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鉄筋周囲に形成される空隙の定量評価に関する検討

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 86-97)

5.1 序

コンクリート標準示方書[設計編]5.1)では,鉄筋腐食に対する照査として,設計供用期間内におい て,鉄筋の腐食を生じさせないことを確認することが最も安全側での評価であるとしている。すなわ ち,設計供用期間内において,鉄筋位置での塩化物イオン濃度が鉄筋の発錆限界塩化物イオンに達し ないようにすることを確認する手法がとられる。

ここで,コンクリート中の塩化物イオンの拡散は,Fickの第2法則である拡散方程式を解くことで 求めることが一般的である。したがって,コンクリートの見掛けの拡散係数および表面塩化物イオン 濃度によって拡散予測が可能である。

一方,腐食発生限界塩化物イオン濃度については,様々な要因によって変化する量であり,多くの 実験結果より安全側の値として,Cl-濃度で1.2kg/m3とすることが多い5.1)が定式化には至っておらず,

今後詳細な検討が求められている。

RC 構造物は,鉄筋とコンクリートの異種材料を用いた複合材料であることから,各材料の界面性 状は,耐力および耐久性の評価の上で,非常に重要である。

鉄筋コンクリート構造部材において,ブリーディングに起因すると考えられる空隙が形成されるこ とが多く見られる。また,塩害の被害を受けた実構造物においては,空隙が形成されている鉄筋下面 において激しい腐食を示す場合が多く見受けられる5.2)

この現象は,鉄筋下面における空隙の存在によって腐食反応の促進,すなわち不動態皮膜の破壊や 酸素・水分移動が用意になることを示唆している。空隙の存在によって発錆限界塩化物イオン量は変 化することが予想され,設計・施工時において空隙を少なくすること,また,空隙の存在を考慮して,

部材ごとの限界塩化物イオン量の設定などが必要であるものと考えられる。

空隙の存在が鉄筋腐食を促進する可能性は指摘されている5.2)ものの,その定量的な評価には至って いない。さらに,コンクリートの性状と形成される空隙の形状・寸法の関係性に関しても,十分な知 見が得られていないのが現状である。

そこで,本章では,鉄筋下面に形成される空隙の三次元的な可視化および形成される空隙とブリー ディングとの関係性について明らかにすることを目的として,X線CTスキャナを用いた空隙の評価 を行った。

80 5.2 X線CTスキャナについて

X 線は,波長域 10-12~10-8m(0.01~100Å)の電磁波であり,その特徴をいかし,幅広い用途で利 用されている。X線の特徴を以下に示す。

(1) 蛍光作用

ZnS, CdS,NaIなどに照射すると蛍光を発する

(2) イオン化作用

イオンをはじき出し,電子と陽イオンを生成する作用 (3) 屈折率がほぼ1に等しい

X線は屈折で集光できない (4) 回折現象を示す。

結晶が回折格子の役目をする (5) 透過力が大きい

医療のレントゲン撮影,溶接部材の検査などに利用

X線CT(Computed Tomography)は,上記の特徴の中の(5) 透過力が大きいことを利用し,物質を 透過したX線量から物質の内部構造を非破壊的に求めようとするものである。

元来,医療分野での活用がされてきた技術であるが,近年,透過力の高いX線の発生・制御技術の 開発によって工業分野においても,広く活用されるようになってきている。

コンクリート工学分野においても,X線CTスキャナによる観察を用いて内部構造の把握に活用さ れている。例えば,天野ら5.3)は,ローラー転圧コンクリート(RCC)における骨材分布の把握に対し てX線CTによる観察を適用している。また,微視的領域の観察も可能であることから,Scrivener et al.5.4)はセメントペーストの空隙構造の定量評価のためX線CT観察を用いている。

X線CTスキャナの基本的な構成を,図-5.15.5)に示す。また,本研究で使用したX線CTスキャナ の外観を写真-5.1に示す。X 線CTスキャナは,X 線源,回転試料台およびイメージ管の3つより 構成されるものである。X線原より発生したX線は試料台上の試料を透過し,イメージ管では,試料 を透過したX線量を計測する。試料台は,一定の速度で回転し,イメージ管において連続的に透過し たX線量を計測する。以上の操作によって,試料の回転角とイメージ管の各位置で検出される X 線 量がデータとして得られる。これらを逆解析することで試料内のX線吸収係数の3次元的な分布を知 ることができる。図-5.2に逆解析の簡易的な概念図5.5)を示す。

この分布に対して適当なカラーチャートを当てはめることで画像として認識することができる。な お,一般的には,X線吸収率は,物質の密度に大きく依存するものであることから,X線CT像は,

試験体内部の密度分布を示した図であると考えてもよい。

なお,本研究で使用したX線CTスキャナのイメージ管は,X線量に比例して蛍光を発する物質が 貼付されており,その輝度分布より透過X線量の大小を測るものである5.5)

81

図-5.1 X線CTスキャナの構成図5.5)

写真-5.1 X線CTスキャナの外観 X線源

回転テーブル

イメージ管

82

? 5 5

5 5

1 4

2 3

X線透過量

1 0 2 2

X線吸収量 観察対象物 X線照射量

図-5.2 逆解析の模式図5.5)

83 5.3 実験概要

5.3.1 X線CTスキャナによる観察のための鉄筋代替材料

X 線CTスキャナの仕様上,鉄のような高密度(7程度)の材料では,X線が透過せず正確な観察 ができない。そこで,鉄筋代替材としてアルミニウム製の棒を埋設したモルタル供試体により X 線 CTによる撮像を行った。

ここで,アルミニウムは,アルカリ溶液中で溶解し,水素を発生する。この影響について,モルタ ル空隙水と同程度のpHである0.5mol/lのNaOH溶液および水セメント比50%のセメントペーストに アルミ棒を浸漬し,質量変化を調べた。その結果,NaOH溶液中では,質量減少速度は64.3mg/cm2/day であるのに対し,ペースト中に浸漬した場合には,1.5mg/cm2/day と約1/40と非常に小さい。これは 侵食深さとしては約5μm/day となり,後述する本研究で設定した1ピクセルの大きさに比べれば非 常に小さく,本研究の範囲内では,アルミニウムの反応の影響は無視できるものと考えた。

5.3.2 モルタルの使用材料および配合

セメントには普通ポルトランドセメントを用い,細骨材には,海砂を使用した。

モルタルの示方配合を表-5.1 に示す。水セメント比(W/C)は,40,50,60%の3水準とし,砂 セメント比を3.0で一定とした。なお,W/C=40%の配合については,施工性が確保できる流動性が得 られなかったため,ポリカルボン酸系高性能AE減水剤をセメント質量に対し0.9%添加した。

5.3.3 供試体作製方法

図-5.3に供試体の形状および寸法を示す。供試体は,150×150×500mmの角柱とし,上下面から 30mmの位置にアルミニウム製の棒を配置した。また,アルミ棒の形状は,丸鋼を想定した丸型に加 え,正方形の形状のものを配置した。これは,形成される空隙に関して画像処理や数量的な評価を容 易にするためのものである。

モルタルは,強制パン型ミキサーにより練混ぜを行った。練混ぜ方法は,JIS R 5201(モルタルの 練混ぜ方法)に従い行った。練混ぜ終了後ただちに3層で打込みを行った。各層ごとに棒型振動機に より15秒間の締固めを行った。打込み後は,振動を与えないように温度20℃の環境に静置し,打設 後2日で脱型を行った。脱型後は,材齢28日まで20℃水中養生を行った。

表-5.1 モルタルの配合

配合名

水セメン ト比W/C

(%)

砂セメン ト比S/C

単位量(kg/m3

水 セメ

ント 細骨材 高性能AE 減水剤

N40 40 3.0 211 527 1581 C×0.9%

N50 50 3.0 250 501 1502 -

N60 60 3.0 286 477 1430 -

84 打設方向

切断位置

(a)正面図 (b)側面図

図-5.3 供試体の形状および寸法

5.3.4 モルタルのフレッシュ性状

モルタルのフレッシュ性状については,フロー試験,空気量試験およびブリーディング試験を行っ た。なお,フロー試験は,JIS R 5201「セメントの物理試験」に従った。空気量はJIS A 1171「ポリマ ーセメントモルタルの試験方法」に従い計測した。また,ブリーディング試験は,JIS A 1123「コン クリートのブリーディング試験」の方法をそのまま適用し,ブリーディング率およびブリーディング 量を求めた。図-5.4にモルタルのブリーディング率の経時変化を示す。また,表-5.2にモルタルの フレッシュ性状に関する試験結果を示す。

0 2 4 6 8 10 12

0 50 100 150 200 250 300

ブリーディン(%)

時間() N50

N60

図-5.4 ブリーディング率の経時変化

85

表-5.2 モルタルのフレッシュ性状

空気量 (%)

N40 148 7.8 0.00 0.00

N50 149 5.7 4.48 0.20

N60 227 2.6 9.63 0.51

ブリーディ ング率

(%)

ブリーディ ング量

(cm

3

/cm

2

) フロー値

配合名

5.3.5 X線CTによる撮像条件

材齢28日において,供試体を恒温水槽より取り出し,X線CTスキャナによる撮像に供した。なお,

装置の積載量の都合上,図-5.3の赤線のようにアルミ棒を中心とする75×75×150mmの大きさに切 り出したものを1回の撮像に供するものとした。また,撮像方法は,写真-5.2に示すように回転テ ーブル上に載せ,高さ方向の中心部の75×75×80mmの範囲に対して撮像を行った。また,X 線CT スキャナにおける撮像の条件は,管電圧 200kV,管電流 300μA の条件で X 線を発生させ,1 回転

(360°)あたり200ビューの計測結果より逆解析によって内部分布を求めた。

本検討で取得される1つの断面図は,512×512画素であり,これが高さ方向に対して500枚得られ る。すなわち,ある断面図における一つの画素は,1辺が0.16mmの立方体中の平均的なX線透過係 数を示すものである。

本研究で使用したX線CTスキャナでは,X線透過係数に比例するGL値と呼ばれる独自の値が得 られる。この値を適当なカラーチャートに当てはめることで断面図が得られる。

アルミ棒

150mm

75mm

撮像範囲 80mm

回転テーブル

写真-5.2 X線CT撮像時の供試体の設置状況

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