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水蒸気爆発と格納容器破壊の危険性

第 1 章  再稼働を推進する新規制基準適合性審査

1.5 水蒸気爆発と格納容器破壊の危険性

高島 武雄、後藤 政志、筒井 哲郎

1.5.1 福島原発事故では大規模水蒸気爆発は避けられたが…

原子炉内あるいは格納容器内には、冷却用の水が存在するため、炉心溶融を起こすと、溶融炉心と冷 却水の接触による水蒸気爆発が発生する可能性がある。電力会社などでは、水蒸気爆発も含めて、溶融 炉心と冷却水の接触を FCI(Fuel Coolant Interaction:燃料冷却材相互作用)と呼んでいる。

沸騰水型原子炉(以下「BWR」)では、格納容器下部に圧力抑制プールがあるが、福島第一原発の事故炉 である「マークⅠ型」は原子炉直下にはプールはなく、原子炉圧力容器をメルトスルーした溶融炉心が、

水プールに落下する可能性は少なかった。1 次系配管の損傷や格納容器スプレイの作動によって、格納容 器の床に流れ出た水が多少はあったとしても、大規模な水蒸気爆発は起こらなかったと推測される。

しかしながら、東海第二原発や福島第二原発の格納容器は、「マークⅡ型」であり、もしこれらの原子 炉が炉心溶融を起こすと、原子炉圧力容器から落下した溶融炉心は、直下の原子炉を支えるペデスタル にあるコンクリートの床を融かした後、格納容器下部にある圧力抑制プールに落下し、大規模な水蒸気 爆発を起こす可能性がある。福島第一原発事故では、格納容器がたまたまマークⅠ型であったので、大 規模水蒸気爆発は避けられたが、仮にマークⅡ型であったなら、事故の進展は大きく異なった可能性が あった。

1.5.2 炉心溶融時に原子炉直下に水を張ることの危険性

現在、稼働を始めた川内原発、伊方原発など加圧水型原子炉(PWR)では、多重故障が発生した場合、

54クロスチェック解析の問題については、1.8でさらに詳しく論じる。

最短では約 20 分後に炉心溶融・メルトダウンが起こる。その結果、厚さ 10 数 cm ある原子炉圧力容器 をメルトスルーするまで、事故発生から 1 時間半程度しかかからない。BWR の福島第一原発の事故で は、少なくとも4~5時間かかった。しかし、PWR では、原子炉の圧力が 15MPa と BWR に比べて約 2 倍の高さであるため、事故の進展が速い。PWR を運転する電力会社は、全電源喪失と配管破断や逃がし 安全弁の開固着等によって冷却材喪失事故が発生し、緊急炉心冷却系(ECCS)も期待できない状況では、

代替冷却系も 1 次系を冷却できる状況ではなくなるとしている。

このような過酷事故対策としては、原子炉内への水の供給をあきらめ、格納容器内にスプレイで水を 散布することで原子炉下部キャビティに水を集めて、溶融炉心を冷却するという。冷却水のような常温 の液体と、数百度以上温度の高い溶融物が接触すると、高温の溶融物が粒子状になり水の中に分散し、膜 沸騰によって周囲に蒸気の膜ができる。これを粗混合状態といい、この状態で何らかの刺激(「トリガリ ング」という)を受けることにより、蒸気の膜が壊れると、溶融物は水と直接接触し、周囲の水が一気 に蒸発する。1 つの粒子の蒸気膜が破壊し爆発すると、他の粒子も次々と連鎖的に蒸気膜が破壊して爆発 が進み、微細化に伴う伝熱面積の急増によって、理論的には約 1600 倍に及ぶ急激な膨張をして周囲の 構造物を破壊する55。これを「水蒸気爆発」という.

1.5.3 「水蒸気爆発は起こりにくい」とする非科学性と安全性の無視

水蒸気爆発が複雑な過程を経て発生し、条件は同じでも発生する時もあれば発生しない時もある。水 蒸気爆発は確率的な現象である。多くの実験結果から、熱伝導率が大きく、表面張力や粘性係数が小さ い溶融金属では発生しやすく、爆発も激しくなる傾向があると考えられている。

溶融酸化ウランによる複数の実験では、外部からのトリガリングによって、水蒸気爆発が起こること が確認されている。さらに、条件によっては、自発的な水蒸気爆発が起こることも確認されている56。し かし、電力会社は、事故時には外部からのトリガリングは考えられないとか、温度条件が異なるなどと して、水蒸気爆発は極めて起こりにくいとしている。事実上「起こらない」と判断しているとみなせる。

だが、事故時には、燃料の酸化ウランだけでなく種々の金属が様々な割合で含まれることになるほか、溶 融炉心の温度や重量、水プールの水温や水深、落下速度や状態、粘性ほか様々な物理量、格納容器圧力 などが関係してくる。水蒸気爆発が起こるか起こらないかという判断を決定するだけの科学的な根拠は 十分ではない。

特に、電力会社および規制委の判断は、実機では原子炉直下の原子炉キャビティでは、トリガリング になるものがないから水蒸気爆発は発生する可能性が極めて低いというものである。しかし、上記理由 から、この判断は想像力の欠如と言わざるを得ず、とても同意できるものではない。原子炉容器の溶融 破損状態や高圧におけるジェット流、キャビティ底部との接触、水中に落下した後の流動、事故に伴う 構造物の落下と衝突、層状系での水蒸気爆発の発生など不確定な現象を含み、特に狭い原子炉キャビテ ィ内での水素爆発などトリガリングはいくらもあり得る。実験室規模のスケールでも、トリガリングが ないと思われる状況でも水蒸気爆発は発生しており、トリガリングの存在は断定しがたいということが 正確な判断であろう。

55高島武雄・後藤政志(2015)「原子炉格納容器内の水蒸気爆発の危険性」『科学』85(9): pp.897-905.

56高島武雄(2015)「原子炉格納容器内の水蒸気爆発の危険性についての補足」『科学』85(11): pp.1045-1047.

さらに、「溶融炉心相当物質を用いた実験結果から、実機では水蒸気爆発の発生は極めて起きにくい」

との上記の電力会社の判断が一定の蓋然性を持つものと仮定しても、これらの実験は実機規模の百分の 一から千分の一オーダーの小規模なもので、実機で想定される数トンから百トン近い大規模な現象を実 証していない。このことは、科学的な蓋然性の判断だけで安全性を担保し得ないことを物語っている。

1.5.4 過酷事故対策の思想

東京電力福島第一原発 1 号炉から 3 号炉で起こったような過酷事故対策のうち、「溶融した炉心をど のようにして冷却するか」という課題についていくつかのケースを考えてみる。

欧州などでは、格納容器内に設置したコアキャッチャーに受けて、原子炉圧力容器から流出した溶融 炉心を拡げて空冷(一部水冷)する対応をとっている。しかし、既設の日本の原発では格納容器内に拡 張型のコアキャッチャーを設置するスペースがなく、規制委も電力会社に設置を求めていない。最近、ル ツボ内に設置した材料自身の溶融潜熱と蒸発潜熱によって、溶融炉心を冷却するアブレーション冷却技 術を応用した、コンパクトなルツボ型コアキャッチャー57も提案されているが日本の原発に採用される には至っていない。おそらく、設置コストを計算した結果のことであろう。

このため、PWR を採用している電力会社(関西電力、九州電力など)では、コアキャッチャーではな く、水を張ったコンクリートプールに溶融炉心を落下させて冷却することを考案した。規制委は、この ような過酷事故対策を認めている。このような対策は「世界一厳しい」とは言えず、むしろ国際基準に 比べて遅れた水準になっている。

1.5.5 炉型による溶融炉心の状態の違い

BWR では、制御棒が圧力容器下部から挿入され、原子炉圧力容器の底の空間部分である下部プレナム 部分には、多数の計装用導通穴が開いており、炉心溶融時には、これらの穴から多数の流れとなって流 出することが想定されている。他方、PWR では、計装用導通穴はあるが、制御棒等が圧力容器の上部か ら挿入されているため、圧力容器下部プレナムは、炉心流出には、BWR より耐性があると考えられる。

いったん冷却水喪失、冷却不能に陥り、炉心溶融が発生すると、大量の溶融炉心が炉材とともに、一挙 に落下する可能性がある。当然、温度も高く、温度の不均一性の程度も大きくなる。

1979 年のアメリカで起こったスリーマイル島原発事故(以下、TMI 事故)では、溶融した 45%の炉 心(62 トン)の外側温度は融点に達しておらず、絶対温度58で 2000K(ケルビン)程度であったにもか かわらず、炉心内部は 3100K まで達したと見積もられている59

仮に、TMI 事故がさらに進展した場合は、最高温度がさらに上昇し、1000K 以上の温度分布を持つ 100 トンから 150 トンにもなろうという高温溶融物が圧力容器底部もろとも落下したことになる。こ れは水蒸気爆発に対しては非常に厳しい条件である。

57V.B.Khabensky et al.(2009), Nucl.Eng.Tech.41(5) pp.561-574.

58絶対温度(単位はK)は、摂氏温度(単位は℃)に273.15を足した値となる。

59永瀬文久(2012)「溶融燃料の形態及び特性」日本原子力学会2012年春の年会 核燃料部会セッション www.aesj.or.jp/~fuel/Pdf/kikaku_session/2012_spring_kikakusession/2012_kikaku_nagase.pdf