2.5 ILD のカロリメータ
2.5.1 電磁カロリメータ( ECAL )
ILD ECALの構造は吸収層と検出層を交互に重ねた構造(図2.8)になっており、吸収層
1層を検出層2層で挟んで1つのスリットに入れられている。
図2.8 ILD測定器のECAL[11]。青い部分がECALである。
ILDの電磁カロリメータ(ECAL)への要求は次の5つがある。
• 高精細である
• サンプリング比が大きいこと
• シャワーの広がりが小さくなること
• ECALで発生したシャワーのHCALへの漏れが少なくなること
• 放射長が短くハドロンの相互作用長が長いこと
*1(検出層で落とすエネルギー)/(吸収層で落とすエネルギー)のこと
2.5 ILDのカロリメータ 23 高精細化については、ジェット中の粒子を精度よく分離するためである。サンプリング比 を大きくすることは先に説明した統計的な揺らぎを小さくするためで、シャワーの広がりに ついては粒子がつくるシャワー同士が重なることによる分離効率の低下を抑えることが目的 である。またシャワーの漏れに関しては、HCALよりも ECALの方がエネルギー分解能が 良いため、漏れを抑えることでエネルギー分解能の低下を抑える事ができる。ハドロンの相 互作用長については、電磁シャワーとハドロンシャワーを分離するためである。
これらを考慮して、ILD ECALの吸収層にはタングステンが用いられる。タングステン は、表2.1のように他の物質よりも放射長と相互作用長の比が大きく、モリエール半径が小 さいため、小型で精度の良いECALを可能とする。
物質 λI/cm X0/cm RM/cm λI/X0
鉄(Fe) 16.8 1.76 1.69 9.5 銅(Cu) 15.1 1.43 1.52 10.6 タングステン(W) 9.6 0.35 0.93 27.4 鉛(Pb) 17.1 0.56 1.00 30.5
表2.1 カロリメータの吸収層の候補 [13]。λI はハドロンの相互作用長、X0 は放射長、
RM はモリエール半径を表している。
ILDのDBDでの構造は前方領域の吸収層が2.1 mm厚のタングステンが20層で後方領 域の吸収層が4.2 mm厚のタングステンが9層となっている。また検出層は全てシリコン半 導体検出器になっている。
検出層については2種類の候補が挙げられている。以下に、これらの候補を用いたECAL の説明をしていく。
SiECAL
まず、1つ目の候補はピクセル型シリコン半導体検出器(図2.9)を用いたECAL(SiECAL) である。このシリコン半導体検出器には大きさが5.5×5.5 mm2 のピクセルが256個付いて いる。これによってPFA に適した高精細を実現できる。粒子検出については、シリコン半 導体検出器に粒子が入射した時に検出器内で荷電粒子が電子を電離することで電子-正孔対を 生成することを用いる。検出器には電圧が印加されているため、それによって生成された電 場によって電子と正孔はそれぞれ反対側の電極に集められる。電子正孔対の数は粒子のエネ ルギーに比例するため、電極に集められた電子と正孔の数によってエネルギーが測定できる。
一方で、図1.10で説明したようにコストが高いという問題がある。DBDではシリコン半導 体検出器の厚さは325 µm、1ピクセルの大きさは5×5 mm2 となっている。また、SiECAL
の構造を図2.10に示す。SiECALは1つのスリットあたりシリコン半導体検出器2層でタ ングステン1層を挟む構造をしており、シリコン半導体検出器は導電性の接着剤でプリント 回路基板(PCB : Printed Circuit Board)と読み出しエレキに接着されている。
図2.9 ピクセル型シリコン半導体検出器。このシリコン半導体検出器の表面には5.5×5.5 mm2のアルミ電極が256個並べられている。
図2.10 SiECALのサンプリング構造[11]。
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ScECAL
もう1つの候補はピクセル型光検出器であるMulti-Pixel Photon Counter(MPPC)[17]
付きのストリップ型シンチレータ検出器(図2.11)を用いたECAL(ScECAL)である。測 定原理としては、シンチレータに荷電粒子が入射した時にシンチレータ内の電子が励起され て基底状態に戻る時に放出される光を利用する。この光量は入射粒子の電離損失に比例し、
シンチレータで放出された光をMPPCが受け取る。MPPCにはマルチピクセル化されたガ イガーモードのAvalanche Photo Diode(APD)が並べられており、シンチレーション光が 入った各APDが一定の信号を出すため、その信号をまとめて読みだすことで光子数を測定 する。シンチレータ検出器自体は45 mm×5 mmのストリップ状になっており、これを直交 配置することによって実質的に5 mm×5 mmの位置分解能が得られる。図2.12はScECAL の構造を示している。SiECALの場合と同様に、1つのスリットあたり直交配置となってい るシンチレータ検出器2層でタングステン1層を挟んでおり、シンチレータ検出器の一端と PCBの間にはMPPCが取り付けられている。
図2.11 ストリップ型のシンチレータ検出器とMPPC。
図2.12 ScECALのサンプリング構造[11]。
このScECALはコスト面では比較的安価であるという利点があるが、ゴーストヒットと呼
ばれる現象による粒子識別精度の低下の問題がある。ゴーストヒットの原理は図2.13に表さ れている。赤い三角部分に同時に2つヒットがあった時、黒丸の4本のシンチレータからシ グナルが出される。これらのシグナルを用いてイベントを再構成するとき、赤三角以外に青 三角部分にもイベントが間違って再構成されてしまう。これをゴーストヒットという。
その他の問題としては、シンチレータ検出器自体の厚さがシリコン半導体検出器よりも厚 いためILD測定器全体の大きさが大きくなり、その分シャワーの広がりが増加するという問 題もある。
図2.13 シンチレータ検出器の配置とゴーストヒットの原理図。赤三角は同時刻の2つの ヒットを表す。4つの黒丸はシグナルを出すシンチレータ、青三角は再構成の際のゴース トヒットを意味している。
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Hybrid ECAL
SiECALとScECAL両方の欠点を補う目的で考案されているECALとしてハイブリッド
型のECAL(Hybrid ECAL)がある。Hybrid ECALでは検出層にシリコン半導体検出器と シンチレータ検出器両方を用いて、コストを下げつつ粒子分離の効率が維持されることが期 待されている。