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第 1 章 異常気象と気候変動の実態

1.2 大気・海洋・雪氷の長期変化傾向

1.2.2 降水

世界及び日本の降水量には有意な長期変化傾向 は認められず、さらなる監視の継続や強化が必要 である。一方、日本における梅雨末期の降水量は 増加傾向にある。

(1) はじめに

本項では、観測結果から得られた世界及び日本 における降水量の長期変化傾向の特徴を述べる。

降水量の変化はエルニーニョ現象や大気循環な どの自然変動による影響を強く受け、時空間的に 変動が大きいため、地球温暖化に起因した変化の 検出が難しい。そこで、地球温暖化による降水量 への影響を明らかにするためには、平均値の長期 変化傾向を評価するとともに、平均値から大きく 外れた極端現象、すなわち異常多雨や異常少雨の 長期変化傾向についても詳しく調べる必要がある。

平均値の長期変化傾向は本項で、極端現象につい ては第1.3節で詳しく述べる。

(2) 世界の降水量

世界の降水の監視にあたっては、気象庁では、

世界各地の陸上の観測所で観測された降水量をも

とに、1981~2010年を基準値とした偏差を求め、

それを世界全体で平均した年平均降水量を解析し ている。

1901~2013 年における世界、北半球、南半球

の年平均降水量の変化を図1.2.6に示す。世界の 降水量は、1970年頃以降にみられる気温上昇のよ うな急激な変化14(図1.2.1参照)は認められない。

1950 年代に降水量のピークがみられた後に、

1990年前半にかけて減少し、2000年代半ば以降 に再び増加するなど、数十年スケールの変動が卓 越しており、長期変化傾向の変化量に比べ、数十 年スケールの周期的な変動幅の方が大きい。周期 的変化は、降水量の多い赤道付近で、多雨期と少 雨期が 10 年程度の周期で入れ替わっていること が一つの要因と考えられている(Kripalani and Kulkarni, 1997)。一般的に、地球温暖化に伴っ て大気中に多くの水蒸気が蓄えられることから、

14 世界全体の降水量の長期変化傾向を算出するには、地 球の表面積の約7割を占める海洋における降水量を含める 必要があるが、降水量は陸域の観測値のみを用いているた め、気象庁のデータから変化傾向は求めていない。

1901~2013 年の世界の年平均降水量の変化 図1.2.6

(a) は世界平均、(b) は北半球平均、(c) は南半球平均。それ ぞれ陸域の観測値のみを用いている。棒グラフは各年の年降 水量の基準値からの偏差を領域平均した値を示している。青 い太線は偏差の 5 年移動平均を示す。基準値は 1981~2010 年の平均値。

(a) (b)

(c)

降水の頻度や強度が増加すると言われており、温 暖化予測においても降水量に増加傾向が示唆され ているが(IPCC, 2013)、現在このような傾向は 見られない。このため、地球温暖化の降水量に与 える影響を検出するためには、さらなる監視の継 続や強化が必要である。半球別にみると、陸域の 割合が多い北半球の変化の傾向は、当然ながら世 界全体の傾向と似ており、1930年頃と1950年代 に増加し、2000年代半ば以降の多雨傾向が顕著で ある。

IPCC第5次評価報告書は、陸上の降水量デー タとしてGHCN V2(2011年更新;Vose et al., 1992)、CRU TS 3.10.01(Mitchell and Jones, 2005より更新)、GPCC(Becker et al., 2013)の 3つのデータセットによる経度緯度5度格子の世 界の陸上における年降水量の長期変化傾向を示し ている(図1.2.7)。統計期間は1901~2010年及

び1951~2010年である。北半球中緯度の陸域平

均では1901年以降増加している(1951年までは 中程度の確信度、それ以降は高い確信度)が、そ の他の緯度帯では領域平均した長期的な増加又は 減少の変化傾向の確信度は低いとしている。

このように、降水量の変化はデータ間及び異な る時期・地域の間で結果が大きく異なっており、

今後のさらなるデータの蓄積と解析が必要である。

(3) 日本の降水量

日本の降水量の長期変化傾向は、観測データの 均質性が長期間維持され、地域的な偏りがないよ うに選別された表1.2.4の国内51地点で観測され た降水量から求めている。

1898~2013 年の日本の年降水量の変化を図

1.2.8に示す。統計開始以降、日本の年降水量は変

動が大きく、明瞭な長期変化傾向はみられない。

特に1970年代以降は年々の変動が特に大きくな っていることがわかる。また、1920年代半ばまで と1950年代頃に多雨期がみられる。

日本域における夏季の水蒸気量が増えている

(図2.2.8参照)を考慮すると、日本の降水量の

変化についても、地球温暖化の影響を検出するた めには、さらなる監視の継続と強化が必要である。

表 1.2.4 日本の年降水量に用いる観測地点(51 地点)

要素 観測地点

降水量 旭川、網走、札幌、帯広、根室、寿都、秋田、

宮古、山形、石巻、福島、伏木、長野、宇都宮、

福井、高山、松本、前橋、熊谷、水戸、敦賀、

岐阜、名古屋、飯田、甲府、津、浜松、東京、

横浜、境、浜田、京都、彦根、下関、呉、神戸、

大阪、和歌山、福岡、大分、長崎、熊本、

鹿児島、宮崎、松山、多度津、高知、徳島、

名瀬、石垣島、那覇

緯度経度 5 度の格子ごとにみた 図1.2.7

年降水量の長期変化傾向の分布(上から、

CRU TS 3.10.01、GHCN V2、GPCC V6)

左が19012010年、右が19512010 の期間。トレンドは、70%以上のデータが そろっており、かつ期間の最初と最後の 10%の中で20%以上データが利用可能な格 子点に対して計算している。白塗りは計算 に利用可能なデータがないか欠測。危険率 10%の水準で有意なトレンドをもつ格子点 を+の記号で示す。

(4) 梅雨期の雨量の長期変化

梅雨は日本人の季節感において重要な気象現象 であると同時に、水資源の面から、また大雨など 防災の面からも重要な現象である。Endo(2011)

は、東日本と西日本の気象官署 37 地点の地上観 測データを元に、梅雨期(6~7月)の降水量の長 期的な変化を調べている。

図1.2.9は、梅雨初期(6月上旬~中旬)、梅雨 中期(6月下旬~7月上旬)、梅雨末期(7月中旬

~下旬)における地域平均降水量平年比の経年変 化である。梅雨初期は、全域で 100 年あたり約

20%の減少傾向(信頼水準90%以上)が見られ、

20 世紀前半に明瞭な数十年規模の変動が卓越し ている。一方で梅雨末期は、日本海側地域では100 年あたり約50%の増加傾向(信頼水準95%以上)

が見られ、さらに年々変動が増加傾向にある。例 えば、日本海側地域における平年比250%以上の 大雨年は 20 世紀後半以降に出現している。他方 で、梅雨中期及び梅雨期全体の降水量に有意なト レンドは見られない。

観測された梅雨末期の降水量増加は、気候モデ ル実験による温暖化応答(Kusunoki et al., 2006, 2011; Kitoh and Uchiyama, 2006; Hirahara et al., 2012; 気象庁, 2013)に類似していることから、

地球温暖化の進行と関連している可能性がある。

地球温暖化に伴う日本付近の気候の変化について は、第2.2節で詳しく述べる。

図 1.2.8 1898~2013 年の日本の年平均降水量の変化 棒グラフは国内51観測地点での年降水量の基準値からの 偏差を平均した値を示している。太線(青)は偏差の5 移動平均を示す。基準値は19812010年の平均値。

図 1.2.9 地域平均降水量平年比の経年変化

a61日~20日、b621日~710日、c7 11日~31日。赤色線は東日本日本海側+西日本日本海 側、青色線は東日本太平洋側+西日本太平洋側。太線は11 年移動平均、直線は長期的な変化傾向。解析期間は 1901

2011年。基準期間は19011930年。Endo2011)よ り引用。

ドキュメント内 「異常気象レポート2014」本編(PDF形式:46.1MB) (ページ 76-79)