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第3章  造形教育としての「構成教育』の現代的意味

第2節  間所春の造形教育の学力観

 たとえば、「テーマをもった「まよいみち」」という題材の扱いは、「ま よいみち」はあくまで、キーワードとしてのツールであり、しかも「ま よいみち」は明らかに、意識的に描かれることを目的としている。

 そのことからもrまよいみち」はr線状形体の使用」をさすのであ り、初期の 不規則で無意識的な という意味は消えている。

 しかし、あくまで「まよいみち」は造形要素を抽出し、造形練習す る目的のためのツールとして利用価値は高い。それは、「まよいみち」

が一見抽象的線状形体という性質の図として表現されるべきものとし て性格づけされていたので、子どもたちは写実的な技巧・意識を必要 としなかったからである。

 しかも、くりかえし積み上げていく学習を行う上で、ツールとして の価値の高いrまよいみち」での学習は、子どもたちにとっても平易 で身近な題材として受け入れられた。

 このように「まよいみち」は造形手法として用いることで、間所の 構成教育の特徴となった。線状形体というシンプルな要素を他の造形 要素と組み合わせることで、造形言語の獲得を容易にしたと考える。

図98

   できる態度を作ることが第一です。つまりむづかしい配色の原    理などを子供に教えたり暗記させたりするのでなく、できるだ    け現実に即し視覚に訴えて色彩の本質を子ども自身の力によ    って掴ませようという訳です。(註74)

 構成教育は、造形要素をもとに分析的に造形活動を展開していくが、

科学的な見方で造形原理をとらえるからといって、画一的な表現を求 め、答えのようなものを出すわけでもない。物を見つめたり、創った り、感じたりの視点を何らかの基準を持つことで、造形の理解につな げようという内容である。であるから、子どもたちはひとつのものを 見つめても心情的にはどのような感じ方をもっていてもよいのである。

ただし、そこではその見つめる観点が明確になっていることが大切で

ある。

 そのようなカがつくことが、学力として考えられる。

構成教育の役割

 構成教育は、造形教育の全てではない。構成教育は造形教育の基礎 となる部分の造形感覚の訓練であるので、図画工作科、美術科の授業 時数の中の一部の時間を担うということになる。

 第2章5節で示したように、構成教育の方法であつかわれる授業時 間は、学年によって異なり、おおよそ2割から3割程度である。けれ ども、その割合は絶対とはいえず、教師の力量と目的により比率は変

わる。

 図画工作科、美術科の授業の中で、主としておこなわれる内容は、

間所の説明するところのいわゆる純粋造形活動の部分である。現行の 指導要領の内容に沿って主題からの題材設定をしていく作品づくりを 考えるならば、それを純粋造形活動の区分けされる時間でおこなうよ

うにすると、内容のすみ分けがわかりやすくなる。

造形教育内容からの構成教育とデザイン教育

 間所は、造形教育における構成教育の役割がどのようなものである かを理解することのできる資料を残している。それは、「造形教育にお ける基礎能力の問題」(註75)と題した論文である。この論文の中に、

造形教育活動の領域を示した図(図98)が示されている。

図のA、B、C、Dの項目について説明すると A一純粋造形活動の面

   児童の知性、感動、意欲等によってなされる、いわば自由な心    象の造形活動で、描く・作るの広範囲を含む。

斡 灘

実用造形及

デザインの 造形要素

1.2年 60 20 20

3.4年 50 30 20

5.6年 40 30 30

図99造形要素学習活動配分

B一実用的造形活動の面

   子どもたちがその遊びをより美しく便利にするために実用的    意図からなす所の造形活動で、遊びから次第に合目的へ    一デザインの芽生えということができる。

C一造形要素学習の面

   ABDの基礎となるもので、児童生来のあるがままのものを指    導者が正しい愛情をもって刺戟することにより、より造形的創    造活動たらしめようとする。

D一デザインする学習の面

   より造形的構成活動でありABC何れの領域にもふかい関わ     りがあるが、特にBとの限界は判然としない。

       (註76)

と四つの関係性について説明している。

 ここで、注目すべき点は、デザインという言葉が使われているとい うこと、実用的造形活動という言葉があること、四つの項目は重なる 部分もあるが、同じものではないということである。つまり、構成教 育とデザインは重なるが同じものではないということが書かれている。

また、その他の項目の関係についても全て同じことがいえる。しかも、

実用的造形とデザインは、はっきりと区別できるものではないが、異 なるものであるという概念の相違が窺える。

 このような点から、1955年の『こどものための構成教育』出版の時 点ではデザインということが構成教育との関わりの中で考えられてな いことがわかる。そして1956年当時には、デザインという言葉が、間 所に認知されていることがわかる。しかも、実用造形という言葉もあ り、その三つは関係性があっても決して同じものではないという解釈 を間所はしていたということである。さらに、実用造形という言葉は、

『こどもの眼とデザイン』が執筆されたときには見られなくなってお り、構成教育の内容が、デザイン教育に代わっている。

造形教育における構成教育の役割と位置

 間所の書いた「造形教育における基礎能力の問題」からしか読み解 くことができないが、1956年当時の構成教育が造形教育全体のどの程 度の役割を示していたかを知ることができる。左の図99は、造形活動 全体の中のABCDの項目の配分が示してある。上の記述にもあるよ うに、BとDは区別するのが難しい内容なので同じ扱いにしてある。

区別できないのは、『こどもの眼とデザイン』の内容からみて、造形の

目的が重なる部分か多いからではないかと考える。それは、BとDは 目的的な造形活動であるからである。

また、造形要素の練習としての構成教育は、あきらかに、他の項目 とは別のものとしてとらえられていることもわかる。

 さらに、表の数値をみると造形教育全体のなかでは、ここに示して ある純粋造形の活動が主で、構成教育の内容は純粋造形の作品づくり のための基礎的練習であることが読み取れる。

 川喜田錬七郎の唱えた生活構成

 第1章でも述べたが、川喜田は建築家である。しかし、1930年台初 めからの水谷武彦らのようなドイツヘの留学生との交流により、構成 教育を誰にでも理解できる生活構成としての概念、の定着にライフワー

クを求めた。

   構成教育とは丸や、四角や、三角をならべる事ではない。所謂構    成派模様を描くことでもない。給や彫刻や建築に面倒な理窟をっ    けることでもない。我々の目常の極くありふれた、極く身近な事    を充分とり出して見て、それを新しい目で見なほして、それを鑑    賞したり、作ったりする上のコツを掴みとるところの教育、それ    が構成教育である。構成教育をとても抽象的な、わかりにくい学    問の様に 併尋てゐる人があるが、それは極めて具体的な実際であ    る。(原文表記のまま記載)(註77)

上述のように、構成教育はいわゆる構成的な訓練や練習ではなく、感覚の 訓練であるとしている。そして、バウハウス時代のワリシー・カンディン スキーの説いていた「シュパヌンク」の概念を用い、この本の中でくりか えし触れている。

 川喜田の唱えた生活構成とは、材料体験を通した造形感覚の育成で あり、その日常生活での意識への拡大である。そして、日常生活のな かにあるいろいろな材料から得られる発想や表現の技術、方法を発見 し、さらに、生活環境への対処を自発的に考え、創造できることを期

待した。

 構成教育は、『構成教育大系』をもとに、戦前から戦後しばらくまで の図画工作科に大きな影響を持つようになった。近代的なr造形表現」

という認識の広がりに、構成教育が新たな価値観をもたらす役割を果 たしたといえる。

感性の教育としての構成教育の可能性

 美術教育は感性の教育といわれる。平成10年に刊行された学習指導

要領の美術の目標にも「感性を豊かにし、美術の基礎的能力を伸ばし、

豊かな情操を養う」とされている。

 ここで、感性とは何かについて考える必要がある。美術科において は感性を美的感性とみるのが妥当であると拙者は考える。平成11年刊 r中学校美術科解説書」に感性とはr様々な対象・事象からよさや美 しさなどの価値や心情などを感じ取る力j、情操とは「美しいものやよ りよいものに憧れ、それを求め続けようとする豊かな心の働き」と定 義つけられており、美という価値から切り離すことができないものと

している。

 単に、心が豊かになることが目的ではなく、図画工作科・美術科な らではの学習を通しての美的心情の変容を求めている。

 ところが、一般に絵を描いたりするような才能は、天賦のものなの か、それとも後天的なものなの力革』然としないまま語られている。日 常会話の中にrオレには美術の才能がない」r見てもわからない」とい うような言葉をよく聞くが、その言葉の中には美術的な才能はまるで 生まれながらにして与えられているかのような誤解があるように思え る。そこには、美的な感性や能力は伸ばすことができないものである という先入観がある。

 しかし、造形感覚は学習によって伸ばすことのできるものである。

なぜなら、造形美には法則や秩序があり、学習することで意識できる ようになるからである。ただ、美しさはすべてを法則や秩序で説明し きれるものではないが、学問的に検討できる余地は十分にあり、先人 たちの研究はそれを示している。

 図画工作科・美術科においては、美的感性を学力として捉え、それ を獲得することを学習の目標にすえることが望ましい。

 構成教育は、造形原理に基づき、その造形要素を分析し、子どもた ちに分かりやすく噛み砕いて教育することで、目的を達成しようと考 えている。それは、造形要素に基づいて、教育の方法として造形活動 を段階を踏まえてアプローチするものである。理論を理解させるため に指導者が範を示しながら教えるものではない。その方法は知識的に 画一的に教えていくのではなく、一人ひとりにあわせてそれぞれの表 現を尊重しながら、学習の目標に沿って経験的に行われるのである。

 ゆえに、学校という学力を身につける場においては、教科の内容と しての項目を明確にし、系統的に題材配列を行う基礎造形のあり方は 理に適っているといえる。