• 検索結果がありません。

十年~数十年規模変動

ドキュメント内 「異常気象レポート2014」本編(PDF形式:46.1MB) (ページ 104-120)

第 1 章 異常気象と気候変動の実態

1.2 大気・海洋・雪氷の長期変化傾向

1.2.8 十年~数十年規模変動

代表される、海洋を主体とする大洋スケールの大 規模な変動が知られている。最近の研究により、

これらの変動と1990 年代末以降の地球の気温上 昇の停滞(59ページ【コラム④】気温上昇の停滞 を参照)との関係が明らかになってきた(Meehl et al., 2011など)。また、日本の天候への影響も 指摘されている(Urabe and Maeda, 2014)。本 項では、このPDOとAMOを中心に大規模な気 候の十年~数十年規模変動の実態について述べる。

本項で用いる主な海洋のデータは、気象庁が気 候解析を目的として作成している全球月平均海面 水温格子点データセット(COBE-SST)(Ishii et al., 2005)である。また、Ishii and Kimoto(2009)

と同じ手法で現場観測データを用いて気象庁で作 成した表層水温解析データも用いた。対応する大 気のデータとしては、JRA-25長期再解析データ

(Onogi et al., 2007)を使用した。

(2) 太平洋における主要な十年~数十年規模変 動とその動向

1)太平洋における主要な十年~数十年規模変動 太平洋における十年~数十年規模の変動の代表 的なものがMantua et al.(1997)が名付けたPDO である(図1.2.30)。彼らは、北太平洋の海面水 温に現れる主要な変動パターンを、主成分分析を 用いて統計的に抽出し、その第1主成分をPDOと

した。PDOに伴って、海面水温が北太平洋中央部

で平年より低く(高く)なるとき、北太平洋東部 や赤道域で平年より高く(低く)なるといったシ ーソーのような変動を、十年~数十年の周期でゆ っくりと繰り返す。このPDOは大気と海洋が連動 した変動で、北太平洋中央部の海面水温が低い(高 い)ときは、大気側ではアリューシャン低気圧と 偏西風が強く(弱く)、北太平洋東部では南風が 強く(弱く)なる。また、PDOの空間パターンは、

熱帯域ではエルニーニョ/ラニーニャ現象の分布 に類似している。エルニーニョ現象よりも長い時 間スケールで変動することから、PDOは長く持続 するエルニーニョ/ラニーニャ現象として扱われ ることもある(例えば、Zhang et al., 1997)。な

お、PDOに関係した南太平洋も含む太平洋全体に

おけるほぼ南北対称のパターンの変動は、太平洋 数十年規模変動(IPO : Inter-decadal Pacific Oscilation)として知られている(Power et al., 1999)。

北太平洋にみられる十年~数十年規模の海洋変 動は、海面水温の第1主成分で説明されるPDOだ けでなく、第2主成分との関連も報告されている

(Nakamura et al., 1997 ; Bond et al., 2003 ; Di Lorenzo et al., 2010)。Bond et al.(2003)は、

最近の変動はPDOだけではうまく説明できず、北 緯40度を境として南北で逆符号に変動する第2主 成分も考慮すべきと指摘している。Di Lorenzo et al.(2008)は、この変動が海洋の亜熱帯循環と亜

図 1.2.30 PDO の正極(左)、及び負極(右)の冬季における海面水温(色)、海面気圧(等値線)、海面の風応力(矢印)

の典型的な偏差パターン。

http://jisao.washington.edu/pdo/graphics.htmlより。原著論文はMantua et al.(1997)

寒帯循環の変動に関わることに着目し、NPGO

(North Pacific Gyre Oscillation)と名付けた19

NPGOは太平洋赤道域とも相関があるが、PDOと

は異なり、赤道域東部での関連する変動は比較的 小さく、日付変更線付近で大きい(図1.2.31)。

このことから、典型的なエルニーニョ現象ではな く、近年よく観測される太平洋赤道域の中部に変 動の中心をもつエルニーニョ現象あるいはエルニ ーニョもどき(Ashok et al., 2007)との関係が示 唆されている(Di Lorenzo et al., 2010)。

ここでは、最近までの北太平洋中高緯度の海面 水温変動の特徴を調べるため、Mantua et al.

(1997)にならって、北緯20度以北の月別海面 水温偏差格子点データ20を用いて主成分分析を行 い、海面水温変動のなかで寄与の大きい第1主成 分(寄与率21.3%)と第2主成分(寄与率10.4%)

の時係数を求めた(図1.2.32)。時係数は標準偏 差で規格化してある。図1.2.33は第1、2主成分 の時係数と全球の海面水温偏差(平年値は 1981 年~2010年の30年平均)との回帰係数21である。

19 彼らは、北太平洋東部の海面高度の第2主成分で NPGOを定義した。

20 1901年~2000年の100年平均した月ごとの平年値をも とに、月ごとに各格子点で平年差を算出し、更に地球温暖 化によるトレンドを取り除くため、各月の全球で平均した 平年差を引いた値。

21 標準偏差で規格化した主成分の時係数を説明変数、各格 子点の海面水温偏差を被説明変数とする単回帰式におけ る回帰直線の傾き。

回帰係数の分布は北太平洋では主成分分析の空間 パターンにおよそ対応する。また、時係数が負の 時はこれと正負逆転した分布が現れやすい。

第1主成分の時係数と太平洋における回帰係数 の空間分布はMantua et al.(1997)のFig.1及び 本項図1.2.30とよく対応しており、PDOを表して いると言える。第2主成分はDi Lorenzo et al.

(2008)で示されたNPGOの指数やNPGOと海面 水温偏差の相関係数の分布(図1.2.31)とよく対 応している。回帰係数は北緯40度を境に北で正、

南で負と逆符号に分布しており、NPGOと同様な 変動を表していると考えられる。

PDOに対応する第1主成分の時係数を概観する

と、1920年代半ば~40年代半ばにかけての正、40

年代半ば~70年代半ばにかけての負、70年代後半

~90年代末にかけての正、90年代末~現在までの 負、の傾向が見られる。また、NPGOに対応する 第2主成分の時係数は、60年代~80年代にかけて は長い時間スケールでの正負の偏りが少ない一方、

80年代末~90年代末までの正の持続、その後、

2013年までの負の傾向の持続が特徴である。

図 1.2.32 1901~2000 年の北太平洋の月別海面水温偏差の主成 分分析によって得られた第 1 主成分(PDO)の時系列(上)と第 2 主成分(NPGO に対応)の時系列(下)

19011月~20146月。

図 1.2.31 NPGO に対応する海面水温の分布

Di Lorenzo et al.(2008)Figure 4のb図を転載。NPGO 指数と海面水温偏差の相関係数。ここでNPGO指数とは NPGOを表す北太平洋東部の海面高度偏差の第2主成分 の時係数のこと。

2)1990 年代末以降の動向

第1主成分と第2主成分の時係数は、共に1990 年代末には正から負に変わり、2000年代半ばに一 時的に正に振れたものの数年で負に戻り、その傾 向は2013年まで続いている。近年、この時期の変 化と影響に注目した研究が増えてきた。Minobe

(2002)は、1999年に北太平洋の中部と西部で海 面水温とともに表層水温が大きく上がり、東部と 北部では下がったことを示した。この1990年代末

の変化に伴い、台湾に上陸する台風頻度の増加

(Tu et al., 2009)や朝鮮半島における夏の季節 内スケールの降水量の増加(Kim et al., 2011)、

さらには南シナ海におけるモンスーンオンセット 時期の遅延が報告されている(Kajikawa and Wang, 2011)。また、この変化と1990年代末以 降の地球の気温上昇の停滞との関係が指摘され

(Meehl et al., 2011 ; Kosaka and Xie, 2013 ; Watanabe et al., 2013など)、注目されている。

そこで、1990年代末以降の空間パターンを確認

するために、図1.2.34に大規模なエルニーニョ現 象終了後の1999~2012年の14年間で平均した海 面水温の平年偏差を示す。図1.2.33と比較すると、

第1主成分と第2主成分のどちらの特徴も見られ る。偏差0線の緯度などの細かい分布にこだわら なければ、あるいはPDOかNPGOかにこだわらな ければ、北太平洋では大まかには「負のPDOの状 態」と言ってよいであろう。

南太平洋を含む太平洋全体における偏差パター ンはほぼ南北対称で、熱帯域では中部~東部にか けての負偏差、西部での正偏差と、緯度幅は広い もののラニーニャ現象時の分布に類似している。

同じ時期の表層水温(海面から700mまでの平均 水温)で見る(図1.2.35)と、北太平洋の中部と 西部で高い一方、東部と北部では低く、海面水温 の分布と対応している。特に、西部太平洋熱帯域 では+0.2℃以上と正偏差が顕著である。水深

図 1.2.34 海面水温平年差

1999~2012年の14年平均で、平年値は1981~2010年の30年平均。等値線間隔は0.1℃。ハッチは平年差が信頼度水準 95%で統計的に有意な領域。

図 1.2.33 1901 年~2000 年の北太平洋の月別海面水温偏 差の主成分分析によって得られた第 1 主成分(上)、第 2 主成分(下)の時係数と海面水温偏差の回帰係数

700mまでの平均で+0.2℃の偏差は、熱エネルギ ーとしては大気では50℃以上の偏差に対応する。

図 1.2.36 で示したフィリピンの東方海上の北緯

10度から15度、東経120度から180度にかけて 平均した表層水温は、1998~99 年にかけて大き く上昇したのち、エルニーニョ/ラニーニャ現象に 伴う年々の変動はあるものの高い傾向が続いてい る(Urabe and Maeda, 2014)。見延(2003)が 述べたとおり、1998/99年の変化はこの太平洋の 西部における変化が明瞭であったことが特徴であ る。

対応する大気循環はどうであろうか。図1.2.37 は、海面水温と同じく、1999~2012年の14年間 で平均した熱帯域(北緯20~南緯20度で平均)

の東西風偏差である。太平洋では対流圏下層(上 層)で東風(西風)偏差、インド洋では逆に対流 圏下層(上層)で西風(東風)偏差と、ウォーカ ー循環が強い傾向であることがわかる。図1.2.38 は、対流圏上層の200hPaにおける速度ポテンシ ャルである。ウォーカー循環が強い傾向に対応し てインドネシア付近で負偏差となっており、対流 圏上層で発散が強いことがわかる。これらのこと は、ラニーニャ現象時の分布に類似した海面水温

分布(図1.2.34)と対応した大気循環になってい

ることを示している。

日本の天候の年々変動は、エルニーニョ/ラニー ニャ現象の影響を受ける。それゆえ、ここで述べ た1990年代末以降に見られるラニーニャ現象側 の傾向が、日本の天候の十年~数十年規模の変動 に影響を与えている可能性がある。Urabe and

Maeda(2014)は、その観点で調査を行い、近年

の日本の天候には寒候期に低温偏差の傾向、暖候 期に高温偏差の傾向があり、それらには近年の負 のPDOに伴うラニーニャ現象の傾向の中緯度大 気への影響が関係していることを示した。

ところで、地球温暖化に伴って、将来はウォー カー循環が弱まり、対応して太平洋熱帯域の海面 水温分布も中部~東部でより昇温するエルニーニ ョ現象側の分布となることが予測されている

(IPCC, 2013)。一方、ここで示したように、地 球温暖化予測とは逆に、近年はウォーカー循環が 強く、海面水温分布もラニーニャ現象側の傾向と なっている。言い換えれば、全球平均気温の上昇 など、既に人為起源の温室効果ガスの増加の影響 が顕在化しているものの、太平洋熱帯域の海面水 温や大気循環のパターンには、今のところはその 影響よりも、自然変動の性質が強い十年~数十年 規模の変動の影響の方が強く現れている、という ことである(Watanabe et al., 2014)。

(3) 大西洋の数十年規模変動とその動向

大西洋の海面水温の十年~数十年規模の変動の 代表的なものが、(1)で述べたAMOである。AMO は、北大西洋全域での海面水温の温暖な時期と寒 冷な時期が数十年規模で交互に発生する変動で、

海洋の熱塩循環と関係している(Knight et al.,

2005)。AMOに伴って、北大西洋で平均した海面

水温は約0.4℃変動する。変動の周期は50~70年

で、1930~65年頃及び1995年以後の温暖な時期 並びに、1900~30年頃及び1965~95年頃の寒冷 な時期が観測されている。AMO は西アフリカの モンスーンとサヘルの降水量(Mohino et al., 2011)、大西洋のハリケーンの活動度(Chylek and Lesins, 2008)など、北大西洋やその周辺の気候 に影響を与える。また、AMO の変動と全球の地 表気温の変動の類似性が知られており、イギリス 気象局における全球地表気温の統計的な1年予測 の予測因子のひとつとしてAMOの指数が利用さ れている(Folland et al., 2013)。

図1.2.39は、北大西洋の北緯0~70度で平均し た年平均海面水温の平年偏差である。ただし、

1901~2000年の100年間の線形トレンドを除去

してある。これはAMOの指数に対応しており、

前段落で示した数十年規模での変動が明瞭である。

近年では1990年代の上昇傾向が明瞭で、2000年 代に入ってから上昇傾向が鈍りつつ高温傾向が持 続している。高温傾向の強さは1930 年代後半の 高温のピークと同程度である。現在は、高温側の

ドキュメント内 「異常気象レポート2014」本編(PDF形式:46.1MB) (ページ 104-120)