• 検索結果がありません。

第 1 章 異常気象と気候変動の実態

1.2 大気・海洋・雪氷の長期変化傾向

1.2.7 積雪域

北半球の積雪域面積は、1980年代以降、春と秋 から初冬に減少傾向が見られる。日本の年最深積 雪は、1960年代以降、東日本日本海側と西日本日 本海側で減少傾向となっているが、北日本では変 化傾向は見られない。

(1) はじめに

地球の極域には雪氷圏があり、その陸上には積 雪が広がっている。南極やグリーンランド氷床、

山岳域等に見られる氷河のような季節を問わず存 在する雪氷域に加え、冬季を中心に積雪で覆われ る、日本を含む中・高緯度の季節的な積雪域があ る。積雪は寒冷な領域・季節に存在するため、そ の分布の変化は気候変動における温暖・寒冷の目 安として扱われることが多い。これが近年の地球 温暖化で、海氷面積の減少と同様に積雪の減少も 注目される理由の一つとなっている。ここでは積 雪の物理的特性とその気候系への影響等について 概説したのち、世界と日本での変動傾向について 紹介する。

積雪によるアルベド、すなわち太陽放射の反射 率は相対的に大きいため、積雪がある(ない)と 地表面に入るエネルギーが小さく(大きく)なり、

より寒冷(温暖)になれば積雪が増加(減少)し、

地表面に入るエネルギーが減少(増加)してより 寒冷(温暖)になるという、氷・アルベドフィー

ドバックと呼ばれる正のフィードバック機構がよ く知られている。この機構により積雪は気候系に 大きな影響を与えており、これが北半球高緯度地 域の昇温量が全球平均のそれよりも大きいことの 一因と考えられている。また、春先の積雪の融解 には大きなエネルギーが必要であるために、積雪 があれば気温上昇が遅れる、融解水が夏まで土壌 中に残れば蒸発散が盛んにおこるために、夏に温 度が上がりにくくなる、というような影響もある とされる。さらに、積雪は断熱性が高いため、冬 の早い時期に積もると土壌が冷えにくくなり、凍 結しにくくなる。凍土の凍結深度やその季節性の 変化の結果、例えばメタンが凍土から排出される 量が変化すること等が指摘されており、そうした 凍土等の変化を介した気候系への影響もあると考 えられている。このほか、例えば日本の場合には、

融解水は春先の下流域の農業用水等として使われ る貴重な水資源でもあり、その時期や量の変化が 人間生活に与える影響もまた大きい。

このように積雪は気候系において、また人間生 活にも重要な要素であり、積雪被覆率(積雪域面 積)、積雪深、積雪水当量(質量)といった物理量 の観測に基づく評価・推定が行われている。しか しこうした物理量を広域で量的に評価することは 難しい。現地観測の場合、降雪量の標高依存性、

吹雪等による雪の移動、地形(斜面の向き等)・植 生による融雪のしやすさの違い等により、積雪量 は複雑な分布をしているため、平地に偏った観測 値から広域的な値を正確に見積もるのは難しいと いう問題がある。また豪雪・寒冷な地域では、現 地での測定をすること自体が困難を伴い、測定数 には限りがある。自動観測点では、冬期の太陽エ ネルギーの不足から測器が停止したり、凍結して 測定できないことすらある。そこで、近年はさま ざまな衛星データも活用した推定が精力的に試み られている。しかし衛星データは 20 世紀の終盤 の1979年以降にしか存在しない。積雪被覆率に ついては比較的信頼できる推定データが得られて いるものの、積雪深・積雪質量については原理的

な理由に加えて植生の存在により正確な推定は難 しく、現在でも研究開発段階にある。

(2) 北半球の積雪域の変動

気象庁では、北半球の積雪域の変動を監視する ため、DMSP衛星に搭載されたマイクロ波放射計

(SSM/I 及び SSMIS)の観測値を用いて、独自 に開発した解析手法に基づき、1988年以降の積雪 域を解析している(気象庁, 2011)。

図 1.2.26 は北半球の積雪域面積の月ごとの平

年の値(1989~2010 年の平均値)及び 1988~

2013年の26年間の変化傾向を示す。図1.2.27は

(a)2月、(b)5月、(c)11月の積雪域面積の経 年変化である。なお、ここでは月の半分以上の日 数で積雪があった領域を積雪域とみなし、北緯30 度以北(グリーンランドを除く)の積雪域の面積 を積算したものを北半球の積雪域面積としている。

平年では10 月頃から積雪域が拡大し始め、1、2 月に最も大きくなり、春にかけて縮小するという 季節変動が見られる。過去 26 年間では、5 月や 11、12月に積雪域面積が減少しており(信頼度水

準99%で統計的に有意)、特に、11月は減少傾向

が顕著である(図1.2.26)。また、10月も減少傾 向が明瞭に現れている(信頼度水準95%で統計的 に有意)。一方、1~4月には変化傾向は見られな い。

また、図1.2.28は Brown and Robinson(2011)

に基づく、より長期間の北半球の 3、4 月及び 6 月の積雪域面積の変化を示している。1920年以降 の過去90年にわたり積雪被覆率は減少しており、

特に1980年代以降に著しいことを見てとること ができる。月別に長期的な変化を調べると、春先 の3月から6月は統計的に有意に減少しているの に対して、統計的に有意に増加している月はない。

図 1.2.27 北半球における(a)2 月、(b)5 月、(c)11 月 の積雪域面積の経年変化(106km)

黒色の直線は変化傾向を示す。

図 1.2.26 月ごとの北半球における積雪域面積の(上)平年 値(106km)及び(下)1988~2013 年の変化傾向(106km/10 年)

平年値は1989~2010年の平均値。下図の黄、緑の棒グラフ

は信頼度水準 99%、95%で統計的に有意であることを示す

(変化傾向が見られない1~4月は表示しない) 0

10 20 30 40

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12

(x106km)

(106km / 10) -2.0-1.5

-1.0-0.50.0

図 1.2.28 北半球の積雪域面積の 1971~2000 年平均から のずれ

黒は3、4月の値で、○は利用可能なデータに基づく推定 値、実線は前後13個のデータを使って平滑化した線、影 は年々変動から見積もられた95%信頼区間を示す。赤は6 月の値で、×は衛星観測に基づく推定値。IPCC(2013)か ら引用。

(3) 日本の積雪量の変動

気象官署における年最深積雪の統計がある 1962年以降について、北日本日本海側/太平洋側、

東日本日本海側/太平洋側、西日本日本海側/太 平洋側の地域ごとに経年変化傾向を示す(図

1.2.29)。年最深積雪の値は地点ごとの違いが大き

いため、偏差で表すと積雪量の少ない地点の変動 が地域平均に適確に反映されないため、ここでは 比(平均に対する各年の割合)を用い、1981~2010

年平均を100%として表している。各地域平均の

算出に用いた観測点は表1.2.8のとおりである。

統計期間全体にわたる変化傾向として、北日本 日本海側、北日本太平洋側、東日本太平洋側では 変化傾向が見られないが、東日本日本海側、西日 本日本海側、西日本太平洋側では明瞭に減少して いる。特に、1980年代後半に大きく減少しており、

それ以降は少ない状態が続いている。1980年代後 半の減少は、日本の冬の平均気温が大きく上昇し た時期と一致する。

第2.3節で述べるように、温室効果ガスの増加 に伴い地球温暖化がさらに進行することが予測さ れている 21 世紀末頃の将来気候においては、い ずれの地域でも年最深積雪は減少するものの、北 海道内陸部など、依然として雪が降るのに十分な だけ寒冷な地域・季節では、あまり変化しない、

あるいは逆に増加することが予測されている。東

日本と西日本の日本海側で最深積雪が減少し、北 日本では変化が見られない観測データの傾向は、

将来予測される変化傾向と整合的であり、地球温 暖化の影響の可能性があるものの、自然要因に伴 う年々~数年の周期の変動が大きく、地球温暖化 との因果関係については、今後さらに観測データ を蓄積した上で分析する必要がある。なお、冬季 の東日本太平洋側では、日本の南岸を通過する低 気圧により降水がもたらされる場合が多く、降水 の形態(雪/雨)が低気圧の進路等の偶発的な条 件に強く依存することに加え、降雪の発生頻度が もともと少ないことから、系統的な変化傾向とし ては現れにくいと考えられる。

表 1.2.8 年最深積雪の経年変化の算出に用いた観測点

地域 観測点

北日本 日本海側

稚内、留萌、旭川、札幌、岩見沢、寿都、

江差、倶知安、若松、青森、秋田、山形 北日本

太平洋側

北見枝幸、雄武、網走、帯広、釧路、

根室、室蘭、苫小牧、浦河、紋別、広尾、

八戸、盛岡、宮古、仙台、石巻、福島、

むつ、白河 東日本

日本海側

輪島、相川、新潟、富山、高田、福井、

敦賀 東日本

太平洋側

宇都宮、前橋、熊谷、水戸、飯田、甲府、

河口湖、秩父、館野、東京、日光、長野、

松本、軽井沢、岐阜、津、名古屋 西日本

日本海側

西郷、松江、米子、鳥取、豊岡、彦根、

下関、福岡、大分、長崎、熊本 西日本

太平洋側

津山、京都、広島、神戸、奈良、松山、

高松、徳島

ドキュメント内 「異常気象レポート2014」本編(PDF形式:46.1MB) (ページ 101-104)