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第 1 章 異常気象と気候変動の実態

1.2 大気・海洋・雪氷の長期変化傾向

1.2.6 海氷域

北極域の海氷域面積は、減少速度は一定ではな いものの、1979年以降長期的に減少傾向がみられ る。一方、南極域の海氷域面積は増加傾向がみら れる。

オホーツク海の海氷域面積は、年々の変動の振 幅の方が大きいものの、1971年以降長期的に減少 傾向がみられ、積算海氷域面積は 10 年あたりで

平年値の7.2%程度、年最大海氷域面積は10年あ

たりで平年値の 3.7%程度の割合で緩やかに減少 している。

(1) はじめに

海氷域は、海水面に比べて太陽放射の反射率が 大きいという特徴がある。このため、地球温暖化 によって海氷域が縮小すると、地球全体としての 太陽放射の反射率が下がって太陽放射のエネルギ ーが多く吸収される。また、海洋から大気への熱 輸送の遮断が少なくなる。その結果、海氷域の縮 小も加速するという正のフィードバックが起こる と考えられている。

さらに、海氷の変化は地球規模の海洋の深層循 環の変化を引き起こし、そのことが気候に影響を 与える可能性がある。これは、海水が凍結すると きに生成される低温で高塩分の重い海水が深海に 向かって沈み込むことが、深層循環の形成の要因 の一つとなっているからである(78ページ【コラ ム⑧】熱塩循環を参照)。

近年は、北極域において春季から夏季にかけて 海氷が急激に減少することが多く、多年氷17が減 少したことにより海氷が全般に薄くなり、以前よ り融解し易くなっている可能性が指摘されている。

海氷の変動には、海氷域の面積の変動と、海氷 の厚さも考慮した海氷の総量の変動の二つを考慮 する必要がある。海水面での太陽放射の反射率や 大気と海洋の間の熱交換の変化に対しては面積の 変化が影響するが、海氷そのものの熱容量は海氷 の総量で決まる。海氷の厚さの継続的な観測はこ れまで局地的な観測データしかなかったが、

ICESat(2003~2008 年)や CryoSat-2(2010 年観測開始)などの衛星のリモートセンシングに よって広域で継続的な観測データを利用できるよ うになった。

ここでは、北極・南極域及び、特に我が国への 影響の面から関心の高いオホーツク海の海氷域面 積の長期変化傾向について述べる。

(2) 北極・南極域

北極・南極域の海氷域面積の長期変化傾向を求 めるにあたり、米国航空宇宙局(NASA)から提 供されているNIMBUS衛星7号の多重チャネル マイクロ波走査放射計(SMMR;1978年10月~

1987 年7月)及びアメリカ雪氷データセンター

(NSIDC : National Snow and Ice Data Center)

から提供されている米国の国防気象衛星プログラ ム(DMSP)衛星に搭載されたマイクロ波放射計

(SSM/I;1987年7月~2009年4月、SSMIS;

2009年4月~2013年12月)による観測から、

NASA Team アルゴリズム(Cavalieri et al., 1984; Comiso et al., 1986; Gloersen et al., 1986, 1992; 長ほか, 1996)を用いて解析した海氷域デ ータを使用した。なお、使用した資料は2013 年 12月までのもので、平年値は1981~2010年の平 均値である。

図1.2.24は、北極域及び南極域の海氷域面積の

年最大値、年平均値及び年最小値について、経年

17 二夏以上経過した氷のこと。

変動を示したものである。

北極域の海氷域面積は、1979年以降長期的に減 少傾向がみられるが、減少速度は一定ではない。

1990年代は比較的緩やかに減少しているが、近年 は減少率が大きくなる傾向にある。年最小海氷域

面積は2012年に、年最大海氷域面積は2006年に、

それぞれ過去最小を記録している。1979~2013 年の期間について、1 日ごとの海氷域面積の同月 同日の最小値は全て2004年以降に記録されてい ることから、北極域では年間を通して海氷域の減

少が2004年以降顕著であることがわかる。また、

年最小海氷域面積と年最大海氷域面積それぞれの 減少率を比較すると、前者の方が大きくなってい る。これは、夏季に海氷域面積が減少し、そのう ち多年氷の一部が融解により失われても、冬季に はある程度減少幅を回復し、新たに生成された氷 の一部は翌年の夏まで残って多年氷の減少分を補 填していたことを表しているが、2004年以降は冬 季の海氷も大きく減少しており、夏季に失われる 多年氷を冬季に生成される海氷では補いきれなく なっていることが指摘されている(NSIDC Press Room; 18 March 2005)。そのため、近年は北極 域の全海氷のうち多年氷の占める割合が急速に減 少し、逆に薄く解けやすい一年氷の割合が増えて おり、これが原因で春季から夏季にかけて広範囲 で急速に海氷が融解し易い状況となっている。こ の状況は、海氷域の縮小の正のフィードバックを 助長し、更に海氷が生成されにくい状況を生み出 していることが指摘されている(Stroeve et al., 2012)。

また、地球温暖化が進んでいるにもかかわらず、

ユーラシア大陸の中緯度域では寒冬になる頻度が 近年増加している。その要因として、Mori et al.

(2014)は、大気大循環モデルによるシミュレーシ ョンから、バレンツ海からカラ海にかけての海氷 の減少に対する大気の応答として、ブロッキング によるユーラシア大陸の中緯度域への寒気流入の 頻度が高くなり、寒冬を招いていることを示した。

南極域の海氷域面積は、1979年以降長期的に増 加傾向である。その要因については、主なものを 大別すると、以下の二つの考え方がある。

① 地球温暖化の進行に伴い南極上空の成層圏 が寒冷化し、極渦が強化されることで南極 域の海氷が低緯度域に流されて海氷域が拡 大する(Turner, 2009 ; Paul, 2012 ; Zhang, 2013など)。

② 地球温暖化の進行に伴い南極海表層の塩分 が低下して密度成層が強くなることで海洋 表層の鉛直混合が抑制されて、海氷が生成 されやすく(融解し難く)なる(Zhang, 2007 ; Bintanja, 2013など)。

これらのどちらが主要因であるかについては意見 が分かれており、現在も研究が進められている。

全球(北極域と南極域の合計)の海氷域面積は、

北極域の減少傾向が卓越しているため、南極域と 合わせた全体では減少傾向である。

IPCC(2013)によれば、1979~2012年の期間 で北極域の海氷域面積の年平均値は 10 年あたり 3.5~4.1%の割合で、また夏季の最小海氷域面積

は10年あたり9.4~13.6%の割合でそれぞれ減少

している可能性が非常に高い。北極海の海氷域面 積の 10 年あたりの平均減少率は、夏季に最も大 きいことの確信度は高く、1979年以降、全ての季 節で海氷域が減少し、どの 10 年間を見ても海氷 域が減少していることの確信度は高い。再現デー タからみて、過去 30 年の北極域における夏季の 海氷の後退や海面水温の上昇は、少なくとも過去 1450年の内では類を見ない大きさである(中程度

図 1.2.24 北極域及び南極域の海氷域面積の年最大値、年平均値及び年最小値の経年変化(1979~2013 年)

破線は変化傾向を示す。

の確信度18)。南極域の海氷域面積の年平均値は 1979~2012年の間で10年あたり1.2~1.8%の割 合で増加している可能性が非常に高い。しかし、

ある地域では増加、別の地域では減少というよう に、強い地域差があることの確信度は高い。また、

潜水艦及び衛星による観測結果から、北極海の氷 厚が長期的に減少していることの確信度が高い。

(3) オホーツク海

オホーツク海の海氷は、10月後半から11月初 め頃に結氷が始まり、翌年7月頃までには融解・

消失する季節海氷である。平年の分布では、海氷 域が最も広がる 3 月上旬にオホーツク海の約 74%が海氷に覆われる。北海道のオホーツク海沿 岸では、1 月下旬に海氷が到来し、2 月上旬に接 岸する。その後、3月中~下旬にかけて離岸し、4 月上旬から中旬には視界外に遠ざかる。

オホーツク海の海氷域面積の長期変化傾向を求 めるにあたり、1970年から、毎年前年12~5月 までの期間について、沿岸の観測地点や船舶及び

18 IPCC5次評価報告書における確信度の表現。詳細は 付録B国際動向を参照。

航空機による目視観測の結果と、人工衛星による 観測結果をもとにオホーツク海の海氷解析を行 い、その結果から求めた5日ごとの海氷域面積を 使用した。

図1.2.25は、積算海氷域面積(前年12~5月ま でのオホーツク海全域の5日ごとの海氷域面積を 積算した面積)と、各年(前年12~5月)の年最 大海氷域面積を 1971年から時系列で示したもの である。積算海氷域面積は、各年の海氷勢力の指 標となる。

積算海氷域面積は1979年に最大値を記録した 後、増減を繰り返しながら減少し、1996年に極小 となった。その後、増加に転じて1998~2003年 まで6年連続で平年(1981~2010年の平均値)

を上回り、2001年の積算海氷域面積は1979年と 1980年に次ぐ第3位の大きさであった。その後5 年連続して減少し、2004 年から 2013 年までは 2012年を除き平年を下回っている。2006年には 最小値を記録し、2009 年は第2位の小ささとな った。1971年からの傾向をみると、10年あたり

図 1.2.25 オホーツク海の海氷域面積の経年変動(1971~2013 年)

積算海氷域面積は前年12~5月の5日ごとの海氷域面積の合計値。最大海氷域面積は前年12~5月の5日ごとの海氷域面積のう ちの最大値。水色の線は積算海氷域面積、橙色の線は最大海氷域面積の変化傾向を示す。平年値は1981~2010年の平均値。

ドキュメント内 「異常気象レポート2014」本編(PDF形式:46.1MB) (ページ 97-101)