• 検索結果がありません。

第3章  造形教育としての「構成教育』の現代的意味

第4節  造形教育の方法論

自己表現論と方法論

 平成9年からの「金子・柴田論争」は、見逃してはならない出来事であ る。美術教育の目的が、自己表現なのかそれとも美術の方法論を理解させ ることなのか。両者は対峙し、互いの論を交わした。結果的には、戦後の 理想主義的児童中心主義(註83)が多数であるということで、柴田に軍配 があがった。しかし、本当にそれでよいのかという疑問が残る。

 近代の目本の美術教育は、臨画により手本をまねて上手に描くことに始 まり、その反動として山本鼎らの自由画運動、さらに、創造主義、生活画、

構成教育などさまざまな流れがあり、現在の中心は自己表現を目標とする 美術教育になっている。

 美術が教育課程の中で必須教科として存在するにはその条件は何であ るか考えるべきである。学習というものは、積み重ねられることで学力を 得ることができる。自己の表現を学力とした場合、それは、内面を表出す ることが学習によって高まったカとして評価されるということになる。そ れは、造形教育としての本来求めるべきカであるとは思われない。極端な 場合、自己表出、自己表現できなくても讃えられるべき作品はつくること ができる。

 造形教育が自己の心の問題をあつかうことは、教科としての教育が個人 の内面にかかわることになり、学習としての教科のあり方から外れてしま う。教科の本来の目的は、学習により学力の向上を目指すことで、表現す ることにあまりにも固執してしまうと、学習内容が希薄なものになりかね

ない。

 「自己表現」と「自分なりの表現」は全く違ったものであり、造形教育 においては大前提にr自分なりの表現」を目標においても、r自己表現」を

目標におくことは考えられない。

 林曼麗は感情、知能、造形力の三つの要素を見直すことで、美術教育の 今目的課題に何らかの答えを出す糸口になるのではないかと指摘している

(註84)。

 学力の向上を基本的に考えるならば、何を学力とすべきかをまず定義し、

その定義された学力を如何に伸ばすかの方法を検討しなければならない。

造形に関するカを伸ばすためには美術の方法論を理解することでその成果 を望むべきである。

構成教育の可能性

 構成教育は、単に技能的スキルを身につけ、向上させるものではな く、感性を豊かにする教育でもある。それは、材料・形・色彩などの 訓練をおこなうことにより、造形言語としてのスキルを学ぶとともに、

美的感性を育てることになるともいえる。

 構成教育の目的は、日常生活の中にあるさまざまな形象に心豊かに 接し、考えることである。そのことが、美的生活を送ることの可能性 を広げる。川喜田はそのことにいち早く気づき、教育の中に普及させ

ようとした。

 構成教育は、あくまでも基礎造形であり、造形のすべてをあつかう ものではない。ただ、造形をよく行うには、造形言語を理解し、表現 する上でも、鑑賞する上でも、より向上するための方法を考えていく 必要がある。そのためには、造形とは何によって成立しているのか知

り、そこから各々の美的感覚に則って造形を行うべきである。

 造形教育は、美的感性を養い、人間としての人格形成も視野に入れ た教育である。造形教育の歴史から見れば、過去にあった一つの方法 論としてとらえることのできる構成教育という流れかもしれないが、

構成教育にはこどもに造形言語を獲得させることができる方法がある。

その事実が、図画工作科・美術科として学力を高めるための方法を示

している。

 本研究により、構成教育研究者である間所春の文献を検証したこと で、現在の造形教育に参考にすべき点をあげたい。

 1.合理的視点

    造形美を追求する教科性から、造形教育を考える。美しさに     は、原理や法則があり、それを問う態度が造形感覚を養う。

    構成教育では、美の原理・法則を見い出すために、分析的態     度で造形を行うことを教育の基本とした。造形には、造形要     素と造形秩序があり、整理して訓練することで、成果は顕れ     る。

    間所は、造形要素をr明暗」r色彩j r材料」r構成」としたが、

    特に、「色彩」r材料」「構成」が重要と考える。

    造形要素の訓練をくり返し行うことで、造形言語は養われ、

    表現は豊かになっていく。

 2.学習ツール

    間所は、rまよいみち」という造形学習のツールを開発した。

    また、rまよいみち」は造形練習を行うキーワードとしての役     割を果たし、子どもたちが学習に向かうときの方向を的確に     示した。

    「まよいみち」は線状の形態をもった造形言語である。この     言語が子どもたちの中に共通に存在した。その言語を使って     くり返し訓練するうちに、それは互いの言語を理解し合える     までのツールになったといえる。

    つまり、「まよいみち」という共通の言語を使うことで、他の     造形要素の理解も効率よく行えた。

 3.鞭多という概念

    造形表現に基礎という概念を持ち込むことで、学ぶべき内容     を整理できたということである。学ぶべき内容が明確になる     ことによって、学習の方向と内容がわかりやすくなる。

    学習者にとっても、指導者にとってもそのことは有効に働く。

以上3点の提示である。

 この構成教育の注目すべき点が、造形教育の方法論として生かされ るのではないかと考える。半世紀以上前の教育内容であるので、時代 性を考えると題材がそのまま使えるわけではないが、基本的なコンセ プトは通用する。本研究は、間所の実践を省みることで構成教育その ものを現代に復興させることが目的ではなく、方法論的に教育を見直 す必要性から、構成教育から学ぶべきもの、現在の図画工作科、美術 科に対しての可能性を検証しようとしたものである。

おわりに

 本論文では構成教育の研究者である間所春氏に焦点をあて、その三 著書を読み解くことで、現在の造形教育に生かすべき点を見つけるこ

とが目的であった。

 本論文の3章で、構成教育の意味を明確にできたことは研究の成果 であると感じている。今後は、「まよいみち」に注目して、さらに深め ていきたいと考えている。

 小学校の一教師である間所氏が、造形教育のあり方を探ろうとする 真摯な姿は、その文面にあふれている。そして、川喜田錬七郎氏、武 井勝雄氏らとともに日本の造形教育に大きな影響を与えるほどの研究 成果をあげた。一介の教師がそれほどまでにパワフルに活躍できるこ

とに驚愕の念をいだくとともに、自分を省みた。

 今、美術教育は瀕死の状態にある。必修教科としての存在が危うい と囁かれるようになって久しい。指導要領改定の度、時間数の削減に 憂いをいだく。けれども、現実を憂うばかりでは美術教育に先はなく。

目の前のこどもたちに、この状態で教え授けることのできる最大限を してやらなくてはならないと思うようになった。

 構成教育の目的は、造形の基礎を訓練することでこどもたちの造形 言語の獲得を目指したのである。構成教育の研究に一端でも関わった 一人として、決して、デザインという狭い領域の中での基礎の問題を 扱ったのではないと自負する。

 その責任においても、この後、学校現場に帰り、造形教育としての 構成教育の果たせる役割を実践の中で示していきたい。

 大学院に進学して早いもので2年が経った。つかの間ではあったが、

社の町で学んだ経験を大切に心に留めおきたい。

 最後に、本研究を進めるにあったって、主任指導教官である杉山直 樹先生及び指導教官である福本謹一先生には大変お世話になりました。

ありがとうございました。

 また、昨年一年間、山本政幸先生には指導教官としてお世話になり ました。そして、ともに学んだ友人たちに感謝します。

 常に、学究的な視点をもってものごとを見つめることが大切である と痛感しました。教師の目と研究者の目の両方をこれからもち続けら れることを自らに課して精進していきたいと思います。

1. 川喜田錬七郎、建築家、水谷武彦より助言を受け構成教育の振興に尽力した。構成教育の日本の第一人者  である。グロピウスとの親交もあった。

2. 川喜田煉七郎/武井勝雄、構成教育大系、学校美術協会出版部、昭和9年、p.5 3. 同、p.5

4. 銀座商業美術学校、銀座新建築工芸研究講習所、1933年5月に銀座新建築工芸学院と改称された。

5. 今井(笹川)和子、山室光子は、ともに1922年から1930年まで、東京の自由学園で学んだa931年7  月から1932年11月まで、ヨーロッパに留学し、1932年からベルリンで学ん芯特に山室はイッテンか  ら厚く信頼されていた。

6. ヨハネス・イッテン、手塚又四郎訳、造形芸術の基礎、美術出版社、1970

7. 桑沢洋子、ふだん着のデザイナー、ほるぶ自伝選集/女性の自画像10、ほるぷ、1980年 8. 武井勝雄/間所春、構成教育による新図画、学校美術協会出版部、昭和11年(1936)

9. 後藤雅宣、「構成」、教育方法論としての今日的課題、目本デザイン学会誌、構成学の展開:H デザイン  学研究特集号、2003.11,04、p.46

10.福田隆眞、美術科教育の基礎知識、建畠社、平成12年〔三訂版〕、p.28 11,中学校学習指導要領、文音階、平成10年12月、p,65、p.66 12,雑誌、アイシーオ』ル、昭和10年4月刊行、p.2

13.川喜田煉七郎/武井勝雄、構成教育大系、学校美術協会出版部、昭和9年、p.518 14。ヨハネス・イッテン、手塚又四郎訳、造形芸術の基礎、美術出版社、1970

15.モホリーナギ、燐忠行訳、ザニュー ヴィジョン、ダヴィッド社、1967、p.6

16.シュパヌンク 元は緊張、動勢などという意味を持つ言葉地(バックグラウンド)における一つまたは  二つ以上の色や形の間に働く緊張感をさする

17.武井勝男/問所春、構成教育による新図画、学校美術教育出版会、昭和11年、p.126 18。同、p.171

19.同、p.174

20.ヨハネス・イッテン、手塚又四郎訳、造形芸術の基礎、美術出版社、1970、p.18

21.同、p.18

22.間所春、こどものための構成教育、造形芸術研究会、1955、p.1 23.同、p.2−3

24.武井勝男問所春、構成教育による新図画、学校美術協会出版部、昭和11年p.1

25.川喜田におけるrトンツー」rツーツー」の表記と問所のもちいるrトン・ツー」rツー・ツー」の表記は  同じことをあらわしているが、それぞれの著書に記述されているそのままの表現でそれを掲載している。

26.間所春、こどものための構成教育、造形芸術研究会、1955、p.42参照

27.武井勝男/間所春、構成教育による新図画、学校美術協会出版部、昭和ll年、p235 28.同、p.239