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アノード分極曲線法による鉄筋腐食診断の実構造部材 への適用

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 66-86)

4.1 序

鋼材腐食は,電気化学的反応であることから,腐食に関する非破壊検査法としては,主に電気化学 的特性値の測定が一般的に用いられている。

分極曲線は,電気化学的方法の一つであり,外部電源より電位または電流を変化させることによっ て得られる電位-電流曲線のことを言う。大即の研究 4.1)によって,アノード分極曲線の形状から鋼材 の不働態の状態を推定する手法が提案されている。

また,第3章において,アノード分極曲線を用いた鉄筋の腐食診断を行い,腐食発生限界塩化物イ オン量近傍での鉄筋表面の状態を詳細に知ることのできる手法であることが示された。

しかしながら,アノード分極曲線の測定については,実験室内での適用に限られており,実構造物 に対し,測定を行なった事例はこれまでに無い。

アノード分極曲線を実構造物へ適用できれば,高精度の鉄筋腐食診断が可能となるものと考えられ ることから,本研究は,携帯型分極抵抗測定器に付属のセンサーを応用して計測することを試みた。

本研究では,まず,鉄筋を埋設したモルタル供試体に対し,本研究の提案する計測手法と従来の計 測手法の比較を行った。その上で,実構造物より切り出した床版に対する計測を行い,その適用性に ついて検討した。

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4.2 アノード分極曲線の形状に基づく不働態グレードの評価4.3)

大即は,アノード分極曲線の形状から,不働態の状態を5つのグレードによって評価する手法を提 案している4.3)。表-4.1は,大即の提案するグレード判定基準である。また,図-4.1には,表-4.1 のグレーディングに対応する分極曲線の形状を示す。

分極曲線の形状は,電流密度が小さいほど良好な不働態が形成されていることを意味しており,グ レードの数値は,不働態の状態が良好なほど大きい数値に対応している。

本研究においても,不働態の状態の判断に対し,グレードによる評価を行った。

表-4.1 アノード分極曲線に基づく不働態のグレーディング4.3)

グレード 分極曲線の形状 不動態の状態

グレード0 電流密度が一度でも100µA/cm2を超えるもの 全く不動態がない グレード1 電流密度が10~100µA/cm2を超えるもの 若干は不動態がある

グレード2 電流密度が一度でも10µA/cm2を超え,かつグレー ド1またはグレード3に含まれないもの グレード3 電流密度が1~10µA/cm2にあるもの

グレード4 電流密度が一度でも1µA/cm2を超え,かつグレー ド1, グレード2,グレード3に含まれないもの

グレード5 電流密度が1µA/cm2を超えないもの 非常に良好な不動態がある

働態の状態は悪くなる

図-4.1 分極曲線の形状によるグレーディング

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4.3 モルタル供試体を用いた接触法による分極曲線測定結果の従来の方法との比較

分極抵抗測定用のセンサーを応用した新しい測定方法の適用性に関する基礎実験として,鉄筋を埋 設したモルタル供試体の腐食促進試験より従来の分極曲線の測定方法との比較を行った。ここでは,

従来の方法による測定事例があることから,大即の実験方法4.3)に準拠した実験方法により検討した。

本実験では,従来の分極曲線の計測方法を「浸漬法」,分極抵抗測定用のセンサーを用いた方法を

「接触法」と定義する。

4.3.1 使用材料および配合

セメントには,普通ポルトランドセメント,細骨材には海砂を用いた。また,鋼材には,φ13mm の普通丸鋼を使用した。表-4.2 に使用材料の性質を示す。モルタルの配合は,水セメント比を 40,

50,60%の3水準とし,それぞれの配合での細骨材量が一定となるように,単位水量を調整した。な

お,以降では,それぞれの配合をN40,N50,N60と称する。

表-4.2 モルタルの使用材料

使用材料 種類 物理的性質

セメント 普通ポルトランド

セメント 密度:3.16g/cm3,比表面積:3250cm2/g 細骨材 海砂 表乾密度:2.57g/cm3,吸水率:1.99%

粗粒率:2.51 鉄筋 普通丸鋼 φ13mm,SR235

4.3.2 供試体の作製および養生方法

供試体の形状および寸法を図-4.2 に示す。一つの供試体に対し,3 本の鉄筋を配置した。鉄筋腐 食の促進のため,かぶり厚さは,10または30mmとした。

また,それぞれの供試体は,打設後1日で脱型を行い,その後,材齢28日まで水中養生を行った。

水中養生後は,腐食促進試験として,3%のNaCl溶液による乾湿繰り返しを行った。なお,乾湿繰り 返しは,2日浸漬5日乾燥を1サイクルとするものとした。塩分の浸透は,1面のみとし,その他5 面は,エポキシ樹脂で被覆した。

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150

150

No.1

No.3 埋設 鉄筋 50 or 100

No.2

10 or 30 塩分浸透面

打設面

(mm)

図-4.2 供試体の形状および寸法

4.3.3 計測方法

図-4.3 は,浸漬法と接触法の測定機器の接続図を示したものである。分極曲線の測定は,鉄筋を 作用極とし,照合電極,対極と接続する3電極方式によって測定が行われる。接触法におけるセンサ ー内には,照合電極と対極が内蔵されている。また,センサー内においては,対極はセンター対極と ガード対極の2対極が配置されている。本センサーは,本来,交流インピーダンス法による分極抵抗 の測定に用いられるものであり(3章 3.2),その測定精度の向上として,センター対極でのみ 電流を計測するように測定範囲を限定する方式が採用されている。しかしながら,本検討における,

分極曲線の測定においては,接続の関係上ガード電流は流さない1対極による計測である。

関数発生器

ポテンショスタット 記録計

2重対極センサー

供試体

接触法 浸漬法

関数発生器

ポテンショスタット 記録計

照合電極

(飽和カロメル電極)

対極 水道水

供試体

図-4.3 浸漬法と接触法の機器接続図

計測方法は,大即らの方法 4.3)に準拠した。すなわち,自然電位から+650mV まで電位を掃引し,

その時に流れる電流を計測した。この時,電位の掃引速度は,50mV/minとした。

浸漬法では,供試体の大きさに対し,十分に大きい対極面積であることから,鉄筋の全表面積が分 極されると考え,電流密度を計算した。

一方,接触法では,対極面積が浸漬法に対して小さく,1対極による測定であることから,電流の 経路を考慮し,分極される鉄筋の表面積を設定することが望ましい。しかし,電流の経路は様々な条

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件によって異なり,複雑であることから,本研究では,簡易的に浸漬法と同様に鉄筋の全表面積とし て電流密度を計算した。

また,接触法においては,照合電極にAg/AgCl電極を用いており,電位の測定値は,浸漬法で用い る照合電極である飽和カロメル電極(SCE)の値に式(4.1)により換算し,温度による補正は考慮して いない。

[電位vs. SCE,mV]=[電位 vs. Ag/AgCl,mV] -120 (4.1)

なお,分極曲線の測定は,コンクリートの含水状態に大きく影響を受けることから,塩水より引き 上げた日に測定を行った。また,接触法による計測については,計測前の 30 分間濡れたウエスによ って覆い,湿潤状態を保つようにした。

4.3.4 実験結果および考察

図-4.4に乾湿サイクル20サイクルにおける浸漬法と接触法の分極曲線の比較を示す。図中の記号 は,【配合名(かぶり厚さ)】の形で示している。

なお,試験において,同一供試体内の鉄筋では,分極曲線の形状はすべて同様の傾向を示した。供 試体の高さ方向に対して鉄筋の配置位置を変化させていたことから,鉄筋-モルタル界面構造の違い による影響が懸念されたが,今回の条件においては,その影響は少なかったものと考えられる。

図より,かぶり厚さが10mmまたは30mmと小さい範囲においては,いずれの水セメント比におい ても,浸漬法と接触法とでは,分極曲線の形状はほぼ同じであり,表-4.1 に示すグレード判定にお いても両測定法は,同じグレードに分類されることが分かった。

-600 -400 -200 0 200 400 600 800

0.1 1 10 100

電位(mV vs. SCE)

電流密度(µA/cm2) N40(30mm)

N50(30mm) N60(10mm)

浸漬法 接触法

図-4.4 浸漬法と接触法の比較

64 4.4 掃引速度の影響に関する検討

分極曲線の計測において,鉄筋の電位が所定の電位に達するまで,センサーをコンクリート表面に 当て,固定しておく必要がある。通常,試験室で行われる分極曲線の測定に対しては,電位の掃引速

度 50mV/min.程度が用いられることが多く,この場合一回の測定に約 20 分程度の時間を要する。セ

ンサーを固定した状態を保つ必要があることを考えると,20分は長時間と言え,接触法の実用上の問 題として,測定時間の短縮が必要である。

本節では,測定時間の短縮のために,掃引速度を増加させることを考え,分極曲線測定に対する電 位の掃引速度の影響について検討した。なお,本節では,4.3 節で使用した供試体を用いて,電位の 掃引速度を変化させた場合における分極曲線の形状の変化について検討を行った。

4.4.1 供試体概要および測定方法

供試体については,4.3.1および4.3.2と同様である。また,測定機器の接続は,図-4.3 に示す通りである。

電位の掃引速度は,通常(50mV/min.)の2倍の100mV/minと4倍の200mV/min.に変化させた。こ れは,測定時間がそれぞれ1/2(10分)および1/4(5分)となることと対応する。

4.4.2 実験結果および考察

各測定方法において,掃引速度を変化させた場合の分極曲線を図-4.5および図-4.6に示す。浸漬 法および接触法ともに掃引速度が大きいほど,電流密度が大きい方向にシフトしている傾向が認めら れた。そこで,同一電位における電流密度の値を50mV毎に読み取り,掃引速度50mV/min.の場合の 電流密度と100mV/min.および 200mV/min.の場合の電流密度の関係をプロットした図を作成した。図

-4.7に,水セメント比40%における関係に示す。なお,図-4.7は,No.1鉄筋に関するものである。

図より,両者の関係は,概ね比例関係となり,掃引速度が大きくなるほど,その傾きが大きくなる ことが分かる。また,水セメント比が異なる場合でも,同様に比例関係を示した。

表-4.3に掃引速度100mVおよび200mVの場合の,掃引速度50mV/min.に対する電流密度の割合 を整理した結果を示す。なお,同要因の供試体2体(鉄筋6本)の平均値を示している。

水セメント比によってばらつきはあるものの,50mV/min.における電流密度に対して,100mV/min.

では1.2倍,200mV/min.では1.4倍の電流密度となることが示され,これらの値を用いて50mV/min.

の電流密度への補正が可能であると考えられる。

また,不動態のグレードによる判定では,掃引速度を 200mV/min.まで増加させた場合でも同等の グレードである。すなわち,定性的な評価の上では,掃引速度を 200mV/min.まで増加させ,測定時

間を1/4(5分)とすることが可能であることが示された。

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 66-86)