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新規制基準自体に欠落している項目

第3章  新規制基準自体の欠落または不足な項目

3.1 新規制基準自体に欠落している項目

滝谷紘一・阪上 武・筒井哲郎

現行の新規制基準には、住民を原発災害から守る上で、次の重大な欠落項目がある。

(1)放射線災害から住民を守る立地評価

(2)火山噴火対策の基本思想

(3)いわゆる「テロ対策」の基本思想

これらを取り入れた規制基準に早急に改訂すべきである。

3.1.1 放射線災害から住民を守る立地評価

新規制基準の設置許可基準規則においては、立地審査指針における立地評価に係る事項(「原子炉は、

その安全防護施設との関連において十分に公衆から離れていること」)を、規制基準として採用しなかっ た。これは原発周辺の公衆を放射線障害と放射線災害から守る上で看過できない規制改悪である。その 理由は次の通りである。

立地審査指針における立地評価の基本的目標は、以下のとおり規定されている148

a 敷地周辺の事象、原子炉の特性、安全防護施設等を考慮し、技術的見地からみて、最悪の場合に は起るかもしれないと考えられる事故(重大事故)の発生を仮定しても、周辺の公衆に放射線障害 を与えないこと。

b 更に、重大事故を超えるような技術的見地からは起るとは考えられない事故(仮想事故)(例え ば、重大事故を想定する際には効果を期待した安全防護施設のうちのいくつかが動作しないと仮 想し、それに相当する放射性物質の放散を仮定するもの)の発生を仮想しても、周辺の公衆に著し い放射線災害を与えないこと。

c なお、仮想事故の場合には、集団線量に対する影響が十分に小さいこと

この基本的目標を達成する判断のめやすは、原発の敷地境界149における事故時被ばく線量が次の値とさ れている(Sv はシーベルト)。

重大事故: 甲状腺(小児)に対して 1.5Sv 全身に対して 0.25Sv 仮想事故; 甲状腺(成人)に対して 3Sv 全身に対して 0.25Sv

148原子力委員会決定「原子炉立地審査指針及びその適用に関する判断のめやすについて」 (昭和39年5月27日)、原子力 安全委員会一部改訂(平成元年3月27日)

149立地審査指針には、「立地条件の適否を判断する際には、原子炉からある距離の範囲内は非居住区域であること(重 大事故)、その外側の地帯は低人口地帯であること(仮想事故)」と規定されている。国内すべての既存原発では、非居 住区域と低人口地帯ともに原発敷地内に含まれている。従って、敷地境界での事故時被ばく線量が各めやす値を満足 することが要求されている。

これらの値は、人体が放射線被ばくによる確定的影響(急性障害)を受けないめやすとして定められ ており、避難による被ばく低減効果は考慮しないことが前提である。なお、全身に対する値は、福島原 発事故発生当時には、立地指針策定後の国際的な新知見を反映して 0.25Sv から 0.1Sv へとより厳しく 設定して運用されていた。

上述の基本的目標と達成判断のめやすは、技術的見地から見て最悪の事故、さらにそれを超えるよう な過酷な事故が発生した場合においても、原発周辺の公衆を放射線障害と放射線災害から守る上で真っ 当であり、不合理な点は何もない。福島原発事故のような炉心溶融から格納容器破損に至る「技術的見 地から見て最悪の事故(重大事故)」に対して、その適用を外すべき正当な理由は何もない。

従って新規制基準における立地審査指針の不採用は理不尽の極みであり、立地指針を採用するように 新規制基準は早急に改訂すべきである150

3.1.2 火山噴火対策の基本思想

3.1.2.1 適合性審査における火山影響評価

火山の破局的噴火によって原発に火砕流が到達するリスクに対する対策としては、火山の噴火を予知 し、何年も前に運転を停止して核燃料を避難させることが必要である。川内原発の再稼働に向けた新規 制基準審査に際して、運転停止を判断できるような火山噴火予知を行うことができるか、ということが 議論された。2014 年 5 月から 6 月にかけて噴火予知の可能性が議論され、火山噴火予知連絡会の藤井 敏嗣会長、高橋正樹日本大学教授、中田節也東京大学地震研究所教授ら、主要な火山学者たちが噴火予 知の不可能性を述べた。結局、川内原発の新規制基準審査書は、「申請者が…兆候を把握した場合の対処 方針を示している」と記述するにとどまり、具体的な対処方針は記載されないまま合格とされた。

「原子力発電所の火山影響評価ガイド」151(火山ガイド)は、新規制基準適合性審査における火山影響 評価について、立地評価と影響評価の2段階で審査を行うことを定めている。

立地評価においては、火砕流など、設計対応が不可能な火山事象が原発の運用期間中に影響を及ぼす 可能性が十分小さいといえるか否かを検討し、否となれば立地不適となる。

影響評価においては、降下火砕物(火山灰)など、当該原発の安全性に影響を与える可能性のある火 山事象を抽出し、各事象の特定と規模を推定する。そして、設定された各火山事象に対する設計対応お よび運転対応が、妥当か否かが判断される。

3.1.2.2 運用期間中の巨大噴火の可能性

川内原発1・2号機は近くに姶良カルデラ(鹿児島湾北部)が存在し、そこで巨大噴火が生じると火 砕流などで設計対応が不可能な影響を受けるおそれがある。九州電力は当初、南九州のカルデラの巨大 噴火が9万年周期であると主張し、さらに長岡信治長崎大学教授の、いわゆる「噴火ステージ論」を持 ち出して、原発運用期間中の巨大噴火の可能性はないとした。これを受けて規制委の審査書案は、「平均 発生間隔は約9万年」と表現を修正して記述したが、平均間隔が9万年というだけでは、当面発生しな い根拠にはなりえない。噴火ステージ論についても、適用できない事例が多々あるとの火山学者からの

150規制委員会が立地審査指針を不採用とした理由の分析、批判等については、3.2で詳述する。

151原子力規制委員会(2013)「原子力発電所の火山影響評価ガイド」 2013年6月19日 www.nsr.go.jp/data/000069143.pdf

指摘があった。

そこで九州電力は、カルデラ噴火の予測が可能だという論拠にドルイット論文152を用いて、破局噴火 の 100 年程度前に発生するはずのマグマ供給速度の上昇がみられていないので、当面は大丈夫であると 主張した。しかし、審査の参考用に急遽設けられた外部有識者の意見を聴く「火山検討チーム」の会合に おいて、火山噴火予知連会長の藤井敏嗣・東京大学名誉教授は、「ドルイット論文ではサントリーニ火山ミ ノア噴火という一例について、噴火直前の 100 年程度の間にマグマ供給速度が上昇したという知見であ り、カルデラ一般について述べたものではない。これはドルイット氏本人に確認した」と指摘した。こ のドルイット論文は、九電および規制委が、巨大噴火が予測でき、しかも核燃料の搬出に間に合うとの 主張の根拠に使われているだけでなく、川内原発の運用期間中に巨大噴火が発生しないとの主張の根拠 にも使われている。その根拠が崩れ去ったのである。

火山影響評価ガイドには「運用期間中に火山活動が想定され、それによる設計対応不可能な火山事象 が原子力発電所に影響を及ぼす可能性が十分小さいと評価できない場合には、原子力発電所の立地は不 適と考えられる」とある。火山専門家が姶良カルデラなど南九州にある複数のカルデラに巨大噴火の可 能性があり、しかもその予知、予測ができないと指摘したにもかかわらず、規制委が火山の影響は問題 ないとした九州電力の評価を最終的にそのまま承認したことは、自らが決めた火山影響評価ガイドに違 反しているのである。規制委は火山専門家の意見を真摯に取り入れるべきである。

なお、火山灰(降灰)の影響評価については、すでに 1.2 で詳しく述べているので、そちらを参照さ れたい。

3.1.3 「テロ」・武力攻撃対策の基本思想

いわゆる「テロ対策」153に関して、現行の規制基準としては、下記の「設置許可基準規則」での設備 上の関連規定に限られている。すなわち、

第 42 条 特定重大事故等対処施設を設けなければならない。

一 原子炉建屋への故意による大型航空機の衝突その他のテロリズムに対してその重大事故等 に対処するために必要な機能が損なわれるおそれがないものであること。

二 原子炉格納容器の破損を防止するために必要な設備を有するものであること。

三 原子炉建屋への故意による大型航空機の衝突その他のテロリズムの発生後、発電用原子炉施 設の外からの支援が受けられるまでの間、使用できるものであること。

したがって、新規制基準では、昨今の内外の社会情勢において現実に可能性が高まっているとされて いる原発への「テロ」に対応する対策が十分に検討されているとはいえない。

152Druitt, T.H. et al.(2012), Decadal to monthly timescales of magma transfer and reservoir growth at a caldera vol-cano. Nature482(February 2012): pp.77-80.

153「テロ」「テロ攻撃」といった用語は、武力攻撃の一方の当事者が他方を非難して使う言葉であって公平な用語とは いいがたい。しかし、政府公文書にも使用されているので、ここではカッコつきで使用する。