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原子力規制委員会における安全目標の検討経緯

第5章  規制組織の振る舞い

5.3 不明瞭な安全目標と鹿児島地裁の事実誤認

5.3.1 原子力規制委員会における安全目標の検討経緯

規制委員会は、安全目標を策定する議論を規制委員会の場で 2013 年 2 月 20 日から開始し、4 月 10 日に安全目標の合意、決定を行ったとしている。決定された安全目標の要点は規制委員会資料「実用発 電用原子炉に係る新規制基準の考え方について」193の中の「§2 2-6 安全目標と新規制基準の関係」

の「2(2)原子力規制委員会での安全目標の議論」にまとめられている。主要部を以下に転記する。 

安全目標は、原子力規制委員会が原子力施設の規則を進めていく上で達成を目指す目標である。

平成 18 年までに原子力安全委員会安全目標専門部会において詳細な検討が行われていた

・炉心損傷頻度について「10-4/年程度」

・格納容器機能喪失頻度について「10-5/年程度」

といった検討結果は、原子力規制委員会が安全目標を議論する上で十分に議論の基礎となるもの と考えられる。

ただし、東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえ、放射性物質による環境への汚染の視点も 安全目標の中に取り込み、万一の事故の場合でも環境への影響をできるだけ小さくとどめる必要 がある。具体的には、世界各国の例も参考に、発電用原子炉については、事故時のセシウム 137 の 放出量が 100 テラベクレルを超えるような事故の発生頻度は、テロ等によるものを除き 100 万 炉年に1回程度を超えないように抑制されるべきであることを追加するべきである。

そして、原子炉等規制法によるバックフィット規制の導入の趣旨に鑑み、現状では安全目標は全 ての発電用原子炉に区別無く適用するべきものである。

なお、平成 25 年 3 月 6 日の原子力規制委員会に提出された論点のうちの残された論点(例え ば、新設炉と既設炉で目標値を分けるべきか否かなど)に関する議論を含め、安全目標に関する議 論は、継続的な安全性向上を目指す原子力規制委員会として、今後とも引き続き検討を進めていく ものとする。

この内容を検証すると、次項以下で詳述するとおり、不明瞭で不可解な点がある。とりわけ問題なのが、

「安全目標」そのものの不明瞭さ(☞ 5.3.1.2)とそれについてパブリックコメントが実施されていない不 可解さ(☞ 5.3.1.3)である。

193原子力規制委員会「実用発電用原子炉に係る新規制基準の考え方について」(2016年6月29日策定、2016年8月24 日、2017年11月8日改訂) www.nsr.go.jp/data/000155788.pdf

5.3.1.2 決定された安全目標の内容が不明瞭

2013 年度第 2 回規制委員会の議事録194によると、安全目標についての議題についての論議の終わり に、田中俊一委員長は

この簡単な1枚紙ですけれども、この合意を是非うまく生かして、今後の安全の向上を図っていき たいと思います。もしよろしければ、これで委員会の決定としたいと思います。

と述べた(議事録 p.21)。ここでいう「1枚紙」195の記載内容は、前項(5.3.1.1)で引用した安全目標の 要点のとおりである。

問題点の一つは、安全目標として何と何が合意、決定されたのかが不明瞭なことである。「一枚紙」に 記載された安全委員会安全目標専門部会での検討結果は、「安全目標を議論する上で十分に議論の基礎 となるものと考えられる。」とされていることから、規制委での議論の出発点の位置づけであり、議論の 結果として決定されたものとは読み難いが、もし安全目標を具体的に決定したのだとすれば、その内容 を明記した公式文書を発行すべきである。未だにそれがなされていないことは、行政機関としての説明 責任と公知義務を欠いている。

何が具体的に決められたのかを問うために、以下に、安全委員会安全目標専門部会での検討の推移と 検討結果の要点をまとめる。

2003 年 12 月に取りまとめられた「安全目標に関する調査審議状況の中間とりまとめ」196において、

安全目標案として以下が提示された。

・定性的目標案:原子力利用活動に伴って放射線の放射や原子力施設から放出される放射性物質 の放散により公衆の健康被害が発生する可能性は、公衆の日常生活に伴う健康 リスクを有意には増加させない水準に抑制されるべきである。

・定量的目標案:原子力施設の事故に起因する放射線被ばくによる、施設の敷地境界付近の公衆 の個人の平均急性死亡リスクは、年あたり百万分の1程度を超えないように抑 制されるべきである。また、原子力施設の事故に起因する放射線被ばくによって 生じ得るがんによる、施設からある距離にある公衆の個人の平均死亡リスクは、

年あたり百万分の1程度を超えないように抑制されるべきである。

この提示を受けて、2004 年 7 月に同専門部会のもとに性能目標検討分科会が設置され、施設が安全目標 に適合しているかを判断する目安となる水準、例えば、重大な炉心損傷が発生する確率や大量の放射性 物質が放出される事象が発生する確率等を性能目標とすることについての調査審議が行われた。

その結果、発電炉の性能目標の定量的な指標値として、

194原子力規制委員会議事録(2013年4月10日) www.nsr.go.jp/data/000047854.pdf

195原子力規制庁「安全目標に関し前回委員会(平成25年4月3日)までに議論された主な事項」(2013年4月10日)

www.nsr.go.jp/data/000047444.pdf

196原子力安全委員会安全目標専門部会「安全目標に関する調査審議状況の中間とりまとめ」(2003年12月)

www.nsr.go.jp/data/000047321.pdf

指標値1.炉心損傷頻度 (CDF)197: 10-4/年程度

指標値2.格納容器機能喪失頻度 (CFF)198: 10-5/年程度

を定義し、両方が同時に満足されることを適用の条件とすることが提示された199

しかし、安全委員会は上記の安全目標と性能目標の指標値を正式に決定することなく年月が経過し、

2011 年 3 月に福島原発事故が発生した。福島原発事故の反省・教訓として規制組織の見直しがあり、

2012 年 9 月に、安全委員会は規制委員会に改組された。

規制委員会が決定したとする安全目標の内容に、上記の「定性的目標案」と「定量的目標案」、そして その性能指標の「指標値1」と「指標値2」のすべてが入っているのかどうかが、公式文書が発行され ていないので不明瞭である。この点を規制委員会は明らかにし、安全目標が決定されたのであれば、決 定文書を作成し公知すべきである。

5.3.1.3 安全目標の決定には意見公募をすべきである

規制委員会の「規制基準の考え方」の「§2 2-6 2 (3) 新規制基準と安全目標の関係につい て」には、次の記述がある。

原子力規制委員会は、安全目標は、基準ではなく規制を進めていく上で達成を目指す目標であ ると位置付けた。そして、原子炉等規制法の改正により新設された 43 条の 3 の 29(発電用原子 炉施設の安全性の向上のための評価)により、発電用原子炉設置者は施設定期検査終了後 6 ケ月 以内に自ら、安全性向上のための評価を実施し、その結果を規制委員会に届け出ることとなる。

この安全性向上のための評価には、炉心損傷頻度、格納容器機能喪失頻度及びセシウム 137 の放 出量が 100 テラベクレルを超えるような事故の発生頻度の評価が含まれており、原子力規制委 員会は安全目標を参考にこの評価結果を踏まえ、必要な場合には、規制基準等の見直しを行い、

発電用原子炉設置者に対策をさせることとなる。

こうした安全目標を参考とする取組により、発電用原子炉施設の安全性について継続的な向 上を図ることができる。

ここで明記されていることは、安全目標は、既設炉の設置者が実施して届け出る「安全性の向上のた めの評価」の結果を、規制委が検討する際の参考とする位置づけである。従って、安全目標は、法規面 では規制委員会内規に相当すると考えられ、行政手続法に基づく意見公募(パブリックコメント)の対 象からは外れるとしても、法律にもとづく規制活動の実施に係る重要な指標である。これまで規制に関 する審査ガイド、評価ガイドなど種々の内規に関して規制委が意見公募を行ってきていることを踏まえ ると、安全目標の決定にあたっても意見公募がなされて当然であり、安全目標に関する意見公募が実施 されていないことは不可解である。意見公募を回避したことは、規制委員会の独断的決定との誹りを免 れない。

197CDF:Core Damage Frequency

198CFF:Containment Failure Frequency

199原子力安全委員会安全目標専門部会「発電用軽水型原子炉施設の性能目標について――安全目標案に対応する性能目 標について――」(2006年3月28日) www.nsr.go.jp/data/000047322.pdf