第2章 新規制基準の不徹底
2.6 難燃性ケーブルへの変更
川澄 敏雄、筒井 哲郎
2.6.1 適合性審査とケーブルの火災対策
現在多くの原発において使用されている電線・ケーブル(以下「ケーブル」と略記)のほとんどが燃 え易い非難燃性(可燃性)ケーブルであり、もし再稼働する場合には、全ての非難燃性ケーブルを難燃性ケ ーブルに取り替えることが求められる。
しかしながら、多くの原発の規制審査申請書に記載されている対策は、きわめて不徹底なものである。
2.6.2 プラントにおけるケーブルの役割
原発プラントに限らないが、工業プラントにおけるケーブルの用途は、2種類に大別できる(表4)。
人体に例えれば、「電力用」は「血管」、「計装・制御用」は「神経」とも言える。
(1) 電力用: 電気エネルギーをポンプなどの機器に供給したり、発電プラントにおいては発電 した電力を外部に送り出す。
(2) 計装・制御用: 機器や温度計等のセンサーが計測した値や、機器の作動状態、異常信号を プロセスコンピュータ等に伝送したり、機器に対して「運転/停止」等の指令(制御 信号)を伝送する。
人体の場合、血管と神経のどちらかいっぽうでも不具合が生じたら異常を来たすのと同様、何れのケ ーブルでも、機能が失われたら、プラント全体の健全性を失うことになる。原子炉においては、炉内の 状態がわからなくなったり、機器の起動・停止ができなくなったりする。あるいは、操作する意思がな いのに勝手に動いてしまうという事故が起きる可能性がある。そうした事故を防止するために、ケーブ ルの健全性はきわめて大切である。
ケーブルは、導線と被覆(絶縁体)から成っており、用途によってさまざまな種類がある。
2.6.3 原発のケーブルは、なぜ難燃性でなければならないのか
1975 年 3 月 22 日、米国ブラウンズフェリー原発1号機において、検査に用いていたローソクの火が ケーブルに燃え移り、それが導火線の役割を果たして火災がプラント全体に広がり、消火には7時間以
表作成: 川澄敏雄
電力用 計装・制御用
用途 機器に電力を送る センサーからの計測信号を送る機器に
制御信号を送る
特徴
・流す電流は大きい
・1 本のケーブルに通常 3 本の導線。
・電圧/電流の大きさによって、太さが 変わってくる。
・流す電流はごく小さい
・1 本のケーブルに多数の導線。
・導線の太さは直径1mm 程度。ケーブルの太さ は導線の数に比例。
表4 ケーブルの役割と特徴
上を要し、一時は炉心冷却が不十分になるなど、極めて深刻な事態を招いた134。
この火災によって、原発における機器の物理的分離および隔離に関する設計基準を再検討する必要性 が認識され、わが国においても、火災に対する設計上の問題点を見直し、1980 年 11 月 6 日付けで「発 電用軽水型原子炉施設の火災防護に関する審査指針」135(以下「火災防護審査指針」と略記)が定められ、
原発で使用するケーブルは難燃性のものを使うことが義務付けられた。
この「火災防護審査指針」が検討されていた時期(1980 年)より前に設計、建設された原発は新しい 基準が適用されず、燃え易い非難燃性のケーブルが使われ、代替的な措置としてアスベストを含有する
「延焼防止塗料」が塗布された。
現在、規制委の新規制基準適合性審査におけるケーブル問題の論議は、難燃性に取り替えられないケ ーブルをどうするかということに時間が割かれている。
だが、そもそも原発で使用されるケーブルは、放射線にさらされるという点において、原子力以外の プラントでは必要とされない性能が求められる。では、そのようなケーブルはいつ頃、開発されたのか。
1976 年の論文「原子力発電所用ケーブル開発」136では、「近年、アメリカではプラント火災の経験か ら、グループとしてのケーブルの難燃性、特に火災を伝搬させないことについての要求が高まってき た」、「原子力発電所の設計上想定される事故の一つとしての冷却材喪失事故に対しても安全確保上の重 要項目にケーブルが取り上げられ、品質認定の基準化の検討が行われてきた」としながらも、「我が国で はこの新しい規格に従い、確実に試験を実施した例はまだない」としていた。
この論文が発表されてから約 5 年半後に発行された 1981 年の論文137では、「原子力発電所では、高 圧・低圧動力、制御計装、補償導線、特殊同軸などの各種ケーブルが多量に使用される。発電所の防災 や安全性を厳しく追求する目的から、電線ケーブルについても JIS 規格の一般特性のほかに、難燃性や原 子力特有の耐環境性が要求されている」として、「日立電線株式会社では BWR(沸騰水型原子炉)用に各種 の難燃ケーブルを開発した」と発表している。昭和電線電纜株式会社の 1993 年出願の特許には、目的 として「耐熱性および耐放射線性に優れ、また、可とう性、電気特性、機械的強度も良好で、さらに、製 造も容易な電線・ケーブルを提供する。」と記載してあり138、この時期に電線業界では原発向けの難燃性 ケーブルの開発が行われていたことがうかがわれる。
これらの記述から、1970 年代に建設された原発には、本来原発に求められる性能(難燃性のみならず 原子力特有の放射線に対する耐環境性)を持ったケーブルは使われていないことが裏付けられる。
134原子力百科事典 ATOMICA 「海外の原子力発電所における主な事故(タービン火災・爆発事故を除く)」の「3.米 国ブラウンズフェリー発電所1号機の火災」参照 www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_Key=02-07-04-17
135文部科学省 「発電用軽水型原子炉施設の火災防護に関する審査指針について」
www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/t19801106001/t19801106001.html 2.1.2(3)項に「ケーブルは難燃ケーブルを使用すること」と規定されている。
136栗山将・長谷川徹・小椋二郎・大西隆雄・木村洋「原子力発電所用ケーブル開発」『日立評論』58(3) 1976年3 月号 pp.79-84 www.hitachihyoron.com/jp/pdf/1976/03/1976_03_15.pdf
137「原子力発電所用ケーブル」(新製品の紹介記事)『日立評論』63(9) 1981年9月号 p.73 www.hitachihyoron.com/jp/pdf/1981/09/1981_09_00_sinseihin.pdf
138公開特許公報、特開平6-223637、1994年8月12日公開「耐熱、耐放射線性電線・ケーブル」
www.patentjp.com/06/V/V100095/DA10048.html
2.6.4 ケーブルの健全性はプラントの死活的課題
2.6.4.1 ケーブルの耐用年数の問題ケーブルの耐用年数は、構成している導体と絶縁体の材質によって変わる。製造業者の横断的団体で ある日本電線工業会によれば、「一般の電線・ケーブルの設計上の耐用年数は、その絶縁体に対する熱 的・電気的ストレスの面から 20~30 年を基準として考えてあるが、使用状態における耐用年数は、そ の敷設環境や使用状況により大きく変化する」とし、「ケーブルが正常な状況で使用された場合の耐用年 数の目安」を下表のとおり示している(表5)139。
2.6.4.2 ケーブルが一般的な耐用年数を大幅に超過している原発
建設後 30 年を超えた原発は、ケーブルメーカーが規定している耐用年数の目安である 10~30 年を とうに過ぎている。仮に、40 年規制を超えて運転期間延長をするならば、60 年間にわたって使用する ケーブルが存在する事になる。つまり、一般的な耐用年数の上限値である 30 年の 2 倍にわたって使い続 けることになる。これは、常識的には考えられない異常な事態と言わなければならない。
2.6.4.3 日本原電はケーブルの健全性をどのように評価してきたのか
一例として、東海第二原発を運営する日本原電が、同原発のケーブルの健全性をどのように評価して きたのかを以下に示す。
2007 年に日本原電が経産大臣に提出した「東海第二発電所高経年化技術評価等報告書」を、当時の原 子力安全・保安院の指示によって独立行政法人・原子力安全基盤機構が評価し、「高経年化技術評価等報 告書の技術的妥当性の評価結果(日本原子力発電株式会社東海第二発電所)」140(以下「30 年の評価結 果」と略記)にまとめ、公表している。
139日本電線工業会(1989)「電線・ケーブルの耐用年数について」技術資料第107号 www.jcma2.jp/data/jcs_pdf/107.pdf
140原子力安全基盤機構(2008)「高経年化技術評価等報告書の技術的妥当性の評価結果(日本原子力発電株式会社東海 第二発電所)」平成20年7月18日
warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/10207746/www.nsr.go.jp/archive/jnes/plec/doc/VLR/tokai2.pdf 表5 電線・ケーブルの耐用年数の目安
出典: 日本電線工業会 技術資料第 107 号の表1【脚註 139】
電線・ケーブルの種類 敷設状況 目安耐用年数
絶縁電線
(IV,HIV,DV 等)
屋内、電線管、ダクト敷設、盤内配線 20~30 年
屋外敷設 15~20 年
低圧ケーブル
(VV,CV,CVV 等)
屋内、屋外(水の影響がない) 20~30 年
屋外(水の影響がある) 15~20 年
高圧ケーブル
(CV 等)
屋内敷設 20~30 年
直埋、管路、屋外ピット敷設(水の影響がある) 10~20 年
この報告書によれば、「原電は、長期健全性試験を実施している。この結果、60 年間の通常運転及び 事故時雰囲気内において機能維持が求められるものは、CNケーブル及び耐放射線性架橋発泡ポリエチ レン絶縁難燃六重同軸ケーブルを除き、事故時雰囲気を重ね合わせても 60 年間の絶縁性能を維持でき るとしている」として、原電の主張を追認している。
一方、「長期健全性試験の試験条件が 60 年間の運転期間を満たしていない耐放射線性架橋発泡ポリエ チレン絶縁難燃六重同軸ケーブル(CNケーブルについては、上記のとおり短期で対応)についても、実 機と同等のケーブルを用いて、中長期(2017 年まで)に、同様な長期健全性評価を実施し、その評価手 法についても、同様に国の安全研究の成果の反映を検討していく」とも述べ、「追加保全策」の実施を要 求するものとなっており、決して無条件で全てのケーブルの「60 年使用」にお墨付きを与えてはいない。
「原子力発電所のケーブル経年劣化評価ガイド」 (2014 年 2 月 原子力安全基盤機構)141では、原子力プ ラントに使用されているケーブルについての長期健全性の確認方法として、「最近の知見によると、通常 運転時の熱・放射線による経年劣化を想定した電気学会推奨案の加速劣化手法は、必ずしも実機を正確 に模擬できていない可能性があることが分かっている」として、それまでの手法による評価では不十分 であることを明確に指摘している。
さらに、(株)原子力安全システム研究所 技術システム研究所の論文「原子力発電所の低圧ケーブル非 破壊劣化診断技術」142では、「発電所の構内に布設されている低圧ケーブルについては,目視点検や絶縁 抵抗測定による健全性の確認は行われているが,それだけでは劣化度や残存寿命の診断が困難である.
このため,ケーブルを布設状態のままでケーブルの性能を損なうことなく,劣化度を測定できる非破壊 劣化診断技術の確立が望まれている」とし、「表面硬さによる診断法が最も有効である」として、非破壊 劣化診断法を提案している。
つまり、これらの論文に示された知見と、現在の技術水準から見れば、原電がこれまでのケーブル劣 化の評価において用いてきた手法、即ち「絶縁抵抗測定による健全性評価」は、不十分な手法であって、
それによって、「60 年間の絶縁性能を維持できる」などとは到底言えないのである。
しかしながら、原電は自らのホームページに設けた「東海第二発電所の新規制基準への対応について」
というコンテンツの「説明会において皆さまからいただいた主なご質問等について」143の中で、
Q:原子力発電所の寿命は 40 年と言われていますが、東海第二発電所は 36 年経っています。その 辺りの対応はどうしているのですか?
という設問に対し、
A:ポンプなどの取替可能な機器は定期的に交換などを実施しますが、ケーブルや構造物など取替 が困難な設置物は 10 年毎の高経年化評価を実施しています。30 年目の評価の際に、60 年間の運 転を仮定しても十分に健全性を維持できることを評価し、国(旧原子力・安全保安院)に報告し、国
141「原子力発電所のケーブル経年劣化評価ガイド」 2014年2月
warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/10207746/www.nsr.go.jp/archive/jnes/content/000127230.pdf
142三宅悟(1998)「原子力発電所の低圧ケーブル非破壊劣化診断技術」(株)原子力安全システム研究所 技術システ ム研究所INSS Journal 5 p.98-107
www.inss.co.jp/wp-content/uploads/2017/03/1998_5J098_107.pdf
143日本原子力発電株式会社「東海第二発電所の新規制基準への対応について」:説明会において皆さまからいただいた 主なご質問等について www.japc.co.jp/shinsei/tokai/goiken.html