第3章 造形教育としての「構成教育』の現代的意味
第1節 三著書に見る間所春の実践
基本的学習としての題材
『構成教育による新図画』は図画指導という立場で書かれており、
内容は平面を扱った題材が掲載されている。それまでの図画教育が、
分析的におこなわれていなかったことから、普通教育の図画指導に向 けた新たなテーゼとしての役割を果たした。「明暗」「色彩」「材料」「構 成(コンポジション)」の4つの造形要素を作品紹介することで具体的 に説明しようとしている。
構成教育の特徴であるそのような分析的見方から開発された題材は、
単化練習、フォトモンタアジュ、方眼を使った構成、線を使った構成 など要素を丁寧に学習していくスタイルをとっている。
このような学習のあり方は、外部のものから見ると抽象に偏り過ぎ ているのではないかという疑念、も抱かせたようである。しかし、構成 教育を推進する研究者たちにとって、幾何学形体等をあつかったり、
直線のみで画面が構成されたりすることは、きわめて自然で当然のこ ととしてとらえられていた。
分析的に造形要素を見るということは、余計な情報を画面の中から 排除してできるだけ純粋な形で、造形言語による表現を見つけること ができるからである。そして、そのような視点を子どもたちにも持た せることで、生活の中にあるさまざまな形象を造形としてとらえさせ る力を養えると考えたからである。つまり、日常生活の中にある複雑 な情報がつまった物を、要素的に分析して鑑賞するカを養うことがで きるという高度な観察眼の育成を目指したのである。
そのために、抽象思考を必要とするさまざまな題材の取り組み、造 形活動の基礎としての役割を果たすために、構成教育による造形活動 の基礎練習と位置づけていた。
だから、構成教育の内容・題材は、幾つかの学年で同じものが取り あつかわれたり、もしくはひとつの学年でも春と秋に同じ内容の練習 をしたりする。このことは、積み上げ学習としての構成教育の特徴を あらわしている。
題材の配列と造形要素
造形要素は、基本的なものから順に説明している。基本的という位 置づけは、間所が基本であると決めたものからということである。
「明暗」を他のどの要素にもかかわる基本とし、最初に記述してい る。r明暗」は、r光と陰」の単なる陰影ではなく、r物と物との間に起 こる差」であるとした。この理論は、イッテンの対照性(コントラス
ト)の方法を参考にしている。しかし、実際には、造形感覚というよ りも造形秩序としてとらえられることなので、造形要素としてシンプ ルに理解することを難しくしている。
このようなことから、間所の造形要素の設定の仕方には、無理な点
(欠点)もあったが、要素的に分析して、造形を捉えようとする姿勢 は間違っていない。また、題材を考える場合も、造形要素に視点をあ てた題材開発は造形言語獲得のためには必要である。
『こどもの眼とデザイン』では、「明暗」「構成(コンポジション)」
の二つの要素を説明することを避けているようにも感じさせる。「材 料」からの体験的学習を軸に置き、そこから育成することのできるそ の他の造形要素の練習を意識的にとり込んでいるようにも感じる。
間所は、題材を設定する場合に、その題材がどのような造形要素と 関連があるかを考えてあつかった。またその反対に、取り扱うべき造 形要素からどのような題材が設定できるかを考えた。そして、子ども の成長と照らし合わせて、あつかうべき学年を決定したであろう。
そのくりかえしが累積することで、考案された題材は整理され、系 統的に配列された。造形の基礎となる構成練習は、系統的に配列され ることで、子どもたちの造形感覚をより的確に向上させることができ
る。
ただし、構成教育は造形の基礎であるので、その発展した形の題材 も適切なものを選ぶことが大切である。
まよいみち
「まよいみち」は「不規則な直線や曲線の変化のある一筆がき」(註 73)である。それは、Doodleという外国の幼児のなぐりがきとも共通 点がある。なぜなら、「まよいみち」を描くときの、オートマティズム でカリグラフィックな線の性質という共通性から見い出されるからで
ある。
その性質は、低学年の造形活動の中では、そのまま用いることがで き、無意識(オートマティック)の中での、線による描画という意味
づけで説明できる。そういうねらいの題材として、「まよいみち」を設 定することも造形言語の育成としては役割をもつ。
けれども、間所は「まよいみち」の題材としての可能性をそこまで では留めていない。意識的な描線の平面構成に、まずは可能性を広げ
た。
そのことは、『こどものための構成教育』の5年の図58「緑の線のも よう」での解説から推し量ることができる。「まよいみち」の発見から、
しばらくして、そのツールとしての活用法を間所が見い出している証
拠である。
「不規則な直線や曲線の変化ある一筆がき」から一見不規則ではあ るが、よく見ると「意識的で意図的な直線や曲線の変化ある一筆がき」
に変容していることが、実践の中から確信されたのだろう。
おそらく、それを契機に構成教育の目的である造形言語の獲得のた めに、材料体験をもとにした題材でも試みたであろうし、構成(コン ポジション)という造形要素の点からも、rまよいみち」はあつかわれ たであろう。
問所がそのことを意識したか、しなかったかは予想できないが、実 践から見るとその広がりはわかる。
『構成教育による新図画』にはない「まよいみち」による造形教育 としての可能性の広がりが、『こどものための構成教育』にはみられる。
rまよいみち」は、平面構成の中だけのツールにとどまらず、空間・
立体構成にも応用された。具体的は、それは「針金を使った立体構成」
や「細木を使った構成」、「モビール」にまで発展した。
線状の形体を持ったものには、平面であれ空間であれ、すべて「ま よいみち」というキーワードで結びつけて、意図的に構成教育の手法 にこどもたちを引き込むことができた。
「まよいみち」の発見当初は、線による表現の意味にだけとらえら れていたが、次第にツールとして発展的に活用されるにしたがって、
線状形体からの表現手法として、意味を変化させた。
『こどものための構成教育』では、「まよいみち」のツールとしての 可能性を試したり、探ったりしている段階にあると感じられたが、『こ どもの眼とデザイン』においては、材料体験をもとにした造形教育と いうベースのうえで、いかに「まよいみち」を使って展開していくか
という工夫が見られる。もちろん、キーワードとして「まよいみち」
を使うことで、題材設定をおこなっている場合もある。
たとえば、「テーマをもった「まよいみち」」という題材の扱いは、「ま よいみち」はあくまで、キーワードとしてのツールであり、しかも「ま よいみち」は明らかに、意識的に描かれることを目的としている。
そのことからもrまよいみち」はr線状形体の使用」をさすのであ り、初期の 不規則で無意識的な という意味は消えている。
しかし、あくまで「まよいみち」は造形要素を抽出し、造形練習す る目的のためのツールとして利用価値は高い。それは、「まよいみち」
が一見抽象的線状形体という性質の図として表現されるべきものとし て性格づけされていたので、子どもたちは写実的な技巧・意識を必要 としなかったからである。
しかも、くりかえし積み上げていく学習を行う上で、ツールとして の価値の高いrまよいみち」での学習は、子どもたちにとっても平易 で身近な題材として受け入れられた。
このように「まよいみち」は造形手法として用いることで、間所の 構成教育の特徴となった。線状形体というシンプルな要素を他の造形 要素と組み合わせることで、造形言語の獲得を容易にしたと考える。