第 3 章 教訓
3.2 雇用促進・生計向上以外の分野にも共通する、紛争影響国での配慮事項
紛争影響国・地域では、一般の開発途上国以上に、政策やデータが欠如していたり現場の事情 を反映していなかったりするため、現場で蓄積した知見を政策にフィードバックする仕組みを構 築しておくことは非常に重要であり、またこのことは持続性の確保にもつながる。
国の政策・国家開発計画へのデータや知見のフィードバック
ルワンダのトゥンバ高専案件では、政府の政策・戦略を推進するだけでなく、プロジェクトの
現場で得られた知見を政策レベルへフィードバックすることも行っている。同プロジェクトでは、
ルワンダ政府の方針であるトゥンバ高専(TCT)と産業界の連携を深める手段の一つとして、在 学生の企業実習を進めてきており、その方法論に係るノウハウを蓄積してきた。ルワンダにおけ るTVET(技術職業教育・訓練)統括機関であるWDA(Workforce Development Authority)は、こ のTCTの企業研修の実績を高く評価し、全職業訓練機関に対して、TCTの実施した企業研修をモ デルとして紹介し、企業研修に取り組むように促した。このように、同プロジェクトは現地政府 が策定した政策・計画の実現に向けて、現場で得られた知見を活用して具体的な方法論を提供す ることができた典型的な事例である。その他、関連する事例として、コロンビアの投降兵士関連 案件では、投降兵士家族・受入コミュニティ支援という新しい課題に先駆的に取り組んだことで、
投降兵士の再統合のための国家政策の策定に貢献する役割を担った(同政策では投降兵士家族及 び受入コミュニティへの支援の重要性について強調されている)。また、ルワンダにおいても除隊 兵士案件の実施と同時期に障害者支援の関連法・政策が整備されるなど、一定の貢献があった。
また、生計向上分野においては、南スーダンの LIPS の事例がある。LIPS では、農村開発マニ ュアル・農業技術マニュアルを作成しているが、農村開発マニュアルは農林省農村開発局の公式 マニュアルとして位置づけられ、全国の農村開発普及員が利用することになるとともに、農村開 発訓練機関の教材としても使われる方針となっている。また農業技術マニュアルは、州農林省の 公式マニュアルとして制定された。さらに、新たに策定された南スーダン農林農村開発政策は、
これまで曖昧であった農村開発の概念や開発の方向性を明確に示したもので、同プロジェクトの 教訓が反映されている。
紛争影響国においては、概して行政機構は特に脆弱であり、コミュニティ自身による公共サー ビスの肩代わりが必要である。他方、コミュニティでは住民関係が希薄であったり、長期にわた る人道援助によって援助機関に対する依存心が強い傾向にある。インドネシアのアチェにおいて は、和平をきっかけに本格的に経済復興が始まったが、一時的に莫大な復興資金が流入したため、
ドナーや現地行政関係者からは被災住民が援助漬けになって自立性が損なわれるといった弊害も 指摘されていた。また、多くの援助機関が生計向上支援を行い、受益者側もドナーからの資金を 確保する受け皿として「組合」を発足させたが、多くはプロジェクトの終了とともに、自動的に 消滅してしまっている。自立的なコミュニティの構築を図っていくためには、コミュニティのプ ロジェクトへの主体的な参加とそのための組織化、さらにその結果としてのオーナーシップの醸 成、といった視点や取り組みが重要となる。これらは当然持続性を確保する上でも不可欠である。
自立的なコミュニティの構築
このような状況は南スーダンにおいても典型的に見られ、LIPSでも対象地域の住民は長い間食 糧援助に依存した生活を送っていたことが生計向上を推進する上で阻害要因の一つであった。こ の問題を克服するためにコミュニティの組織化を重視し、農村開発委員会の設立と有能なリーダ
ーの選出、同委員会による農村開発計画の策定、モデルプロジェクトの実施を通じたコミュニテ ィの結束の強化を図っていった。こうしたアプローチはコンゴ民のコミュニティ再生案件やウガ ンダ北部案件でも採用されており、農村の開発計画の策定への参加によって、住民のプロジェク トに対するオーナーシップを高めて住民の自立心の醸成に役立った。
前述のとおり、脆弱な行政システムは紛争影響国における特徴の一つである。住民に対する基 本的な公共サービスも提供できない場合が多く、そのため政府に対する住民の不信感は一般に強 い。こうした状況下で、本調査対象案件では、住民による参加型事業の計画・実施とそれに対す る行政のサポート体制の確立であったり、政府側の能力強化や施設面の強化を行うことで、住民 への公的サービスの向上を実現し、相互の信頼醸成を図っている。
政府と住民の関係改善
南スーダンのLIPS、コンゴ民のコミュニティ再生案件では、政府の能力強化を通じたコミュニ ティ開発アプローチを採用し、NGO等を活用して直接農民を支援する方法を取らなかった。例え ば、南スーダンは、20年間に及ぶ内戦後に新政府が樹立されたばかりであり、政府の政策・制度 は未整備で、かつ住民に対する基本的な公共サービスも提供できていない。その結果、村落住民 は置き去りにされて政府に対する強い不信感を抱いている。こうした状況下では、樹立されたば かりの南部の新政府が機能し始めること、それが人々の目や生活にも届き、段階的に信頼を獲得 できるように支援していく方がより重要であるという認識の下で、生計向上モデルを普及するた めの基盤を整備するために、中央から州・コミュニティの能力強化を視野に入れた包括的な支援 を行った。その中で、最も重点を置かれたのがOJTを重視した州の農村普及員の能力強化であっ た。同プロジェクトには中央エクアトリア州50 名の普及員がフルタイムで参加し、訓練を受け ただけでなく、農民と共に計画を作り、畑を耕し、学校を建て、商売を始めるなど様々な現場経 験を積んできた。その結果、普及員の能力とモチベーションが大幅に高まっただけでなく、普及 員に対する住民の評価が高まっていった。さらに、アンケート調査結果から、住民は政府からケ アされているという認識が高まってきたことが確認されている。
また、ウガンダ北部案件では、パイロット事業をサブカウンティ(郡に相当)の職員と共同で 実施した。穀物生産性向上パイロットプロジェクトにおいては牛耕の導入や農具・種子の配布が 行われたが、その際の対象農民グループの選定、および選定された農民グループとの実施計画の 作成などを共同で行っている。こうした取り組みは、帰還民と地方政府の信頼関係の醸成に一定 の役割を果たしている。