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第 1 章 異常気象と気候変動の実態

1.2 大気・海洋・雪氷の長期変化傾向

1.2.1 気温

世界の年平均気温は長期的にみて上昇傾向にあ り、気象庁の解析では1891年の統計開始以来100

年あたり 0.69℃の割合で上昇している(気象庁,

2014)。人間活動による影響が20世紀半ば以降に

観測された温暖化の支配的な原因であった可能性 が極めて高い(IPCC, 2013)。日本の年平均気温 は、1898年の統計開始以来100年あたり1.14℃

の割合で上昇している。

(1) はじめに

気象庁では、地球温暖化に伴う気温上昇を検出 するために、世界及び日本の平均気温の変化を監 視している。本項では、気温の長期変化傾向につ いて観測的事実をまとめるとともに、地球温暖化 による影響についてIPCC評価報告書の見解を引 用しながら述べる。また、気象庁のデータに加え て海外の気象機関のデータもあわせて検証に用い る。

(2) 世界の平均気温

世界の平均気温の監視にあたって、気象庁では、

海外の主要な気象機関と同様に、陸上で観測され た地上気温データ及び海面水温データを合わせて 解析している(石原, 2006)。観測地点は空間的に まばらにしかなく、また観測所の標高などの地理 的な環境がまちまちであるため、気温の観測値そ のものをある領域で平均した値は、必ずしもその 領域を代表する気温とはならない。しかし、各観 測地点で平年値からの差として算出した気温偏差 は、観測所の高度によらず、ある程度の広がりを 持った空間代表性があると考えられる(石原,

2006)。また、世界の平均気温の長期変化傾向を

監視するだけであれば、世界全体で平均した気温 そのものではなく、平年値からの気温偏差を求め られれば十分である。そのため、世界の平均気温 の算出には陸上の観測地点の気温データと海面水 温データについて、1981~2010 年の平年値から

の偏差を求め、世界全体で平均した値を用いる。

また、地球温暖化を検出するためには都市化の 影響を取り除く必要があるが、IPCC第5次評価 報告書では、世界の陸上平均気温の長期変化傾向 に対し、都市化の影響が10%以上を占める可能性 は低いとされている。地球温暖化などの気候の変 化を評価する場合、大きなスケールで空間平均を 行うことで都市化の影響はほぼ無視できるといえ る。実際、衛星からみた夜間地上光をもとに都市 化している場所/していない場所を判別し、都市 化の影響を受けた観測地点を取り除いて世界平均 気温を求めた結果、長期変化傾向に都市化の効果 はほとんどみられないことが指摘されている

(Hansen et al., 2010)。

気象庁のデータセット(以下、JMATEMP)を

用いて1891~2013年の世界の年平均気温の変化

を求めた結果を図1.2.1に示す。世界の年平均気 温は、長期的に上昇傾向を示しており、上昇率は

100年あたり0.69℃である(信頼度水準99%で統

計的に有意)。世界の平均気温偏差が大きかった年 の順位をみると、1990年代以降は高温となる年が 頻繁に現れており、上位 10 位までの年は全て 1998年以降に出現し、2位から10位までの年は 2000年以降に記録されている。JMATEMPによ り、最近の10年間は、これまでの全ての10年間 の中で最も高温であった。年平均気温の変化には、

数年~数十年程度で繰り返される自然変動に加え、

二酸化炭素など温室効果ガスの大気中濃度の増加 による地球温暖化を示す長期的な気温上昇が重な って現れていると考えられる。19 世紀末から 1900年代にかけては下降傾向がみられ、1910年 代から 1940 年代には上昇傾向、1950 年代から 1970年代にかけては下降傾向、1970年代以降は 強い上昇傾向へと転じている。世界全体の平均気 温にみられるこの数十年規模の変動は北半球でも 顕著にみられる。また、北半球の年平均気温の上

昇率は100年あたり0.72℃で、世界全体の上昇率

よりも大きな値になっている。一方、南半球は100

年あたり0.66℃で、特に、近年の世界全体や北半

球にみられた顕著な気温上昇は南半球にはみられ ない。1998年頃から世界の平均気温の上昇率は、

ほぼ横ばいの状態が続いており、温暖化が停滞し ているようにみえる(この話題については 59 ペ ージ【コラム④】気温上昇の停滞を参照)。

以下、IPCC第5次評価報告書をもとに他機関 によるデータセットとの比較を行う。他機関のデ

ータセットは、英国気象局(UKMO)のハドレー 気候予測研究センター及びイーストアングリア大 学気候研究ユニット(CRU)によるHadCRUT4

(Morice et al., 2012)、米国海洋大気庁(NOAA)

の気候データセンター(NCDC)によるMLOST

(Smith et al., 2008)、米国NASAのゴダード宇 宙 科 学 研 究 所 ( G I S S ) に よ る GISTEMP(Hansen et al., 2010)である。これ らのデータによる世界の年平均気温偏差の変化を 比較した結果を図1.2.2に示す。また、期間別に 気温上昇の割合を比較するため、各期間における 長期変化傾向を表1.2.1に示す。

データの被覆率は、昔は低く、また今でもアフ リ カ 大 陸 や 南 半 球 の 海 洋 上 で は 低 い 。

HadCRUT4 やJMATEMP は観測データのある

格子のみを世界の平均気温偏差算出に用いている

一方、MLOSTやGISTEMPは観測データのない

格子に対して内挿などによる空間的な補間をして いる。このため、観測データが少ない時代は手法 間の差が大きく、つまり世界平均気温偏差の不確 実性も大きくなる。

気象庁、UKMO のハドレー気候予測研究センター 図1.2.2

及び CRU、NOAA・NCDC、NASA・GISS のデータセット(それ ぞれ JMATEMP、HadCRUT4、MLOST、GISTEMP)による世界の 年平均気温偏差の変化

各機関が公開している最新のデータセットのうち2012 までを解析対象とした。基準値は19611990年。IPCC

2013)のFigure 2.20からデータを一部引用。

1891~2013 年の年平均気温の変化 図1.2.1

(a)は世界平均、(b)は北半球平均、(c)南半球平均。黒 い細線は各年の基準値からの偏差、青い太線は偏差の5年移 動平均、赤い直線は長期変化傾向を示している。基準値は

(a)

(b)

(c)

表 1.2.1 期間別にみた世界の年平均気温の長期変化傾 向(単位:℃/100 年)

IPCC2013)のTable2.7から一部引用。

データ\年 セット名

1901~

2012

1901~

1950

1951~

2012

1979~

2012

JMATEMP 0.74 0.99 1.00 1.12

HadCRUT4 0.75 1.07 1.06 1.55

MLOST 0.81 0.97 1.18 1.51

GISTEMP 0.83 0.90 1.24 1.61

長期的な変化傾向については、各機関によって 算出手法やデータが異なるものの、各データ間の 経年変化は概ね一致していることがわかる。また、

表1.2.1をみると、全てのデータセットで1901~

1950 年に比べて 1979~2012 年の期間の方が気 温の上昇率が大きくなっている。

なお、GISTEMPは1901~2012年において長 期変化傾向が0.83℃/100年で最も大きい。これは、

GISTEMPが南極のデータを取り入れていること

や、北極域の気温も内挿により含めているために 近年の昇温が大きいと考えられる。IPCC第5次 評価報告書は、海面水温データの作成に使用した 観測データの被覆率やバイアス補正の違いがこれ らの長期変化傾向の違いに現れていることを指摘 している。JMATEMPは2000年以降、他機関よ り気温偏差が小さく見積もられている。これは海 面水温データに大きく依存しており、上述したよ うに海面水温データのバイアス補正の違いが原因 のひとつであると考えられる。

JMATEMP による経度緯度5 度格子の年平均

気温の長期変化傾向を図1.2.3 に示す。長期的な 変化に対して近年の変化を比較するため、2 つの 統計期間1891~2013年(a)、1979~2013年(b)

について示す。

これらの図を見ると、地球温暖化に伴う気温の 上昇は温室効果ガスの排出の地域による多寡にか かわらず、世界全体で起きていることが分かる。

ただし、気温上昇の割合は世界で一様ではなく、

海上より陸上の方が大きく、低緯度より高緯度の 方が大きい。特に、北極域の気温上昇が著しく、

過去100年間で世界の他の地域の約2倍の速さで 上昇していることがわかる。1979~2013 年の期 間の気温上昇(図1.2.3(b))には、負のPDO時 に見られるパターンが現れ、太平洋の東部を中心 とした負の変化傾向がみられるものの、ほとんど

の地域で1891~2013年に比べて大きいことがわ

かる。

(3) 地球温暖化の要因

世界の気温上昇は、人為起源の温室効果ガスに よって引き起こされているのか、自然変動の一部 にすぎないのかという疑問に対して、Jones et al.

(2013)は、気候モデルを用いて「自然強制力の みを与えた実験」と「自然強制力と人為強制力を 与えた実験」結果を比較し、要因の切り分けを行 っている。図1.2.4は、世界の陸域及び海洋にお ける過去100年間の地上気温の変化を表している。

「自然強制力と人為強制力を与えた実験」(赤線)

緯度経度 5 度の格子ごとにみた年平均気温の長期変化傾向の分布 図1.2.3

a)は18912013年、b)は19792013年の期間における長期変化傾向で、10年あたりの割合で示している。灰色は変 化傾向が明確に見出せないことを示す。

(a)

℃/10

( b )

℃/10

は、観測された気温(黒線)の上昇を良く再現で きている一方、「自然強制力のみを与えた実験」(青 線)では、気温の上昇がみられず、人為起源の強 制力を考慮しないと温暖化を説明できない。

また、IPCC第5次評価報告書では、それぞれ の強制力がどの程度の影響を与えたのかを定量的 に評価した。

1951~2010 年の気温上昇に対して、人為起源

の温室効果ガスの寄与は0.5~1.3℃の範囲で、エ ーロゾルの冷却効果を含むそれ以外の人為起源の 強制力の寄与は−0.6~0.1℃の範囲である可能性 が高い。自然起源の強制力の寄与は−0.1~0.1℃の 範囲で、内部変動による寄与は−0.1~0.1℃の範囲 である可能性が高い。これらの寄与を合わせると、

実際に観測された昇温とほぼ同じである。

また、対流圏の気温が上昇しているのに対し、

成層圏では気温が低下している(IPCC, 2013)。 成層圏の下部における気温低下は成層圏のオゾン の減少が主な要因であるが、対流圏で昇温し、成 層圏下部で降温するという気温変化の構造は、大 気中の二酸化炭素濃度の増加から予想される変化 傾向と整合的である。

IPCC第5次評価報告書は、人為起源強制力は、

南極を除く全ての大陸域において、20世紀半ば以 降の地上気温の上昇にかなり寄与していた可能性 が高く、1970年代以降に観測された世界の海洋表 層(0~700m)の貯熱量の増加にかなり寄与した 可能性が非常に高いと評価した。また、第5次評 価報告書では、人間活動による影響が 20 世紀半 ば以降に観測された温暖化の主な要因であった可 能性が極めて高いと結論付け、第4次評価報告書 での「可能性が非常に高い」という表現をさらに 強調した。

(4) 日本の平均気温

日本の平均気温は、長期間にわたって観測を継 続している気象観測所の中から、都市化の影響が 比較的少なく、また特定の地域に偏らないように 選定された表1.2.2の15地点のデータから求めて いる。

15地点で平均した日本の1898~2013年におけ

る年平均気温の変化を図1.2.5(a)に示す。日本 の平均気温は世界の平均気温に比べ年々変動の幅 が大きいものの、長期的には上昇傾向である。そ の上昇率は100年あたり1.14℃(信頼度水準99%

で統計的に有意)である。1940年代までは比較的 低温の期間が続いたが、その後上昇に転じ、1960 年頃を中心とした高温の時期、それ以降 1980年 代半ばまでのやや低温の時期を経て、1980年代後 半から急速に気温が上昇した。顕著な高温を記録 した年は、概ね 1990年代以降に集中している。

長期的にみた日本の年平均気温の上昇傾向は、世 界的な気温の上昇傾向や温暖化予測結果と整合的 であることから、地球温暖化が主な要因であると 考えられる。日本の年平均日最高気温及び年平均 日最低気温の変化を図1.2.5(b)、(c)に示す。年 平均日最高気温と年平均日最低気温は年々の変動 が大きいものの、長期的な上昇傾向がみられる。

その100年あたりの上昇率は、年平均日最高気温

が 0.87℃で、年平均日最低気温が 1.51℃である

(信頼度水準 99%で統計的に有意)。年平均気温 と同様に、年平均日最高気温及び年平均日最低気 温の上昇傾向は、地球温暖化が主な要因と考えら れる。

年・各季節で平均した日最高気温及び日最低気 温の長期変化傾向を表 1.2.3に示す(これらの値 は信頼度水準99%で統計的に有意)。日最高気温、

日最低気温ともに春の上昇率が最も大きく、全て の季節で日最高気温よりも日最低気温の上昇率の 方が大きい。

ドキュメント内 「異常気象レポート2014」本編(PDF形式:46.1MB) (ページ 63-76)