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層状腐食生成物の層構造の観察とその形成要因に 関する考察

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 108-118)

6.1 序

鋼材の腐食に対し環境条件の影響を定量化する際,かぶりコンクリートにおける物質透過性状に対 する環境条件の影響と,鋼材自体の不動態の破壊や不動態の破壊後の腐食の進行に対する影響の両者 を考慮する必要がある。前者のかぶりコンクリートの物質透過性状については,比較的多くの検討が なされているものの6.1)6.2),後者の鋼材自体の腐食に対する環境条件の影響に関して検討を行った事 例は少ない。

そこで,本研究では,腐食を生じた鋼材の観察より,鋼材腐食の進行に対する環境条件の影響を定 量的に評価することを試みた。具体的には,腐食を生じた鋼材の特徴として,写真-6.1 に示すよう に,層状の構造を呈していることに着目し,この層の間隔等が,腐食進行の相違を表しているものと 考え,腐食生成物の構造的な特徴と環境条件との関係性を見出すことを目的としている。既往の研究 において,腐食生成物に着目した検討事例としては,Duffo et al.6.3),Zhao et al.6.4),須田ら6.5)による検 討があるが,腐食生成物の成分に着目し,各錆成分の膨張率の違いの観点から検討を行ったものであ り,層構造そのものに着目したものは,ほとんど無い。したがって,本検討は,新たな観点からの腐 食環境評価となるものと考えられる。

本研究では,2つの構造物より採取した鋼材の腐食生成物に対し,蛍光顕微鏡観察および走査型電 子顕微鏡観察(SEM)の2つの手法により,観察を行った結果を示し,腐食生成物の構造的な特徴を 捉えることのできる観察手法の提案とその構造的な特徴より鋼材の腐食進行についていくつかの考 察を加えたものである。

写真-6.1 層状の腐食生成物の例

102 6.2 実験概要

6.2.1 採取した試料の概要

本研究で観察を行った腐食生成物の試料は,試料A,試料Bおよび試料Cの3種類である。試料A およびBは,茨城県波崎港の港湾構造物より採取した。試料Aは,RCはりの主筋より採取した。試 料Bは,防波堤に位置する鋼製の配管より採取した。試料 C は,気候条件の大きく異なるものとし て,インドネシアの南スラウェシの港湾構造物のRC岸壁の鉄筋より採取した。それぞれの試料を採 取した部材の状況を写真-6.2に示す。

試料Aは,採取時において,かぶりコンクリートの剥離が生じており,主筋は激しく腐食を生じて いた。試料Cについても同様に,採取時にはかぶりコンクリートの剥離が生じており,鉄筋が露出し た状態であった。

写真-6.3 に,試料の外観を示す。いずれの試料においても層状の構造が確認され,特に,露出し た鋼材より採取した試料Bは,ほぼ均等な層間隔での層構造を示していることが確認された。

試料A 試料B 試料C

写真-6.2 各試料を採取した部材の状況

試料A 試料B 試料C

(コンクリート中の鋼材) (露出した鋼材) (コンクリート中鋼材)

写真-6.3 各試料の外観

6.2.2 観察用試料の作製

観察試料作製の作業フローを図-6.1 に示す。試料の作製は,まず,試料の切断より行うが,この 際,切断による試料の破損を防ぐため,エポキシ樹脂を表面に含浸した後に精密カッターによる切断 を行った。

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試料の切断後は断面の研磨を行った後に,観察面に対し樹脂の含浸を行った。このとき,蛍光顕微 鏡観察を行う場合には,エポキシ樹脂に対し,粉末状の蛍光塗料を加えた蛍光樹脂を含浸した。また,

樹脂の含浸は真空含浸により行った。具体的には,写真-6.4 に示すように,真空デシケータ内の容 器に試料を入れ,樹脂の注入用のチューブを固定した後,デシケータ内を真空状態とし,チューブよ り樹脂の注入を行った。

樹脂の硬化後に,観察面の精研磨および琢磨を行ったものを観察試料とした。なお,研磨には,SiC 研磨紙を用い,#320,#1000,#2400の3段階で行った。また,琢磨には,琢磨布にダイアモンド ペーストを塗布したものを使用し,ダイアモンドの粒径は,1μmおよび0.25μmの2段階とした。

また,研磨および琢磨では,潤滑液として,エタノールを使用した。研磨後の試料は,超音波洗浄器 により洗浄し,観察に供した。

樹脂コーティング 切断 面出し研磨

樹脂含浸 精研磨・琢磨 図-6.1 観察用試料作製フロー

排気:真空ポンプへ

樹脂の注入

樹脂の注入

試料の設置状況 調整弁

写真-6.4 樹脂含浸装置

6.2.3 観察方法

本研究では,観察手法として,蛍光顕微鏡観察およびSEM 観察の2つの手法を用いた。蛍光顕微 鏡観察は,主にマクロな層間隔を把握することを目的としており,SEM観察によってミクロな構造を 把握することを目的としている。蛍光顕微鏡観察での,観察倍率は15倍とした。

SEM観察は,100倍~1000倍の倍率の範囲で観察を行った。

104 6.3 観察結果

写真-6.5~写真-6.7 に各試料の蛍光顕微鏡観察結果を示す。試料 A(写真-6.5)および試料 B

(写真-6.6)は層構造が確認され,特に,試料Bでは,数mmのマクロ層の形成が明確に観察され た。

一方,試料C(写真-6.7)では,明確な層構造は観察されず,試料A,Bに比べて緻密な構造とな っていることが推察される。

また,写真-6.8~写真-6.12に二次電子像を示す。写真より,試料Aおよび試料Bの両者におい て,微視的領域において層状の構造を呈していることがわかる。試料Aは,500μm程度の層が形成 されており(写真-6.8),その層の内部もまた,数μm~数十μm の層より形成されていることがわ かる(写真-6.9)。試料Bについても同様に,50μm程度の層が確認され,その内部は,数μmの層 で形成されている様子が観察された。

また,試料Cについては,蛍光顕微鏡観察においては顕著な層構造は確認されなかったが,微視的 な領域においては,数μm~数十μmの厚さの層が確認された。

以上より,腐食の進行について考察すると,比較的短期間の腐食速度の変動が数μm~数百μmの 微視的領域で観察される層を形成しており,一方で,数mm程度のマクロな領域で観察される層間隔 は,長期的な腐食速度の変動を表しているものと考えられる。

以上の腐食の観察結果より,数mmのマクロな層も数μm~数百μmの薄い層が重なって形成され たものであることが分かった。すなわち,腐食生成物の層構造に関する特徴量として,マクロ層およ びミクロ層の厚さが見出され,腐食環境評価の指標として適用できる可能性が示された。

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写真-6.5 蛍光像(試料A) 写真-6.6 蛍光像(試料B)

写真-6.7 蛍光像(試料C)

写真-6.8 二次電子像(試料A:100倍) 写真-6.9 二次電子像(試料A:500倍)

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写真-6.10 二次電子像(試料B:200倍)

写真-6.11 二次電子像(試料C:200倍) 写真-6.12 二次電子像(試料C:500倍)

107 6.4 錆層の形成に対する腐食環境の影響に関する考察

以上より,各観察倍率において観察される層厚を計測した結果を表-6.1 に示す。また,日本とイ ンドネシアの気候条件の大きく異なる条件での腐食生成物の層構造の違いの考察として,気温の違い に着目する。図-6.2は,試料の採取地近傍の月平均気温を示したものである6.7)6.8)。日本の気温は,

夏期と冬季では 20℃程度の差があるのに対し,インドネシアでは,年間を通じて 25℃程度で一定の 気温である。

腐食速度に対する気温の影響として,次式が提案されている6.2)。ここで,C(T)は,気温の影響関数 であり,気温25℃のときの腐食速度を1とした場合の,任意の温度における腐食速度の比を表す関数 である。

} 695 . 8 ) / 1 1000 ( 593 . 2 exp{

)

( T = − × × K +

C

(6.1)

ここに,C(T):腐食速度に及ぼす気温の影響関数(25℃のときに1)

K:絶対温度(K)

式(6.1)より,各気温における影響関数を算出した結果を表-6.2に示す。表より,気温が5℃では,

気温25℃に比べて1/2の腐食速度になることが分かる。

以上より,式(6.1)の関係を用いて腐食速度の年間の変動を示すと図-6.3のように表される。

腐食速度に対して,気温の影響のみを考慮すれば,インドネシアでは,年間を通じて腐食速度の変 動は殆ど無いのに対し,日本の横浜では,夏期に対し冬季では腐食速度は約1/2となることが予想さ れる。

以上より,観察結果について整理すると,まず,高倍率での層厚は,日本で採取した腐食生成物よ りもインドネシアで採取した腐食生成物の方が大きいことから,インドネシアでは,日本に比べて短 期間で進行する腐食量が大きいことが推察される。これは,腐食速度は,気温が高いほど速いことと 一致する。また,低倍率でのマクロな層についても,気候条件の違いにより異なる結果であり,日本 で採取したものは,マクロな層が確認されたのに対して,インドネシアで採取した腐食生成物には,

顕著なマクロ層は確認されていない。これは,日本とインドネシアの気温の変動の違いが影響を表し ているものと考えられる。

表-6.1 層厚の計測結果

15~20倍 50~100倍 200倍 500倍

0.59mm~2.08mm 45µm~154µm 1µm~6µm

平均  1.22mm 平均  101µm 平均  2µm 1.30mm~2.20mm 72µm~320µm

平均  1.45mm 平均  156µm

47µm~160µm 20µm~74µm 5µm~22µm 平均  104µm 平均  48µm 平均  11µm

試料 採取地 各観察倍率における層厚

南スラウェシ インドネシア 試料C

茨城・日本 試料B

試料A 茨城・日本

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