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大気・海洋中の二酸化炭素

ドキュメント内 「異常気象レポート2014」本編(PDF形式:46.1MB) (ページ 139-150)

第 1 章 異常気象と気候変動の実態

1.4 大気組成等の長期変化傾向

1.4.1 大気・海洋中の二酸化炭素

世界平均の大気中の二酸化炭素濃度は、工業化 時代以降増加している。年増加量も上昇傾向にあ り、二酸化炭素濃度の年平均増加率は、1990年代 は 1.5ppm/年であったが、2000 年代は 2.0ppm/

年と大きくなっている。

大気中の二酸化炭素濃度の増加に伴い、海洋中 の二酸化炭素濃度も長期的に上昇している。北西 太平洋(冬季)における表面海水中の二酸化炭素 濃度の年平均増加率(1984~2013年)は、1.6±

0.2 ppm/年であった。さらに、表面海水中のpH

は低下傾向にあり、海洋酸性化が進行している。

東経137度線では、観測を行っている全ての緯度 帯でpHが10年あたり約0.02低下している。

(1) はじめに

工業化のはじまった18 世紀半ば以降、人間活 動によって大気中に排出された温室効果ガスのう ちで、二酸化炭素は温暖化への寄与が最も大きく、

大気中で長い寿命を持つ温室効果ガス全体(二酸 化炭素、メタン、一酸化二窒素、ハロカーボン類 など)の放射強制力(宇宙から地球に出入りする エネルギーの収支に影響して地球を暖める、ある いは冷やす効果の強さ)の約 65%を占めている

(WMO, 2014)。各温室効果ガスにおける放射強

制力を図1.4.3に、主な温室効果ガスの温室効果

の強さ(GWP)を表1.4.1に示す。

大気中の二酸化炭素濃度は、18 世紀半ばで約 278ppm(1ppmは体積比で100万分の1)であ ったが、工業化時代以降世界的に増加傾向が続い ている。年々の変動は、春から夏に減少し秋から 翌春にかけて増加する季節変動を示し、これは主 に陸域生態系の活動(植物の光合成や土壌有機物 の分解)によるものである。

図1.4.4に3地点のGAW観測所における大気 中の二酸化炭素濃度の経年変化を示す。米国が 1958 年から観測を継続しているハワイのマウナ ロア観測所では、観測当初は約315ppmであった が、2013 年春には、初めて日平均値で 400ppm を超えた。また、年増加量も上昇傾向にあり、気 象庁が運営する世界気象機関(WMO)の温室効 果ガス世界資料センター(WDCGG)の解析結果

図 1.4.4 大気中の二酸化炭素濃度の経年変化

マウナロア、綾里及び南極点における大気中の二酸化炭素 月平均濃度の経年変化を示す。

によれば、1990 年代は世界平均の増加量が 1.5ppm/年 で あ っ た の に 対 し 、2000 年 代 は 2.0ppm/年となっている。

気象庁の観測においても、日本周辺で過去20年 以上にわたって大気中、海洋中ともに二酸化炭素 濃度が増加している。2013年には、気象庁が国内 で大気中の温室効果ガス濃度を観測している3つ の観測地点(岩手県大船渡市綾里、沖縄県八重山 郡与那国島、東京都小笠原村南鳥島)の全てにお いて、二酸化炭素濃度の月平均値が400ppmを超 える月が見られるようになった。北西太平洋の東 経137度に沿った海域では、気象庁の海洋気象観 測船による長期にわたる観測から、表面海水中の 二酸化炭素濃度が、1年あたり1.6ppmの速度で上 昇を続けていることが示された(本項(4)参照)。

海水中へ吸収・蓄積された二酸化炭素は、海水中 の二酸化炭素濃度の上昇をもたらすとともに、海 洋酸性化を進行させている。

表 1.4.1 主な温室効果ガスの温室効果の強さ(GWP21) IPCC(2013)をもとに作成。

化学種 温室効果の強さ(GWP100

二酸化炭素 1

メタン 28

一酸化二窒素 265

HFC-134a 1300

CFC-11 4660

CF4 6630

(2) 陸上における二酸化炭素 1) 世界における二酸化炭素濃度

図1.4.5は、WDCGGに報告された観測データ をもとに、大気中の二酸化炭素濃度について、(a)

月別濃度、(b)季節変動成分を除去した濃度、(c)

濃度年増加量のそれぞれを緯度帯別に平均し、緯 度-時間平面上に、それらの要素を高さとして三 次元的に表現したものである。これらの図から、

季節変動の振幅は北半球中高緯度では大きく、南 半球では小さいこと、北半球の方が南半球より高 濃度であること、増加傾向は全球的なスケールを もつことなどがわかる。

21 温室効果ガスがもつ地球温暖化に対する単位質量あた りの効果をあらわす指標。地球温暖化係数ともいう。温室 効果ガスの寿命を考慮して特定期間(ここでは 100

(GWP100)の積算した効果となっており、二酸化炭素の 図 1.4.3 気候変動をもたらす主な駆動 要因の 1750 年を基準とした 2011 年にお ける放射強制力の推定値と不確実性 (IPCC, 2013)

(第1章 異常気象と気候変動の実態)

北半球中高緯度で季節変動の振幅が大きいのは、

森林など陸上植物の光合成・呼吸による二酸化炭 素の吸収・排出の大きな季節変動を受けるためで ある。また、季節変動を除いた濃度が北半球中高 緯度で高いのは、人間活動に伴う化石燃料の消費 による放出が大きいためである。

また、濃度年増加量は年によって大きな変動が 見られる。このような変動を引き起こす要因の一 つとして、エルニーニョ・南方振動(ENSO)が 広く知られている。特に、1986~1988年、1997

~1998年、2002~2003年、2009~2010年はエ ルニーニョ現象と同期して年増加量が高くなって いる。エルニーニョ現象は熱帯域での高温をはじ めとする全球的な気温の上昇をもたらす。それに より、植物の呼吸活動の活発化や土壌有機物の分 解作用の強化によって、陸上生物圏から大気への 二酸化炭素の放出が強められると考えられている

(Keeling et al.,1995)。

一方、1991~1992 年にエルニーニョ現象が発 生したにもかかわらず、1992~1993 年は北半球 を中心に年増加量が著しく低くなっている。これ は、1991年 6月のピナトゥボ火山噴火の影響に よって、顕著な全球的低温がもたらされ、土壌有 機物の分解が抑制されたためであると考えられて いる(Keeling et al., 1996 ; Rayner et al., 1999)。

2)国内の観測点における二酸化炭素濃度

図1.4.6に、綾里、南鳥島及び与那国島におけ

図 1.4.6 綾里、南鳥島及び与那国島 における大気中の二酸化炭素濃度(上)

と濃度年増加量(下)の経年変化

(a)大気中の二酸化炭素濃度

(b) 季節変動を除いた濃度

(c) 濃度年増加量

図 1.4.5 1983~2013 年の緯度帯別二酸化炭素の経年変化

る二酸化炭素濃度月別値の変動を示す。いずれの 観測地点でも、季節変動を繰り返しながら濃度は 増加し続けている。綾里の濃度は他2地点に比べ て高いが、夏季のみ低くなる。これは、夏季に活 発化する植物の光合成によって濃度が低くなった アジア大陸北方の大気が、3 地点のうち最も北に 位置する綾里に多く流入するためと考えられる。

ほぼ同緯度の南鳥島と与那国島では、夏季には濃 度が同程度であるが、10~4月は与那国島の濃度 が高くなっている。これは、夏季には両地点とも 海洋上でよく混合された大気が観測されるのに対 し、それ以外の季節では、化石燃料消費や植物の 呼吸・分解によりアジア大陸上で高濃度となった 大気が大陸に近い与那国島に多く流入するためと 考えられる。

3 地点とも濃度年増加量には年々変動があり、

これらは緯度帯別に見た世界の変動(図1.4.5)と よく対応している。

(3) 上空における二酸化炭素

1) 厚木航空基地―南鳥島間の輸送機による観測

図 1.4.7 に厚木-南鳥島間の輸送機によって

2011年2月~2013年12月に観測された上空約 6kmの二酸化炭素濃度の変化を示す。南鳥島にお ける観測値とほぼ同様の季節変動を示すが、秋か ら春にかけては地上に比べ上空で低濃度を示す傾 向が認められる。

2) 日本―オーストラリア間の定期航空便による 観測

図 1.4.8に、日本-オーストラリア間の定期就

航便によって1993~2012年に観測された高度8

~13kmの二酸化炭素濃度の緯度帯別の経年変化 を示す。地上と同じように、毎年ほぼ規則的な季 節変動を繰り返しながら増加していることととも に、南半球は北半球より季節変動幅が小さいこと がわかる。1997~1998 年に濃度年増加量が特に 高 い の は 、 エ ル ニ ー ニ ョ 現 象 の 影 響 で あ る

(Matsueda et al.,2002)。また、南半球上空の季 節変動には濃度ピークが二度出現するなど、複雑

な濃度変動をしている。これは南半球の地上付近 の季節変動が小さいことと、北半球からの二酸化 炭素の輸送が原因であると考えられる(Sawa et al., 2012)。

図 1.4.7 厚木基地-南鳥島間の航空機観測による高度 6km 付 近の二酸化炭素濃度観測値(黒点)とその平均値(青線)及び 南鳥島の二酸化炭素濃度月平均値(赤線)の経年変化

図 1.4.8 高度 8~13km で観測された緯度帯別の経年変化 二酸化炭素の観測値(黒点)、長期変化傾向(青線)濃度 年増加量(赤線)

(第1章 異常気象と気候変動の実態)

図 1.4.9 冬季の東経 137 度線の北緯 7~33 度(右図の赤線)で平均した二酸化炭素濃度の経年変化(1984~2013 年)

細い直線は、表面海水中及び大気中の二酸化炭素濃度の回帰直線である。また、括弧内の数値は、回帰直線の傾きと 95%信 頼区間を示す。2010年冬季の二酸化炭素濃度は、観測装置の不具合によってデータが取得できなかった。

(4) 北西太平洋の二酸化炭素長期変化傾向 気象庁が、約 30 年の長期間にわたりほぼ同時 期(冬季)に観測を継続している東経137度に沿 った二酸化炭素濃度のデータを利用し、北西太平 洋における表面海水中及び大気中の二酸化炭素濃 度の長期変化傾向について記述する。

1)海洋の二酸化炭素濃度の長期変化傾向の要因

1984~2013 年の冬季の北西太平洋(東経 137

度の北緯7~33度の平均)における表面海水中及 び大気中の二酸化炭素濃度の長期変化傾向を図

1.4.9に示す。表面海水中及び大気中の二酸化炭素

濃度はいずれも増加しており、それらの年平均増 加率は、それぞれ1.6±0.2及び1.8±0.1 ppm/年

(±は95%信頼区間の範囲)であった。表面海水

中の二酸化炭素濃度が長期的に増加している原因 は、人為的に大気中へ放出された二酸化炭素を海 洋が吸収したためと推定される。

海洋の二酸化炭素濃度の変動を議論するために は、大気との交換過程についての考察が不可欠で あり、そのためには二酸化炭素濃度の代わりに二 酸化炭素分圧(すなわち濃度を圧力の単位に換算 したもの)を用いる。表面海水中の二酸化炭素分 圧は、海水温、塩分、海水に溶解している無機炭

酸の総量(全炭酸)及び全アルカリ度の4つの要 素と関係づけられる(Dickson and Goyet, 1994)。 表面海水中の二酸化炭素分圧の長期変化の要因を より詳細に把握するには、これら4つの要素によ る寄与を海域ごとに見積もり、長期変化傾向を把 握する必要がある。

緑川・北村(2010)では、北西太平洋亜熱帯域 における表面海水中と大気の二酸化炭素分圧の増 加率に有意な違いが無く、また、全炭酸濃度に長 期的な増加傾向が見られたことから、同海域での 表面海水中二酸化炭素分圧の増加は、大気から海 洋に吸収された人為起源の二酸化炭素によるもの と推測されている。

表面海水中二酸化炭素分圧の年増加率(1984~

2013年)とそのばらつきは、大気中に比べ変動が 大きく、また海域によって異なる(図 1.4.10)。

Midorikawa et al.(2006)は、このような海域に よる違いについて、表面海水中の二酸化炭素分圧 を変化させるメカニズムが海域ごとに異なるため と報告している。冬季混合層が発達する北緯25~

32度の海域では、表面海水中における二酸化炭素 分圧の年増加率は大気と有意な差はなく、ばらつ きは相対的に小さくなっている。これは、冬季に 表面海水が冷却される効果と、表面海水が冷却さ

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