第 1 章 再稼働を推進する新規制基準適合性審査
1.6 水素爆発の危険性
滝谷 紘一
新規制基準における過酷事故対策としては、原子炉格納容器内での水素爆発の防止が要求されている が、新規制基準適合性審査における加圧水型原発での水素発生量の想定が不十分であり、安全性の審査 として極めて不適切である。また、解析条件にも恣意的設定が入って個別の原発の審査によって異なっ ている点もあり、安全審査における一貫性と整合性を欠いている。事故進展と事故評価におけるさまざ まな不確かさの影響を厳しく考慮すると、水素爆発の危険性が明らかに存在する70。
1.6.1 恣意的なジルコニウム反応量の評価
規制基準規則では、過酷事故における炉心溶融の際にも原子炉格納容器を破損させないために、水素 爆発の防止が要求されている。水素爆発の最も激しい形態が衝撃波の発生する爆轟(ばくごう)であり、
それを防止する判断基準として、空気雰囲気である PWR 原発の格納容器内では、「平均水素ガス濃度を 13%以下にすること」が定められている71。
原発事故に際して、大量の水素が急激に発生するケースとしては、核燃料被覆管に含まれるジルコニ ウムが高温で水と反応して水素が発生する反応が考えられるので、原子炉内に存在するジルコニウムの どの程度の割合が水と反応するかが水素濃度評価上の重要なポイントである。
図7に設置変更許可が出された、または審査中の原発について、それぞれ電力会社が想定している水 素濃度の大きさに着目して 4 グループ(①川内1・2号機、②高浜1・2号機と美浜3号機、③高浜3・
4号機と伊方3号機、泊3号機(審査中)および④玄海3・4号機と大飯3・4号機)に分け、各グル ープについて、原子炉内に存在したジルコニウムの反応割合と格納容器内の平均水素濃度の最大値の関 係を示す。ここで、ジルコニウムの反応割合は3ケース(審査ガイドに定めた原子炉圧力容器が破損す るまでに想定すべき値の 75%、原子炉圧力容器破損後の溶融炉心・コンクリート相互作用に伴う反応量 の解析コード MAAP による評価値である約 81~82%、および解析コードに依拠することなく想定され る最大限度の 100%)について示している。対応する各原発の水素濃度の値は、各設置変更許可申請書の 値およびそれにもとづく滝谷による概算値である。なお、この評価では水素処理設備として静的触媒式 水素再結合装置の機能を考慮し、信頼性に欠ける動的機器のイグナイタ(電気式水素燃焼装置)の機能は 考慮していない。図7より、水素爆轟防止判断基準を満足できるジルコニウム反応割合が、原発ごとに かなり異なることがわかる。
表1には、設置変更許可が出された PWR 原発 12 基の水素濃度の評価条件と評価結果の比較示す。な お、図7中のジルコニウム反応量 81%は、表1での原子炉容器破損前と破損後のジルコニウム反応量を 加算した値(約 81~82%)の概数として表示している。
70滝谷紘一(2015a)「加圧水型原発の溶融炉心・コンクリート相互作用と水素爆発に対する対策は新規制基準に適合 していない」『科学』85(1) pp.93-102
滝谷紘一(2015b)「検証・高浜審査書(案):水素発生量の評価を川内審査より緩めて爆発防止基準に適合する判 断は認められない」『科学』85(3) pp.240-243
滝谷紘一(2015c)「高浜審査書(案)水素発生量評価についての規制委員会の考え方への反論」『科学』85(4) pp.410-413
71参考として、通常運転中の格納容器内は空気に置き換えて窒素ガスが充填されているBWR原発での水素爆轟防止の判 断基準は「酸素濃度が5%以下であること」である。
図7 ジルコニウム反応量と格納容器内水素濃度の関係 原図作成: 滝谷紘一
表1 PWR 原発の過酷事故時格納容器内水素濃度の評価条件と評価結果 0
2 4 6 8 10 12 14 16 18
川内1・2 高浜1・2 美浜3
泊3 高浜3・4
伊方3
玄海3・4 大飯3・4
水素濃度(%)
凡例: ジルコニウム反応量 75% 81% 100%
爆轟防止判断基準(13%)
原発名 全炉心のジルコニウム反応量 水素燃焼装置
(イグナイタ)の効果 格納容器内水素濃度
(計算値)
原子炉容器
破損前 原子炉容器
破損後 川内 1・2
75%
25%
無視
約 12.6%
高浜 3・4 約 6% 約 12.3%
伊方 3 約 6% 約 12.1%
高浜 1・2 約 7% 約 11.1%
美浜 3 約 7% 約 11.1%
玄海 3・4 約 6%
考慮 約 9.5%
大飯 3・4 約 6% 約 8.9%
備考 審査ガイドの
規定値
川内 1・2 は想定さ れる最大値。
他は MAAP 計算値
水素爆発防止判断 基準値は 13%
注記:① 出典: 原子力規制委員会による各原発の設置変更許可申請書に関する審査書
② 原発名の欄は、上から下にかけて審査書の発効順に記載
③ 高浜 3・4 から美浜 3 までの各原発は、原子炉容器破損後のジルコニウム反応量を 25%(川内1・2採用値)と すると、水素濃度は 13%を超えて、不合格になる。
④ 玄海 3・4 と大飯 3・4 は、水素燃焼装置の効果を無視すると、水素濃度は 13%を超えて、不合格になる。
表1において、高浜3・4号機から美浜3号機までの各号機の原子炉容器破損後のジルコニウム反応量
(表の網掛け部分)を川内1・2号機と同様に 25%と想定すると、水素濃度は爆轟防止判断基準である 13%を 超えて、不合格になる。また、玄海 3・4 号機と大飯 3・4 号機は、先立って設置変更許可が出された原発と 同じように水素燃焼装置の効果を無視すると、水素濃度が 13%を超えて、不合格になる。
最初に設置変更許可が出された川内1・2号機では、原子炉圧力容器外での水中での溶融炉心・コン クリート相互作用(☞ 1.4.2.1)による水素発生量を、MAAP 解析(水中条件での精度検証がなされてい ない)に依拠することなく、ジルコニウム最大反応量で評価しても、水素濃度は約 12.6%であるので爆 轟防止判断基準を満足しているとし、規制委はそれを承認した。しかし、それ以降に審査された高浜3・
4号機、高浜1・2号機等ではジルコニウム反応量を MAAP 解析に依拠した値である約 81~82%とし て、それに対する水素濃度は 13%以下になることを示したのみで、ジルコニウム反応量 100%での評価 を行っていないのである。図7に示されるように、川内1・2号機と同様にジルコニウム反応量 100%の 条件で評価すると、明らかに水素濃度は判断基準値 13%を超えるのである。これでは審査を通らないの で、当該電力会社はジルコニウム反応量 100%での評価を示さず、MAAP 解析に依拠した約 81~82%で の評価のみとし、規制委はこのやり方を容認した。このような申請とその許可は、川内1・2号機に対 する審査との一貫性がなく、審査を通すための恣意によるものと言わざるをえない。
さらに、設置変更許可が 2017 年 1 月に出された玄海3・4号機と 5 月に出された大飯3・4号機に おいては、図7に示されているように、ジルコニウム反応量 81%でも爆轟防止判断基準を超えてしまう ので、評価条件を変えている。具体的には、それ以前に審査を終えた原発では水素濃度を厳しく評価す る観点から一貫してその効果には期待しないとしてきたイグナイタ(電気式水素燃焼装置)72に依拠した 水素燃焼の解析結果を示して、水素濃度はそれぞれ最大約 9.5%と約 8.9%であるとし、この評価結果を規 制委は容認した。このイグナイタは運転員による起動操作と動力電源が必要であるため、機能の信頼性 が低く、さらに使用する水素燃焼解析コードの実験検証も不十分であり、解析結果の信頼性を欠いてい る。
以上に見たように、個々の原発を合格させるように恣意的な評価条件の変更を認めている規制委の審 査は、一貫性・整合性を欠いており、極めて不適切である。
なお、原子炉格納容器体積が相対的に大きいことからジルコニウム反応量 100%でも平均水素濃度が 13%以下に留まる川内1・2号機についても、金属と水の反応による水素発生に関して、ジルコニウム 以外に原子炉圧力容器の内外に存在する多量の鉄との反応を考慮していないという問題がある。原子力 発電技術機構の資料73には「溶融炉心-コンクリート反応が終息せずに継続した場合には、ほかの金属の 反応も含めて全炉心ジルコニウムの 100%を超える量が反応することもあり得る」と記載されている。こ れを考慮すると、水素濃度が爆轟防止判断基準を超えるおそれが十分にある。川内1・2号機の審査で この点について何ら触れていないことは問題である。
以上のとおり、PWR 原発は、どの原発でも過酷事故時に原子炉格納容器内で水素爆発の危険性がある。
72イグナイタ(電気式水素燃焼装置)は、電気コイルに通電して約900℃まで加熱し、水素ガスを燃焼させる。原子炉 格納容器内に10数個設置される。6.3.6も参照。
73(財) 原子力発電技術機構(2003)「重要構造物安全評価(原子炉格納容器信頼性実証事業)に関する総括報告書」 平成 15年3月 p.2.2-4
1.6.2 「規制委員会の考え方」の不合理
1.6.2.1 高浜3・4号機のパブリックコメント提出意見への「規制委員会の考え方」
高浜3・4号機の審査書(案)に関するパブリックコメントとして、「『溶融炉心・コンクリート相互 作用』の不確かさを考慮に入れた水素発生量について、川内原発の評価では、水素を生じるジルコニウ ムの反応量を解析に依拠せず 100%としているのに対し、高浜原発の評価では、解析に依拠して約 81%
とし、不確かさの度合いを小さくして水素濃度 13%以下の結果を出しているのは、恣意的で不合理であ る」との指摘があったが、これに対する規制委は、
「審査ガイドに従い、原子炉圧力容器内の(1)全ジルコニウム量の 75%が水と反応し、水素が発生す るという保守的な条件で評価を行っており、水素濃度(ドライ条件)は 11.7%と基準で定めた爆轟 条件を下回ることを確認しています。この場合、水素発生に寄与する様々な要素、具体的には格 納容器内にあるアルミや亜鉛、MCCI 等による水素発生量が、(2)ジルコニウム量の 75%という保 守性に包含されることも確認しています。なお、川内原子力発電所 1 号炉及び 2 号炉の審査で は、原子炉格納容器が他プラントよりも大きいことから、ジルコニウム 100%が水と反応した場 合の(3)安全裕度を参考として確認するため感度解析として実施したものです。」
と回答している74。(下線と番号は筆者)
下線部(1)は、ジルコニウム反応量 75%が保守的な条件であると述べているが、その根拠は示されてい ない。下線部(2)では、「MCCI 等による水素発生量がジルコニウム量の 75%という保守性に包含される」
としているが、その根拠は示されていない。審査ガイドでは「原子炉圧力容器が破損するまでにジルコ ニウム反応量 75%、さらに破損したあとの MCCI による水素発生量を考慮すること」が規定されている ことから、ジルコニウム量は 75%+α(MCCI 相当分)で評価しなければならないのであるから、「ジル コニウム量の 75%という保守性に包含される」という表現は間違っている。下線部(3)で「安全裕度を参 考として確認するため感度解析として実施した」という記述は事実に反している。何故ならば、川内原 発の審査書には「不確かさの影響評価」としてジルコニウム反応量 100%の想定が明記されており、「参 考として確認するための感度解析」として実施されたものではない。これらは、高浜3・4号機に関し て、川内1・2号機と同じ条件のジルコニウム反応量 100%の評価を回避するための詭弁である。
1.6.2.2 玄海 3・4 号機のパブリックコメント提出意見への「規制委員会の考え方」
審査書(案)に関するパブリックコメント募集に提出された意見「先行して設置変更許可が出された 加圧水型原発8機での評価条件と同じく「イグナイタの機能に期待しない」条件のもとでの解析評価と その審査を行うことを求める」に対して、規制委の考え方として「イグナイタについては、審査ガイド で水素燃焼対策の一つとして位置づけられており、水素燃焼対策として有効なものと考えています。(中 略)今回の審査では、イグナイタの信頼性向上対策として、イグナイタは2系統の電源系統から給電す ること、また、2系統の電源設備それぞれ異なる区画に設置することで互いに位置的分散を図り、独立
74原子力規制委員会(2015)「関西電力高浜発電所の発電用原子炉設置変更許可申請書(3号及び4号発電用原子炉施 設の変更)に関する審査書(案)に対するご意見への考え方」平成27年2月 p.68