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動詞連用形名詞の定義

第5章 中世日本語の音韻構造

6.7 現代日本語における和語名詞と語構成との関わり・・・・・・・・・・・・・・116

6.7.6 動詞連用形名詞の定義

ここで改めて,本研究での動詞連用形名詞の定義をしたい。動詞連用形名詞とは,動詞 の連用形から形成された名詞のことである。複合動詞の連用形も同様であるとし,特に区 別しない。また,「虫さされ」の「さされ」のように助動詞が付いた動詞も動詞に準ずると 考えて,その連用形も,動詞連用形名詞に含むことにする。ただし,「果てし」のように,

助詞がついたものは含まない。また,本研究では,語の最終拍と動詞連用形名詞の関係を 割合を示すことによって明らかにすることが目的であるので,「たらい」のように,「てあら い(手洗い)」が母音結合を起こしている場合も,最終成分は動詞連用形名詞と考えた。

しかし,「迎い」のように「迎え」が変化した語は,最終拍が変化しているので,動詞連 用形名詞とせず,動詞由来の語とした。「手ぐすね」「おなら」のように,「ねり」「ならし」

が変化したもの,また,連用形以外の他の活用形から転成した「そこのけ」「見てくれ」な ども,動詞由来の語とした。動詞連用形名詞であるかどうかは,『日本国語大辞典』第2版

121

によった。見出し語の下に「動詞(・・)の連用形の名詞化」とあるものを動詞連用形名 詞とした40

6.7.7 語末母音が/i//e/である語の最終成分

和語名詞の最終成分の内訳を【表

6.7.5】に示す。名詞,動詞連用形名詞,形容詞語幹,

接辞41,動詞由来の語,形容詞由来の語「おしろい,おすし,たのもし,なし,おもき」

など,副詞由来の語,助詞が付いた語,語源不明の語に分類した。

【表

6.7.5】語末母音が/i//e/である和語名詞の最終成分内訳

名詞

動詞連用形 名詞

形容詞語幹 接辞

動詞 由来

形容詞 由来

副詞 由来

助詞 語源 不明

合計

/i/ 2070 3432 0 47 0 38 12 1 45 5645

/e/ 1292 1215 0 33 7 0 0 6 14 2567

3362 4647 0 80 7 38 12 7 59 8212

『総合雑誌の用語』

(後編)の調査(【表

6.7.3】

)では,最終成分に名詞が来る比率は

56.7%,

動詞連用形名詞(複合動詞からの転成も含む)が来る比率は

37.9%である

42。動詞連用形名 詞となるのは,語末母音が/i//e/の場合である。語末母音が/i/である語

5,645

語の うち,

60.8%の 3,432

語,語末母音が/e/である語

2,567

語のうち,

47.3%の 1,215

語が動 詞連用形名詞である。

全和語名詞から見ると,13,015 語のうち,35.7%の

4,647

語の最終成分が動詞連用形名 詞ということになる。二単位の結合になる和語名詞(1,131 語)を対象とした『総合雑誌の 用語』(後編)の調査結果

37.9%とほぼ同様の結果が出ている。

6.7.8 語末における上位9つの拍を持つ語の最終成分

最後に,語末の上位9つの拍の最終成分が何であるかを明らかにしたい。【表

6.7.4】に

挙げられた上位9つの拍の最終成分を,語の拍数ごとに【表

6.7.6】に示す。ただし,名

詞,動詞連用形名詞以外はすべてその他としてまとめる。丸数字は順位である。7位の/

ra/446

は,名詞

402,動詞連用形名詞 0,その他 44(内訳:接尾辞 23,形容詞語幹 5,動

詞由来

6,副詞 2,不明 8)である。

122

【表

6.7.6】

①/ri/ 名詞 動連名 その他 ②/si/ 名詞 動連名 その他

1拍 1拍

2拍 36 42 1 79 2拍 38 13 1 52 3拍 52 217 7 276 3拍 63 84 10 157 4拍 117 534 9 660 4拍 203 192 24 419 5拍 45 347 392 5拍 50 188 4 242 6以上 10 55 65 6以上 10 19 1 30

260 1195 17 1472 364 496 40 900

③/ki/ 名詞 動連名 その他 ④/mi/ 名詞 動連名 その他

1拍 2 2 1拍 5 5

2拍 31 31 62 2拍 29 16 1 46 3拍 96 95 4 195 3拍 72 100 27 199 4拍 150 357 5 512 4拍 147 140 3 290 5拍 32 49 1 82 5拍 25 74 1 100 6以上 10 17 27 6以上 12 8 20 321 549 10 880 290 338 32 660

⑤/Xi/ 名詞 動連名 その他 ⑥/ke/ 名詞 動連名 その他

1拍 6 6 1拍 2 2

2拍 17 18 35 2拍 21 18 39 3拍 30 98 5 133 3拍 52 61 2 115 4拍 44 198 8 250 4拍 70 194 1 265 5拍 8 136 2 146 5拍 19 19 3 41 6以上 11 30 6 47 6以上 1 4 5 116 480 21 617 165 296 6 467

⑧/me/ 名詞 動連名 その他 ⑨/ti/ 名詞 動連名 その他

1拍 5 5 1拍 2 2

2拍 24 12 36 2拍 35 5 40 3拍 138 37 12 187 3拍 50 27 2 79 4拍 81 84 2 167 4拍 156 92 6 254 5拍 17 14 31 5拍 29 11 3 43

6以上 5 3 8 6以上 5 2 7

270 150 14 434 277 137 11 425

123

〔グラフ

6.7.1〕

それぞれの拍において,2拍語では,最終成分は名詞が多いか,動詞連用形名詞とあま り変わらないかである。拍数が増えるにしたがって,動詞連用形名詞が増える傾向が見ら れる。西尾(1988)に「〈取り・聞き・比べ・だまし・奪い〉なども,その単独の形では名詞 になりにくいが,複合的な形では名詞化される」とあるが,それを裏付ける結果と言える。

また,拍によって,最終成分の内訳が随分異なることがわかる。/ri/は,/ri/全体

81.2%が動詞連用形名詞と圧倒的に多いが,/me//ti/では,逆に名詞のほうが多い。

これらは,元の動詞の音韻構造にも触れなければならないが,本研究では割愛する。

以上,現代日本語における和語名詞の音韻構造について,音素分布を作成し,語構成と の関わりから考察を試みた。和語名詞で最も多いのは4拍語で,全体の

45.4%を占める。

語構成別にみると,2拍+2拍の語が和語名詞全体の

38.3%を占め,最も多い。語の成分

の結合部分では,連濁の影響で単純語の場合と比べて,濁音が約2倍出現する。語末では,

母音音素/i/ /e/が多いが,動詞連用形名詞は,4,647語で,和語名詞全体の

35.7%で

あることがわかった。拍ごとにみると,異なった結果が得られた。語頭には出現しない/

ri/が語末では最も多く出現するが,その 81.2%が動詞連用形名詞である。

0 200 400 600 800 1000 1200 1400 1600

⑨/ti/

⑧/me/

⑦/ra/

⑥/ke/

⑤/Xi/

④/mi/

③/ki/

②/si/

①/ri/

名詞

動詞連用形名詞 その他

124

第7章 日本語の音韻構造の歴史

『万葉集』,『源氏物語』,『日葡辞書』,『天草版平家物語』,『新潮現代国語辞典』,『中央 公論』を資料として,同じ条件でデータを採り,出現位置別に見た音素分布,また,音素 配列を調べることによって,日本語の音韻構造について時代ごとに述べてきた。この章で 日本語の音韻構造の歴史としてまとめたい。

7.1 和語名詞における音韻構造の歴史 7.1.1 拍数別に見た語数

各時代で,和語名詞を採録した結果をグラフにまとめると,次のようになる。〔グラフ

7.1.1〕は,拍ごとの語数が,各時代において占める割合をそれぞれ示している。左から,

『万葉集』『源氏物語』,『日葡辞書』『新潮現代国語辞典』の順に並んでいる。

〔グラフ

7.1.1〕

『万葉集』では,1拍語,2拍語が多いことがわかる。上代日本語では,拍数の少ない 語の比重が大きく,後代では1,2拍語も増加したが,多拍語の増加がそれを大きく上回 ったことになる。

各時代を通して最も多いのは4拍語である。『新潮現代国語辞典』では,他の時代より もその割合が高く,全体の

45.4%を占めている。 6.7.2

で述べたように,しかも,その4拍 和語名詞

5910

語のうち,4980語,全体の

84.3%が2拍+2拍で構成されている。日本語

は2拍を基本として,その組み合わせとなる4拍語が時代を経るごとに増えてきたのでは ないかと思われる。

0.0 5.0 10.0 15.0 20.0 25.0 30.0 35.0 40.0 45.0 50.0

1拍 2拍 3拍 4拍 5拍 6拍 7拍 8拍 9拍 10拍

『万葉集』

『源氏物語』

『日葡辞書』

『新潮現代国語辞典』

125

時代を経るごとに語数が多くなるのは,予想できることであるが,『日葡辞書』と『新 潮現代国語辞典』を比べると,『日葡辞書』の見出し語数は,解題によると,32,293語で,

『新潮現代国語辞典』の見出し語数は凡例によると,79,000余語である。収録語数は,1 対

2.5

で,『新潮現代国語辞典』のほうが大きい。和語名詞の増加は『日葡辞書』8,811語 と『新潮現代国語辞典』13,015語と,約1対

1.5

で,辞書の大きさに比べて,それほど増 えていないといえる。中世からは,それほど増加していないとも言える。上代・中古にど れだけの語が存在したのか,確かめようがないので,限られた資料でのみの言及であるた め,その可能性があるというのにとどめる。

7.1.2 和語名詞の音素分布の歴史

次に,和語名詞において,各時代でよく用いられる子音音素,母音音素について見てみ る。出現位置別ではなく,語全体で用いられている音素の歴史を見ることにする。〔グラフ

7.1.2〕は子音音素,

〔グラフ

7.1.4〕は母音音素の分布の歴史をまとめたものである。

〔グ ラフ

7.1.2〕の横軸は,各子音音素,縦軸はその出現率である。

〔グラフ

7.1.4〕の横軸は,

各母音音素,縦軸はその出現率である。左から,『万葉集』(以下,『万葉』),『源氏物語』

(以下,『源氏』),『日葡辞書』(以下,『日葡』),『新潮現代国語辞典』(以下,『新潮』)の 順に並んでいる。

〔グラフ

7.1.2〕

まず,各時代とも子音を伴わない,つまり,/X/(単独母音拍子音部)と/x/(単独 半母音拍子音部)を合わせた子音

Ø

が最も多いのだが,半母音を伴うかどうかは時代によ

0 2 4 6 8 10 12 14 16

R X x k g s z t d n h b p m r N M G Q T

『万葉集』 『源氏物語』

『日葡辞書』 『新潮現代国語辞典』

126

って異なる。『万葉』,『源氏』では,半母音を多く伴っている。/x/は,『万葉』『源氏』

に多く用いられ,『日葡』,『新潮』で,/X/が多く使用されている。

〔グラフ

7.1.3〕

子音音素では,和語名詞において,/k/の出現率が高い。次に/t/がよく用いられる。

時代で異なるのは,/m//r/である。『万葉』では,/m/の出現率が高いが,/r/の出 現率は低い。その他,違いが見られるのは,/h/である。まだハ行転呼音を起こしていな いため,『万葉』『源氏』で多く用いられている。/ha/は,/xwa/となり,それ以外はア 行となるので,『万葉』『源氏』に出現する/h/のうち,半分ぐらいが,子音

Ø

である/X

/か/xwa/のどちらかに振り分けられていることになる。『万葉』『源氏』では出現してい た/xwa xwi xwe xwo/もワ/xwa/以外は/Xi Xe Xo/となる。全体の流れをもう一度確 認すると,【表

7.1.1】のようになる。

【表

7.1.1】

ア行は増加,ヤ行・ワ行は減少という傾向が 見られる。ワ行は/xwi xwe xwo/をなくしたが,

新たに/ha/から転じた/xwa/を得た。現代で は,/xwa/しかないのにも関わらず,万葉のこ ろから,0.8ポイントの減少で押さえている。

次に,母音音素について見てみる。『万葉』では,甲類乙類の別があるので,/I//E

//O/を別に表を作っている。甲乙の別についてはよく知られているところだが,実際に 数を調べてみると,/O/以外の/I//E/の出現頻度は極めて低い。しかも語頭にはほと んど用いられない。稿末資料〈音素表

3.1-1〉から,語頭に用いられる/I//E/の数を

調べると,/I/は総使用例

223

(〈音素表

3.1-3〉参照)のうち 14

例(内,

5

例は1拍語),

/E/は総使用例

214

(〈音素表

3.1-3〉参照)のうち 18

例(内,

7

例は1拍語)しかない。

0 2 4 6 8 10 12 14

『万葉集』 『源氏物語』 『日葡辞書』 『新潮現代』

X x

X(ア行) x(ヤ行) x(ワ行)

『万 7.2 5.7 2.7

『源氏』 7.5 4.0 2.5

『日葡』 11.9 3.0 2.1

『新潮』 11.9 3.4 1.9