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電気化学的手法による鉄筋腐食診断に関する基礎的検討

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 44-66)

3.1 序

コンクリート構造物の維持管理において,種々の劣化により深刻な被害が生じる前に対策を講じる 予防保全的な維持管理方法が注目されている。

鉄筋の腐食に関しては,非破壊検査法として,電気化学的手法による腐食診断が広く用いられてい る。代表的なものとして,自然電位法,分極抵抗法などが挙げられ,近年,実構造物での適用事例も 多くなってきている3.1)

自然電位法は,鉄筋が腐食環境にあるかを判断する手法であり,簡易的に計測できる利点を有する 反面,自然電位による診断結果が,実際の腐食状態と異なるとの報告もある3.2

自然電位による腐食の可能性の判定として,ASTM C 876「Standard test Method for Corrosion Potentials of Uncoated Reinforcing Steel in Concrete」による判定基準(表-3.1)が広く用いられるが,

前述したように実際の腐食状態と異なることが多いことから,現在では,拘束力は小さいものとなっ ている。そのため,自然電位の適用に関しては,連続的なモニタリングによって腐食時期を推定する 方法や等電位図を作成し,腐食の可能性が高い個所を検出するなどの方法で用いることが推奨されて いる。

また,分極抵抗法については,CEBにより表-3.2に示すような,判定基準が設けられている。腐 食速度の評価ができることから,適用が望まれる手法であるが,腐食量の推定精度に関して課題が残 っており,実用化に向けた精度向上が求められている。

また,アノード分極曲線により不働態の状態を推測する手法が,大即により報告されているが,コ ンクリート中の鉄筋の腐食診断に対して適用された事例は限られている。分極曲線は,腐食反応に関 する基本的な情報を与えることから,分極曲線より推測される鉄筋の状態とその時に得られる自然電 位,分極抵抗の値の比較を行うことで,各計測値を適切に解釈できるものと考え,自然電位や分極抵 抗の計測値に対する影響要因の把握が可能となるものと考えられる。

予防保全的な維持管理の観点からは,腐食の発生時期を適切に把握することが重要であると考える。

本検討では,腐食発生限界塩化物イオン量(Clim)近傍の塩化物イオンを含む場合の各特性値(自 然電位,分極抵抗)の変化を詳細に把握するため,Clim近傍の塩化物を添加したモルタル中の鉄筋の 電気化学的特性に対する水セメント比,塩化物イオン濃度およびかぶり厚さの影響について検討した。

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表-3.1 ASTM C 876による腐食判定基準 自然電位(mV vs. CSE) 腐食の可能性

-200mV ≦ E 90%以上の確率で腐食なし

-350mV < E < -200mV 不確定

E≦-350 90%以上の確率で腐食

表-3.2 腐食速度判定基準(案)の一例 分極抵抗測定値

Rct (kΩcm2)

腐食速度推定値

腐食速度の判定 腐食電流密度

(μA/cm2)

腐食損失量 (mg/cm2/年)

侵食速度 (mm/年) 130より大きい 0.2未満 1.8未満 0.0023未満

不働態状態また は極めて遅い

腐食速度 52以上130以下 0.2以上0.5以下 1.8以上4.6以下 0.0023以上

0.0058以下

低~中程度の 腐食速度 26以上52以下 0.5以上1以下 4.6以上9.1以下 0.0058以上

0.0116以下

中~高程度の 腐食速度 26未満 1より大 9.1より大 0.0116より大 激しい,高い

腐食速度

39 3.2 実験概要

3.2.1 使用材料

表-3.3 に使用材料を示す。セメントには,普通ポルトランドセメントを使用し,細骨材には,海 砂を使用した。鉄筋は,普通丸鋼φ13mmを使用した。

また,配合条件は,単位細骨材量を一定とし,水セメント比を40,50,60%の3水準とした。すな わち,ペースト濃度が異なる3水準とした。表-3.4にモルタルの示方配合を示す。

塩化物イオン量の添加方法として,セメント質量に対する量(以下,セメント従量)を一定とする 添加とモルタル中の総量を一定とする添加の2種類を設定し,各々の添加方法で3水準の塩化物イオ ン濃度を設定する計 6 ケースについて自然電位,分極抵抗および分極曲線の違いについて考察した。

表-3.5に各水セメント比における添加塩化物イオン量の比較を示す。

水セメント比50%の場合で1.46kg/m3,2.18kg/m3および 2.91kg/m3となるように添加した場合を基 本として,この時のセメント従量である0.29%-cement,0.43%-cement および 0.57%-cementとなるよ う各水セメント比で添加量を調整した配合をA,CおよびE配合とする。一方,水セメント比によら ずモルタル中の塩化物イオン量を1.46kg/m3,2.18 kg/m3および2.91kg/m3で一定とした配合をB,D,

およびF配合とする。

以降,それぞれの供試体について,【水セメント比(塩化物添加方法の違い,A~F)】の形で表記す る。例えば,水セメント比40%のA配合であれば【40(A)】のように表記する。

表-3.3 使用材料 材料 種類・物理的性質 セメント 普通ポルトランドセメント

密度:3.16g/cm3,比表面積:3250cm2/g 細骨材 海砂

表乾密度:2.49g/cm3,吸水率:1.42%

鋼材 普通丸鋼 SR235 φ13mm

表-3.4 示方配合 W/C

(%)

単位量(kg/m3) 水

W

セメント C

細骨材 S 40 232 581 1508 50 255 510 1508 60 272 454 1508

40

表-3.5 添加塩化物イオン量 配合名 水セメント比

(%)

モルタル中の総量

(kg/m3

セメント従量

(%-cement)

A 40 1.66

0.29 50 1.46 60 1.30

B 40

1.46

0.25

50 0.29

60 0.32

C 40 2.49

0.43 50 2.18 60 1.94

D 40

2.18

0.38

50 0.43

60 0.48

E 40 3.32

0.57 50 2.91 60 2.59

F 40

2.91

0.50

50 0.57

60 0.64

3.2.2 供試体の作製および養生方法

図-3.1に供試体の形状および寸法を示す。135×135×120mmの角柱供試体とし,一体につき2本 の鉄筋を埋設し,1要因につき2体ないし3体を作製した。

鉄筋は打設面と平行になるように配置した。かぶり厚さは,A配合およびB配合について,50,70,

100mmの3水準とし,その他の配合については,50mm で一定とした。測定面は,図中の底面とし,

かぶり厚さが底面からの距離となるように鉄筋を配置した。

各供試体は,打設後24時間で脱型し,その後材齢28日まで20℃の水中養生とし,材齢28日~35 日で測定面を除く5面をエポキシ樹脂により2度被覆した後,電気化学的特性値の計測を開始した。

また,電気化学的特性値の計測に際し,供試体は湿潤状態にある必要があることから,飽和度を一 定とするため,エポキシ樹脂による被覆後についても,20℃の水中養生とした。

41 打設方向

50 mm 70 mm 100 mm

埋設鉄筋

135mm 120mm

135mm

測定面 図-3.1 供試体の形状および寸法

3.2.3 測定項目

1週間ごとに下記の項目について計測を行った。

(1) 自然電位

JSCE-E 601-2000「コンクリート構造物の自然電位測定方法」に従い,携帯型腐食診断器(㈱四 国総合研究所 製)を用いて測定を行った。照合電極にはAg/AgCl電極を用いて計測した。計測値は,

ASTM基準との比較のため,表-3.6の換算式により飽和硫酸銅電極(CSE)の値に換算した。

表-3.6 各種照合電極の対CSE電位への換算 照合電極 略称 電位(mV vs. CSE)

飽和硫酸銅電極 CSE 0+0.9×(t-25) 飽和カロメル電極 SCE -74-0.66×(t-25)

飽和塩化銀電極 Ag/AgCl -120-1.1×(t-25) 鉛電極 PRE -799+0.24×(t-25) 二酸化マンガン電極 MnO2 +89-1.0×(t-25)

tは測定時の温度(℃)

(2) 分極抵抗,コンクリート抵抗

自然電位と同様に携帯型腐食診断器による計測を行った。計測方法は,高低2周波交流インピーダ ンス法とし,周波数は,10mHzおよび10Hzとした。なお,本検討で使用した携帯型腐食診断器では,

図-3.2に示す2重対極センサー2)を用いた測定である。これは,センター対極とガード対極の2つの 対極により分極し,電流の計測はセンター対極のみで行う構造となっており,分極される鉄筋の面積 は,図-3.3に示す範囲に限定され,かぶり厚さにより分極される鉄筋の表面積は以下の式(3.1)およ び式(3.2)で計算される値となる3.2)

42 RE :照合電極 CCE:センター対極 GCE:ガード対極

電解質 布 GCE:ガード対極

CCE:センター対極 RE :照合電極

鉄筋 WE

コンクリート 電流分布

図-3.2 2重対極センサーの構造3.2)

4 2(t‐5)+4

t‐55 t

コンクリート

鉄筋

t:かぶり厚さ(cm)

d:鉄筋径(cm) 単位:cm

図-3.3 鉄筋の分極範囲3.2)

t ≦ 5cmのとき

A = πd×4/2 = 2πd (3.1) t > 5cmのとき

A = πd×{2(t-5)+4}/2 =πd×(t-3) (3.2) ここに,t:かぶり厚さ(cm)

d:鉄筋径(cm)

A:分極される表面積(cm2

ただし,A≦12.06cm2のときは,A=12.06cm2(センター対極の面積)

43 (3) アノード分極曲線

アノード分極曲線は,アノード反応(鉄の溶解反応)の生じやすさを評価するものであり,不働態 の状態を知ることができる手法であることが知られている3.3)

コンクリート中のアノード分極曲線の計測は,大即による測定方法3.3)に準拠した方法によって計測 した。

計測システムは,3電極方式とし,照合電極に飽和カロメル電極(SCE),対極にステンレス鋼板 を用いた。ポテンショスタット,ファンクションジェネレータ,データロガーを図-3.4 のように接 続し,自然電位(En)からEn+650mVまで電位を掃引し,鉄筋から流れる電流を計測した。電位の 掃引速度は,50mV/min.とした。また,分極曲線は,電位-電流密度関係として表すのが一般的であ る。そのため,分極される面積を設定し,電流値から電流密度を計算する必要がある。今回の測定条 件においては,供試体の大きさに対して,対極の面積を十分大きく(2倍以上)としていることから,

本検討では,鉄筋の全表面積(=πdL,d:鉄筋径13mm,L:供試体長さ135mm)が分極されると考 えた。

また,大即の提案するアノード分極曲線に基づく不動態グレード判定を適用した。これは,表-3.7 に示す基準より不動態の状態をグレード0~グレード5の6段階にグレーディングする方法であり,

数字が大きいほど不動態の状態が良好であることを示す指標である。図-3.5は,表-3.7に示す各グ レードとアノード分極曲線の形状の対応を示したものである。

関数発生器

ポテンショスタット

記録計

照合電極

(飽和カロメル電極)

対極 水道水

供試体

図-3.4 分極曲線計測における機器接続図

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