4.7 ガンマ線源を用いた放射線耐性試験
4.7.3 暗電流測定
まず、照射中のチップB6-1の暗電流値の変化を図4.29に示す。時間経過とともに暗電流 値が減少しているのは、イオン化損傷により酸化膜中で生成された電子正孔対が印加電圧に より流れ出ているためと推測される。また、暗電流値が40数 µA と高い値を示しているの は、照射されたガンマ線による電流も同時に測定しているためである。
Time [h]
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4
A]µ Current [
40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50
図4.29 チップB6-1の照射中の暗電流変化。
次に、時間依存性の測定を行い暗電流値の変化を見た。測定環境は第4.4節の暗電流測定 と同じである。また測定していない間は、照射したbaby chipは冷凍庫で保存した。これは、
格子欠陥等の放射線損傷が常温で時間経過にともなって変化するのを防ぐためである。
図4.30は測定結果を、表4.6は照射前後での測定電圧における暗電流値を示したものであ る。ただし、照射後の暗電流値は測定終了時の値を用いている。図4.30において、照射前の B5-2とB6-1の暗電流値は7.5 nAと7.2 nAであるため、水色と黄緑色の線は重なっている。
Total Measurement Time [h]
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90
Current [nA]
0 20 40 60 80 100 120
500um B5-1 @120 V 500um B5-2 @100 V 500um B6-1 @100 V Before irrad of B5-1 @120V Before irrad of B5-2 @100V Before irrad of B6-1 @100V
図4.30 赤、青、緑はそれぞれ120 VにおけるB5-1、100 VにおけるB5-2、100 Vに おけるB6-1の照射後の暗電流変化である。一方ピンク、水色、黄緑は120 VでのB5-1、 100 VでのB5-2、100 VでのB6-1の照射前の暗電流値を示している。B5-1とB6-1は 2回に分けて測定を行ったため、赤線では16時間付近で、緑線では11時間付近で立ち上 がりが見えている。
4.7 ガンマ線源を用いた放射線耐性試験 79 シリアルNo. 照射量 [kGy] 測定電圧 [V] Ibefore [nA] Iafter [nA]
B5-1 1.1 120 27.3 60.5
B5-2 10.2 100 7.5 54.9
B6-1 10.2 100 7.2 49.3
表4.6 時間依存性測定における照射前後での暗電流値の変化。Ibefore は照射前の各測定 電圧における暗電流値、Iafterは照射後の測定終了時における暗電流値を表す。
結果より照射前後での暗電流値の変化は、B5-1 は32.7 nA、B5-2は46.5 nA、B6-1は
42.1 nAの増加であった。この暗電流値の増加に対する変位損傷とイオン化損傷の寄与を見
積もるために、変位損傷により増加する暗電流値を以下のように概算した。
まず、1.1 kGyと10.2 kGyの放射線量を熱量に換算して、そこからシリコン半導体内に吸
収されたガンマ線の本数Nγ を計算した。計算に際してシリコン半導体の質量と線源から放 出されるガンマ線の熱量が必要であり、今回用いたシリコン半導体(厚さ 500 µm、表面積 17.8×17.8 mm2)の質量としてはシリコンの密度ρ = 2.34 g/cm3を用いて0.37 gを導出し た。また、線源のコバルト60は2段階の崩壊で1.17 MeVと1.33 MeVのガンマ線を放出 する[35]。よって平均して1.25 MeVを線源から放出されるガンマ線のエネルギーとし、こ れを熱量換算する。1 eVのエネルギーは熱量にして約1.6×10−19 Jであり、これよりガン マ線の熱量は2.0×10−13 Jとなる。これらを用いて計算した吸収ガンマ線の本数は表4.7に 示す通りである。また、表中のΦeq は単位面積あたりの中性子流量であり、ガンマ線による 変位損傷が中性子の1000分の1程度という見積もりから、計算としてはNγ をシリコン半導 体の表面積で割ったものに1000分の1を掛けた。
照射量 [kGy] 1.1 10.2
熱量 [J] 0.4 3.8 Nγ 2.0×1012 1.9×1013 Φeq [/cm2] 6.3×108 6.0×109
表4.7 各照射量における吸収ガンマ線の本数と中性子流量への換算。Nγは吸収ガンマ線 の本数、Φeqは単位面積あたりの中性子の流量を表す。
この計算結果を図4.31と照らし合わせて暗電流値を求める。図4.31より単位面積あたり の中性子流量が1桁増加すると単位体積あたりの暗電流(∆I/V)も1桁増加することが分 かる。
図4.31 中性子流量に対する暗電流の依存性[36]。Φeqは単位面積あたりの中性子の流量 を、∆I/V は単位体積あたりの暗電流変化を表す。
これよりΦeq が 6.3×108 /cm2 と 6.0×109 /cm2 では ∆I/V はそれぞれ 2.3×10−8 A/cm3、2.4×10−7 A/cm3程度と見積もられる。これを照射に用いたシリコン半導体の体 積あたりの暗電流値に換算した結果、1.1 kGy照射では3.6 nA、10.2 kGy照射では38 nA の暗電流値の増加が変位損傷により見込まれる。先ほどの測定結果において、10.2 kGy照 射では暗電流値の増加はB5-2とB6-1でそれぞれ46.5 nA、42.1 nAであったため、この増 加分のそれぞれ約8割、9割は変位損傷によるものであると考えられる。また、B6-1の方が
B5-2に比べて5.6 nAも暗電流値が低い理由として考えられるのは、照射時にB6-1に対し
て電圧を印加しておいたことでイオン化損傷による暗電流を軽減したと推測されるが、この 差が電圧印加と個体差のどちらに依るものかは、今後さらに照射チップを増やすことで解決 できる見込みがある。
一方、1.1 kGy照射のチップB5-1では暗電流値の増加量が32.7 nAと、変位損傷で見込 まれる増加分の約9倍も高い値となっている。イオン化損傷で発生した電子正孔対は、電圧 を印加した状態では時間経過とともに減少し、90時間経過後での暗電流増加分は大部分が変 位損傷によるものだと考えると、B5-1チップの結果はこの推測を説明できない。この原因と しては、セットアップを誤ったことにより実際に1.1 kGyよりも多いガンマ線に曝されたこ とが考えられるため、今後調査する必要があると思われる。