については、菊田

(1967:167-171)

による 北京語の音韻分析においても同様の現象が指摘されており、多くの漢語北方方言に共通する 特徴と考えられる。

ドキュメント内 著者 中野 尚美 (ページ 62-65)