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第3章 上代日本語の音韻構造

3.2.4 音素分布

『万葉集』から得た

10003

拍,2693語の音素分布表を出現位置別に作成した。語頭〈音 素表

3.2-1〉

,語末〈音素表

3.2-2〉

,語全体〈音素表

3.2-3〉の音素表をそれぞれ作成し,

表は別紙資料として稿末にあげる。

稿末別紙資料〈音素表

3.2-1〉は,語頭における音素分布である。子音音素,母音音

素,拍の出現率を【表

3.2.2】

【表

3.2.3】

【表

3.2.4】にまとめる。上段は度数,下段は子

音総数,母音総数,拍総数を分母とする百分率である。

【表

3.2.2】

『万葉集』和歌の語頭における子音の音素分布

X x k g s z t d n h b m r

610 291 434 5 312 0 353 4 192 271 0 221 0 2693 22.7 10.8 16.1 0.2 11.6 0.0 13.1 0.1 7.1 10.1 0.0 8.2 0.0 100.0

【表

3.2.3】

『万葉集』和歌の語頭における母音の音素分布

a i I u e E o O

1038 581 8 391 78 19 316 262 2693 38.5 21.6 0.3 14.5 2.9 0.7 11.7 9.7 100.0

【表

3.2.4】

『万葉集』和歌の語頭多頻度拍

/Xa/ /ta/ /Xi/ /na/ /ka/ /mi/ /Xo/ /kO/ /si/ /ki/ /sa/

247 159 154 140 131 118 114 109 106 97 97

9.2 5.9 5.7 5.2 4.9 4.4 4.2 4.0 3.9 3.6 3.6

濁音,ラ行音が語頭に来ることは,ほとんどなく,子音を伴わない単独母音拍が

22.7%

で,最も多いことがわかる。続いて,/k/の

16.1%,/t/の 13.1%である。和歌を対象

にして,名詞だけではなく,すべての品詞を調査しても,語頭においては,子音を伴わな い単独母音拍,つまり,息の妨害を受けない母音と,この時代,調音点が最も奥である/k

/が語頭に多く出現するのである。

28

語頭における母音音素は,/a/が

38.5%で最も多く,/e/が 2.9%と少ない。

甲乙の区別を考えると,乙類の/I//E/は非常に少ない。乙類の/I/が語頭にくるの は,「霧(キり)立ち渡り」(巻第

17-4003)など「霧」が3例,

「栂の木」(巻第

17-4006)

「我が身」(巻第

18-4078)

,「いざり焚く火の」(巻第

17-3899)

「火さへ燃えつつ」(巻第

17-4011)

,「潮のはや干ば」(巻第

18-4034)の8例である。

/E/が語頭にくるのは,/kE/が「日長きものを」(巻第

17-3957)

,「消ずてわたる」(巻 第

17-4004)

,「日の長けむそ」(巻第

17-4006)

,「けだしくも」(巻第

17-4011)

,「けだし来 鳴かず」(巻第

18-4043)の計5例,/hE/が「川の上(ヘ)に」

(巻第

17-3953)

,動詞「経」

の連用形「月経ぬ」(巻第

17-3948)など6例

8で,計7例,/mE/は,「恵みたまはな」(巻 第

17-3930)

,「君が目を見ず」(巻第

17-3934)

,「めぐしもなしに」(巻第

17-3798)

,「目に 見ぬ」(巻第

18-4039)

,「荒磯のめぐり」(巻第

18-4049)

,「珍しき君が」(巻第

18-4050)

「珍しく思ほゆるかも」(巻第

18-4084)の計7例,合計 19

例のみである。

稿末別紙資料〈音素表

3.2-2〉は,語末における音素分布である。子音音素,母音音素,

拍の出現率を【表

3.2.5】

【表

3.2.6】

【表

3.2.7】にまとめる。上段は度数,下段は子音総

数,母音総数,拍総数を分母とする百分率である。

【表

3.2.5】

『万葉集』和歌の語末における子音の音素分布

X x k g s z t d n h b m r

1 157 210 97 219 52 256 41 737 203 110 375 235 2693 0.0 5.8 7.8 3.6 8.1 1.9 9.5 1.5 27.4 7.5 4.1 13.9 8.7 100.0

【表

3.2.6】

『万葉集』和歌の語末における母音の音素分布

a i I u e E o O

469 660 24 499 184 25 310 522 2693 17.4 24.5 0.9 18.5 6.8 0.9 11.5 19.4 100.0

【表

3.2.7】

『万葉集』和歌の語末多頻度拍

/nO/ /ni/ /mo/ /si/ /ru/ /ha/ /te/ /ba/ /xwo/ /ku/

頻度 373 280 197 128 123 121 104 102 99 88

百分率 13.9 10.4 7.3 4.8 4.6 4.5 3.9 3.8 3.7 3.3

29

/n/が

27.4%で最もよく用いられる。次いで/m/の 13.9%である。調音点が前方にあ

る子音が語末に多く現れる。

語末においては,甲乙の区別をすると,/i/が

24.5%で最も多い。乙類の/O/は,確

実に区別のあるものしか分けておらず,/mo/など,おそらく区別があったであろうと思 われるものも,甲類に分類しているにも関わらず,乙類の/O/が

19.4%であるのは興味

深い。乙類の/O/は語頭よりも語末に現れやすいようである。

拍では,/nO/が最も多く,13.9%である。助詞「の」が多く使用されているためであ る。

稿末別紙資料〈音素表

3.2-3〉は,語全体における音素分布である。子音音素,母音音

素,拍の出現率を【表

3.2.8】

【表

3.2.9】

【表

3.2.10】にまとめる。上段は度数,下段は

子音総数,母音総数,拍総数を分母とする百分率である。

【表

3.2.8】

『万葉集』和歌の語全体における子音の音素分布

X x k g s z t d n h b m r

638 698 1397 329 922 93 1178 203 1351 939 232 1217 806 10003 6.4 7.0 14.0 3.3 9.2 0.9 11.8 2.0 13.5 9.4 2.3 12.2 8.1 100.0

【表

3.2.9】

『万葉集』和歌の語全体における母音の音素分布

a i I u e E o O

2879 2334 136 1538 671 191 1040 1214 10003 28.8 23.3 1.4 15.4 6.7 1.9 10.4 12.1 100.0

【表

3.2.10】

『万葉集』和歌の多頻度拍

/nO/ /si/ /ni/ /ka/ /na/ /mo/ /tO/ /ki/ /mi/ /ta/

頻度 441 427 403 397 367 363 345 345 312 307 百分率 4.4 4.3 4.0 4.0 3.7 3.6 3.4 3.4 3.1 3.1

全体では/k/が

14.0%で最も多く,次いで,/n/の 13.5%,/m/の 12.2%,/t/

11.8%の順である。和語名詞のみの調査と比べ,/n/が上位に現れている。

語全体で最も多く用いられる母音は/a/の

28.8%である。乙類の/I//E/の使用頻

度は他の母音と比べて明らかに低い。しかし,イ列・エ列・オ列で甲乙のない音素の数を

30

甲類音に加えているので,すべての数が甲類音であることを示すものではない。それにし ても,乙類/I//E/の出現頻度は低い。大野(1977)では,『万葉集』の万葉仮名で書いて ある巻から

41000

拍を取り出して,その使用度数を調査している。それによると,「ケ・ヘ・

メ・ゲ・ベ」は甲乙の母音がそれぞれ,拮抗して出現する,「キ・ヒ・ミ・ギ・ビ」は,甲 乙の母音がそれぞれ,

89.5%, 10.5%の出現率で,甲類が多く出現する,

「コ・ソ・ト・ノ・

ヨ・ロ・ゴ・ゾ・ト」は,甲乙の母音がそれぞれ,16.3%,83.7%の出現率で,乙類の母 音が多く出現するとしている。しかし,母音全体から見ると,非常に少ない。甲乙の別が あるものに限定せずに,比べると,/I/対/i/,/E/対/e/,/O/対/o/は,それ ぞれ,1対

17.2,1対 3.5,1.2

1

である。

拍では,/nO//tO//ni/が多く,助詞の影響が強く現れている。