• 検索結果がありません。

前舌化タイプの中心地からの交流度計算の過程と結果

ドキュメント内 著者 中野 尚美 (ページ 126-133)

第 5 章 霊石県方言の内部差異と言語伝播の可能性

5.4 霊石高地における果摂開口一等韻母前舌化の言語伝播推定

5.4.2 前舌化タイプの中心地からの交流度計算の過程と結果

124

また、霊石高地の各村のボロノイ領域と、ボロノイ領域の母点として用いた村の地点デー タを図

5-10

に示す。ボロノイ領域の作成には、霊石高地の

3

県および周辺地域の行政村を母 点として用いた。

3

県の周辺地域の地点データのうち、古県・洪洞県については、筆者が『古 県行政区画図』、『洪洞県行政区画図』を参考に

google earth

の航空写真から行政村の位置を探 してトレースしたものである。交口県、介休市、孝義市、隰県、蒲県については、筆者が『山 西省市県地図冊』を参考に

google earth

の航空写真から行政村の位置を探してトレースした。

沁源県については、共同研究プロジェクト「

GIS

を用いた混合方言の形成要因の解明

山西 省中部の方言接触地域を中心に

」(代表者:沈力)から、『沁源県行政区画図』を参考に

google

earth

の航空写真から行政村の位置を探してトレースしたデータの提供を受けた。

図の左半分がボロノイ領域の母点として用いた村の位置を、右半分がボロノイ領域に分割 した結果を示している。図中の赤色で示した点が霊石高地の

3

県(霊石県、霍州市、汾西県)

に属する行政村である。

5-10

霊石高地および周辺の行政村を母点としたボロノイ領域

125

5-11

は、霊石高地各村の人口密度を示している。この人口密度は、各村を母点としたと きのボロノイ領域の面積を村の面積とし、村の人口を面積で割って算出したものである。方 言区

4

に属する村の人口密度を比較したところ、最も人口密度が高いのは、霊石県静昇鎮静 昇村(

1766

/ k

㎡)となった。静昇村は、静昇鎮の政府所在地であり、また静昇村には「王 家大院」という歴史的建造物があることから、古くから栄えていた地域であると考えられる。

従って、本論文では、静昇村(図

5-11

の赤い丸印)を中心地区の代表地点に選定する。

図 5-11 霊石高地における村ごとの人口密度と、歩行コスト計算の起点

5.4.2.2

歩行コストと交流範囲の村数

中心地区から各方言区への徒歩移動の利便性は、中心地区の人が一定時間内に到達できる 村の数

v

の多さによって表される。本論文では、中心地区の代表地点から各村までの歩行コ スト(移動にかかる時間)に基づき、中心地区の人が

1

日に到達可能な方言区ごとの平均村 数を計算し、これを中心地区の人が一定時間内に到達できる村の数

v

とする。歩行コストの

計算には

GIS

ソフト

GRASS (Flor and Neteler, 2014)

を用いる。具体的な計算過程は以下の三

つのステップに分けられる。

歩行コスト計算過程:

ステップ

1

:中心地区の代表地点を起点として、起点から霊石高地

608

村までの歩行コス トを計算する。

ステップ

2

:五つの方言区ごとに平均歩行コスト(中心地の人が当該方言区の一つの村を 訪れるのに必要な平均時間

(

時間

/

)

)を求める。

ステップ

3

24

時間を平均歩行コストで割り、中心地の人が

1

日に到達可能な平均村数を 求める。

126

5.4.2.2.1

歩行コストの計算方法

5-12

道路データ

5-12

は霊石高地の道路データである14。図中の黒いセルは道路を、白いセルは道路以外 の部分を表している。道路データは地形図と同様に

90m

四方のセルから構成されている。歩 行コスト計算では、道路部分のみを歩行可能とし、道路でない白いセルの部分を地形データ から除外する。そして、地形データから残った道路部分の傾斜(隣接セルの高度差)を算出 し、それに基づいて各セルを通過するときに必要なコストを一定の比率で時間(秒)に換算 する。

コスト関数は、

Aitken(1977)

Langmuir(1984)

の「歩行時間換算公式」に基づいており、人 間が平地・上り坂・緩やかな下り坂・急な下り坂を歩くときに必要な時間(歩行コスト)を 与える。ここでいう「緩やかな下り坂」とは、傾斜角度が

-12

度(上りを正の値とする)に満 たない下り坂であり、「急な下り坂」とは、傾斜角度が

-12

度よりも急な下り坂を指す。

コスト関数

T

は水平移動距離を

∆ S

、また、その間に上ったり下ったりしたときの垂直方 向の距離を

∆ H

(上りは

∆ H>0

、下り

∆ H<0

)とすれば、

14 この道路データは、筆者が『霊石県行政区画図』、『汾西県行政区画図』、『霍州市行政区画 図』に記載されている道路に対応する道路及び各行政村につながる道路を、

google earth

の 航空写真から探し、

google earth

の「パス」追加機能を用いてトレースして作成したもので ある。ここでは、

google earth

kml

ファイルとして出力した道路データを、

Qgis

shape

ファイルに変換し、それを

GRASS

でラスタデータに変換している。

127 𝑇𝑇 = 𝑎𝑎 ∆𝑆𝑆 + �

𝑏𝑏 ∆𝐻𝐻 �for uphill�

𝑐𝑐 ∆𝐻𝐻 (for moderate downhill) 𝑑𝑑 ∆𝐻𝐻 �for teep downhill�

で与えられる。ここで、

a

は単位長さを移動するときの平地での歩行コスト、

b

は上り坂を 歩くときに付加される歩行コスト、

c

は緩やかな下り坂を歩くときに付加される歩行コスト、

d

は急な下り坂を歩くときに付加される歩行コストである。

上記では一つのセルを通過するときに必要な歩行コストの計算方法を説明した。続いて、

起点から各村までの歩行コストの計算方法を説明する。

歩行コストの計算に用いるデータはセルからなり、起点から各村までの移動に必要な歩行 コストを求めるには、移動時に通過するセルを決定し、それらのセルを通過するときに必要 なコストの総和を求める必要がある。人間は一般的に歩行コストが少ない経路を選んで歩行 すると考えられるので、歩行コストが最小になる経路を通った時の歩行コストを、起点から 各村までの歩行コストとする。

この一連の計算は、

GRASS

のコマンド

r.walk (Flor and Neteler, 2014)

を用いて行った。パラ メータの値は

a=0.72,b=6.0,c=-2.0,d=2.0

で、いずれも単位は

sec/m

である。すなわち、水 平方向の歩行速度が時速

5km

、上り坂では高度差が

300m

増えるごとに所要時間が

30

分増え、

緩やかな下り坂(傾斜角度が

-12

度に満たない)では平地に比べ

300m

ごとに

10

分減少し、

急な下り坂(傾斜角度が

-12

度よりも急)では平地に比べ

300m

ごとに

10

分増加するという 設定で歩行コストを計算している。

r.walk

では起点から計算範囲内の全てのセルまでの歩行コストを計算するが、

r.walk

によ

る計算結果から各村の位置に相当するセルの歩行コストを抽出することで、起点から各村ま での歩行コストが得られる。

5.4.2.2.2

起点から各村までの歩行コスト

以下では、上述の計算方法に基づき、中心地から各方言区の村への平均歩行コストを求め る。まず、霊石県静昇村を起点として霊石高地

608

村までの歩行コストを求める。

128

5-13

歩行コストの計算結果

5-13

r.walk

による歩行コストの計算結果である。赤い星印は歩行コスト計算の起点(静

昇村)を示す。セルの色は起点から各セルまでの歩行コストを表し、黄色は歩行コストが

0-5

時間の範囲、黄緑は

5-10

時間の範囲、水色は

10-15

時間の範囲、青は

15-20

時間の範囲、ピ

ンクは

20-25

時間の範囲、赤は

25

時間以上の範囲を示している。道路部分のセルのみ歩行コ

ストを計算しているため、道路部分のセルだけに色がついている。図中の記号の位置は各村 の位置と方言区分を示している。

5.4.2.2.3

方言区ごとの平均歩行コスト

次に、

4

つの方言区ごとに平均歩行コストを求める。平均歩行コストは、「中心地の人が当 該方言区の一つの村を訪れるのに必要な平均時間

(

時間

/

)

」と理解してよい。まず、各方言 区内の全村の歩行コストの総和を求め、それを村数で割れば、中心地区から各方言区の村へ の平均歩行コストが算出できる。平均歩行コストの計算結果を表

5-6

に示す。

129

5-6

方言区ごとの歩行コスト

方言区 村数 総歩行コスト

(時間)

平均歩行コスト

(時間/村)

1日に到達可能な村数

(村/日)

360 5216.61 14.49 1.66

8 113.37 14.17 1.69

61 635.40 10.42 2.30

179 960.80 5.37 4.47

前舌化タイプの中心地から各方言区の任意の一つの村に歩いて移動するのに必要な労力を 時間に換算すると、方言区①の村に移動するには平均

14.49

時間必要である。方言区②の村 ならば平均

14.17

時間、方言区③の村ならば平均

10.42

時間、方言区④の村ならば平均

5.37

時間が必要である。

平均歩行コストの高低に基づき

4

つの方言区を並べると、その順序は次のようになる。

前舌化タイプの中心地からの平均歩行コスト順序:

(

方言区④

) < (

方言区③

) < (

方言区②

) < (

方言区①

)

従って、中心地からの歩行コストが低い方言区ほど前舌化している音類の範囲が広く、逆 に中心地からの歩行コストが高い方言区ほど前舌化している音類の範囲が狭いことが分かる。

つまり、中心地から徒歩で移動するのが容易であるほど前舌化が進んでいるということにな る。

5.4.2.2.4 1

日で到達可能な村数

最後に、

24

時間を平均歩行コストで割り、「

1

日に到達可能な村数

(

/

)

」を算出する。そ の計算結果も表

3

に示す。中心地から方言区①に移動するとき、

1

日に平均で

1.66

村に到達 可能である。方言区②に移動する場合は

1

日平均

1.69

村、方言区③に移動する場合は

1

日平 均

2.3

村、方言区④に移動する場合は一日平均

4.47

村に到達可能である。

5.4.2.3

人口密度

以下では、各方言区の人口密度を計算する。具体的な計算過程は以下の二つのステップで ある。

人口密度の計算過程:

ステップ

1

:各方言区の面積を求める。

ステップ

2

:方言区の人口の和を面積で割り、人口密度を算出する。

まず、各方言区の面積を求める。村の面積が公表されていないため、本論文では、各村を 母点としたボロノイ領域を求め、各方言区に属する村のボロノイ領域の面積の和を方言区の

ドキュメント内 著者 中野 尚美 (ページ 126-133)