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エーロゾル

ドキュメント内 「異常気象レポート2014」本編(PDF形式:46.1MB) (ページ 157-167)

第 1 章 異常気象と気候変動の実態

1.4 大気組成等の長期変化傾向

1.4.6 エーロゾル

地球規模で気候に大きな影響を与えるような大 規模な火山噴火は、1991年のピナトゥボ火山噴火 以降は発生しておらず、日本におけるエーロゾル 等による大気の混濁は 1963年のアグン火山噴火 以前のレベルに戻っている。

日本におけるエーロゾルの分布は、風上の地表 面被覆の種類や気象状況等の影響を受けるため、

大気中のエーロゾル濃度やエーロゾル粒子の大き さ等は、地点や季節により異なる。本州周辺では、

黄砂が多く飛来する時期である 3~6月にエーロ ゾル光学的厚さが大きい。

(1) はじめに

エーロゾルとは大気中に浮遊するちりなど固体 又は液体の微粒子のことで、半径 1nm(nm は 1/109m)程度から10μm(μmは1/106m)程度の 大きさである。半径 1μm より小さい粒子の多く

は、化石燃料やバイオマス燃焼などの人間活動か ら放出される気体から生成される、硫酸(塩)、硝 酸(塩)、有機物などである。一方、半径1μmよ り大きい粒子は海塩粒子、土壌粒子(黄砂を含む)

など、風によって巻き上げられたものが多い。

エーロゾルは、太陽放射を散乱・吸収して地表 に到達する日射量を減少させ気温を低下させる、

いわゆる日傘効果をもつ一方で、地球からの赤外 放射を吸収・再放射するという温室効果も持って いる。さらに、これら直接効果の他に雲粒の核と なる微粒子(雲核)として雲の性状(雲粒の数や 粒径分布、滞留時間)を変化させることにより、

間接的に地球の放射収支を変えるという効果もも っている。これら相反する複数の効果が絡むうえ に、分布の時間・空間的な変動が大きいため、エ ーロゾルと気候の関係については解明されていな い部分が多い。IPCC第5次評価報告書では、エ ーロゾルは気候変動の駆動要因の中で最も大きな 不確実性をもたらし続けているとされている。た だし、不確実性を考慮したとしても、エーロゾル の増加は全体として世界平均気温を下げる効果を 持つと考えられている。

大規模な火山噴火は多量の二酸化硫黄を成層圏 に注入し、そこで硫酸塩エーロゾルの発生を引き 起こす。例えば1991年に噴火したピナトゥボ火 山は、噴火後約2年にわたって世界平均気温を0.1

~0.2℃低下させたとされている(Robock and Mao, 1995)。

気象庁は札幌、つくば、福岡、石垣島、南鳥島 の5地点で直達日射計による大気混濁度の観測を、

岩手県大船渡市(綾里)、南鳥島、与那国島の 3 地点でサンフォトメータによるエーロゾルの観測 を行っている。また、気象研究所ではライダーな どのリモートセンシングによるエーロゾルの鉛直 分布(Uchino et al., 1995, 2012 ; Nagai et al., 2010)や直接のサンプリングによる、組成、形状、

粒径分布などの把握に努めている(Okada et al., 2003; Ikegami et al., 2004; Wu et al., 1994)。 図 1.4.31 下向き赤外放射量の年平均値及び 5 年移動平均

値の経年変化(つくば)

(2) 直達日射計による大気混濁度の観測

直達日射とは、大気中で散乱又は反射されるこ となく、太陽面から直接地上に到達する太陽放射 のことである。直達日射量から計算される大気混 濁係数は、エーロゾルのほか、水蒸気、オゾン、

二酸化炭素等の太陽放射の散乱・吸収に寄与する 種々の物質を含む現実の大気の光学的厚さ(太陽 放射に対する大気の不透明さ、濁り具合)が、酸 素や窒素などの空気分子以外の物質が存在しない と仮定した大気の光学的厚さの何倍であるかを表 し、値が大きいほど大気を濁す物質が多いことを 示す。

図1.4.32に示すように、1963年から数年継続 しているやや高い値、1982~85 年と 1991~93 年にみられる極大は、それぞれ1963年2~5月の アグン火山噴火(インドネシア)、1982 年 3~4 月のエルチチョン火山噴火(メキシコ)、1991年 6 月のピナトゥボ火山噴火(フィリピン)によっ て硫酸(塩)エーロゾルの生成のもととなる火山 ガスが成層圏に大量に注入され、成層圏が長期に わたって混濁した結果である。ピナトゥボ火山噴 火以降は大規模な火山噴火が発生していないため、

大気混濁係数はその後次第に小さくなり、現在の 日本における大気混濁係数は、ほぼアグン火山噴 火前のレベルまで戻っている。

(3) サンフォトメータによるエーロゾル光学的 厚さとオングストローム指数の観測

サンフォトメータとは複数の特定波長の直達日 射量を測定する測定器であり、これを使ってエー ロゾル光学的厚さ(AOD:Aerosol Optical Depth、

エーロゾルによる大気の濁り具合)と粒径に関す る情報であるオングストローム指数(値が大きい ほど粒径の小さいエーロゾルが相対的に多いこと を示し、エーロゾルの種類を推定する手がかりと なる)を観測することができる。図1.4.33に示す ように、大陸から離れた南鳥島のAODは年間を とおして小さい値で安定している。一方、綾里や 与那国島のデータは変動が比較的大きい。これは アジア大陸からの黄砂、森林火災の煙、大気汚染 物質等が頻繁に輸送されてくるためと考えられる。

2003年 5月の綾里での大きなピークは、シベ リアで発生した大規模な森林火災の煙が日本上空 に流入してきたことによるものである。また、

2006年 5月の綾里のピークは、大規模な黄砂の 飛来によるものである。

綾里と与那国島のオングストローム指数は 1.2 前後の値をとることが多い一方、南鳥島ではそれ より小さい0.5~1.0程度となっている。これは、

綾里や与那国島に比べて、南鳥島では出現するエ ーロゾルの粒径が大きいことを示している。大陸 から離れた孤島である南鳥島では、比較的粒径が 大きい海塩粒子が卓越するためと考えられる。

図 1.4.32 バックグランド大気混濁係数の経年変化(1960~2013 年)

大気混濁係数に含まれる水蒸気や黄砂、大気汚染エーロゾル等対流圏の変動による影響を除くため、大気混濁係数の月最小値 を用いて国内5地点(札幌、つくば、福岡、石垣島、南鳥島)の平均値を求め、年平均値を算出している。

(第1章 異常気象と気候変動の実態)

なお、1998~2007年の統計期間において、AOD 及びオングストローム指数に長期的な変化傾向は 見られない。

(4) 衛星によるエーロゾル光学的厚さの観測 大気に入射した太陽放射は大気中に分布するエ ーロゾルによって散乱・吸収される。そのため、

大気外にある衛星から地球を観測すると、地球表 面での反射や大気分子により散乱された太陽放射 に加えて、大気中のエーロゾル分布によって散乱 された太陽放射が観測される。これら太陽放射の 各成分は理論的に計算できるため、大気中のエー ロゾルの粒径分布や鉛直分布を仮定すれば、衛星 によって観測される放射量から大気中のエーロゾ ル分布を推定することができる。この手法では地 球表面での太陽放射の詳細な反射率情報が必要と

なるが、海洋上であれば十分な精度で推定可能で ある(Higurashi and Nakajima, 1999)。

気象庁では、ひまわり(MTSAT-2)の可視域デ ータから AODを算出するアルゴリズム(Mano, 2000; 橋本, 2006)を用いて日本周辺海域のエー ロゾルの分布図を作成している。図 1.4.34 は、

2012 年の毎月の月平均の光学的厚さ(波長 500nm)の分布図である。太平洋高気圧に覆われ る日本の南海上では年を通じてAODが小さく、

本州周辺では黄砂が多く飛来する時期にあたる 3

~6月にAODが大きいことがわかる。また、こ の年(2012年)は春から夏にかけて、シベリアで 大規模な森林火災が発生しており、6~7月のオホ ーツク海に見られるAODの大きな領域は、この 森林火災の煙による影響と考えられる。

図 1.4.33 綾里、南鳥島、与那国島における エーロゾル光学的厚さ(AOD 500nm)及びオン グストローム指数(1998 年 1 月~2007 年 3 月)

【コラム⑪】ライダーによるエーロゾル鉛 直分布の観測

ライダー(Lidar)は、レーザー光のパルスを 大気中に射出し、大気分子・雲・エーロゾルなど によって散乱された光を望遠鏡で受信し、エーロ ゾルの鉛直分布を測定する装置である。気象庁は 2002年3月~2011年12月までの期間、岩手県 大船渡市綾里においてライダーによるエーロゾル の鉛直分布の観測を行った。

図⑪.1に2002年3月~2010年11月の季節ご とに平均したエーロゾルの高度分布を示す。成層 圏(季節によって異なるが、概ね高度10km以上)

のエーロゾルは、対流圏と比較して極めて少ない。

対流圏内のエーロゾルは季節による違いが大きい が、概ね地面に近づくほどエーロゾルの量は多い。

これらは、エーロゾルの発生源が主に地面付近に 存在していることによる。

春季(3 月~5 月)は、ほかの期間に比べて特 に対流圏中層のエーロゾルの量が多い。ライダー

図 1.4.34 ひまわり 7 号の可視画像から算出したエーロゾル光学的厚さ(AOD)の月平均分布図(2012 年)

図⑪.1 2002 年 3 月~2010 年 11 月の季節ごと(春:3~5 月、夏:6~8 月、秋:9~11 月、冬:12~2 月)の平均(綾 里)

散乱比は、ライダーで受信した散乱光の強度から求めたエ ーロゾル濃度を示す値。値が大きいほどエーロゾル濃度が 高いことを表す

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