第 3 章 教訓
3.1 紛争影響国での雇用促進・生計向上支援に特有の留意点
3.1.1 案件形成時の基本的な留意点
紛争影響国は緊急を要する社会的安定・復興ニーズと中長期的な国家建設の2 つの課題を抱え ている。従って、紛争影響国に対する雇用・生計向上支援は、国の再建と長期的な経済開発に資 する中長期的アプローチとともに、雇用及び生計向上の手段の確保に対し即効性のあるインパク トを与える短期的アプローチが必要とされる。即効性と持続性の両視点が重要である。図3.1.1は 本調査対象案件の紛争終結・和平後の年数とアプローチを示したものである。
即効性と持続性のバランスへの配慮
図3.1.1 紛争終結・和平合意締結後の年数とアプローチ
図3.1.1で明らかなように、紛争終結から時間を経ずに実施した案件が短期的アプローチを取り、
時間が経って実施した案件が中長期的アプローチを取ったとは限らない。案件実施時にどのよう なアプローチを取ったかは、協力のタイミング、支援対象国・地域が抱えている不安定要因、当
該国の行政・経済状況が大きく影響している。例えば、南スーダンの「基礎的技能・職業訓練強 化プロジェクト(以下、SAVOT)」や「ジュバ近郊の平和の定着に向けた生計向上支援プロジェ クト(以下、LIPS)」では社会的安定のための即効的なインパクトを与えることを狙った短期的ア プローチのみならず、行政機構が極めて弱体な中で長期的な国造りの必要性が認識され、公的機 関の強化や行政システムの整備にも取り組んだ。一方で、紛争後一定の時間が経過していても、
不安定要因が残っており、その緩和を必要とする場合には、即効性を重視したアプローチが採用 される。ルワンダの「障害を持つ除隊兵士の社会復帰のための技能訓練プロジェクト(以下、ル ワンダ除隊兵士案件)」では、紛争終結後時間が経っているものの、残存する不安定要因(障害を 持つ除隊兵士)に取り組むため、機能している既存訓練機関を活用して即効性のあるアプローチ を採用した。また、調査対象案件の個々の事例を見ると、即効性を重視した短期的アプローチで あっても、プロジェクトの持続性のために様々な工夫がなされている例がある。例えば、プロジ ェクト成果の政策へのフィードバック、民間セクターの活用、援助機関への依存心の解消のため の自立的なコミュニティ開発の推進等である(詳しくは3.2節以降で後述)。
3.1.2 技能・職業訓練の内容
紛争後の復興過程における経済状況は極めて流動的となりがちで、そのため労働需要が短期間 に急激に変化する傾向にある。技能・職業訓練を計画・実施する際は、こうした流動的な労働市 場のニーズを的確に捉え、柔軟に訓練内容に反映させていく必要がある。
変動する労働市場への対応
南スーダンのSAVOTでは、復興需要が確実と思われた建築、木工、自動車整備等から訓練を 開始したが、首都の整備に伴いホテルサービス、電気、空調等の需要が急激に伸びたため、訓練 コースを追加した。インドネシア・アチェ州の「北スマトラ沖地震津波災害緊急復旧・復興支援 プログラム(以下、アチェ案件)」でも、インドネシア政府とドナー主導による大規模なポスト津 波・ポスト紛争の復興事業が引き金となり、2005年にはホテル・レストラン業や小売業が急速に 活性化、翌年の2006年からは建築業界が急成長した。こうした経済の急速な活性化は約3年間続 いたが、その後援助機関が撤退し始めて、上記部門の成長率も穏やかになっている。このように、
ポスト紛争国における人材のニーズもドナーによる復興支援の動向と深く関わっており、職業訓 練分野における支援では、市場の動向や変化に敏感に反応して技術支援の対象分野を選定し、継 続的に市場ニーズをくみ上げる仕組みづくりを行う必要がある。
図3.1.2は、上記で述べたインドネシア・アチェ州と南スーダンを例に、紛争終結後の復興過程
における経済状況と労働市場のニーズの関係を図示したものである。
0 1 2 3 4 5 6 7
南スーダン・ジュバ
l市場の勃興 l車両交通の増
大
l建設ブームの開始 lホテル・レストラン業等
のサービス業の拡大(ド ナーの流入による)
l中小産業(食糧・住居・
衣類部門)の増大(難民 の帰還により)
l建設・運輸の需要増大
lコンピューター、エアコン、家電の普 及による近代化
l小規模産業の機械化
l近代化・機械化による車両や機械の故 障トラブル
l物流のグローバル化と周辺国との競争
●技能・職業訓練
■建設、大工、金属加工、自動車整備
■コンピューター講座
■ホテル及びケータリング、エアコン整備
■訓練対象の拡大
紛争終結後の年数
lホテル、レストラン、小売業、通信・運輸業界の急成長
lその後の成長の伸びは緩やかに l建築業界の急成長
l農業は緩やかな伸び インドネシア・アチェ州
l新産業開発(製靴、チョコレート生成等)
市場の変化に応じた パイロット訓練の実施 ドナーの流入、難民の帰還により市場が量的に拡大 ⇒ その後、質的な拡大へ
両地域とも紛争終結前までは経済的に孤立した状態にあり、紛争終結により市場が突如開放された
出典:JICA, Economic Revitalization and Youth Employment for Peacebuilding-Lessons Learned from JICA’s Experience in skills and vocational training and community development in Africa -(プレゼンテーション資料)
図3.1.2 紛争終結後の経済状況の変遷
他方、一定程度開発期に移行した紛争影響国においては、中長期的な国の成長を見据えた新た な産業市場の育成ニーズに沿った支援を行うケースがある。そうした新たな産業では民間セクタ ーが十分育成されていないことを踏まえ、労働市場のニーズに柔軟に対応する仕組みや起業支援 等の要素を訓練内容に加え、民間セクター自体の育成に寄与する方策を採ることも有効である。
産業界の代表をメンバーに加えたルワンダの「トゥンバ高等技術専門学校強化支援プロジェクト
(以下、トゥンバ高専案件)」の技術アドバイザリーグループの設置・活用はその好事例として 挙げられる。
紛争影響国における技能訓練では、案件実施のタイミングが復興初期段階にある場合、または 技術訓練の対象が元戦闘員など紛争に直接影響を受けた人々である場合、技術面だけでなく、自 信の回復、生活習慣や規律、労働倫理等といった生活習慣や規律の改善に資するものとすべきで ある。
技能訓練における社会的側面への配慮
長年の紛争を経験した国では、労働市場(需要)と現地人材(供給)の間に大きなギャップが ある。この背景として、教育機会の喪失から生じる技術・技能の側面のみならず、キャンプ生活 や不安定な生活を送ってきた人たちの生活習慣や規律、労働倫理(Work Ethics)といった側面が あげられる。このため、南スーダンのSAVOTでは産業界からの助言を受けて、特別科目としてキ ャリア・プランニング・起業化訓練セッションを追加した。カリキュラムには、人生設計、職業 情報、履歴書の書き方・面接の仕方、事業計画、ビジネスマナーなどが含まれる。
さらに、若年層の社会的・心理的側面へのインパクトを視野に入れて、プロジェクトをデザイ ンする必要がある。紛争で精神的に多大な影響を受けた若年層に対しては、技術訓練や生計活動 に参加すること自体が、家族やコミュニティに貢献できるという社会的・心理的インパクトを生 み出すことができる。技術訓練や研修を通じて得るこうした自信や考え方の変化は、就業・起業 の機会にも直接的にポジティブな影響を与える。逆に、自信の回復がないと就労意欲が高まらな い。実際、SAVOTの訓練生に対するインタビュー結果によると、訓練の成果として、家族を支え ていける自信がついたことや、考え方・行動にポジティブな変化が生じたことを重視している。
このような技術訓練による自信の回復や家族・コミュニティとの関係改善への貢献は、ルワンダ の除隊兵士案件における元戦闘員へのインタビュー結果やアンケート調査にも表れている。
3.1.3 支援対象者の選定
長期にわたる内戦を経験した紛争影響国では、人材の死亡や海外への移住、それに教育機会の 欠如等により技術人材が極度に不足している場合が多い。従って、こうした国における技能訓練 では、中長期的な国造りを見据えた将来の技術者育成が重要な課題の一つである。この観点から、
南スーダンのSAVOTは、迅速にコミュニティのニーズに対応していく短期的アプローチに、将来 の経済復興・開発を担う技術者を育成するための中長期的アプローチを組み合わせながら実施さ れた。また、ルワンダのトゥンバ高専案件は中長期的な国造りを見据えた将来の技術者育成の典 型例である。同プロジェクトでは、知識集約型経済を目指す国家開発計画(Vision 2020)を実現す るために必要となる中堅技術者や実践力のある技術者を育成するために実施されている。
中長期的な国造りを見据えた将来の技術者育成
紛争影響国においては、元戦闘員の社会復帰が円滑に進まない場合には、社会の不安定要因と して、紛争再発につながる場合もある。職業訓練分野における元戦闘員への支援では、単に技能 向上や雇用といった点だけでなく、元戦闘員が市民社会の中で新しい生活を立ち上げることを支 援することに焦点を当てる。このためには、上記3.1.2でも述べたように、経済的自立(生計手段 確保およびそのための技術訓練)のみならず、コミュニティへの融合のための社会的・心理的側 元戦闘員への対応