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第 1 章 異常気象と気候変動の実態

1.2 大気・海洋・雪氷の長期変化傾向

1.2.5 海面水位

世界の海面水位は、1901~2010 年の期間に、

0.19[0.17~0.21]16m上昇した。世界平均海面水位 の平均上昇率は、1993~2010年の期間で1年あ たり3.2[2.8~3.6]mmであった可能性が非常に高 く、世界平均海面水位の上昇率は 20 世紀初頭以 降増加し続けている可能性が高い。20世紀の世界 平均海面水位上昇の主要な要因は、海洋の熱膨張 と氷河の変化である。

北太平洋上の大気循環場等の地域的な要因の影 響を受けているため、1906~2013 年の期間で、

日本沿岸の海面水位には、世界平均の海面水位に みられるような明瞭な上昇傾向はみられない。

1993年から2010年にかけては、日本の海面水位 は、1年あたり2.8[1.3~4.3]mmの割合で上昇し ている。

(1) はじめに

地球温暖化に伴う、海洋の熱膨張や山岳氷河、

南極やグリーンランドの氷床の融解は、海面水位 の上昇を引き起こし、社会経済的基盤に大きな影 響を与えるのではないかと懸念されている。本項 では(2)でIPCC第5次評価報告書の見解を引 用しながら世界の海面水位の状況について、また

(3)で国内のデータを用いて日本の海面水位の 状況について記述する。

(2) 世界の海面水位 1)海面水位の長期変化

IPCC(2013)によると、過去の海面水位変化 について下記のとおり結論づけている。なお、角 括弧の範囲は90%の信頼区間を示す。

 1901 年から 2010 年の期間に、0.19[0.17~

0.21]m上昇した(図1.2.19)。

 海面水位の代替データと測器によるデータは、

19 世紀末から 20 世紀初頭にかけて、過去 2

16 90%の信頼区間の範囲は、角括弧で示されており、推定 すべき対象の真の値をその範囲に含んでいる可能性が 90%であることを意味する。

千年にわたる比較的小さな平均上昇率から、よ り高い上昇率に移行したことを示している(高 い確信度)。

 世界平均海面水位の上昇率は20世紀初頭以降 増加し続けている可能性が高い。

 世界平均海面水位の平均上昇率は、1901~

2010年の期間で1年あたり1.7[1.5~1.9]mm、

1971~2010年の期間で1年あたり2.0[1.7~

2.3]mm、1993~2010年の期間で1年あたり

3.2[2.8~3.6]mm であった可能性が非常に高

い。

この結果は、潮位計観測の結果を用いた研究や、

1990 年代以降に行われている衛星高度計観測の 結果を用いた研究といった異なる手法を用いた研 究間でもよく整合している。

なお、大気循環場等の地域的な要因の影響で、

地域的な海面水位の上昇率は、世界平均海面水位 の上昇率から大きな乖離を生じることがある。

2)海面水位変化の要因

IPCC(2013)は、海面水位の上昇の要因として、

 海洋の熱膨張

 氷河の変化

 グリーンランド氷床の変化

 南極氷床の変化

 陸域の貯水量の変化

を挙げている。観測された海面水位の上昇に対す るそれぞれの要因の寄与は、表1.2.7のように見 積もられていて、20世紀の世界平均海面水位上昇 の主要な要因は、海洋の熱膨張と氷河の変化とな っている。

1993~2010 年の期間については、世界平均海

面水位の上昇は観測にもとづく寄与の合計と高い 確信度で整合的である。

(3) 日本の海面水位 1)評価に用いるデータ

気象庁では、日本沿岸の72地点(平成26年1月1 日現在)で潮位の観測を実施するとともに、他機 関の検潮所の観測データも用いて海面水位を監視 している。

日本沿岸の平均的な海面水位の長期変化傾向を つかむためには、できるだけ長期間にわたる地盤 変動の少ない地点の潮位観測データが必要である。

このような条件にある地点として、図1.2.20に示 すとおり、1906~1959年は4地点を、1960年以 降は16地点を選択した。前者については4地点 ごとの年平均潮位平年差の平均値を日本沿岸の長 期的な海面水位の評価に用いた。後者については、

地域の偏りを受けないようにするため、まず 16 地点を長期変動パターンの類似している4海域に 分け、海域ごとに年平均潮位平年差を求めた後、

4 海域を平均した値を日本沿岸の長期的な海面水 位の評価に用いた(平年差は1981~2010年平均 値からの差を表す)。

図 1.2.19 世界平均の海面水位の変化

最も長期間連続するデータセット(黒線)の1900~1905 平均を基準とした世界平均海面水位の長期変化(全データ は、衛星高度計データの始めの年である1993年で同じ値に なるように合わせている)。全ての時系列は年平均値を示し、

不確実性の評価結果がある場合は色つきの陰影によって示 している。色つきの線はそれぞれ異なるデータセットを示し ており、黒・黄色・緑線は潮位計、赤線は人工衛星に搭載さ れた高度計の観測に基づいている。IPCC(2013)より引用。

表 1.2.7 世界平均の海面水位の上昇に対する諸要素の寄与

単位はmm/年。角括弧[ ]内の範囲は90%の信頼区間を示す。陸域の貯水量の変化は人為的起源のみによるもので、気

候変動の伴う変動は含んでいない。

グリーンランドの氷河の変化による寄与は、グリーンランドの氷床の変化による寄与の見積もりに含まれているた め、合計には含まれていない。IPCC(2013)より作成。

要素 1901-1990年 1971-2010年 1993-2010年 海洋の熱膨張 0.8 [0.5~1.1] 1.1 [0.8~1.4]

氷河の変化

(グリーンランド と南極の氷河を除く)

0.54 [0.470.61] 0.62 [0.250.99] 0.76 [0.391.13]

グリーンランド氷河の変化 0.15 [0.10~0.19] 0.06 [0.03~0.09] 0.10 [0.07~0.13]

グリーンランド氷床の変化 0.33 [0.25~0.41]

南極氷床の変化 0.27 [0.160.38]

陸域の貯水量の変化 -0.11 [-0.16~-0.06] 0.12 [0.03~0.22] 0.38 [0.26~0.49]

各要素の合計 2.8 [2.3~3.4]

海面水位の上昇(観測) 1.5 [1.3~1.7] 2.0 [1.7~2.3] 3.2 [2.8~3.6]

図 1.2.20 評価に用いた海面水位観測地点

日本沿岸で地盤変動の影響が小さい検潮所を選択した。1906~1959年までは4地点(左)1960年以降は16地点(右)

の検潮所を選択。1960年以降については、海面水位の長期変動パターンが類似している海域別に日本周辺をⅠ:北海道・

東北地方の沿岸、Ⅱ:関東~東海地方沿岸、Ⅲ:近畿~九州地方の太平洋側沿岸、Ⅳ:北陸~九州地方東シナ海側沿岸 4海域に分類(右)。忍路、柏崎、輪島、細島は国土地理院の所管。東京は1968年以降のデータを使用している。平 23年(2011年)東北地方太平洋沖地震の影響を受けた可能性のある函館、八戸、深浦、柏崎、東京は、2011年と 2012年のデータから除外している。なお、八戸は、検潮所が流失したため観測を終了した。

2)海面水位の長期変化

1)に記したデータから求めた経年変化を図1.2.21 に示す。

期間により地点数が異なるが、1960年以降の16 地点を用いた平年差の平均値(赤三角)と同期間の 4地点を用いた平年差の平均値(青丸)との間には 高い相関(相関係数は0.94)があるため、地点数が 異なっても長期変化の議論は可能である。

1950年頃に極大がみられ、1990年代までは約20 年周期の変動が繰り返されている。また1990年代以 降は上昇傾向とともに約10年周期の変動が確認で きる(図1.2.21)。世界及び日本の平均気温が過去 約100年間、比較的単調に上昇している(第1.2.1項 を参照)のとは異なり、ここ100年の日本沿岸の海 面水位には、世界平均の海面水位にみられるような 明瞭な上昇傾向はみられない。

1906~2013 年の期間で日本沿岸の海面水位の

変化を求めると、20世紀を通した期間では有意な 上昇を示さなかった。一方、近年の海面水位の上 昇率を、IPCC(2013)と同じ期間で求めると1971

~2010年の期間で1年あたり1.1[0.6~1.6]mm、

1993~2010 年の期間で 1 年あたり 2.8[1.3~

4.3]mmの割合で上昇している(括弧[]内の範囲は、

90%の信頼区間を示す)。

3)変動要因

図1.2.21に示されるように、日本沿岸海面水位

は約10年、20年、50年など、様々な時間規模の 変動が混在している。一般的に、地域的な海面水 位の変動は、(2)で述べた世界平均海面水位の変 化要因とは異なる地域的な要因で生じる。ここで は、日本沿岸海面水位のこれらの変動の要因や 100年規模の変化について考察する。

図 1.2.21 図 1.2.20 の地点・海域で平均した日本沿岸の海面水位の経年変動(1906~2013 年)(上)、海面水位データを時 間-周期解析(ウェーブレット解析)した結果(下)

1906~1959年までは、地点ごとに求めた年平均海面水位の平年差を4地点で平均した値(青丸・黒破線)の推移、1960

以降については、4海域ごとに求めた年平均海面水位の平年差の平均値(赤三角・黒線)の推移を示す。1981~2010年まで の期間で求めた平年値を0としている。青線は4地点平均の平年差の5年移動平均値、赤線は4海域平均の平年差の5年移 動平均値を示す。1990年代までは約20年周期(①)、1990年代以降は約10年周期(②)が卓越している。他にも50年を 超える周期も見られる(③)

① 10 年から 20 年周期の海面水位変動

1960 年代以降の日本沿岸海面水位変動には、

数cmの振幅を持つ10年から20年周期の変動(以 下、十年規模の変動)と、1980年代以降の海面水 位上昇が顕著である。図1.2.22は、人工衛星に搭 載された海面高度計による観測データ(気象庁に よる解析データ)から求めた1993年以降の海面 水位の変動を表す。北太平洋中央部では、海面水 位偏差が正または負符号で持続する期間(5 年程 度)が交互に現れる。そこで、北緯25度から45 度、東経170度から西経150度の海域で平均した 13 か月移動平均海面水位偏差が正または負符号 で持続するそれぞれの期間で、北太平洋の海面水 位偏差を平均した。図 1.2.23(b)に示されるよ うに、北太平洋中央部の海面水位偏差がロスビー 波として西方に伝播し、数年かけて日本東方海域 まで達する(Sasaki et al., 2014)。日本沿岸海面 水位は、東方からの海面水位偏差が北緯 30 度か ら 35 度にかけて(黒潮続流域)の太平洋岸に到 達するのと同期して変動する(図 1.2.23(a) ; Sasaki et al., 2014)。1993年以前の日本沿岸海面 水位変動についても、北太平洋における海面水位 偏差の西方伝播が要因であることが、海洋大循環 数値モデルを用いた研究によって明らかとなって いる(Yasuda and Sakurai, 2006)。

北太平洋において十年規模で海面水位が変動す る原因は、北太平洋上の大気循環場の変動である。

北太平洋では、冬季はアリューシャン低気圧が発 達し、中緯度偏西風が卓越する。北太平洋では大 気と海洋が十年規模で変動することが知られてい

る(第1.2.8項を参照)。この大気循環の変動によ

って、北太平洋中央部では海面水位変動が生じる。

例えば、北太平洋において生じた高気圧性の風の 偏差は、北太平洋中央部での海面水位の上昇をも たらす。こうして生じた正の海面水位偏差は図

1.2.23で示されるように西方に伝播し、日本沿岸

海面水位の上昇をもたらすのである。したがって、

十年規模の日本沿岸海面水位変動は北太平洋の大 気海洋の十年規模自然変動によって生じると考え

ることができる。東方から伝播してきた海面水位 偏差が日本沿岸付近でどのような過程を経て日本 沿岸海面水位変動をもたらすのかについてはよく わかっておらず、今後明らかにすべき重要な課題 である。

図 1.2.22 北太平洋における海面高度の 10 年周期変動

(a)1994-1998年平均、(b)1999-2002年平均、

(c)2003-2007年平均、(d)2008-2013年平均。

それぞれ、世界平均水位を除いて示す。

ドキュメント内 「異常気象レポート2014」本編(PDF形式:46.1MB) (ページ 92-97)